第三十六話 裏切りの結末
「はぁーはぁーはぁーはぁーはぁー」
俺は今最上階の五層を目指し全速力で走っている。
リーナたちと別れ、四層に来た俺は次々と敵を倒していた。
四層は強敵などはおらず、軽々と先へ進めたのだが、全て見て回っても五層への階段が見当たらなかった。
「どこにあるんだよー!」
俺の声は洞窟全体に響き渡った。
立ち止まってはいられない。こうしている間にもエリシアやアリシャが危ない目にあっているかもしれないんだ!
もう一度、四層を回ろうと足を踏み出した時、洞窟全体に響き渡る足跡が聞こえた。その足跡は獣などの類ではなく人のしかもハイヒールのようなコツコツとした音だった。
「あらあら、ようやく来たようね」
暗い洞窟の中姿を現したのは、紫髪で紫目。だが、どこか闇を持っているかのような美少女だ。
黒コートを身に纏い不敵な笑みを浮かべる少女はフードを外す。
左目の下には赤く光る紋章が刻みつけてあった。
それは貧民街で見たことのあった紋章と似ている。
「誰だ!」
俺は警戒して鋼の剣を前へ携える。女を切りたくはないが、この女からは不穏な空気が漂い、身の危険を感じる。
「私!私だよ!わからないの?」
少女は首をひねり、あたかも俺がこの女を知っているかのような様子だ。
待てよ...まさか...
「いや、あり得ない...」
そんなことないのだ。今まで一緒にいて、一緒に冒険してきた仲間がこんな姿になっていることは。
「あり得るわ」
俺の言葉にすぐさま返答があった。
「エリシア...何故ここに?」
赤髪、赤目が変化して紫髪、紫目に変わっていた。やはり最上階で何かあったのか?
「私、リューク様にお仕えすることになったの。この身は全てリューク様の物。だがら竜二を殺せと命じられればそれに従うまで。死んでもらうは竜二」
エリシアは目を見開き殺意を漲らせる。
「は?ま、待ってくれ...。意味がわからない。リューク様?俺を殺す?嘘だよなエリシア!嘘だと言えよ!!!」
「全部本当よ。死になさい竜二!」
エリシアは右手を伸ばし、目を瞑る。
手の中には次々とマナが集まり、増幅していく。
「ちょっと、、、ちょっと待てって!アリシャはどうした!一緒にいたんだろ?」
ルナはエリシアとアリシャが一緒にいると言った。だがら一緒にいるんだったらアリシャもエリシアの様に変わってしまったのかもしれない。俺はそんな危機感を覚えた。
「あの子は...。あなたに話す必要はないわ!死ねーーーーー!!!デス・ボール!!!」
エリシアの右手に集まった黒色の巨大な球は洞窟の穴めいいっぱいまで膨れ上がり、そのまま俺に向けて放たれた。
エリシアがこんな強力な技が使える訳がない!何か理由があるはずだ!俺の右手にはめられている魔法反射の指輪も何故か効かないようだ。
リュークーーー。
リュークだな。
エリシアを変えたのはリュークって奴に違いない。
リュークを殺してやりたい。でもそんなにも俺に敵意を見せるエリシアを見るととても胸が痛く。悲しい。
「我、古の竜に授かりし、地母神よ。俺の力となり守り抜け!シールドガード!!!」
俺は手を広げ、紫色のシールドを貼る。
エリシアの攻撃と俺のシールドが衝突し、猛烈な衝撃波や突風が吹き起こる。
髪が揺れ、今にも吹き飛ばれそうなくらい強力だ。
俺の足が徐々に後ろへと後退していく。シールドも薄れ、今すぐにでも破れそうだ。
俺は守るしか出来ない。仲間を傷つけるなんてそんなこと出来ない。
そんな俺はひたすら我慢するしかなかった。
「これは流石にやばいかもしれないな」
「私にもう敵などいない。例え竜二が敵だって負けない!」
エリシアがそう言うと、さらに黒い球の勢いが増した。さらに後ろへと押されていく。
「うぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
とうとうシールドが破壊されエリシアの攻撃を直接受けた。俺に当たると凄まじい爆発が起き、洞窟全体に煙が広がる。
下半身が全てなくなり、痛みももはや感じない。
その時、視界が赤くなった。
(筋力上昇、攻撃力上昇、防御力上昇、レベルマックスに跳ね上げ、回避力上昇、魔力上昇、瞬発力上昇、命中力上昇、回避力上昇、マジックポイント全回復、ヒットポイント全回復、全パラメータ上昇、これらを承認しますか?)
シャークの時と同様に頭に直接声が響いた。
ー決まってる。承認するぜ。
爆発の影響でなくなった下半身が元に戻り、全ての傷が治っていく。
煙が収まり、二人は顔を合わせる。
「この程度ではやはり効かないみたいね。素直に凄いわ。でも私だって本を読んで力を手に入れたのよ。決して負ける訳がない」
「まさかその本って禁書か?」
「あら、竜二も知っていたんだ。リューク様ってやっぱり凄いわ!なんでも持っているもの。魔王の力にひれ伏しなさい!」
「リュークは俺が殺す。だからそんな奴ほっとけよ!なんでそんなにリュークって奴のことを...」
「リューク様を悪く言うのは許さない!」
ダメだ...。胸が今にもはち切れそう。殺意がさらに跳ね上がった。そこまで言うなら、少しでもエリシアの願いに応えるか。
「エリシア、俺...。エリシアと冒険出来て良かった。一人の時とパーティー組もうと誘ってくれて嬉しかった。この世界に来て、良かったと少しでも思えたんだ。エリシアがこの俺を殺したいなら構わない。今まで一緒に居てくれてありがとな」
俺は鋼の剣を地面に落とし、両手を広げた。
まだ心残りはたくさんある。だけどエリシアが俺を殺したいなら受け入れる。正直もう疲れた...。ここまで来たのにエリシアが敵で俺を殺そうとしてる。リュークの命令だとしても耐えられそうにない。
ごめんリア...ごめん理沙...。そしてアリシャ、エリシアありがとう。ティアも助けられてなくてすまない。
俺は目を瞑り、その時を待つ。
エリシアは左腰に携えていた剣を取り振り上げる。
「私もパーティーに誘ってごめんね。冒険楽しかったわ。じゃあね竜二...」
エリシアは涙を浮かべ、そして剣を振り下ろした。
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