プロローグ
満開の桜が咲き誇る4月中旬。
真新しい制服に袖を通した肩まで伸ばされた赤茶髪をラフに縛り、荷物と太刀を片手に少年が駅から街に降り立つ。
レンガ造りの建物、街の所々に古代文明の名残を併せ持った街並みに少年──ガイ・ディアスは息を吐く。
ここはグランツ王国の北東部に位置する遺跡都市ラピス。
元々は古代文明が築き上げた都市だったが100年ほど前に学院を建設するに辺り、改めて改修された都市だ。
そのため古代文明の名残りを強く遺しながら近代的な都市として発展を遂げている。
ガイは空に浮かぶ城を見上げ、アダムス操縦士学院を目指して歩き出す。
上がり坂を登り切った校門前に数人の生徒が集まり。
「新入生の方はこちらに荷物を預けて、案内板に従って講堂を目指してくださいね!」
生徒会の腕章をした女子生徒に荷物を預ける。
ガイも彼らに倣い荷物を預け、講堂に向かった。
▽ ▽ ▽
新入生を迎える入学式の最中。
真新しい制服に浮かれる者が居れば悲壮感漂う者、覚悟を宿す者が講堂に集まっていた。
そんな中で暖かな気候が春眠を誘い、ガイは隊列の中で欠伸を噛み殺す。
呑気に欠伸を殺し、ボヤけた視界に映り込んだ人物に眠気が一気に吹き飛ぶ。
そしてガイは驚愕を浮かべ息を呑み込んだ。
講堂の教卓にに歩む人物。
大柄で鍛え抜かれた筋肉を誇る理事長──ゼオン・アルティスの姿に新入生の誰しもがガイと同様の反応を示す。
「新入生第100期生の諸君、先ずはアダムス操縦士学院に入学おめでとう」
ゼオンの重圧を感じさせる声が講堂に響く。
グランツ王国の軍総司令官ゼオン。
騎士人形を操り幾度もなく戦火から国を救った英雄。
新聞でも取り沙汰され国内外問わず知らない人は居ない程の人物に噂があった。
ゼオンはアダムス操縦士学院の理事長を務めている。
世間は誰も感心を寄せない単なる噂話しにしか過ぎなかった。
しかしゼオンが理事長として現れたことが真実を語り、生徒に衝撃を与えるには十分な程だ。
公にも明かされない事実に衝撃を受ける者、同時に此処が本格的に軍学校色が強いのだと悟る者。
生徒一人一人の反応にゼオンは口元を吊り上げて嗤う。
「諸君には力が在る。それを活かすも殺すも諸君次第だ、三年間で力の在り方、正しい使い方を学び励むように」
望まない入学生に対する皮肉と望んだ入学生に対する期待の言葉を新入生にかける。
ゼオンの祝辞は非常に短く終わり、
「では教官の方々、あとは任せる」
ゼオンは入学式を最後まで見届ける事なく速やかに講堂を立ち去った。
外から飛翔音が響く中。
「此れより教官方が順に名を呼び上げる。呼ばれた生徒は速やかに教官の下へ整列するように!」
ある意味で衝撃が抜け切らない生徒を他所にクラス決めが進む。
そしてガイが黒髪の教官に名を呼ばれてしばらくしてから入学式は終わりを迎えたのだった。




