交渉成立
今日はランキングアップを目指して三話投稿です!
「交渉成立だな。受け取れ」
「おっと――なんだこれ」
カイトが握った手を離すと。
リーファが何かを親指で弾いて投げ渡す。
無事に落とすことなく受け取ることができたが……これは何なのだろう。
バッジ?
何やら不気味な模様が彫られていた。
「それはお前の身分を表すバッジだ。入りたてだから、いわゆる二等兵だな」
「階級が上がったら何か変わってくるのか?」
「……変な質問をするのだな。仕事の内容が変わるし、待遇が全く違うぞ」
カイトはリーファから貰ったバッジを胸に付ける。
魔王軍と言っても、人間の軍とそこまで変わりはないらしい。
階級制度など、根本的な部分はほとんど同じだ。
現在のカイトは二等兵。
恐らく一番下の階級だった。
「これからお前が活躍をすると、それに応じて階級は上がっていくぞ。精進するのだ」
「実力主義なんだな」
リーファに肩を叩かれるカイト。
超絶実力主義のこの魔王軍。
ここで生きていくことになったため、カイトもその掟に従うしかない。
カイトの力に期待してくれたリーファのためにも、自分の力を出し切るべきであろう。
とにかくここが自分の居場所だ。
努力が報われない人間界と違って、少しだけやる気が湧いてくる。
「そういえば……さっきから気になってたんだけど、ここはどこなんだ? 部屋……だよな?」
「ここはお前の部屋だ。まだ何もないが、自由に使っていいぞ」
「……狭いな」
「贅沢を言うでない。ただでさえ従者の数は多いのだ。この部屋が嫌ならさっさと昇格しろ」
厳しいリーファの言葉。
文句があるなら結果で示せ――とのこと。
何となくリーファが伝えたいことは分かる。
きっとリーファは、カイトにやる気を出してもらえるように激励しているのだ。
いかにも上司らしい。
「分かった。頑張るよ」
「うむ。それでいいのだ」
カイトの宣言に、リーファは満足そうな表情で応える。
カイトとしても、この独房のような部屋にずっといるわけにはいかない。
リーファの望み通りに成り上がって見せる。
「それじゃあ、もうそろそろ行くとするか」
「え? 行くってどこに?」
「決まっているだろ。先輩たちに挨拶回りだ。可愛がってもらうといい」
ニヤリとリーファは笑う。
これは……何か悪いことを考えている時の表情だ。
先輩というのは恐らく魔王軍の先輩なのだろうが、少し嫌な予感がする。
一体どんなスパルタが待っているのだろうか。
カイトは、緩んでいた気を引き締め直したのだった。