決断の瞬間
「カイト、我の仲間になれ」
「な、仲間!?」
リーファの口から出た驚きの提案。
聞き間違えなどでは決してない。
確かにリーファは仲間と言った。
リーファの目からは冗談のような気持ちは感じられない。
この魔王――本気だ。
しかし、気になるところは山ほどある。
「きゅ、急に言われても……しかも、俺とは初対面なはずなのにどうして」
「我はずっと魔界からお前のことを見ていたぞ」
「う、嘘だろ……他にも人間はいるのに、なんで俺だけ?」
「そりゃあ、明らかに一人だけ異質の強さだったからな。気付いていないかもしれぬが、めちゃくちゃ目立っていたぞ」
リーファは、簡潔にカイトの質問に対して返答する。
しかも、それはカイトが全く知らなかったことだ。
カイトが勇者パーティーとして生活している間、密かに観察されていたらしい。
正直に言うと全然気付かなかった。
さらに、自分は人間の中でも相当目立っていたとのこと。
これはきっと自分の職業――死霊使いが原因だ。
死霊を使役していると、人間とは全く別の気配が自分の身から出る。
ある時には、ギルドからリッチがいると勘違いされた経験も。
リーファはそれを感じ取っていたようだ。
「じゃあ……俺を強引に拉致した理由ってのは」
「無論。お前を我が魔王軍に引き抜くためだ」
数分話を進めて、ようやくリーファは頷いた。
つまり、カイトは魔王から死霊使いとしての腕を見込まれ、スカウトされている最中である。
まさか人間を、魔王直々にスカウトしてくるとは。
あまりにも大胆過ぎる行動。
これ以上ないほどの実力主義だ。
「ちなみに、お前が元々いたパーティーのことは心配しなくてもいいぞ。適当な影武者くらいは用意してやる」
「……その必要は無いよ」
「え? いや、だって普通は気にするのではないか?」
「もうそのパーティーからは追放されたからさ」
そんなカイトの言葉を聞くと。
リーファは少し固まって――数秒後衝撃を受ける。
口はポカンと開き、パクパクと言葉にならない言葉を発していた。
さっきまでの凛とした姿からは想像できない表情だ。
「え? 追放? お前をか?」
「うん。そうだけど」
「何というか……人間の考えることは分からぬな。こんな優秀な死霊使いなんて、世界中探しても見つからないぞ?」
「それよりもパーティーのイメージが大事だったみたいだ」
リーファは、愚かすぎる人間の行動に呆れることしかできない。
カイトは魔王である自分が直々にスカウトするほどの逸材。
死霊使いとしての腕は最高クラスだ。
若さや経験のことを考えれば、伸びしろもまだまだ期待できる。
そんな存在を、自ら手放すような選択をするなんて。
逆にカイトを失った後の人間たちを心配するくらいだった。
「まあ我としては構わぬのだが……手間も省けたことだし」
で――と、リーファは話を戻す。
「まだ答えを聞いてはいなかったな。どうだ、決まったか?」
「決まったよ」
決断の瞬間。
リーファはカイトの前に手を差し出す。
答えの前にカイトはリーファの顔を見た。
――その顔は笑っていた。
もう迷うことはない。
カイトはリーファの手を、少しだけ強めに握ったのだった。