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短編集

聖女召喚されましたけど、彼氏がいるので帰ります

作者: 神山 りお



 【聖女召喚】

 それは、異世界の人々が無責任に日本から女性を呼び、自分勝手に祭り上げる忌まわしき儀式。



 そして、今まさに日本人で二十歳になったばかりの若い女性が、愚の骨頂である聖女召喚に巻き込まれたのであった。



「は? お断りしますけど?」




 異世界に【聖女】として召喚された、高野詩織は不機嫌そうにそう答えた。




 遡る事、十数分前――




 高野詩織は、二十歳になったお祝いに彼氏とデートした帰りだった。

「詩織、またな」

「うん、またね」

 アパートの前まで送ってくれた彼と軽いキスをして、彼がアパートから遠ざかる姿を見て気分良くドアを開けたら、異世界に召喚されていた。

 玄関開けたら数秒で異世界だよ。何かのCMですか?



 ゲームか映画でしか見た事のない異様な世界がそこにはあった。

 感極まる王らしき人や、召喚に参加した魔導師共がそこにはいた。

 そして、困惑する詩織に頭を下げてこう言ったのだ。



「聖女様、我が国をお救い下さい」

 ――と。



 だから、詩織は間髪を容れずに

「お断りしますけど?」

 と返答した。



「「「へ?」」」

 全員が全員、アホみたいに口をポカーンと開けて現実を受け入れていない表情をしている。

「明日も仕事だから、帰してもらえます?」

 何故、受け入れませんって表情をされているのかが分からない。

 むしろ、何故、赤の他人が助けてくれると思うのか。

「い、いや。聖女様、瘴気にまみれたこの世界をお救い下さい」

 いち早く正気に戻った王が、聖女こと詩織に改めてそう言った。

「お断りします」

「「「…………!?」」」

「お断りしますって言ったのですけど?」

「な、何故!?」

「いや、むしろ何故、攫って来た女性に国を救えとかそんな鬼みたいな無茶振りを?」

 ラノベには必ずそんなご都合主義みたいな召喚があるけれど、まさかそんな本当に人権を無視した儀式があるとは驚きですけど?



「攫って……いや、聖女を召喚」

 理解が出来ないのか、誰とは言わずブツブツ言っている。

「この世界は人攫いは合法なのですか?」

 ブツブツ言っているのを無視して、詩織は話を進める。

 イチイチ話を聞いてられない。だって、この人達の言う事はそっちの世界の言い分で、常識的におかしい。

「い、いえ」

「私はココに来る事を承諾した覚えはありません。ましてや拉致誘拐した国など救う義理はありません。帰して下さい」

 詩織は当たり前の言い分を返した。

 どの世界に聖女召喚と言って、拉致誘拐を正当化する世界を救う仏の様な人がいるのか。

 それこそラノベの世界の女性は、読んで字の如く【聖女】だよ。

「私、何か間違った事を言いましたか?」

「…………」

 全員が押し黙ってしまった。



「ちなみにあなた方は自分を攫った犯罪者達が、助けて下さいって言ったら無償で救うのですか?」

「む、無償ではない。我が息子の妻に」

「見ず知らずの男性の妻にだなんて誰得ですか? 大体ご自分の国も救えず、異世界から喚んだ他人(聖女)に国の情勢を丸投げする男なんて、こちらから願い下げ致しますわ」

「「「…………」」」

 詩織が歯に衣を着せぬ言葉を返せば、何処からかウッと呻き声の様な声が聞こえた。

 何故、王子との結婚がご褒美になると思っているのか。聖女の仕事で大変な思いをした後に、王妃だか側妃だか知らないけど、さらに責務を押し付けるとか鬼か悪魔ですか?

「そうだわ、こう致しましょう。国王陛下」

「…………?」

「私の国は、世界の人々を恐れさせる魑魅魍魎ウィルスや破壊兵器なるモノを投下する者達がおります。ですから、私がこの世界をお救いする代わりに、陛下が我が世界をお救い願います」

「は?」

「聖女は神ではございません。見ての通り人にございます。無条件無償で赤の他人を救う義理があるとお思いですか? ですので等価交換にございます。私がこの世界をお救いする代わりに、陛下が我が世界をお救い下さい」

「「「…………」」」

「国王陛下達は、世界を救うためならば人攫いも厭わない。と言う事は逆に考えれば、ご自分を攫う様な人達のいる世界でも、無償でお救いになる慈悲深い方と言う事なのですよね?」

「…………」

「では、そこの魔導師様」

「は、はい?」

「陛下を私の世界に飛ばして下さい」

「「「へ?」」」

「私がこの世界を救うかはそれから考えましょう」

 詩織がそう言えば、国王や魔導師は言葉を失った。

 聖女を召喚すれば、慈悲深い聖女は無条件で救ってくれるものだと都合よく信じていた。

 だが、実際召喚してみれば、そんなのは絵空事であった。

 詩織の言い分は、正論過ぎて反論の言葉が思いつかなかった。

「い、いや、国王の私が自ら……」

「では、どなたなら宜しいので?」

 自分は国があるから駄目だと言う陛下に、詩織は誰なら良いのかと詰め寄った。

 あなたかしら? と皆を見てやれば――

「「「…………」」」

 チラッと周りを見た後、全員がさらに押し黙った。

 自分は嫌だという事らしい。



「そ、そなたの世界も大変なのだな」

「【聖女】が無償で救う様に、陛下を【勇者】として召喚したのなら、お優しい陛下ならば無条件無償でお救い頂けるのでしょうね?」

 試してみようかしら? 詩織はふふっと、イヤミを含めて満面の笑みで言った。

 理不尽な召喚とはそう言う事。逆の立場ならどうなのかとやんわりと教えたのだ。

「……このお方を、元の世界に帰しなさい」

「「「ぎょ、御意に」」」

 国王陛下は、詩織に返す笑顔を痙攣らせ、詩織を喚んだ魔導師達に言った。

 詩織の言わんとしている事を、皆はやっと理解したのである。



 詩織は異世界に召喚され、小一時間後――



 何事もなく無事に現代日本に帰って来たのであった。



 そして、聖女召喚などと云う悪しき習慣は、この世界では二度としなくなったのである。

 






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