突然の追放
「カイト! お前はもうクビだ! 早く出て行け!」
「……え? 冗談だろ?」
「冗談なんかじゃねえ! お前がいるとパーティーのイメージが下がるんだよ!」
カイトが自室で本を読んでいた時。
扉を力強く開けて、勇者パーティーのリーダーであるリックが飛び込んでくる。
そして、怒鳴るようにリックは言った。
その内容は至って単純なもの。
突然の追放宣言を受けたカイトは、慎重に――これ以上怒らせないように聞き返す。
「ど、どういうことだ……」
「だから、お前がいると俺たちのイメージまでだだ下がりなんだよ! こうなるから勇者パーティーに死霊使いなんて入れたくなかったんだ!」
「いや、そんなの納得できるわけないだろ!」
やはり聞き返したとしてもリックの言葉は変わらない。
どうやら、カイトの職業である死霊使いに文句があるようだ。
……確かに自分が世間から良く思われていないのは事実。
死霊使いという職業は、人々から嫌われる職業だった。
カイト自身もそれは分かっている。
というか、周りからの扱われ方で察するしかなかった。
しかし、それで納得できるかと言われれば答えはノーだ。
「俺は試練をクリアしてこのパーティーに入ったんだぞ! その時の成績も圧倒的だったじゃないか!」
「でもー、カイトのせいで新規の仕事貰えなくなってない?」
カイトの発言に答えたのは、リックではなくヒーラー役のソーラだった。
フワフワとした髪をいじりながら、机に寝そべって話している。
実際に勇者パーティーに入ってくる仕事が減っているのは真実だ。
それはカイトも重々承知している。
時には、名指しでカイトと関わりたくないからと言われたことも。
だが、それで納得しろというのはあまりにも理不尽だ。
カイトは試練を圧倒的な成績でクリアしたという実績がある。
口にこそ出していなかったが、実力は勇者パーティーの中でも一番上だった。
そんな自分が、イメージが悪いというだけで追い出されるのはおかしい。
カイトは怒鳴りそうになるのを抑えて、もう一人のメンバーであるフィーグを見た。
「そんなに実力のことを言うなら、ここから出て行っても大丈夫だろ。実力があるならすぐにどっかから拾ってもらえるんじゃねー?」
「そんなこと誰も聞いてない!」
フィーグは嫌味のような言葉をカイトにかける。
これはカイトの怒りを助長するだけの言葉だ。
まるで他人事のよう。
これまでに何度も助けてやったというのに、何も恩を感じていないというのか。
人間というのは恐ろしい。
「もう分かっただろ。ここにお前の居場所はない。これ以上イメージが悪くなる前に出て行ってくれ」
「ぐっ……」
「私たちも広告の仕事とか受けたいしー。ね、フィーグ」
「そうそう。ソーラの言う通りだよ。もっと稼ぎたいよな」
「――ということだ。今日までご苦労だった」
カイトは言い返す暇すら与えてもらえず、リックによって荷物を投げるように渡された。
この三人に良いように思われていないのは分かっていたが、まさかここまで拒絶されることになるとは。
そこまでして金を稼ぎたいのか。
失望なんてレベルじゃない。
酷い扱われ方の中で、このパーティーのために尽くしてきたというのに。
もう何か言う気力すら湧いてこなかった。
「それじゃあな。頑張って次のパーティーを探せよ」
「……追放された死霊使いなんて、パーティーに入れてくれるわけないだろ」
「そんなこと言われても知るかよ」
その言葉を最後に、カイトは無理やり部屋から追い出される。
これからどうするべきなのか。
どこに行けば良いのだろうか。
その答えは、全くと言っていいほど出てこない。
死霊使いは忌避されている存在だ。
さらに追放されたというレッテルが貼られたのなら、もう絶望的な状況である。
「やっと変なのがいなくなってくれたねー」
「そうだな」
「これから広告の仕事が増えるかもな」
こうして。
部屋の中から聞こえてくる声を無視して、カイトは歩き始めたのだった。