魔王リーファ
「……うっ、いてて」
カイトはいつもと違う場所で目を覚ます。
僅かな頭の痛み。
周りを見渡しても、自分の見慣れているものは一つもない。
ここはどこなのか。
自分の記憶が正しければ、何者かに足を掴まれて引きずり込まれた。
あの力は人間のものとは思えない。
思い出すだけでも、ゾッと寒気がしてくる。
「お、目覚めたか?」
「だ、誰だ!?」
カイトはすぐに立ち上がって身構える。
聞いたことのない声。
きっとこいつが自分をこんなところに連れてきた犯人だ。
混乱する自分とは対照的に、やけにソイツは落ち着いている。
「我の名はリーファ。初めましてだな」
「リ、リーファってまさか……聞いたことがあるぞ」
「いかにも。我が魔王リーファだ」
目の前にいたのは、自分と同世代くらいの女の子。
しかし、立場は自分と大きく違う。
魔王リーファ。
人間とは対になる存在であり、圧倒的な強者として魔界に君臨している。
名前だけなら恐らく全ての人間が知っているだろう。
その姿は初めて見たが、まさかこんな風貌をしているとは。
これなら、人間界にいたとしても恐らく気付かれることはない。
一瞬だけ偽物ではないかとも考えたが、すぐにその可能性は否定される。
カイトを拉致した時の力、不気味なほどの余裕、独特の雰囲気。
全てが本物だと物語っている。
そんな化け物が自分に一体何の用なのか。
考えてもその理由は浮かんでこなかった。
「そんなに構えるな。我は敵ではない。今のところはな」
「て、敵じゃない?」
「うむ。それどころか逆だ」
「逆?」
カイトは首を傾げる。
さっきからリーファが何を言っているのか全然分からない。
敵じゃない?
魔王という立場でありながら、人間である自分と敵じゃないとはどういうことか。
それに、リーファは確かに逆と言った。
この場合の逆とは、何を意味しているのであろう。
敵の反対は――仲間?
「逆ってどういうことなんだ。それに……今のところはって」
「まだ分からぬのか? 察しが悪い男だな」
はあ……と、リーファは呆れたようにため息をつく。
よく分からないが、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
いや、正確にはリーファの言いたいことは分かっている。
だが、カイトの予想は普通だと考えられないものなのだ。
まさか。
もしかして。
そんなカイトの予想を裏切ることなく、リーファは偉そうな態度で言った。
「カイト、我の仲間になれ」