01
読むのは自己責任で。
会話のみ。
「甘城、ちゃんと起きとけー」
「ふぁい……」
教室内が賑やかになる。
教科担当の先生も特別厳しくするわけでもなく、そのまま授業が再開された。
「あー……丹羽くんだー……」
「たんば、なんですけど……」
「あれぇ? そうだっけー……うーん……丹羽くん、キミはなんで私の横に座ってるのー?」
相手をするのはやめよう。
無駄なお喋りに付き合って授業態度が悪いとか思われたら最悪だから。
「うりうりー、ねえなんでー」
「丹羽、甘城、真面目にしろ」
「はーい」
「は、はい」
あぁ……これだからこの子の隣は嫌なんだよなぁ。
僕が聞きたいくらいだよ、なんで甘城夕七さんの隣なんですかって。
僕がいくら嫌な雰囲気を出しても気にせず話しかけてくる。
そのくせ、特別に仲良くしている男子君がいるんだから質が悪いんだ。
「授業終わり~」
はぁ……やっと終わった。
ただまあ、寝る子は育つって言葉はこの子によく当てはまる。
胸が大きいし、容姿とかも優れているんだ。
でも、先程も言ったが特別親しくしている――というか付き合っている人が。
「丹波、夕七が悪いな」
「い、いや、大丈夫だよ」
彼がそう、そして彼は常識人であるから強気にも出られない。
「ほら夕七、もう帰るぞ」
「は~い、じゃあね丹羽くーん」
たんばだって!
はぁ……いいや、早く帰ってアニメでも見よう。
そこから先はプロの帰宅部といった感じだった。
他の誰にも負けない、帰ることに関してでは運動部よりも最速だ。
「ただいま」
もちろん、夕方だし両親はいない。
弟妹兄姉爺婆はいないため、基本的にひとり状態だ。
「アッニメッ、アッニメッ、ホイッ!」
点けた瞬間に分かった、1日ズレていたことに。
その瞬間に訪れる絶望感、当然テレビの前で崩れ落ちる。
『キモッ』
「えっ!?」
『見んじゃねえよ、クソキモガリ男が!』
いや、というかこの子、どこの子だよ……。
「あのー、あなたはどこの子?」
『はぁ? 私はこの家の主だけど?』
「あー……幽霊ってやつです?」
『そのキメエ話し方はやめろ。とりあえず座れや、クソキモガリ男』
最初から崩れ落ちていたわけですが。
大人しく正座して目の前に座った女の子(見た目は清楚系)を見つめる。
『なんで私が見えるんだ?』
「え、し、知らない。あ!」
『言ってみろ』
「同じアニメが趣味だからじゃないかな」
語れるほど分かっているほどではないが、そういう仲間がほしいと思う時はある。
恐らくこの子もそうなんだ。
ちなみに、あのアニメには幽霊の女の子も出てくるため、あまり気にならない。
『ふざけんじゃねえっ、誰があんな半裸アニメを好むか!』
「な、なにが半裸だよっ、あのアニメは健全なんだからな!」
王道だけど熱い展開があったりして好きなんだ。
幽霊だかなんだか知らないが、馬鹿にするなら絶対に許さないぞ。
『はぁ……お前と話をしていると疲れる。いいか? 今後私に気づいても無視しろよ』
「無理だよそれは」
『なんでだよ!』
「なんでって君が可愛いからに決まってるじゃん」
『おい、2度とそんな気持ち悪いことを言うなよお前。じゃあな』
ま、そろそろ自重しようか。
アニメは好きだけど、あくまで時間つぶしのために利用しているにすぎない。
学校では上手く生きられないから、そういう現実逃避の手段が必要だったのだ。
「とにかく甘城さんに絡まれませんように!」
それだけで十分まともな生活を送ることができる。
先程の子を神様扱いするとして、神様に願っておいたのだった。
「うりうりー、元気かーい?」
結果、駄目でした。
寧ろ、より絡まれる回数が増えたように感じる。
それでも救いはあの男子君がこちらに怒らないで甘城さんを止めてくれること。
「悪いな、こいつなんか丹波のこと気に入っているんだ」
「な、なんで?」
「確か男らしくなくて可愛いって言ってたぞ」
最悪の理由じゃねえかよ!
本格的に席替えを頼んだ方がいいかもしれない。
そうすればこの男子君の負担だって減ることだろう。
『クソキモガリ男』
「えっ!?」
「どうした?」
「あ、な、なんでもないよ」
慌てて廊下に出ると壁貫通とかはせずにきちんと出てくる幽霊さん。
甘城さんは夕七という名前なので、この子は幽奈さんということにしよう。
『クソガリキモ男、あんたなにやってんの?』
「僕が脳内に直接話しかけるとかできない?」
『できるけど』
『あ、できるんだ……って、僕もできてるね』
良かった、これで変質者扱いはされないな。
『それであんたなにやってんの』
『どういうこと?』
『なんであんな女に好き勝手されてそのままにしてんのかってこと。迷惑だと思っているんでしょ? だったら○しなさいよ』
『ぶ、物騒だよ、そんなことできるわけないでしょうが』
そろそろ授業が始まりそうなので教室に戻る。
『というか幽奈さん、どうしてここに?』
先程からずっと気になっていることだ。
話しかけるなと言ってきた子が逆に話しかけてくるのは面白いけれども。
彼女は両腰に手を当てて『そんなの暇だからに決まっているじゃない』と言う。
『なるほど。でもありがたいよ。僕、話し相手がいないからさ』
『ま、授業頑張りなさい。私は適当に見てくるわ』
『了解』
これってもしかして死んでしまったのではなく生霊というやつだろうか。
「丹羽くーん、いつもごめんねー」
「別にいいよ」
「もうやらないからー」
「うん」
幽奈さんのインパクトに比べれば甘城さんなんて、なんてことはない。
『ガリ男、可愛い女を発見したわよ』
『って、授業中でも話しかけてくるの?』
『は? なんか文句ある?』
『別にないよ。適度なところで戻ってきてね』
『分かっているわよ。あんたから2キロ以上は離れられないようだしね』
そんな条件があるのか。
どう考えても幽霊とかそういう類の人だよな、幽奈さんって。
こんなに驚かない自分に驚いているが、あまり表情には出さない。
それに退屈な時は彼女と話をしていればいいため、悪いことばかりでもなかった。
――そんなことを繰り返しつつ今日を乗り越え、帰る準備をしていると幽奈さんが帰還。
『ほら、連れてきてあげたわよ』
『え、ええ!?』
た、確かに可愛らしい女の子だけども、この子をどうやって連れてきたんだ。
「幽奈って名付けたのよね?」
「あー、うん」
「大丈夫よ、私にも見えるから」
「あー、幽奈さんって幽霊?」
「違うわ、あなたが作り出した精霊みたいなものかしら」
おいおい、確かにアニメで現実逃避をしていたけどそりゃないぜ……。
でも、だからこそ都合よく脳内で会話したり、見えたりするのだろうか。
『せ、精霊なの?』
『そうみたいね、興味はないけど』
もっと興味を持ってほしい。
これじゃあ滅茶苦茶ヤバいやつじゃん、それと恥ずかしい。
「気をつけた方がいいわよ。あなたのそれ、強烈なのか周りにも見える時があるから」
「周りにも見えるくらい強烈ってヤバイじゃん」
「ちなみに、存在を消すにはあなたが強くなるしかないわ」
「え、だけど幽奈さんはこのままでいいかな」
「その場合はあなたがやばいやつになるだけで済むわね、問題ないわ」
だけど消す必要はないだろう。
そもそもひとりなんだし余計に評価が悪くなるだけで済む。
「丹羽くん、その子は誰?」
「あ、僕も名前は分からないけど」
幽奈さんが連れてきたなんて言ったら「へ、私?」なんてことになりかねない。
どうやら見えていないようだし、ここは分からないで通しておくのがいいはずだ。
「私は氷室捺稀、よろしく」
「よろしくー、私の名前は甘城夕七だよー」
「そう。で、あなたは?」
「あ、僕の名前は丹波拓一」
名前もどこかひとりでいることを示唆しているようで複雑である。
「丹波君はとにかく気をつけなさい」
「うん、ありがと」
「気にしなくていいわ。それじゃ」
「ばいばーい」
どうやればいいか分からないが、とにかく気をつけてみよう。