29話 観戦者
第一試合が終わり、現在時刻は17時を迎えていた。
第二試合は明日の8時に行われることに。
リリナは第一試合に興奮冷めぬ様子で感嘆の息を漏らしていた。
「はぁ〜、すごい試合でしたね」
Cクラスは真正面から進軍する小隊をアトラス小隊が討ち破り、そのまま遺跡群に進軍。
陣地防衛部隊に接近するや否や、錬成された長距離砲を破壊し後退して見せた。
そこでAクラスは背を向けるアトラス小隊の追撃に入り、彼女の部隊を徐々に追い詰めた。
進軍の要を抑えたと油断したAクラスに、Cクラスは布石を投じ勝利を収める。
「まさか漆黒の騎士人形が姿を消す能力を持っているとは予想外でしたね」
「えぇ。彼の活躍でCクラスは勝利できたと言えるでしょう」
事実アトラス小隊の進軍に合わせ、Aクラスは山岳地帯からの侵攻を強め、徐々に陣地に差し迫っていた。
特に森でジルクスが2機を相手に奮戦した影響はあまりにも大きい。
しかしリリナ姫は、森の戦闘が脳裏に焼き付き離れなかった。
オルディスとイルソンの連携、2機に対して巧く立ち回り的確に捌くジルクス。
特に彼女に強い印象を与えたのが、力強くも鮮やかな太刀捌きを見せるオルディスだ。
「最後の一撃は凄まじいものでしたね」
森を一瞬で焼き払った魔刀流の一撃。
あれでは騎士人形が兵器として恐れられる理由も良く分かる。
だけどとリリナは息を吐く。
どんな兵器も力も所詮は使い手次第で変わると。
「……騎士人形の恩恵も有るのでしょうが、早々放てないようですね」
確かにあんな一撃を何度も放っていれば、たちまちマナ切れを引き起こす。
リリナは興味深そうに平原を陣取るCクラスに視線を向けた。
遠目から見えるガイとリン、そしてレナとデュランの姿がそこに在った。
何かを真剣な顔で話し合い、時折笑い合う彼ら。
「楽しそうですね」
あんなに笑顔で、1人だけ仏頂面だが楽しそうにしている様子を見るとやはり、彼らを兵器として扱う風潮は間違っていると改めて強く思う。
「レイ、試合が終わりましたら早速動きましょう」
操縦士を兵器を操る恐ろしい存在に仕立て上げてしまった王家の1人として。
政治の道から彼らの印象を世論を変える。
「リリナ……敵は国家の中枢ですよ」
こちらを案じるレイにリリナは決意が固まった眼差しで微笑んだ。
「大丈夫。この機会にお父様も政府中核を一新しなければと思っていましたから……テロの無い国にもしませんとね」
テロリストを生み出した元凶が王家の怠慢だ。
だからこそリリナは王家として過去の罪を清算しなければならない。
ふとレイを見ると彼女は考え込むように、夕焼けに染まった空を眺めていた。
その事が気になり、彼女を覗き込むと。
「あっ、失礼しました」
「いえ。何か気になる事が?」
「成層圏に到達した砲撃が消失した理由に付いてです。天空城調査部門が未だ騎士人形で到達できない理由、それは成層圏に隠されているのではないのかと思いまして」
確かに騎士人形は成層圏まで飛べると想定されているが、天空城に到着した機体は無い。
しかし成層圏で砲撃が消失。
あの砲撃はマナを装填し、砲弾に変換させた物。
謂わばマナの塊だ。
リリナはそこまで考え、遺跡に付いて思い出す。
遺跡の下層はマナが途絶え、魔術が一切使用不可能になる。
「成層圏と遺跡の下層部……何か因果関係が有るのでしょうか?」
「……分かりませんが、やはりクローズ教授の失踪は」
レイがそこまで言うと、護衛の兵士が側に駆け寄り。
「お2人とも食事の準備が整いましたので此方へ」
軍部の護衛と教官陣を交えた軽い会食。
リリナとレイはその場から歩き出した。
こうして2人は会食に集った教官陣に試合の感想、これからの事を話し合うのだった。
生徒の未来と操縦士の行末のために ──




