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09

 学校で謝罪をするのはちょっと微妙だったため、彼女の家の近くで待たせてもらうことにした。

 着いてから大体5分くらい経った頃、彼女がいたるさんと一緒に歩いてくるのが見えた。


「お、おはよ」

「え、制服も着ないでこんなところになにしているの?」

「……これまでのことを謝りたくて、すみませんでした!」


 同級生にこんなにしっかり頭まで下げたのは初めてだ。

 でも昨日と違ってなんで自分はこんなことさせられてるんだ、なんて複雑な気持ちはない。


「じゃあそれだけだから」


 許してもらおうだなんて考えてないからこれでいい。

 謝らないでずっと引っかかり続けているよりも余程マシ。


「あ、ちょ、ちょっと待ちなさい」

「なに?」


 引き止めてくるかな? なんてことは考えていたが、実際そうなったらなんだろうって不安になった。


「結菜は?」

「あー、先に行ったよ。だから僕も早く帰って学校行かないと」


 風子ちゃんには来週になってしまうが我慢してほしい。

 ま、あれだけ重ね重ね嫌いと言ってくれたんだし、それすら求めていない可能性もあるけれども。


「そう……早く来なさいよ?」

「うん、気をつけてね」


 彼女達と別れて帰宅。


「丹波先輩」

「おぉ、丁度いいところに」


 帰ったら氷室さんがいたことあったなってなんだか懐かしくなった。


「昨日までごめん」

「あ……い、いえ、私も謝ろうと思って丹波先輩のお家に……」


 どちらにしても皆行動的だ。

 わざわざそのために家まで来てくれるなんてありがたい。

 1週間後に謝罪をしなければならないという不安と戦い続けるより気分がスッキリするから。


「結菜さんならもう行ったよ?」

「そういえば丹波先輩は……どこに行っていたんですか?」

「氷室さん達に謝ってきたんだ、迷惑かけたからね」

「私服で……ですか?」

「うん、制服で行くのはちょっと暑いし」


 母は一応まだ家にいるがもう仕事に出る。

 元々結菜さんが説得してくれているからその点については心配はない。


「着替えないんですか?」

「うん、そんなかかるわけじゃないから。でも、君は行った方がいいよ」

「……おかしくないですか? 制服を着て学校に行けばそこで会って謝れるのにわざわざ……」

「そうかな? なんか教室で謝るのは緊張するからさ。それにほら、いたるさんがちゃんと来てくれるのかも分からないからね、氷室さんの家に住んでるって分かっているからこのタイミングだったんだよ」


 引っかかってくれるな、いつもみたいに「そういう丹波先輩は嫌いです」とでも言ってくれればいい。


「あの……休むつもりじゃないですよね?」

「休まないよ、信用できないってことならしょうがないけど」

「じゃあ絶対に来るんですね? 安心して学校に行けばいいんですよね?」

「今日はどうしたの? 昨日までの君らしくないね」


 自分が落ち着いたら今度は向こうが慌てだすとか不安がっているというか。

 ただまあ、これまでの自分が余裕なさすぎたってことはよく分かる。

 ……消えろよなんて言っておいてなんだけど、結菜さんが来てくれて本当に良かった。


「うん、だから先に行ってて。着替えているところを見られるのは流石に恥ずかしいから」

「分かりました」

「気をつけてね」

「はい!」


 ごめんよ風子ちゃん。

 でも、たかだかひとりの男子生徒が学校を休むというだけだ。


「拓一」

「あ、もう行くの?」

「ええ」

「行ってらっしゃい」


 靴を履いて出ていこうとした母を慌てて呼び止める。


「あ、か、母さん……悪いけど」

「気にしなくていいわ。お母さんは頑張ってきます」

「うん……頑張って」

「行ってくるわね」


 玄関閉じられひとりになった。

 適当にソファにでも座って朝のテレビを見たりして時間をつぶす。

 お昼になったらご飯を食べて、夕方頃になったら結菜さんと母のためにご飯作りを開始。

 だが、午後19時を越えてもふたりは帰ってこない。


「母さんは分かるけど、結菜さんはなにをやっているんだろう……」


 普段なら17時を越えた辺りに帰ってくるはずなのに。

 単純に氷室さんの家に泊まることにしただけだろうか。


「ただいま……」

「おかえり、遅かったね」

「うん……まあね」


 随分お疲れのようだったので許可を得てから肩でも揉むことに。


「知ってるだろうけど、私も人間と一緒なのよ。肩は凝るし、頭は痛くなるし、普通にお腹空いたりするわ。でね、今日はずっと風子といたるに付きまとわれてて……休む時間がなかったのよ」

「お疲れ様。ご飯作ってあるよ、食べる?」

「ごめん……食欲ないの」

「そっか。じゃあお風呂溜めてくるよ」


 いつ帰ってくるのか分からなかったから優先していなかったけど、そっちの方が重要だったか。

 どうせ家にいるならそういうところもきっちり把握できていなければ駄目だな。


「拓一……」

「まだだけど」

「もう入るわ……よいしょっ……と」

「わぁ!? こ、ここで脱がないでよっ」


 慌てて退出。

 本当に質が悪い存在だな彼女は。


「ただいま」


 母が帰宅し、結菜さんの時みたいな同じ説明をする。

 また後で母にも肩揉みくらいはしてあげるべきだろうと判断した。

 

「先にお風呂に入るわ。結菜ちゃんには悪いけど汗だくで……このまま家中を歩きたくないのよ」

「分かった。じゃあ僕は部屋にいるから」

「先に食べていていいのよ?」

「あ……いっぱい味見してたらお腹いっぱいになっちゃって」


 これは嘘ではない。

 あまり上手く手際よく作れるレベルではないため、試行錯誤しながらの挑戦となったのだ。

 

「ふふ。そう、とにかくお風呂に行ってくるわ」

「うん、ごゆっくり」


 部屋に戻ったら今日はずっと家にいたのにやっと心が休まった気がした。

 ――風子ちゃんやいたるさんに付きまとわれるなんていつも通りなのにあの疲れようは……。


「拓一……」

「って、しゃ、シャツくらい着なよっ」

「うるさい……もう寝る」

「ちょっと!」


 僕のベッドに寝転んですぐに寝息を立てはじめてしまった。

 これまではずっと床で寝ていたので、正直これには大変驚いた。


「結菜さん、風邪引いちゃうから」

「うぅ……あんたのせいじゃない」


 ……というかいま布団の下にある彼女のそれはどうやって準備したんだ?

 制服だってそうだ、コピー能力とか想像しただけで獲得とかそういう便利スキルでもあるのか?

 ま、まあ、存在自体がイレギュラーというかチートなんだから今更不思議に思うのもおかしいけど。

 

「付きまとわれた原因……あんたなんだから」

「でもさ、結菜さんが1週間くらい休めって」

「そうよ……でもあんた今朝、学校に行くなんて言ったみたいじゃない」


 自分とは逆側を向いていることから表情は分からないが、面倒くさいことしてくれやがってという心の声が大変よく伝わってきていた。


「堂々と休むからなんて言ったら引っかかるでしょ? 自分達のせいでとは思ってほしくないんだよ、だって僕が弱かっただけなんだから」


 自業自得、自分で導火線に火をつけた。

 昨日までならともかく、泣いてスッキリしたいまとなっては全く違うんだ。


「ごめん……君には迷惑かけるね。でも、知らないって言っておけばいいんじゃないかな」

「無理よ……風子はともかく、いたるは私が拓一の家に戻ったって知っているんだから」

「うーん……なにを言われたの?」

「……なんで来るって言ったのに拓一が来ないのって何度も」


 だけどあそこではああとしか言えない。

 氷室さんがいたるさんを止めたりはしなかったのだろうか。

 そんな人間のことより私を見てよくらい言えば決まると思う。

 というか、最早両思いみたいなものだし、そちらは時間の問題というところだろう。


「教室の雰囲気は?」

「微妙。ほら、昨日あんた……でしょ? それで今日休んだから引っかかっている人間は多いかもね」

「みんなにも申し訳ないことをしたなあ……」

「珍しく捺希が大声を上げたのもあったわよね」

「はは、そうだね」


 氷室さんの言うようにきちんと送っておけば少なくともサボりをすることはしなくて済んだ。

 結局どれも自分が悪い、彼女達が嫌いだと言いたくなるのもいまなら分かる。

 自分で理由を作っておきながら嫌いと言われて逆ギレして、怒られて、無様にズル休み。

 ださいなあ……少し前の自分に言ってやりたいなあ……。


「……自分で言っておいてなんだけど、あんた明日学校……無理?」

「うーん、もう少し平和な場所でゆっくりしていたいかな」

「そうよね……」


 ま、これを繰り返していけばいずれ興味もなくなるだろう。

 だから結菜さんには悪いけど、それまでは頑張ってもらうしかない。


「……というかさ、下着姿で転ぶのやめてほしいんだけど……」

「ははは、もしかしてあんた、興奮しちゃった?」

「いや……だってそこに転ぶのは緊張するでしょ」


 温もりが消えたのだとしても彼女が転んでいたという事実は変わらない。

 それに直前に見た綺麗で白い肌を非モテ野郎が忘れられるわけがないんだ。


「別にいいわよ、好きにしても」

「は、はぁ!? 今日は君おかしいよ!」

「……それくらいはさせておかないと駄目でしょ?」

「その方が駄目だよ! もういい、今日はゆっくり寝てよ。僕は疲れてないし下で寝るから」


 本気にしたらどうする。

 おまけにそういう類のは1番嫌いなこと。

 本気で言うわけがないと分かっているからこういう対応が正しい。

 下手くそだったのは慌ててしまったこと、隙を見せたら駄目なんだこういうのは。


「待ちなさい。さっきのは冗談だから……あんたもここにいなさいよ」

「じゃあとりあえず服着て」

「分かったわ」


 身長は同じくらいだしとりあえず上だけでも着てもらえば目のやり場に困るということはない。

 

「んー、だけど結菜さんにばかり負担をかけるわけにもいかないな」

「だったら来なさいよ、そうすれば風子やいたるはとりあえず納得するわ」

「風子ちゃんはなんとなく分かるけど、いたるさんはなんで僕が来ることを望むんだろ」

「そりゃ……間接的にでも原因を作ってしまったからでしょ」


 言わなかったことが逆効果だったってことか。


「じゃあもうあと6日休むって言っておいてくれない?」

「そんなこと言ったら余計に食いついてくるわよ」

「面白いよね、いる時は興味を持たれないのにいなくなったら持たれるなんて」


 嫌いな人間が休んでざまあみろくらい考えてほしい。

 なのにいざとなったらこれ、信じて登校したらボロクソに。

 

「風子はそもそもあんたに興味があったじゃない」

「……分かったよ、じゃあ結菜さんが来てほしいからってことにしておいてもいい?」


 このタイミングで戻ってきてくれたことが不思議なんだ。

 母に言われたからというのも大きいだろうが、それでも残ってくれたのだから彼女くらいは信じるべきなのかもしれない。

 だからこそ理由にさせてもらう、それならなんとか頑張れる気がするから。


「はぁ? 私は別にあんたなんかに興味ないんだけど」

「分かってるよ、でも誰かに求められてるって考えると気が楽だから。僕が行けば楽になるんだよね? 1番負担をかけておいた自分が言うのもなんだけど、結菜さんに迷惑かけたくないから」


 言ってることが真逆なのも理解している。

 だがまあ、現在進行系で迷惑をかけているとなればそのまた逆の行動をするしかない。


「……あんたのせいなんだけど」

「だからそう言ってるじゃん。そもそもズル休みなんて似合わないんだよ、家にいても退屈だったし」


 頑張ってくれている母にも申し訳ない。

 それに明日は金曜日だし、家に帰ってからでも家事はできる。

 家にいたってテレビを見るかぼうっとするかの2択。

 だったら学校で色々な感情と戦っていた方が気が楽というものだった。




「来たのね」

「うん、昨日はちょっと家の前で転んじゃってさ」

「ふふ、嘘つき」


 難しい現実を前に精神は転んだのだから嘘は言っていない。


「あのさ、教室ではやめるように言ってくれないかな」

「あれ、言って聞くと思う?」

「あれ? あれ……」


 教室の入り口、扉に隠れるようにしてこちらを見ている風子ちゃんが。


「た、丹波先輩、来てくれたんですね」

「うん、ここの学生だからね」


 ――の割にはクラスメイトから受け入れられてないけど。

 まあいずれ飽きるはずだ、それまで頑張ればいい。


「で、でもでも、なんで昨日嘘ついたんですか?」

「なんでってみんなに嫌われている状況で来られるような強さはなかったからだよ」

「……それならなんで今日は」

「結菜さんに迷惑かけたくないから。それだけだよ」


 ところで、結菜さんの気になる人って誰なんだろう。

 仮に近くの人だったとしたら密かにチェックして遠回しにアドバイスとかしたいところだけど。


「結菜さん」

「……んー?」

「結菜さんの気になる人、教えてくれないかな」

「はぁ……? なんでよ」

「え、応援したいからだけど」


 うーむ、今日もどうやらお疲れモード。

 彼女ってよく分からない、柔らかい時と厳しい時の差がありすぎて。


「余計なこと気にしなくていいのよ」

「そっか……ま、ホイホイ言えることじゃないよね」

「あんたはどうなの?」

「僕? 関わっている女の子からは絶賛嫌われ中です」


 これほど考えるだけ無駄なことはない。


「それは知ってる、私だってあんたのこと嫌いだし。だけどそれ抜きにして、純粋なあんたの気持ちよ」

「この中だったら君かな」


 だけどそれは当然のことだろう。

 氷室さん曰く僕の妄想から生まれた人物だし、その人間を好きにならない方がおかしい。

 とはいえ、本人からはこれだし、本人が言うには違うらしいので意味もない話だが。


「でもそれは叶わないことだからだよ。ほら、手に入らないと思ったら余計に欲しくなるでしょ?」


 教室でなに言ってんだって話だな。

 物凄く恥ずかしくて、そして痛いからどこかに消えたかった。

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