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アダムス操縦士学院  作者: 藤咲晃
一年生編 春の章
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12話 悩む少女

 無事に寮に帰宅したリンは、クオン教官への報告をレナに任せ、ベッドに仰向けに倒れ込んでいた。

 額に腕を乗せ、先程の光景が蘇る。

 ガイが割込み風の刃を太刀で受け止めた光景が頭から離れない。

 その度に胸が熱く締め付ける。


「いやいや、まさか」


 リンは冷静に考え直す。

 きっとガイは損得勘定に基づいて助けに過ぎない。

 寧ろ助ける対象は考古学者で、自分はついでに過ぎない。

 そう考えたリンは、深く息を吐き出した。


「忍びのあたしがついでに助けられるとか……恥ですよ」


 そんな事をボヤくと、不意にドアが開く。

 リンはわずかにそちらに視線を向け、


「報告お疲れ様です」


 同室のレナにそんな言葉をかける。

 彼女は向かいのベッドに座り、真っ直ぐリンを見つめた。


「なんか、上の空って感じだけど……ガイのことでも考えてたの?」


 そんな問い掛けにリンの心臓が跳ね上がる。

 

「そんなんじゃないですよ」


「目が泳いでるわよ。それにリンは遺跡を出てからずっと、ガイの背中を見つめてたでしょ」


「えっ? そんなに見つめてましたか」


 遺跡内部で彼の背中を見つめた覚えは有るが、外に出てからは覚えが無い。

 疑問も合わせてそう聞くとレナが頷く。


「うん、ガイがちょっと脇に逸れるとリンの視線も一緒にね」


 如何やら無意識の内に、視線がガイを追っていた。

 リンは極めて冷静に結論付け、レナから視線を晒す。


「晒すってことはガイが気になるんだね」


「そういうレナは如何なんですか?」


 聞き返すと、レナは指を合わせ。


「そりゃあ……まあ、色々とね」


 はぐらかすように答えられた。

 レナはガイに対して何か有る。

 リンの直感がそう告げていた。


「思えばレナは、初日からディアスさんだけ積極的でしたよね」


「そんな事は無いわよ」


「でも話しかけた男子生徒はディアスさんだけでしたよね。それも街巡りに誘ったのも」


 レナはわずかにリンから視線を背けた。

 彼女の行動が何か有ると語り、敢えてリンは追及する。


「実は街をまだ歩いたことが無いのは、ブルークスさんもだったんです。何故彼も誘わなかったのですか?」


 リンの追及にレナは観念したように両手を挙げ。


「……そっ、私はガイが気になって話しかけたのよ。恋心とかじゃないんだけど、天空城を眺める彼はもしかしたら、遺跡とか考古学が好きなんじゃないのかなって」


「そう思ったから声を掛けてたのよ」


 リンはレナが遺跡と天空城に関する考古や考察が好きなことを理解していた。

 共通の趣味を持つであろう男子生徒に声をかけてみたら、見事にレナの予感は的中し現在の関係。

 友人の関係に至る。


「なるほど。でもそれがいつかは恋心に変わる日も有り得るのでしょう?」


「どうかな? 私よりも先にリンが恋心を抱いてるかもね」


「なっ! それは無いです。あたしは忍び、影に生きる者ですから」


 有り得ないとリンは強く否定した。

 同時に否定したくない自分も居て。

 それが顔に現れ、複雑な気持ちが込み上がる。

 

「でも気になるでしょ」


 レナの優しい声に、リンは頷く。

 

「……はい。でも助けられたからって好きになるのは、単純じゃないですか?」


「それ以前にリンはガイのことをどう思ってたの? 仏頂面で愛想が悪い人? 知的に見せかけた屁理屈を並べて言い包める人? それとも単純にカッコいい人?」


 リンは考え込んだ。 

 ガイに興味を抱いたのは、間違いなくクオン教官との戦闘時だ。

 Cクラスの殆どは武術を嗜んだ者が多い。

 けれどそれは、グランツ王国が武術が盛んな国でも有るからだ。

 言うなれば趣味と護身の範疇。

 けれどガイの剣技は違った。目的のために必要に応じて身に付けた技術だ。

 それが何かはリンには判らないが、興味を抱くきっかけとしては十分な理由だ。


「強くてカッコいい人だったんですけどね」


 助けられた。

 それがきっかけで恋心を抱いているのか、それともそれは勘違いに過ぎないのか。

 自分はコーヒー無料券1枚でガイに協力してもらうことを考え、レナに提案した。

 その結果が彼の火傷。

 第三者から見ればガイの火傷は、強引な方法による自爆だ。

 それでもリンからすれば、火傷のきっかけを作った張本人だ。


「罪悪感と恋心……どっちなんでしょうか?」


「罪悪感を抱くのは、むしろ私とデュラン、それにジンよ。だって私達は何も出来なかったのよ? 剣を抜くことも魔術で援護することも」


「それは無理も無いですよ。完全な不意打ちから放たれた斬撃……いえ、魔術でしょうか? まあいいです。意識の外から仕掛けるのは暗殺者とやり手の常套手段ですから」


 反応が遅れたのも無理は無いのだとリンは語る。


「でも、ガイは反応して見せた」


「あろうことか、太刀が切断されると判断しての魔術行使ですからね。いえ、魔刀流が魔術に主を置いている以上、どんな局面でも魔術が放てるように鍛錬を積むそうですけど」


 ガイは魔術を応用した。

 いつも彼が扱う付与の魔術を、触媒である武器から拳に対して。

 自分がきっかけで火傷を負ったことには変わりは無い。

 しかしリンが思い返せば思い返すほど、ガイの後姿が鮮明に浮かび上がる。

 

「彼、筋肉質でがたいが良いですよね。なんだか背中に乗りたくなるような」


 そう口にしては、思い切り抱き着いてみたい。

 そんな欲求がリンに芽生え始める。


「うーん、流石にそれはガイに投げられるじゃないかな?」


「そうですね。言っては何ですが、投げ飛ばされる姿まで想像できましたよ」


「……それで悩みは吹っ切れた?」


「……簡単にはいかないようです。けれど恋心かは置いといて、あたしはディアスさんのことが、人として好きなのは理解しました」


 まだ恋心と結論付けるのは早い。

 リンはまだそれで良いとさ思う。

 何せ出会って1ヶ月も経たないのだから。

 それでもリンにわずかな焦りを芽生えさせる。

 いま、目の前に強力なライバルになり得る人物が居るからだ。

 レナの容姿、仕草は男子を魅了するには十分な程で、そこに加えて性格も良く勉強もできて剣術も扱えるときた。

 強力なライバルの存在に、リンの心は焦りを抱いているが穏やかなものだった。

 人生はどう転ぶか何も分からない。

 それなら3年間、青春を満喫しよう。

 リンはそう結論付け、レナと緩やかなひと時を過ごした。


 ▽ ▽ ▽


 蝋燭の灯が影を揺らす中。


「諸君、いよいよ作戦開始の時だ」


 男の声にヴァンは鋭い笑みを浮かべ、緑髪の男が疑問に顔を歪める。


「本当にあんな物を使う気か?」


「無論だ。我々の目的は操縦士の解放、世界中の操縦士が、騎士人形に選ばれたばかりの少年少女が今も何処かの国境線で命を散らしている」


「想像できるか? 今この瞬間に何千、何万人の操縦士が使い勝っての良い道具として使い捨てにされているのを」


「ボスの言う事も分かる。実際に国境線を見てきた」


 緑髪の男は見て来た。幼い操縦士達が国境線で政府の命令通りに進軍させられ、降伏も叶わぬまま敵軍によって蹂躙された様を。

 

「ならば異論は無い筈だ、それとも何か有るのか?」


 作戦と組織が掲げる理念に緑髪の男は、異論は無いと首を振った。

 そして緑髪の男は、暗がりの奥で鎮座する物に深いため息を零す。

 明日組織は動き出す。

 自分1人の意見で組織は止まらない。

 だからやるしかないんだ、そう緑髪の男は強い決意を固める。

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