第19話 帰還手段
王城で勇者たちが専用で借りている大ホール。食事時には全員が集まって食事を摂り、話し合いが行われている場所。
王都外での戦闘訓練が初めて行われるため初めから話し合いができる用意はされていた。
同行した騎士たちは全員が俊也の異能によって回復させられており、何があったのかは無事だった騎士が行っている。どのような状態からでも時間を戻すことができる異能だが、人を対象にした時には一つだけ欠点がある。それは時間を戻した人の記憶まで戻ってしまうため、何があったのか覚えていないことだ。
「で、何があったのか説明してもらえるんだろうな?」
眞斐が異能者5人に尋ねる。
いつの間にかいなくなっていたかと思えば、唐突に現れて魔王軍の四天王を全員倒してしまった。
そんなことが勇者以外に可能なわけがない。
さらに召喚されて数日の勇者では不可能だ。
「まず、四天王を倒した力は何なんだ?」
誰もが気になる問題で、ホールにいた全員が頷いていた。
教えないわけにもいかない。元の世界なら絶対に教えないことでも俊也の口が自然と開く。
「俺たちは元の世界でも『異能者』って呼ばれる存在で、以前から人知れずに妖怪退治なんかをやっていた」
「その異能者が同じ学校に5人も?」
「正確には他に3人在籍しています」
智佳が答える。生徒として二人、養護教諭も異能者だったため同じ学校に8人の異能者がいたことになる。
もちろん全員が意図的に集められた。
「さっき見たように異能は能力次第で四天王を倒す力だってある」
その言葉に誰もが息を呑んだ。
召喚された彼らの役割は四天王を上回る存在である魔王を倒すことにある。押し付けられた役割だが、魔王が復活したことでどれだけ世界中の人々が困っているのか説明は受けている。
最初は乗り気でなかったとしても、今はどうにかしたいと考えていた。
ただし、それも今朝までの話だ。
「本当に命を懸けた戦いがどういうものなのか実際に見てわかったと思う。俺たちが駆け付けないと全滅していたんだぞ」
「まさか……」
「詩奈」
まだどこか信じられないといった様子のクラスメイトに対して、これまでの世界で何があったのか詩奈が説明する。
回帰。
詩奈の異能で、事前に記録した時点まで時間を巻き戻す可能。
俊也たちが認識できないだけで、彼女だけは多くの失敗を繰り返している。
「これで理解した?」
「ああ……」
「わたしとしては全員を元の世界に帰還させるつもりでいる。そういう指示も出るだろうからね」
異能者を監視する組織『機関』。
真っ当な生活を送れるよう支援してくれているが、異能者に俊也や煉が請け負っているような妖怪退治、どうしてもやり直さなければならない事が発生した時に時間を戻すよう詩奈へ指示を出し、そんな人物を監視するよう智佳を雇っていた。
彼らにしてみれば異能者などという強力な駒があるのに善良な人間が犠牲になる事態は見過ごせない。
「先生。どうやら向こうはこっちが無視していることに気付いたみたいですよ」
煉の右手を上げると、右側の何もない空間がひび割れる。
割れた空間の面は極彩色に輝いており、そこへ煉が手を入れる。
「それが収納能力の正体か」
「神隠し。山で遭難した人がどことも知れない世界へと迷い込み、その間の記憶があやふやになっている。そんな伝承を元に再現した能力だ」
割れた空間の先は煉が異能で作り出した亜空間となっており、自由に物を出し入れすることができるようになっている。
普段のように物を出し入れするだけなら空間を割る必要はない。
「今回は繋げた先が遠いから、ちょっと力を強めに使わせてもらったんだ」
煉の頭には天狗の面が被せられている。
強い力を行使すれば、副作用も大きくなるのが異能。今、異能の行使による苦痛と戦いながら空間を繋げていた。
煉が亜空間から取り出したのは4枚のポラロイド写真。
「これは?」
「ウチの学校には他にも異能者がいるのは知っているだろ」
「ああ」
「網島先生にメッセージが届いているのかわからない。だから、監視対象の異能者に頼んでメッセージをおれに託したんだよ」
左手で写真を持つと、右手を写真へと当てて……写真の中へ手を突っ込む。
予想もしていなかった光景に異能者以外が驚く。だが、写真に手を突っ込んでいる光景よりも、写真から出て来た物へ目が移る。
それは1枚の指令書。
宛名は智佳になっていた。
「どうぞ」
「……指令。その場にいる全員を元の世界へ帰還させよ」
組織からの明確な命令。
受け取ったことは異世界にあっても写真を通して伝わっているため無視することはできない。
「はぁ」
思わず智佳が溜息を吐いてしまう。
溜息を吐きたくなる気持ちが異能者の全員にはわかってしまった。
指令書にあった『全員』。そこには当然ながら召喚の中心である『勇者』も含まれる。
「その異能っていうのを使えば帰ることができるのか?」
当然の質問だった。
たしかに使命には目覚めたが、何もすることなく帰還することができるなら帰還したい。
それが彼らの願いだった。
「いや……」
俊也が言葉を濁してしまった。
「先生は帰還手段なんて持っていませんよ」
智佳の異能では帰還することはできない。
しかし……
「私の異能なら魔王討伐に頼る以外の帰還方法を探すことができると思います」
叶多の異能――神誓。
彼女と約束を交わした相手に約束を履行させることができる。
既に国王から身の安全を保証する約束は取り付けている。さらに支配者の腕輪と合わせることで、国を相手にしても命令を下すことができるようになった。
魔王を討伐することで元の世界へ帰還することができるのは、あくまでも召喚と同時に条件付けで帰還がセットされているからだ。
魔王を討伐する為に召還された者たちは、召喚士の望みを叶えることで帰還することができる。召喚の魔法陣は大昔から受け継がれてきた特別製で、簡単に内容を書き換えることができない。そのため、召喚士はそのまま利用していた。
帰還方法が他にないのは、彼らに魔法陣の解析ができていないから。
いや、そもそも最初から解析などしていない。
「召喚士にとって召喚者の都合なんて関係ない。用済みになったなら帰してしまった方がいいんだから、目的を達成させる以外の方法を探す必要がなかった」
もしかしたら他の方法があるかもしれない。
「私が一言『死ぬ気で帰還方法を探しなさい』と命令するだけで、彼らは自分たちの命を削る勢いで帰還方法を探してくれるはずです」
「それは……」
後輩ということで叶多のことを下に見ていた。
しかし、思いがけず過激な面を目にしたことで言葉を失っていた。
「冗談です。私もこんな命令を簡単にしようとは思っていないです」
「そうだよな」
簡単に命令できるようなら『機関』から危険人物だと見做されて監視が強化され、最悪の場合には処分されてしまう。
『機関』の人間と言えど叶多と簡単に約束することはできない。
今、他の者と同様の監視に留められているのは人間性を信用されているからだ。
「ですが、こんな一方的な約束は気に入りません。次に理不尽な事があるようなら迷うことなく行使しますからね」
召喚だけで既に叶多の判定ではアウトだった。
「わたしも記録の一つが召喚された日の朝にあるから、事前に教室から避難させて巻き込まれないようにすることはできる。けど、召喚そのものを阻止することはできないから『全員』を助けるのは不可能なの」
召喚は『勇者』を中心に行われた。他の者は完全に巻き込まれただけだ。
眞斐以外の全員を召喚された時に眞斐から遠ざけることで一人以外は救うことができる。しかし、そうした場合には眞斐だけで召喚されることとなる。
それでは『全員』という条件を守ることはできない。
「おれは自分だけなら……試したことはないけど、異能者だけなら神隠しの亜空間を通して帰還させることができるかもしれない」
先ほどの写真は元の世界の煉の自宅にある机の上に置かれた物。
写真を置いた異能者、指示を出した者は煉が世界を越えて空間を繋げることができることを知っていたため、わかりやすい場所に写真を置いた。
帰還手段において重要なのは、世界を越えて空間を繋げられるという部分。
「亜空間は生物が生きられるようにはなっていない。どういうわけか俺は無事だから一人だけなら亜空間を通って帰還することはできる」
「他の人間は?」
煉が首を横に振る。
亜空間は別世界へと連れ去られた、という伝承から再現されている。しかし、消えていた間の情報は曖昧。そのため亜空間の存在も非常に曖昧となっていた。
亜空間を通っての世界間移動は不確実。
「俺の異能も詩奈と同じ理由で無意味だな」
「どうやって数を変える異能で元の世界へ?」
異能について詳しい説明はしていない。しかし、煉は異能者としてどのような異能なのか予想していた。
「簡単だ。当初の使い方をすればいい」
「当初?」
「俺の異能は、本来は過去へ戻ってやり直す為に望んだから手に入れられたものなんだ」
数を変えるなどという形で発現してしまったのは想定外だった。
おかげで『やり直す』ということばかりに意識が向いていて自分の異能を把握するのに時間が掛かってしまった。
「その気になれば『日付』を変えることだってできる。ま、副作用はキツイけど必要ならやる」
時間の移動。
世界を越える力を持っている煉にはそれがどれだけ苦痛を伴うものなのか予想することができた。
それを理解できないのは異能者ではない者たち。
「そ、その……凄い力を持っているのはわかった」
見ているだけなら凄い力を持っているように思える。
「そして、その力で帰ることができないのも」
帰還方法の有無は召喚者たちにとって最重要事項だ。どうしても気になってしまう。
「けど、俺たちが魔王を倒せば全て解決するんじゃないか?」
「そうだな」
煉がつまらなさそうに肯定する。
異能者は強い力を持っているが、神から祝福を受けた者ではない。
「俺たちが倒しても意味はないけど、『勇者』のお前たちが倒せば全員が元の世界に帰ることはできるだろ」
異能者による魔王討伐。
放置すれば召喚者が全滅することがわかり、詩奈は早い段階で自分たちによる討伐を決行した。
結果、魔王は簡単に倒すことができた。
しかし、魔王を討伐した後で問題が発生した。
「俺たちの手で魔王を倒しても元の世界には帰れないみたいなんだよ」
「え……」
異能者の手で魔王を倒しても意味はない。
その事実が知れた時は早々に記録を読んで過去へと戻った。
「死なない程度で助けてやる。だから、お前たちは真っ当な手段で勇者として強くなって魔王を倒せ」
それが最も確実な元の世界へ帰還する手段。
ただし、召喚者たちは力不足を痛感させられていた。
最初の実戦で遭遇したのが魔王に次ぐ実力を持つ四天王だったとしても、圧倒的な力の差を痛感させられた。そんな相手を苦も無く倒したのが『異能』を持つ俊也たち。
誰もが羨望を抱き、嫉妬してしまった。
「あの……」
「なんだ?」
「どうやって、そのような力を手に入れたんですか?」
俊也は代表して質問した眞斐に応えてあげるべきか迷った。
幸いにして、これまで『機関』は多くの異能者と接触し、様々な情報を得ることに成功していた。その中には異能に目覚めるきっかけとなった出来事もある。
そして、異能者は異能を使う度にきっかけを自覚させられる。だから自然と身に付ける条件に関しては全員が自覚していた。
「強い願いを持つこと――その想いに反応して『異なった手段で叶えられる能力』を授けてくれる」
願いを叶える為の能力。
俊也の場合は、『過去をやり直すこと』を望んでいたのに覚醒したのは『数字を変える能力』。結果的に願いは叶えられたものの、遠回りな方法による叶え方であるため望んだ力とは異なる。
他の者も同じように、望みとは異なる力を得るに至った。
だからこそ『異能』などという名前で呼ばれている。
「それならコツは掴んだ」
『勇者』に与えられた【希望】は、周囲にいる仲間の想いを受けてステータスを上昇させ、望むスキルに覚醒する。
想いから新たな力を得る、という意味では異能と同じだ。
「俺たちも異能っていうのを手に入れれば……」
「「「「それはおススメしない(できません)」」」」
異能を持つ4人の言葉が重なった。
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