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第三部  作者: ゆーる
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エト視点本編三話目『決断・前』

最も信頼していたファイサル国王に裏切られたエト。傷ついたエトを保護したのは一層に住む一人の青年だった。第一話はエトと青年との出会いまでの物語。

※ダークファンタジー要素強め


一層→魔術師が大半を占める

二層→人間界

三層→魔界


詳しい設定→ https://tartu-riri.webnode.jp

本編 第三部 〜エト視点 第三話・前〜


『決断・前』


ヒエンが講師の友人とやらと連絡を取りに向かってから、戻って来るまでに然程時間は掛からなかった。ヒエン曰く、ルカの在籍確認の件は承諾してくれたが、詳細は直に会って話す事になったらしい。講義も重なっている為、早くても数時間は掛かるだろうという話だった。


到着を待つ間、仕事を終えたヒビキに棟内を案内して貰った。呼び名は確か“すおう棟”だったか。柱の殆どが黒みを帯びた赤に染められており、それを蘇芳色というらしい。棟の名も併せて付けられたのだと教えてくれた。説明して貰いつつ一緒に歩いて棟内を視て回った。一階建ての木造建築で、正面に大きな門を構えた左右対称の造り。中央には庭園があって、周囲を吹放の回廊が囲っている。建築には明るくないが、どれも王宮とは全く異なる見たことのない造りをしていた。特に驚いたのは棟の外の景色だ。一層は大地全体が水で覆われていると前に聞いた事はあった。けれど実際に目の当たりにすると想像以上の衝撃があった。見渡す限りが地面ではなく水面なのだ。深さはそこそこで違うらしく、移動用の歩道橋がそこかしこに張り巡らせてあるのが見えた。その景色を目にした時、改めて今迄居た世界とは異なる場所に来たのだと再認識させられた。


だだっ広くもない棟内は然程時間も掛からずに一周してしまえた。室内でじっとしていたら考え過ぎてしまうようで、案内してもらった後も暫く棟内を歩いて回った。回廊の柱に凭れて庭園の高い樹木をぼんやり眺めているうちに影は伸び、傾いた光が夕刻を知らせてくる。ゆっくりと流れる時に心も凪いでいくようで、一人静かに息を吐いた。


ふと正門の方から話し声が聞こえて来た。続いて二人分の足音が門の左側、客間の方へと入って行く。ヒエンが言っていた友人なら近いうちに呼ばれるだろう。客間の側まで近寄ってみたが、戸の向こうから聞こえて来た会話に足が止まった。

『急に呼び出して悪いねカストル』

片方はヒエンの声だ。

『いつものことだから気にしてないわ』

カストルと呼ばれた客人が答える。

『それよりもアンタ正気なの?』

『何が?』

『何って、あの坊やの事よ。治療して目が醒めるまではどうせ引かないだろうと思って止めなかったけど、アタシもユラの意見には賛成なのよ。アンタがこれ以上面倒を負う必要なんて無い。そうでしょ?』

壁越しに薄っすら聞き取った台詞だったが、考えずとも話の内容は容易に理解出来た。オレについて話をしているんだ。この先を聞いてしまうのが怖い。そう思いながらも足が床に縫い付けられたようで、宣告を受けるような心地でヒエンの言葉を待った。

『責任を取らずに済んだ昔とは違うのよ。今のアンタはここの棟主。一層と二層との均衡を保つ転移門の管理者。そのアンタが、二層の大半を治めるファイサル王のー』

『カストル。そんな事は関係ない』

ヒエンが強い口調で男の言葉を遮る。

『っ! このままじゃ厄介なファイサル王をも敵に回す事になり兼ねない! 王が此処を突き止めるのも時間の問題。ならいっそ条件でも付けて引き渡した方が穏便に行くでしょ?』

『君だって見ただろ、あの背中の陣を。あれは恐らく、無理矢理刻み付けられた跡だ。なのに君は傷付いて逃げて来た子を引き渡せと言う。冗談でも笑えないよ』

『緋焔・・・私は心配なのよ。竜族を、大きな力を手にするって事がどんなに恐ろしい事か。反発して白夜棟から追い出されたアンタの頑固さも十分知ってる。けどこれ以上危ない橋を渡る必要もないでしょ?』

『君が心配して言ってくれてるんだって事も分かってるさ。でももう決めたんだ。俺はエトを守る。蘇芳棟の皆もきっと受け入れてくれるよ。君だってそうだカストル、何だかんだ言っても最後には折れてくれる』

『はぁ、もう。まったく・・・優しい顔して強引なのは変わらないわ。私の負けよ緋焔、手を貸しましょう』

『はは。頼りにしてるよ親友。エトを呼んで来るね』


緋焔の足音がオレが立つ扉側へと近づいてくる。どうしよう、動けない。固まるオレを余所にガラリと戸が開き、出て来たヒエンと目が合った。

「エト! いつから・・・もしかして聞こえてた?」

「・・・・・」

黙ったままのオレの頭を緋焔の手が優しく撫でる。

「責めてなんかないよ。俺の気持ちが伝わったなら嬉しいんだけど」

「・・・迷惑は掛けたくない」

「迷惑なものか。少々頼りないかもしれないけど、君のことを守りたいと思った。それじゃ不足かな?」

この男の考えていることが何一つ分からない。物好きにしては行き過ぎている。カストルという男の言う通りオレを側に置く事で負うリスクの大きさは目に見えてるというのに。

「勿論君の気持ちが最優先だ。ゆっくり考えてくれていいんだよ」

ヒエンは少し屈み、俯くオレの肩に手を置き言った。この男の真っ直ぐな瞳と言葉に絆されそうになる。何事も無いかの如く、人の警戒網に容易く踏み込んで来る。信頼していた人に裏切られたばかりだというのに、この男を信じたいと、そう思ってしまう。けれど与えられた選択に今はまだ答える訳にはいかない。そう自らに言い聞かせ、揺らぐ心に目を瞑った。


少しして、緋焔はオレを客間の中へ案内した。ソファーに腰掛けた金髪の男がこちらに気付き顔を上げる。高いヒールの赤い靴に真っ白な白衣。肩程ある金髪と垂れ目気味の碧眼。濃い目の化粧を施したでかい男に対する第一印象は“派手”だった。

「目が覚めたって聞いて安心したわ。私はカストル・セレス、緋焔とは古くからの友人なの。学校では治癒魔法を教えているわ。よろしくエト」

「よろしく。あんたがオレのこと診てくれたって聞いた。感謝する」

差し出された大きな手を握り返す。

「話は大方聞いたかも知れないけれど、結論から言って私は協力する事にしたわ。だからそんなに警戒しないで頂戴」

警戒しているというのは否定できないが、言われる程ぎこちなかったろうか。無意識にも体に力が入っているのかもしれない。

「無理もないさ。さ、本題に移ろう」

「電話の件、粗方調べはつけて来たわ。ルカという生徒は確かに在籍中よ」

そう言って顔写真付きの書類をヒエンへと手渡した。間違いない、ルカだ。オレに確認を仰いだヒエンへと頷いて答える。

「優秀な生徒よ。進級試験では飛び級並の高成績を残してた。にも関わらず、自分の満足行く結果じゃ無かったって理由で通常通り二年生へ進級してる。本校始まって以来の逸材っていう噂も飛び交ってるみたい。私が知らなかったってだけで、一部の間じゃ軽い有名人だったわよ」

「へぇ凄いな。それにしても、君は相変わらず仕事が早くて助かる」

「褒めても何も出やしないよ。それに、私が無償で引き受けるのは相手がアンタの時だけよ緋焔。ま、担当する学年は違うけど、私も興味が湧いて来たし、なんとか会って話してみるわ」


そう言って帰って行ったカストルを見送った翌日には、早くもルカと話す事が出来たとヒエンの元に報告が入った。ルカへと無事、オレが訳あって一層に滞在していること、そして面会を希望したのはオレ自身であることを伝えてくれたようだ。始めは外出の範囲が校外ではなく国外になるため、会える見込みは薄いという話だったが、その日の夕方頃にはルカが直接校長に頼み込み特例として認めさせた事を知った。しかし書類上の面倒な手続きは避けられないらしく、もう数日はかかるとカストルを通じ連絡があった。


一方、毎夜魘され夜中何度も目を覚ましてしまうオレを見兼ねてか、ヒビキからの提案によりオレは彼女の私室で共寝するようになった。傍で温もりを共有していると、不思議と落ち着いて眠れるようになった。

Twitter→ @EtoRuka7


[次話予告]

緋焔に保護されているエトは彼の協力のもと、双子の兄妹ルカとの再会を果たす。悩んだ末にエトが導き出した己の居場所とは。

次話 『決断・後』

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