再開の花
久しぶりに会った君は、色褪せた写真の虚像よりもひどく、別人に見えた。
どれだけ記憶をさらっても、あるのは写真に写る君の姿。記録以外の君は、まるで存在しなかったかのように溶けていた。
心の準備が出来ていないまま口を開いた僕は、自分が何を言うつもりなのか全く予想がつかなかった。
しかし、口をついて出た言葉は陳腐な挨拶だった。
「やぁ、お元気そうで何よりだ」
君は、ちらりとこちらを見たきり、何も話さない。
それもそうか、僕と君の間に語ることなど何一つないのだから。
隔たれた時間でも環境でもない、一番の障壁は歴然と僕らの間に影を落としていた。
その影を観ながら僕は、逡巡する。多分君と出会うのは、いや、偶然という名の冠詞がつく再会は、これが最後だろう。
神のいたずらも2度はあるまい。
だとしたら、僕は、このまま通り過ぎていいのか。
俯いていた顔をあげ、君を見ると、君も僕を見つめていた。その様は、かつて教室で幾度も見た高校生の君だった。
ぶわぁっと血が駆け巡り、枯れていた記憶を生き返らせる。
机に腰掛け、気怠けにこちらを見る君。
それを窓際から見つめる僕。
あの時に戻ったような妙な高揚感と、自惚れが、僕をそこに留めた。
君の瞳が僕を映し、揺れている。仕草も立ち姿もあの頃と寸分違わず同じ。
そして、あの日の様に悪戯っぽい笑顔を魅せてくれる
そう思った瞬間、君が目を逸らし、あの甘酸っぱい感覚は消え去った。
あぁ、そうか。
ここでどれだけの言葉を尽くしても、さっきのあの感覚はもう戻ってこないのだと、頭より早く身体が理解する。
僕らはもう歳をとりすぎたのだ。
そんな当たり前のことを今更のように思い出して、僕は、歩き出した。
すれ違いざま、さり気なく声をかけた。
「それじゃあ、失礼するね」
ここで僕が振り返っていたら、何か違う言葉をかけていたら、未来は変わっていたのだろうか。
いいや、きっとそんなことはない。
だって、現に君は、必要以上に大きな声でこう言ったんだもの。
「Good bye」
これは僕らの仲直りの合図だった。
サヨナラが嫌いな君の最後通告だと知っていながら、
僕は、たかだが金属一つに縛られて応えられなかった。