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キャンプファイヤーと贈り物③

 そして、二か月後。

 私が三悪党に呼び出しを受けた傭兵組合の本所は、すっかり様変わりしていた。


 明るいのだ。

 照明を節約するためなのか、壁のところどころに採光の窓が取られ、秋の日差しを呼び込んでいる。そして、その中で異国の祭りに盛り上がる組合員の男たちもまた、二か月前までの淀んだ顔つきからは想像もできないほど、活き活きとした顔をしていた。


 何でも、組合の財政管理はそうとう杜撰であったらしく、それを是正できそうな人員は全て不自然な理由で組合から姿を消している。組合員たちの命と生活を守るため、組合長は出資者たるゴイル侯爵に諂い、阿り、その手を汚してきたのだとか。

 そんな状況に組合員たちが気づかぬわけもなく、それでいて反発などしようものなら先に姿を消したものたちと同じ道を辿ることなど目に見えている。

 

 ただただ上からの命令を適当にこなし、約束された報酬を給与として賜り、倦んだ瞳で酒瓶を呷る男たちの完成というわけだ。

 実際、ここ数年の彼らは、ほとんどゴイル侯爵の私兵も同然の扱いを受けていたのだという。


 そこに切り込んだのが、切り込んだ上で内側から食い破らんばかりに破壊工作……いや、構造改革に乗り出したのが、三悪党たちであった。


 もとより改善点など山積していた組合の中を隅々まで掘り返し、経費削減、業務効率化、営業回り、組合員たちの質の向上、休暇取り上げ(ん?)、粉飾決算おい、魔獣素材の密売こら、やりたい放題に荒稼ぎをして、この二か月の間で、先の大言の通りに見事組合の利益は三倍にまで膨れ上がったのだとか。


「それがさぁ、ぎりぎり三倍までいかなかったのよ。惜しいとこまでいったからどうせなら、と思って闇賭博に手ぇ出そうと思ったんだけど、組合長から『どうかそれだけは』って止められちゃってさぁ。ホントあの玉無し親爺しょうもないんだから。不正資金くらいロンダリングでどうにでもなるっつったのに」

「組合長さん、涙目だったよね~」


 ……あの。

 せめて犯罪の自白は一つずつ持ってきてくれませんか。


「優勝は! ビリィィィィ・クレイド!!!」

「「「おおおお!!!!」」」

「さあ、お待ちかね! エキシビジョン・マッチの始まりだぁ!!!」

「ウシオォォォ!!!」

「出てこいやぁぁ!」

「下剋上じゃぁああ!!!」


 私がこめかみに疼痛を覚え顔を顰めていると、下の階からひと際大きい叫び声が上がった。

「お。俺の出番だな」

「少しは手加減しなさいよ~」

「はっはっは。無理だ!」


 二階の応接室で一緒に茶を啜っていたウシオ様が立ち上がり、その場で衣類を脱ぎ捨てると、意気揚々と階下で繰り広げられる謎の祭りに参加しに行った。

 その巨大な背中を見送りながら(もう彼の裸体に対してなんの感慨も抱かなくなっている私、毒されすぎである)、改めて組合員たちの変貌ぶりを思い起こす。


 酒の匂いは相変わらずだが、視線は前を向き、声には芯から力が漲っている。

 自分たちの力で糧を稼ぎ、そのために自分たちを鍛え、それを高慢な貴族から巧妙に隠す、そんな小狡く泥臭い生き方が、それでも彼らの目に光を与えていた。

 決して、健全な在り方ではないのだろう。

 それでも彼らは、それを悔いないだろう。


 ちなみに、ミソノ様は経費削減の一環としてボトル・ベビーたちの数人を薄給でこき使っているらしい。それを聞いたときは流石にその邪悪な笑顔を締め上げようかと思ったのだが、彼らに関しても以前の境遇からはかなりマシな環境になったのだという。

 それどころか街中で富裕層の市民がボトル・ベビーを迫害していた現場に傭兵が割り入り、彼らを庇ったのだとか。


 変わっている。

 この帝都の色いろのことが、たった三人の異人たちの手で。



「それで? 本題に入らせてもらって宜しいですか?」

「うん?」

 正直聞きたくない気持ちのほうが大きいのだが、いつまでも先延ばしにしてはいられない。居住まいを正して問いかけた私の言葉に、揚げ菓子を齧りながら茶器を啜るミソノ様が首を傾げる。

 いや。あなた方が呼び出したんでしょう。


「ほら、ソノちゃん。あれだよ。こないだ言ってたじゃん。そろそろ〆《しめ》ようって」

「ああ、そっか。そういえばサク呼んできてって頼んだんだっけ」

「も~。わざわざ密告書偽装したの僕なんだからね~」

「あの。結局何の要件なんですか?」


 今、聞き捨てならないワードが少なくとも二つ聞こえたのだが。


「というか、あの書状、私の名前までは書かれてなかったと思うのですが」

「うん。あんまりこっちからサっちゃん個人と仲良くして、目付けられたらアレかなって。でもいかにもめんどくさそうな要件書いておけば、どうせまたサっちゃんが遣わされるかと思って」

「…………」

「怒んないでよ~」


 波風立たぬようにこちらを気遣いつつ自分たちの要求を叶えさせるという、ある意味悪辣なこのやり口は、なるほど、クズの少女(ミソノ様)ではなく詐欺師の少年(レンタロウ様)のものに相違ない。

 

「ま、そんな些細なことはどうでもいいわ。要はあれよ。これから国の貴族一人引きずり下ろすから、事前に一言断っとこうかと思って。感謝しなさいよね」

「ああ、そこは書面の通りなんですね……」

 嫌な予感が的中してしまった。

 私は胃の腑に圧し掛かった重みを面に出さぬよう、努めて平静に問い直した。

「それで、あなた方の獲物はどなたです?」

「決まってるでしょ、ゴイルとかいう侯爵よ」


 あいつさえいなきゃもっと好き勝手できるのよねえ、などと邪悪な笑みを浮かべるミソノ様から、私は視線を逸らした。

 ああ。

 やはり、気が重い。

 二か月前、王宮で交わした密議を思い出す。


『これは好機です、ホラス』

『しかし、メイド長。これは我が国の問題だ。腕は確かとはいえ、どこから来たとも知れぬ流れ者に――』

『だからこそです。この国にあの男の息の掛からぬ場所はありません。けれど、あの正体不明の三人ならば……』

『危険だ。毒をもって毒を制すとでも? それに、彼らとて未来ある若者だろう』

『いいえ、ホラス。彼らは犯罪者です。この国の民ですらない。ならば、この国の民たちのために、最大限利用すべきです』


 トラバーユ領主・ゴイル侯爵。

 この国を蚕食する、悪性の象徴。

 それを駆逐するために、彼らを利用する。


 そんな企みを立てた自分に、聞くだに耳を塞ぎたくなる計画を打ち明ける黒髪の少女の目を、私は直視することができなかった。




第二部『怪物狩人』 了

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