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捉えようが変わったからか、教室での時間はなんてことのないものだった。
勝手に怖がって休んだのが意味ないくらい、追い詰められるとマイナスに考えてしまうんだと学んだ。
いたるさんも普通に話しかけてきただけだし、なにをやっていたんだろうなと何回も考えた。
あっという間に放課後がやってくる。
一緒に帰ろうとしたら「行ってくるわ」と結菜さんはどこかに行ってしまい……。
まさか追うなんてことはできないからひとりでの下校。
「おやおや、奇遇ですねー」
「あ、風子ちゃん」
なんでこんなに中途半端なところで立っていたんだろう。
「丹波先輩は結菜先輩が好きなんですね」
「うーん、それはどうかなあ」
「えっ、今朝言っていたじゃないですか」
「彼女が手に入らないからだよ、それに本人から嫌われているし」
いちいち帰ろうかとか言わずに歩きだす。
そういえば彼女が甘城さんと帰っているところを見たことがない。
話を聞かせていたみたいだから不仲ということはないだろうが……。
「安心してください、私はあなたを嫌っていませんよ」
「えー、嫌いって言ったでしょ?」
「似合わない冷たい態度を取ったりするのが嫌いだっただけです。夕姉も言っていましたよね、いまの丹波くんは嫌いかなーって」
「氷室さんはどうなんだろうね、そう言っていたけどいたるさんとの件で爆発してたし」
だが、結菜さんのそれは僕全体の否定。
そこに+で他の人が気になっているときている。
なら、それを応援するべきだろう、ご飯くらいならいくらでも作ることはできるから。
「丹波先輩っ」
「うん?」
「頑張ってくださいっ、いまならまだ間に合いますよ!」
仮に彼女に気になる人がいなかったとしてもそれってかなり虚しいことではないだろうか。
画面の向こうの人物に恋をするようなものだ。
唐突に現れたように、逆に唐突に消えるなんて可能性も0じゃない。
だったら彼女がしたいように生活してもらいたい、僕の気持ちより優先されること。
「はは、君は違うんだね」
「ほえ?」
「いや、甘城さんからの話を聞いていて興味を持ってくれたんでしょ? だからそこからさ……」
僕の見ているアニメでは先輩、同級生、後輩から主人公が好かれていた。
勿論、僕がそのような魅力的な人間ではないことは分かっている。
創作の中の普通(イケメン)ではないのだから当たり前のことだが。
「あー……好きでいてほしかったということですか?」
「僕はアニメを見ることもあってさ、あっちの世界ならそういう流れもあるかなって」
「んー、じゃあ好きになりましょうか?」
「は……い、いや、そんなの無理でしょ、寧ろいまはマイナスだしね」
それでも、ある意味中途半端な状態よりも対応が楽だ。
そういうほぼない可能性に期待しなくてよくなる。
「そうですか……」
「うん、気にしなくていいよ。嫌いのままでいてくれていい。謝りたかっただけなんだ」
「そういえば忘れていました、すみませんでした!」
「だからいいって。あ、それじゃあね」
「はい」
うーん、下手くそすぎたか。
ああいう言い方をすると微妙な状態にさせてしまう。
いちいち嫌いのままでいいみたいな根に持った言い方はやめようと決めた。
「ただいま」
「おかえり」
「え、なんで結菜さんいるの?」
「別にいいでしょ、ここに住ませてもらっているんだから」
「そりゃそうだけど……」
細かいことは説明せず行ってくると言っていたことから、僕はてっきり気になる人のところに行ったんだったと思ったんだけど。
「それよりあんた、今日はひとりで帰ってきたの?」
「ううん、途中で風子ちゃんと会って一緒に」
「あんたと風子って仲いいわよね」
「どうかな……でも、許してくれた感じはあるよ」
この子に冷たい態度を取っていた僕が嫌いだって言っていたことから、この子と違って完全否定というわけではないのは分かった。
「なんの話をしたわけ?」
「それって前も聞いてきたよね。うーんと、今回は好きになってあげましょうかーって」
「は? ……それであんたは?」
「断っておいたよ、迷惑かけたくないし」
そういうのって努力でどうにかなるものでもない。
興味を持ってくれて来てくれたのも本当のことだけど、そこから先は僕の本当の姿を見ただけで求めようとはしないだろう。
そこまで痛い人間なんかじゃない、風子ちゃんにとっても面白そうだからとかそういう感情のはずなんだ。
「へえ、あんたはなんでも迷惑かけたくないって線を引くのね。別に良かったじゃない、本人がそう言ってくれたんなら素直に受け入れておけば。だって後輩よ? 1年だけとは言っても若くて可愛いし、なにが不満なの?」
「いや、好きになってあげるっておかしいじゃん。好きになるっていつの間にかそうなっていることだと思うんだよね」
佐藤君に対して彼女がそうであったみたいに。
好きになってもらえるように努力するなら分かる、だが、特別な意味で好きになれるよう努力するっていうのは全くもって意味が分からない。
「それはあんたみたいに?」
「え?」
「だってあんた、私のこと好きなんでしょ? 出会いがあんなので喧嘩ばかりしていたのに、それでもあんたは私がって口にしたのよ?」
「そういえばそうだね。うん、そんな感じ」
だがそれも素直に喜べることではない。
だって少しでも理想が反映されているということなら、そうなって当然だからだ。
「じゃあ、私で満足する? それって凄く虚しいことだと思うけど」
「そこでどうしてじゃあってなるんだか分からないけど、君は君のしたいように生きてくれればいいよ」
「気になる人がいるって言うの、嘘よ」
「まあそうだよね、そんなホイホイできないよね。なのに軽いとかビッチとか言ってごめん」
仮に佐藤君が誰とも付き合っていなかったら彼女は1日だけであったとしても積極的に動いていなかったと思う。
でも実際は甘城夕七さんと付き合っていて、無理だと分かっていたからこそ逆に燃えたられたというか、そういうところだろうか。
「しょうがないわよね、責任を取って世話をしてあげなければ駄目よね」
「ちょっと待ってよ、なんでいきなりそんなことになってるの?」
「私にとっても同じようなものってことよ」
「いやいや、もしそうなら佐藤君に気に入られようとしたり、気になる人がいるなんて言わないでしょ」
おまけに、話しかけるなとも言わないはずだ。
「あれよ、そういうつもりにさせようとしたんでしょうね」
「なんでそんな他人事みたいな……」
断言してくれれば――いや、断言してくれてもいきなり変わったりはしない。
大嫌いなんて言ってくれていなければもう少しは違ったのだろうか。
「他の誰かと仲良くしていれば悔しいってなるでしょ?」
「僕はならなかったけど」
「それがおかしいってこと」
だがまあ、関わる女の子の中では彼女がいいと思っている辺り作戦通りってことか?
とはいえ、いたるさんは氷室さん、甘城さんは佐藤君、風子ちゃんだけは分からないけど、あの言い方的にないことだけは分かるわけで。
偉そうになるけど消去法っていうかまあそんな感じだ。
「でも僕、君らのことを屑扱いしちゃったんだけど」
「いいじゃない、私はあんたのこと嫌いだし」
「なのにいいの?」
「まあね、過ごしていれば変わるかもしれないじゃない」
「それを断ってきたばかりなんだけど」
「受け入れなさい、これは命令よ」
片方は相手のことが嫌いで、片方は1度でもその相手を屑扱いした人間。
だがまあ、風子ちゃんみたいな子より対応が楽な気がする。
なんでもかんでもはっちゃけてくれた方が深く考えずに済むから。
「そっか、そういう形も有りか」
「見た目も喋り方も変えようか?」
「いや、そのままがいいよ」
「じゃ、よろしく」
「うん、よろしく」
マイナスからスタートして、いつかどうでもよくなる日がくるだろうか。
「拓一、あんたの作ったご飯が食べたいわ。あ、ちなみにあんたも一緒に食べなさいよ」
「了解。なにがいい?」
「オムライス」
「分かった。というかさ、食べることって必要なんだね」
「言ったでしょ、私は人間と変わらないわよ」
そうか、ならいちいち細かいことを考える必要はないよな。
結菜さんという女の子がいて、命令されたとはいえ僕は受け入れた。
なら自信を持って生活していればいいんだ。
「じゃあ沢山食べてもらおうかな」
「任せなさい、5合くらいは食べられるわよ?」
「い、いや、それは無理かな。待ってて、すぐ作るよ」
母のは後で帰ってきたら作るとして、いまはふたり分を。
とびっきり美味しい物を作ろうとしているのか、珍しく手に力が入っていた。
「はい、どうぞ」
「ありがと。いただきます」
……こうして一緒のご飯を食べるのは地味に初めてだ。
なるほど、彼女はこんなに楽しそうに食事をするのか。
「美味しい?」
「美味しいわ、あんたにしてはやるわね」
「いつでも食べさせておけば可愛いところだけ見えるね」
「余計なお世話。それに喋っていても私は可愛いし」
「はははっ、自信過剰だなあ」
でもまあ、彼女がこういう感じだから楽なんだ。
風子ちゃんが悪いというわけではないけれど。
「おかわり」
「はは、分かったよ」
ご飯くらいならいくらでも作るって考えたし、いまこそそれを発揮して満足させてみようじゃないか。
そうすれば1番いい部分だけ沢山見ることができるから。
疲れても構わない、誰かのために行動できる幸せを味わっておこうと決めたのだった。
読んでくれてありがとう。
喧嘩でしか書けないのなんとかしたい。




