第16話 ステータス
「きさま、何をした!?」
俊也が四天王の方へと近付くとスニアラスが吼えた。
「うるさいな」
「なっ……」
思わず言葉を失くしてしまった。四天王になってからと言うものの特別扱いされており、自分の存在を一蹴されるなど久しぶりだった。
だからこそ憤るのも一瞬だった。
氷の礫が雨のように襲い掛かる。
「……無駄なことを」
俊也の方へと飛んで行った氷の塊だったが、飛ばされた直後に水へ変わってしまい地面を濡らす結果に終わる。
スニアラスの能力は、何もない所に氷を生み出し、それを操ることだった。
したがって元が自分の生み出した『氷』だったとしても、『水』に変わってしまってはどうすることもできない。
「お前みたいな雑魚に興味はない」
「雑魚!?」
「四天王の中では一番強いんだろうな」
純粋な戦闘能力以外にも、老齢なスニアラスは戦いに慣れているように俊也は感じられた。実際、指揮や運用も含めて筆頭にされていた。
だから決して『雑魚』などと呼ばれる存在ではない。
「残念ながら相性は最悪かな。もちろんお前にとって」
「ほう。何をしたのかわからないが、随分と強気ではないか」
再びスニアラスの周囲に氷が出現する。
「ちょっとぐらい有利だからと言って頭に乗るなよ」
さらに氷で造られた槍を手にする。
「で、どうやって戦う?」
煉が尋ねる。
詩奈から頼まれたのは『この場での魔王軍四天王の全滅』。誰一人として逃がすつもりはなかった。
個々の強さ、能力についても説明を受けている。しかし、それはあくまでも言葉での説明でしかない。相手の強さなど、実際に見ることでどのように感じるのか変わってしまうものだ。
そして、俊也は実際に見て納得した。
「俺が3人受け持つ。お前は、あの氷使い以外を受け持て」
俊也の中でスニアラスは既に敵としてすら見做していなかった。
「……っ!」
二人の会話はスニアラスにも聞こえていた。思わず歯噛みしながら槍を持つ手に力が入ってしまう。
しかし、直後には手から槍の感覚がなくなって濡れてしまう。
「学習しない奴だな。俺の前で氷なんて意味がないんだよ」
「クソッ」
周囲に浮いていた氷を飛ばそうとする。しかし、意識を向けた時には氷が水へと変化していた。
全ての攻撃が封じられている。
戦う手段を失ったスニアラスが後ろへ下がる。
入れ代わりにクラヴェルが拳を握りしめながら突っ込む。
「どんな能力を持っているのか知らないが、純粋な力で圧し潰してやればいいだけだ」
人の頭よりも大きな拳。さらに瘴気を纏うことで実際の拳以上の範囲を壊すことが可能であり、拳を前にした者に圧を掛けることができる。
圧を受けて恐怖を覚えた者は体が動かなくなるか、逃げ出してしまうか。
俊也も拳が眼前まで迫っていても動かない。
「キサマ……」
「動けないんじゃない。動く必要がないんだ」
巨大化しているように見えた拳も俊也の広げた手によって受け止められていた。
「たしかに凄いステータスだ」
「お前、その金色の眼……!」
眼前まで迫って見えた俊也の眼は金色に輝いていた。
金色に輝く眼。思わず見惚れ、戸惑っているとクラヴェルの手を掴み、巨体を持ち上げると放り投げてしまう。
「な……」
放り投げられた先には煉がいる。
「そいつを任せる」
「了解」
飛んできたクラヴェルの頭に触れると念動力を加えて離れる。
「そいつの体力と筋力のステータス値は6500ある。さっきの戦い方を見てるからわかっていると思うけど、近接戦闘が得意みたいだから気をつけろよ」
「おう」
騎士を殴打して倒していたことから予想できていた。
四天王の中で単独の戦闘能力が高いのはクラヴェルであるため、彼だけを引き離したのは間違いないではない。
「どうして、それを……」
スニアラスは慄いていた。俊也の言ったステータス値が正しいからだ。
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名前:クラヴェル
レベル:100
体力:6500
筋力:6500
敏捷:2000
魔力:1000
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「そういう能力を持っているんだよ」
「――【鑑定】かッ!」
他者のステータスやスキルを見抜くことができるスキル――【鑑定】。
だが、俊也にそんなスキルは与えられていない。
「悪いけど、【言語理解】以外のスキルは与えられていないんだ。それに、だったらさっきからのはどう説明するつもりなんだ?」
スニアラスは自分が攻撃することを諦めていない。何度も周囲に氷を生成するが、その度に俊也の異能によって水へと変えられてしまう。
下半身は地面に落ちた水によって濡れてしまっているが、今は俊也の異能の謎を解く方が優先で気にしていられない。
「その眼に秘密があるのは間違いないんだ」
今は落ち着いた黒い瞳をしている俊也の眼。
だが、クラヴェルが攻撃するため突っ込んでいる間は金色に輝いていたのを目にしていた。
「そこまで気になるんだったら見せてやるよ」
俊也の眼が金色に輝く。
それは、四天王の3人が脅威に晒されていることと同義だった。
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名前:スニアラス
レベル:100
体力:4000
筋力:2800
敏捷:2500
魔力:8200
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名前:リューヴィ
レベル:100
体力:2500
筋力:4500
敏捷:4000
魔力:3000
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名前:ジョルトゥ
レベル:100
体力:3200
筋力:2400
敏捷:3000
魔力:9000
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「どうして、そのステータスを……!」
俊也が口にしたスニアラスたち3人のステータスも正しい。
スキルまで見ることはできないが、正しい数値を知ることができればどういう戦い方をするのか予想するのも難しくない。
「さあ、どうしてだろうな?」
曖昧に誤魔化したところへリューヴィが斬り掛かってくる。
今も電撃が爆ぜ続けている大剣は輝いて見え、大剣の大きさを見る者に誤認させる。
俊也の腕が届かない遥か手前で足を止め、大剣を振り抜く。
寡黙な騎士による一撃が俊也へ襲い掛かる。
「雷の魔剣を受け止めるとこうなるのか」
「オマエ……」
左から襲い掛かる大剣に対して掌を当てて受け止める。
リューヴィがどれだけ力を込めてもピクリともしない大剣。押し込むのではなく、引いてから大剣を持ち上げて振り下ろす。
上から振り下ろされる大剣は、電撃を纏っていることからまるで落雷のよう。
凄まじい速度で振り下ろされた大剣を俊也は掌で弾いてから、2本の指で掴む。
「ハナセ」
「離すわけがないだろ」
大剣にリューヴィが魔力を込めたことで大剣から電撃が撒き散らされる。
電撃を纏うことで切れ味を上げ、斬ると同時に焼くことを考慮した攻撃ではなく相手の周囲を巻き込んでの攻撃。
「きゃああ!」
後ろから女子の悲鳴が聞こえて顔だけを後ろへと向ける。
突然襲い掛かってきた電撃に驚きこそしたものの、近くにいた魔法使いのスキルを与えられた男子生徒が守っていた。
たった4日の訓練だが、結果はたしかに顕れている。
安堵すると大剣を手放して地面へ落とす。そのまま大剣の横を駆け抜けると顔面を蹴り上げる。
「……ッッ!」
大剣が落ちてバランスを崩したところへの攻撃。蹴られたことによって頑丈な兜に亀裂が走っていた。
「体力の方は少なかったけど、その弱点をカバーする為の全身鎧か?」
「……………!!」
それはリューヴィにとっては禁句。
魔王から『紫電』の名を与えられながら満足に与えられた力を扱うことができていない。
「止めろ」
ジョルトゥの能力によって俊也の足元にある地面が変化し、手のような形をした土の塊が二つ出現すると俊也の両足をそれぞれ掴む。
掴まれて動きを封じられた。
最初からリューヴィの役割は、自分を攻撃させて接近させることにあった。同時に後ろで隠れたジョルトゥが瘴気を送り込んで地面を瞬時に変形させられるよう準備をしておいた。
そこへ俊也の周囲に大砲の形をした物が10個出現して砲身を中心にいる俊也へと向ける。
「撃て」
一斉に大砲から土で造られた砲弾が発射される。
能力によって造られた大砲に本来の大砲のような機能は必要ない。あくまでも砲弾を真っ直ぐ飛ばす為の土台であればいい。
完全に包囲した状態で放たれた砲弾。逃げ場は上ぐらいにしかないが、逃げる為には足を掴んでいる土の手をどうにかする必要がある。
「俺に対して数で挑むなんて。さっき失敗したばかりだろうに」
「どうやって一つ壊しただけで全て壊したのかわからない。こうして動きを封じた状況でも同じことができるかな?」
10個の砲弾は同時に発射されたように見えても、到達するのは僅かな誤差があった。その時間は最大でも1秒ほどであったため本当に誤差の範囲でしかない。
だが、俊也は瞬時に見切って、真っ先に到達するのを右から飛んでくる砲弾だと見定めると手刀で砲弾を叩く。
たった一撃で粉々になる砲弾。
ここまではジョルトゥにも予想できた。だが、直後の現象には驚かずにいられなかった。
俊也の体に当たる直前で全てが砕けてしまった。
対象がどのような物であれ全ての遠距離攻撃を砕くことができる。
「よっと」
力を込めて足を振り上げると、足を掴んでいた土の塊が砕け散る。
「どうやら、ただ土を変形させただけの攻撃じゃないみたいだな」
手刀で砕いた時の感触から、金属以上の硬さを感じていた。
『黄鋼』のジョルトゥは、魔王から土の形を変え、鋼以上の強度を持つ物質へと変える能力を与えられていた。
「合わせろ、ジョルトゥ!」
「はっ!」
俊也の右に立ったジョルトゥ、左に立ったスニアラス。
同時に土礫と氷礫を雨のように放つ。
二種類の攻撃での同時攻撃。
「これなら!」
逃げ場のない攻撃に対して俊也がスニアラスの方に向かって1歩踏み出す。
「また……!」
その瞬間、俊也の姿が消え、土と氷の礫が衝突するだけに終わる。
氷だけが相手だったなら水に変えることとで無力化することができた。だが、反対側から土の礫が迫っており、氷を無力化している間に襲われてしまう。だから、最も安全に回避する手段を選んだ。
「よう」
後ろから聞こえてきた声に戦慄を覚え、振り向く間もなく頭を横から殴られて飛ばされる。
攻撃を回避すると同時に後ろまで移動した。
回り込むようなスペースはなかった。スニアラスがジョルトゥの方を見ると首を横に振っていた。包囲していた攻撃の一部でも壊して凄まじい速さで移動したなら壊されたことに術者は気付く。だが、そういった感覚はなかった。
「こいつは空間を跳躍することもできる! そして、何かの呟きが必要……」
「少し黙ろうか」
「!?」
叫びながら一瞬も俊也から目を離していなかった。
それでも眼前まで迫られ、口を手で喋られないよう抑え込まれると後ろにあった木に頭が叩き付けられる。
意識を失いそうになるも氷の壁が出現させて俊也から離れる。
「何か呟いている。それが何なのかわかれば……」
逃げるスニアラスを追おうとしたところへ斬り掛かってきたリューヴィの斬撃を悉く回避し続ける俊也。
スニアラスは必死に頭を働かせていた。
既存のスキルに囚われない特殊な能力。自分と同じように特殊な能力を持っているのなら、その正体を看破することで弱点を見つけられるかもしれない。
そして、その手掛かりは俊也の呟きにあると見出していた。
その考えは間違いではなかった。
☆ ☆ ☆
俊也が呟くのを見ていたのは他にもいた。
召喚者たちだ。多くの者は口が動くところを見ただけだったが、スキルによって身体能力が強化されている勇者の眞斐だけは何を呟いたのか聞き取ることができていた。
しかし、わかったところで意味のある言葉のように思えなかった。
いや、一つだけ可能性があった。
その可能性を確かめる為にも俊也のステータスが知りたい。
――知りたい。
眞斐とは違う思いからだったとしても四天王を相手に余裕を保つことができている俊也の強さを知りたい。
そう、思っている者は多くいた。
「きたッ!!」
自らのステータスを確認する。
それまでなかったスキルに【鑑定】が加わっていた。
勇者である眞斐だけが持つスキル【希望】。周囲にいる仲間の想いを受けて自身のステータスを上昇させることができる。
その力はステータスだけでなくスキルに現れることもある。俊也の戦う姿を見た多くの者が『知りたい』という想いを強く抱いたことで、眞斐のスキルに実現させることができるスキルが現れた。
そうして最も適していたスキルが【鑑定】。入手したばかりで熟練度の低い現状ではステータス値を覗くのが精一杯。
「ははっ」
思わず乾いた笑いが眞斐の口から漏れる。
四天王の3人と戦いながら俊也が眞斐のいる方へ顔を向ける。【鑑定】を使われてステータスを覗かれたことに気付いた。
「ま、いっか。どうせ後で教えるつもりだったし」
見られたところで困るものではない。むしろ見たことで相手に絶望感を植え付けることができる。
==========
名前:嘉数俊也
年齢:18歳
レベル:1
体力:100000
筋力:100000
敏捷:100000
魔力:100000
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