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アダムス操縦士学院  作者: 藤咲晃
一年生編 春の章
30/31

28話 攻防

 Aクラスは小隊を複数方面に分け同時に侵攻していた。

 森を侵攻したハルミトン小隊から念話が届く。


『こちらハルミトン! ディアスとナギサキと接敵! あっ!?』


 彼からの念話はそこで途絶え、グレイは小さく舌打ちする。

 先に召喚したガイとリンに、生身のハルミトン小隊が拘束魔術で捕縛された。

 1小隊の壊滅はAクラスに数の振りを齎す。

 グレイは白亜の騎士人形ジルクスを方向転換させ、森方面に飛ぶ。


『ミコト、ガイ達はこっちで抑える』


『了解しました。森には罠が張っていると考えてください』


 まだ森を走行するオルディスとイルソンにミコトは警戒を告げる。

 グレイは罠に留意しながらブースターを噴射させ、戦場に急ぐ。


 ▽ ▽ ▽


 剣戟と魔術が飛び交う戦場。

 遠距離から放たれる魔術をエレンの防御魔術が防ぐ。

 平原を直視するAクラスの小隊にレナ、リリィ、リュウが迎撃に向かい、激しい攻防を繰り広げていた。

 同時に山岳地帯を侵攻する2小隊にフォンゲイル小隊とブルークス小隊が迎撃に向かった。

 エレンは戦況を冷静に見渡す。

 何方も決定打に欠ける展開、そしてガイとリンが白亜の騎士人形に抑えられている。


 Aクラスが攻勢に出た人数は13名。

 その内3名はガイとリンが速攻で捕縛。

 攻めては残り10名。

 そして陣地防衛には6名だ。

 まだ自軍に被害は無いが、それも時間の問題だ。

 もしも今の攻めてが陽動なら背後に警戒しておく必要が有る。

 こちらの陣地の背後を取るには、山岳地帯と森を大きく迂回する必要が有るが、隠密は単独で行うもの。


「背後に警戒しつつ、エルトナムさんは支援砲撃の用意を」


 ネビル越しから指示を出す彼女にヴォイドが頷く。


「任せてください。既に錬成陣は構築済み、あとは味方に誤射しないようにするだけ」


 地面に刻まれた錬成陣から大砲が作り出され、ピュリアとキルセインが配置に着く。

 こちらに錬金術師が居るようにAクラスにも居る。

 ピュリアとキルセインが射角を調整する中、シズナの声が響く。


「向こうに動きが有った!」


 彼女の警告にエレンは千里眼の魔術で遺跡群に視線を向ける。

 するとそこには、長身の砲台に魔力を込める青紫の騎士人形が構えていた。


「エイブルさん……長距離砲撃で狙い撃つつもりですか!」


 長距離砲台にマナが装填される中、ネメシスが翼を羽ばたかせ飛翔する。

 彼女は防御結界で受け止めるつもりだ。


『レナさん、頼みます』


『任せて、支援は頼んだよ』


 レナの念話にエレンは指示を出す。


「平原を直進中の敵小隊に対して砲撃開始!」


 大砲が火を放ち、装填されたマナ鉱石の鉄球を撃ち出す。

 それは放物線を描き、平原を進軍中の小隊に降り注ぐ。

 2発の鉄球が平原に着弾する中、Aクラスの長距離砲撃が火を噴いた。

 雲を突き破り空に向けて放たれた砲撃は、成層圏まで届くかというところで砲弾が消滅した。

 不自然な消滅の仕方に両者は訝しんだ。

 成層圏に届き得る砲撃にも驚きだが、何故消滅したのか。


「消滅? 一体なぜ……」


「エレン、魔術師として気になるだろうけど今は!」


 エドの声にエレンはすぐさま思考を振り切る。

 一先ず分かったことは成層圏を超える砲撃は無力化されてしまう。


「あの地形では直線に撃つことは無理です。ですが砲撃支援には警戒を」


 各機がそれぞれ応じる中、森から衝撃が伝わる。


 ▽ ▽ ▽

 

 ガイはグレイの手強さに舌打ちしていた。


『チッ、罠は今ので全部か』


『はい。全部回避されましたね』


 まだジルクスは能力を温存している。

 責めて罠でマナを消費に追い込みたかったが、当てが外れたことにオルディスは太刀を構え直す。

 大剣を肩に担ぐジルクスからグレイの声が響く。


「やるじゃねえの。突破した出来たところで厳しいな」


「面倒臭えから降参しろ」


「無理だね。こっとらリンドウ教官の泳ぐ姿を胸張って拝みたいんだよ」


 ジルクスが振り抜く大剣をオルディスが太刀で捌く。

 鉄の衝突音と散る火花。

 そして平原方面から聴こえる戦闘音。

 オルディスが木々を盾にスラスターを噴射させ移動すると、ジルクスが一太刀で木々を薙ぎ払う。

 そこにイルソンのクナイが飛ぶ。

 ジルクスの背後から放った必殺の一撃。

 リンは確実に当たると確信を抱く。

 しかしジルクスがブースターを噴射させ、マナの勢いでクナイを落として見せた。


「そんな防ぎ方も有りなんですね」


「騎士人形のマナ噴射は激流だからな」


 笑うように答えるグレイにイルソンは鉄球を取り出す。

 ジルクスの右横合いに移動するオルディス、背後のイルソンにグレイは苦笑を浮かべる。

 本当に手強い。

 手堅い2人にグレイは噛み締める。

 

「これなら流せませんよね」


 容赦無く鎖付きの鉄球を投げるイルソンに、ジルクスはスラスターを左後に向かうように噴射させ避けた。

 地面を深く抉る鉄球、それを引き戻さずイルソンが動く。

 札に魔術が刻まれたクナイを取り出す。

 警戒するジルクスにオルディスが一刀振り下ろす。

 繰り出される兜割りをジルクスが大剣で弾く。

 そこにオルディスの膝蹴りが放たれ、ジルクスの腹部を打つ。


「ぐはっ!? お、おまっ」


「俺が剣術だけだと思ったか?」


 森の中だから炎系統の魔術は使えない。

 使えばたちまち森が火災に見舞われるからだ。

 そう考えるグレイを他所にガイの声が響く。


「《天より出る雷よ、刃と人に宿れ》」


 雷の付与魔術を唱えたガイにグレイは呻る。


「やられた!」


 ガイは今まで他の魔術を使用して来なかった。

 この日の為に使える魔術を誰にも見せずに温存していたのなら彼は策士だ。


「ディアスさん? あたし達にも内緒にしてましたね」


「炎ってのは使い勝手が良い。その上何処までも威力を増大させることが可能だからな」


「つまり好みで?」


「あぁ、好みはデカいだろ」


 単に好みで使用していた。

 それだけの事実にグレイから笑い声が漏れる。

 

「やっぱお前は面白いな!」


 素直な感想を送るとグレイの笑みは消える。

 能力を発動しなければ負ける。

 例え発動したところで勝ち切れない可能性が高い。

 此処でガイとリンを堕とす意味が大きい。

 グレイは自身の勝利に賭けに出る。

 頭の隅でいつ融合合体を披露されるのか、それも念頭に置きながら。


「《恵み豊かな大地よ、我が機体に加護を》」


 グレイの詠唱にジルクスの機体が淡く発光する。

 能力【大地の加護】を発動させたジルクスにオルディスが真っ先に動く。

 雷では相性は最悪だ。

 雷を纏った太刀の一刀がジルクスに触れる直前、刃と機体に付与していた雷が大地に流れてしまう。

 同時に付与を失った刃はジルクスの装甲に弾かれた。

 地面を斬ったような感触にガイは眉を歪める。


 装甲にダメージを与えられない程に硬い。


 ジルクスは謂わば大地の鎧を纏った状態に有る。

 イルソンが背後から投擲したクナイでさえも、その装甲に弾かれるばかり。


「魔術師が有効打ですが……厳しいですね」


 しかし方法が無い訳では無かった。

 大地とは謂わば地属性の塊だ。

 地属性に他の属性を加えることにより属性に変化を齎す。

 ガイは魔術の基礎を頭の中で浮かべながら、魔術を唱える。


「《水よ刃に宿れ》」


 水流に包まれる刀身にジルクスが一歩後退する。


「チッ、能力の弱点を的確に突きやがる」


 グレイの舌打ちにオルディスとイルソンが同時に動く。

 左右から挟み込むように太刀と小太刀が振われ、甲高い音が森の中に響き渡った。

 

 大剣が太刀を受け止め、ジルクスの装甲が小太刀を弾く。

 しかしリンは隙を見逃さず、先程取り出していた札付きのクナイを投擲した。

 

「無駄だ」


 放たれるクナイにオルディスが距離を取る。

 クナイは真っ直ぐジルクスの装甲に当たるや否や。

 札に施された魔術が光りだす。

 クナイが爆発し、爆風は周辺を巻き込んだ。

 爆風によってジルクスが煽られ体勢が崩れる。

 

「なんつう威力だよ!?」


『相棒! 仕掛けるなら今の内だぜ!』


 オルディスの声にガイは頷く。

 霞の構えから放たれた一閃がジルクスの装甲を斬る。

 大地の加護によって刃が防がれる中、水流が流れ込む。

 瞬間、大地の加護は水流を受けたことにより錬成陣が起動する。


「こいつは!?」


 錬成によって大地の加護の性質が造り替えられた。

 水流によって大地は泥となり、ジルクスの装甲に変化を齎す。


『機体性能著しく低下……グレイ、能力の切断で対応するんだ』


 頭の中に響くジルクスの声にグレイは従う。

 ジルクスから能力が消えた、わずか一瞬。

 オルディスの刃がジルクスに迫る。

 ジルクスは咄嗟に大剣の腹で刃を受け止めた。

 火花が散る中、オルディスの太刀に炎が煌めく。

 

「魔刀流のとっておきだ」


 太刀に集い圧縮されだす炎にグレイは冷汗を滲ませる。

 大気に漂うマナがオルディスの太刀に集い、炎が一定間隔で鼓動しだす。

 それは規則正しく荒れ狂う炎が刃の一点に集中する様子だった。

 グレイは咄嗟に防御魔術を唱え、一撃に備える。

 膨れ上がり膨張を始める炎にオルディスが太刀をそのまま振り抜く。

 瞬間。一点に収束された炎が一気に解き放たれ、凄まじい熱線がジルクスごと森の彼方まで呑み込んだ。

 

 爆音と破壊が広がる光景にリンは冷や汗を流す。


「グリアーゼさんは生きてますか?」


「威力は人体が火傷程度に抑えた。実際は爆破の衝撃で意識が奪われるだけだ」


 火災に見舞われる森にリンは息を吐く。

 それにしては随分と派手な一撃だった。

 ジルクスを捜すべく周囲を見渡した。

 と、リンはジルクスが薙ぎ倒された木々の上に倒れている姿を見付ける。

 機体が消えずそのまま残されていることら、グレイは間違いなく生きている。

 安堵の息が漏れる中、オルディスが遺跡群の方に振り向く。


「このまま直進する」


「予定より大分遅れましたが……」


 焼けた森を2機が飛翔すると。


『ジン・ブルークスがAクラスのフラグを奪取!』


 クオン教官の声が戦場全体に響き渡った。

 

『よって第一試合はCクラスの勝利。だが、迅速に森の鎮火作業に当たるように!』


 クオン教官のそんな声にガイは操縦席で肩を竦め、ひとまずの勝利に息を吐く。


今回の更新でストックが無くなったので、更新頻度が下がります。

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