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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最後の騎士

作者: ネムノキ

 ドンッ、と地面が轟音と共に爆ぜ、掩体壕の天井から土砂が降り注いでくる。咄嗟に壕の強化に回す魔力を増やそうか悩んで、止めた。この砲撃の後に敵の歩兵が突撃してくるのは明らかで、もしかしたら戦車もいるかもしれないのだ。貴重な魔力を無駄には使えない。

「砲兵は何をやってるんだ!?」

 誰かの叫びが、爆音と土砂の間から聞こえた気がした。そんなことを言ったところで、こちらの砲兵が仕事を出来ないのは変わらない。敵の方が技術的に優れているのは明らかなのだから。

「大丈夫だからね」

 愛騎のアースドラゴンのガイアが不安げに鳴いたので、ポンポン、と天井に頭をぶつけないよううつ伏せに寝そべっている背中を叩く。この老いた竜も、まさか戦場の主役がたった数年で剣と魔法から銃と砲に変わるなんて思っていなかっただろう。


 それもこれも、勇者のせいだ。


 異世界から召喚したという勇者を擁する『教国』が、その知識を元に作り出した『銃』と『砲』。教国はその膨大な資金を用いてそれらを全軍に配備し、アリア海の覇権を握るべく隣国ベニア連合国へ奇襲をかけたのが二年前。ベニアは国民一丸となって必死で抵抗したものの、半年で陥落した。

 それに連動して、エスニア帝国がポート王国へ侵攻。二カ月で占領した後、ランス共和国へと宣戦布告した。我らがマリア王国が必死で教国と戦っている間にランスはエスニアと教国の前に陥落。そして、グランド帝国の大陸領へとエスニア軍は侵攻し、これにグランドとその同盟国であるワイル帝国が反撃。

 一方、我らがマリア王国が連戦連敗していることに焦ったルーシャ帝国とスマル・トゥードという犬猿の仲の国が義勇兵を派遣してくれたものの、教国は何食わぬ顔で両国に宣戦布告。これにより、世界大戦が始まったのが半年前の話だ。

 勇者とその知識を持った教国とエスニア帝国からなる『同盟』は圧倒的な強さを誇り、グランド帝国、ワイル帝国、マリア王国、ルーシャ帝国、スマル・トゥードからなる『連合』は負けを重ねている。

 グランド帝国の大陸領は全て失落し、南大陸のグランド領は東はスエ運河まで押し込まれ、西はロッコーを切り取られた。

 ワイル帝国は南部はナウド川の絶対防衛線まで落とされ、西はライン川西岸のラインランドの工業地帯を占領された。もし、ナウド川の絶対防衛線を落とされれば、ワイル帝国は国内第二の工業地帯を失い、戦う力を無くすだろう。

 我らがマリア王国は、その南側、ブルー地域を落とされスマル・トゥードとの連携を取れなくなった。同時に教国は暗闇海へアクセス出来るようになり、暗黒海周辺は酷く荒らされるようになった。

 スマル・トゥードはポリス地域を失い、ビサンチンにて絶望的な市街戦を繰り広げているものの、中央海の覇権は既に同盟が握っているため、陥落は間近だと噂されている。

 大陸はあちらこちらが滅茶苦茶に荒らされ、連合は負け続けなせいで、マリア王国に至っては私のような学生すら動員される末期戦だ。私自身は、地竜騎士の家系だったので、それを継ぐべく訓練を重ねていたからマシだが、同期なんて家計を助けるために文官になりたかったものがほとんどだ。


(また会えるといいな……)

 同期がほとんど死んでしまっているのは何となく分かっている。だけれど、砲火の中、そう祈らずにはいられなかった。

 だが、祈っている暇はすぐに無くなった。

「『航空猟兵』より連絡! 敵戦車部隊の接近を確認! その後ろには歩兵もいる!」

 私しか残っていない地竜騎士隊の掩体壕に、通信兵が怒鳴り込んで来た。

「敵の航空猟兵は!?」

 砲火にかき消されないように怒鳴って尋ねる。

「排除出来ず!」

 つまり、航空優勢が取れていないのか。今出れば、この壕の場所は割れ、次の砲撃で集中砲火を浴びるだろう。だけれど、今出なければ前線は突破される。いや、もしかしたら、私が出たところで突破されるかもしれない。

「騎士アンナ出る!」

 ガイアの背中にうつ伏せに寝そべった体勢から、少し体を浮かせ上半身は寝かせたまま鞍に跨がり通信兵に敬礼。両足でガイアの横腹を蹴ってゆっくり前進し、通信兵が敬礼を返して来たのを確認して敬礼を止め、右手で手綱を持ち左手で鞍にしっかり捕まる。

 掩体壕から出る寸前に【障壁】を張り、壕を出た瞬間ガイアの横腹を強く蹴って速度を出す。砲弾が降り注ぐ中、手綱を引いてUターンして前線の方を向き、もう一度横腹を強く蹴る。ガイアはそれに答えて加速を続ける。塹壕が潰れている所を通るよう調節し、塹壕を越えた途端、砲火が止み、砂埃を上げて戦車が列を成してやって来るのが目に入った。

 一斉に戦車の砲塔が光ったかと思うと、【障壁】が三枚破られた。斜めにした上に、何層にも重ねておいたのに、次々と戦車の砲で【障壁】が砕けていく。私は刃を食いしばりながら【障壁】を追加して行き、突出している戦車へと突撃する。

 戦車は余程自信があるのか全く避けようとしない。私達は、何重にも【障壁】を張ってそいつにぶつかった。

「はあああああああああ!!」

 勢いを殺さずにぶつかったせいか、【障壁】は八枚も割れた。だが、その甲斐あってか、戦車は前半分程が潰れ、砲に至っては折れてどこかに飛んで行った。そのままの勢いで潰れた戦車を駆け上がり、後ろにいた戦車目がけて跳ぶ。

 余程焦ったのか、こちらに向かってきた砲は一発も当たらず、私達は狙った戦車を踏み潰した。

『グオオオオオオオオ!!』

 戦車の割れた装甲の隙間から赤い液体が噴き出し、ガイアは興奮して吠える。私は止まらないようガイアの横腹を蹴り、左手のこちらに砲塔を向けている戦車に障壁の位置を調節して突撃。履帯の下から持ち上げられた戦車はひっくり返って止まった。

「遠からん者は音に聞け!」

 戦車達が私を包囲しようとしているのが見える。私は、この好機を逃さないよう【拡声】を使って叫ぶ。

「近くば寄って目にも見よ!」

 【障壁】に砲が二発当たり、砕けずに弾いた。

「我こそはマリア王国一の騎士!」

 後ろから近付いていていた戦車を尻尾で殴って凹ませると、丁度いいタイミングでゴインッ、と音が戦場に響いた。

「『地竜騎士』アンナとは私のことなり!」

 さあ。

「手柄が欲しくば掛かって来い!」

 騎士の意地を見せてやる!

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