願いの果ては善か悪か
夕刻
一人神社を訪れた人の子は神へ願った
こんな生は捨ててしまいたいと
この世から消え忘れ去られたいと
だがそんな身勝手な願いを叶える神などいる筈もないと諦め
人の子が神社を去ろうとした刹那
「ならば夜更け、ここへおいで」
そう後ろで声が聞こえた
夜更け
人の子が神社へ足を踏み入れた
その瞬間辺りは霧に包まれる
「来たか、おいで」
と低く優しげな男の声が木霊する
霧に隠れ影しか見えぬ男の方へ人の子は躊躇いもなく駆け寄り
差し出された手を握り闇へ消えた
人の子の親は子を失い絶望し
周りの者はその人の子を覚えていない
果たして男が差しのべた手は『善』か
はたまた人を地獄へ墜とす『悪』の手か
そもそもその男に『善悪』という概念があったのか…
それを知るのは神のみである