ご褒美
夏休み前にあるテストが終わった後だった。
今日、その結果が掲示板に張り出された。
1位 佐倉慎
2位 百々瀬美月
3位 高宮晃樹
(や、やりましたわあああああ!!!!)
美月は周りを見て、晃樹と明を見つける。
慎はいないようである。
美月は晃樹に挑発するように言った。
「まあ、私がちょっと本気を出したらこんなものですわね!
分かりましたか? これが本当の実力ですわよ?」
晃樹はその言葉にムッとしたように言う。
「本気を出したら、とかではなくて、テストには常に本気で挑むべきだ」
「フンッ、負け犬の遠吠えですわね」
「……全く、君はいつも俺に突っかかってくるけど、一体何が気に入らないんだ?」
晃樹は遂に、ため息交じりに聞いた。
それに美月は淡々と、わざとらしいほどはっきりとした口調で言う。
「私の方が順位が下の時に、自分の順位を大したことないと発言しました。
私に対する侮辱ですわ」
「それは、照れて思わずそう言ってしまっただけだ。
それで不愉快にさせてしまったことについては申し訳なかったと思っている」
「それに貴方はいつも、私が怒っているとか、不機嫌だとか適当なことを言って、触らぬ神に祟りなし、のような扱いをします。
私はそういうところが気に入りませんでした」
「触らぬ神に祟りなし、確かに」
明が思わずそうこぼす。
「だって実際に怒っていたし、不機嫌だったから」
「いいえ、怒っていませんでしたし、不機嫌でもありませんでしたわ」
「ハア、ではそれでいいです」
「そういうところも気に入りませんわ。絶対にそれでいい、と思っていないのですわ。私には何を言っても無駄、と考えているところも気に入りませんわ――」
美月と晃樹がしばらく言い合っていると、途中、明が呆れたように美月に言った。
「てか、慎に負けているのはいいわけ?」
その言葉に美月はキョトンとした後、遠い目をする。
「さすがに超人に勝てないのは仕方がないことだと思いませんか……」
(そうですねえ、それほど甘くはなかったのですわ……)
「はあ?」
明は意味の分からない、といった感じである。
「いいえ、諦めているわけではありませんのよ?
ええ、そうですね、今回は負けてしまいましたが、次こそ1位になるのは私ですわ!」
「あっそ」
明は面倒だというように適当に返した。
◇◇◇
テスト結果が発表されてから2日後、美月と慎は精霊図書館の外のベンチに座っていた。
柔らかい風が吹くと、耳障りの心地良い葉と葉が擦れる音がした。
美月はプリンを取り出すと慎に渡した。
「ありがとう」
慎はそう言って、プリンを口にする。
それを美月はジッと見ているので、思わずといったように慎は味の感想をする前に言う。
「フッ、そんな見られていると食べづらいんだけど」
「あう……、そ、それでどうでしたか?」
「美味しかったよ」
「本当ですか?」
「それほど甘くなくて、コーヒーの味がする」
「はい、甘くないコーヒープリンを作ってきたのですよ?」
「うん、美味しいよ」
美月は慎の言葉を聞いて安心するのだった。
(良かったですわ、フフッ、良かったのですわ)
相変わらず美月がジッと見ていたが、慎は構わずにゆっくりと食べた。
「君はお菓子を作るのが得意なの?」
よくこの場所で一緒の時を過ごしている。
それなのに、それほど会話をしないのであまりお互いのことを知らないのであった。
「そうですよ?」
そしてまたこの話はこれっきりである。
美月は、慎のことが知りたいというよりも、この慎との時間が静かに穏やかに過ぎるのが良い、と思っていた。
慎は基本的に何を考えているのか分からない人物であったが、ここにいる時は極めて柔らかい雰囲気であり、慈しむような眼差しを美月に向けているので、この現状に不満はないようで、ここでの美月との時間を大切にしていることが窺えた。
それでも、美月が慎を悠人と同じ種類の超人であると知ったのは、小等部の時に学院のテスト結果や家庭教師の課題をしていたのをチラと見せてもらったことがあったからで、今回、お菓子を作ってきたことといい、ちょっとずつ、ちょっとずつ、お互いのことを知っていくようであった。