死霊使いの悩み
「……どうしよう」
カイトは悩んでいた。
パーティーを抜けて歩き出したのはいいものの、頼れそうなものは何もない。
今の自分を歓迎してくれるパーティーなど、この世界のどこにも存在していないだろう。
死霊使いという職業を長年続けてきたからこそ、試すまでもなく結果は分かる。
他人からの扱いも、社会的な地位も、実力が上がるにつれて下がっていくのだ。
冷静に考えれば考えるほど死霊使いの扱われ方は酷い。
人間界で生きていくなら相当なハンデだった。
「……ダメ元でギルドに寄るべきか? あまり期待はできないけど……何もしないよりはマシだろうし」
ここでカイトが何とか思い付いたのは、ギルドの力を借りて新しいパーティーを探すという方法。
ギルドでは、いくつかパーティーメンバーを募集する旨の広告があったはずだ。
このような広告を出すパーティーは劣悪な環境のものが多いが、今は仕事を選んではいられない。
むしろそこにすら入れない可能性まであるため、環境のことなど言ってられなかった。
ちょうどこの角を曲がったらギルドがある。
カイトは仕方なくギルドの門をくぐった。
「すみません。メンバー募集中のパーティーってありますか?」
「はーい。ただいま確認いたしますね。まずは名前と職業をご記入ください」
「…………」
カイトは言われた通り自分の職業を記入する。
こういう手続きをする際は、絶対に書かなくてはいけない情報だ。
まずはこの情報がないと判断も何もできない。
「……記入できました」
「はい、ありがとうございます」
ギルドの職員は情報の記入された紙を受け取る。
このギルドではあまり見ない顔だ。
最近は言ったばかりの新人だろうか。
顔でカイトだろ気付かれるかと思っていたが、見事にスルーされてしまった。
……まあ、それも仕方がない。
いつも目立っているのは、カイト以外のメンバーだったのだから。
「死霊使い……ですか。申し訳ないですが、これは多分無理ですね」
「……分かりました」
ギルドの職員は引きつった顔でカイトのことを見る。
こうなることは何となく分かっていた。
死霊使いの扱いはいつもこうだ。
今回もバッサリと切り捨てられてしまう。
まるで犯罪者かのような扱われ方――いや、それ以上かもしれない。
やはり自分で探すしかないのか。
カイトはため息を一つこぼす。
「すみません。自分で探すことにします」
「はーい。ありがとうございましたー」
引き留められることなく、あっさりカイトはギルドから見送られた。
ギルドはもう頼りにならない。
信じられるのは自分だけだ。
まずは自分を加入させてくれるパーティーを探さなくては。
……先が思いやられる。
「一旦家に帰るか――」
「――見つけたぞ」
「え?」
突然足に感じた違和感。
目を向けると、自分の影から細い手が絡みつくように現れている。
そして。
体験したことのない怪力で引っ張られ、泥沼に飲まれる要領で影へと引きずり込まれた。
初めて起こる現象に、カイトは為す術もない。
人間とは思えない力。
叫び声を上げることすらできず、ゆっくり暗闇の中へ意識は消えていった。