第三十四話 螺旋迷宮ギルディア〜ケルベロスとの一戦②〜
「イナちゃん!アリーシアちゃん!どうしたの?そんな形相で」
今まさに三層へと向かっているリーナはギル、ノーラを連れて、向かいから走って来るイナとアリーシアに声をかけた。
そして、アリーシアの腕の中には意識がないイナが眠っていた。
「リーナ!!助けて!今ヴァイスが!ヴァイスが!ヴァイスが...!」
荒い呼吸をし、今にも呼吸困難で倒れそうなアリーシアは必死にリーナに訴えかける。
リーナは優しくアリーシアの背中を撫でて安心させると、表情を一変させ、真剣な面差しへと変化する。
「ちょっっと落ち着いてアリーシアちゃん。ヴァイスがどうしたっていうの?」
「ヴァイスが今A級モンスターケルベロスと戦っているの!だから助けて!」
「な、何!?A級だと!ヴァイスじゃ無理に決まっているぜ。俺たちでも危ない。早く案内しろアリーシア!」
ギルの表情が変わり、強い口調でアリーシアに指示する。
「だな!ヴァイス死んでないと良いが...」
ノーラも横から口を挟む。
「わかったわ!私たちもすぐに行って応戦しましょう。それとイナは?」
「大丈夫。眠っているだけだから」
リーナはアリーシアの言葉を聞くと、腕の中に眠っているイナを見つめながら口元を綻ばせる。
「そう、なら良かった。ギル、ノーラ行くわよ!」
「待って!リーナ!私も!」
アリーシアは走り出そうとしていたリーナを引き止める。
「ダメだ!イナはどうするの!早くギルドホームに連れてきなさい!」
「でも!」
「今のアリーシアじゃ、正直言って足手まといだわ」
「そう。ヴァイスを必ず。お願い...」
アリーシアは少し悲しそうな表情を見せるが、リーナたちにヴァイスを託すことを決め、強く覚悟した表情で言った。
「任せなさい!舐めんじゃないよこの私を!」
胸に手をやり、微笑みかける。
「うん!!!」
アリーシアは勢いある返事をし、三人の背中を見送った。
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ーー早く、早く、早く、早く、早く。
リーナは胸の奥でそう思いながら走り続けている。多分ギルやノーラも同じことを思って走っているのだろう。
後少しで三層への階段だ。
階段が見えると、リーナ、ギル、ノーラは全速力で駆け寄った。
三層の階段は螺旋のように円状に続く階段へとなっている。
「後はこの階段を登るだけだな」
ギルがそう言うと、ギルに続き、リーナ、ノーラもすぐさま駆け上る。
荒い呼吸の三人はさらに呼吸が激しくなる。
約5分ほどぐるぐると目まぐるしい階段を全速力で駆け上った三人はようやく明るく光る三層への入り口を視界に入れた。
三層の入り口からギル、リーナ、ノーラと続いて三層へと入ると、その三人とも驚愕し、口をおさえる。
三人が見た光景は壁一帯が血で赤く、ケルベロスが今まさに人を上半身から徐々に食べているところだった。地面には首を裂かれ、頭だけとなったヴァイスと一本の剣が落ちていた。
「そ、そんな...。ヴァイス...」
溢れんばかりの涙を流しながらリーナはケルベロスに立ち向かう。
「貴様!!!よくもヴァイスをーーーー!!!」
怒りをあらわにし、ギルはケルベロスに向かって大剣を携える。
「ヴァイス、、、。殺す!殺す!許さない!死ねーーー!!!」
ノーラもまた短剣を持ち、殺意をみなぎらせ、ケルベロスに向かっていく。
三人が同時に走り出し、上半身を食べ尽くし次は下半身を食べようとしているケルベロスに大剣、手、短剣、それぞれ振りかざす。
「我古の竜なり、御身の力たる所以今解放せ!エレキテル・バニッシュソード!!」
ギルが唱えた瞬間、剣の先から眩しいほどの雷がケルベロス目掛けて、放出された。
「わが身に司る精霊よ。余のため力を与え給え!グリーン・モンスター!!」
リーナの右手に緑色のエフェクトが現れた。
リーナはピッチャーのごとく、左足を高く上げ、ためを作り、左足を思い切り踏み出した。
すると、ヒグマの幻影が現れ、そのままケルベロスに牙を立てながら突っ込んでいった。
「我、汝の願い叶えたまえ、永久の眠りの中、力をお貸しください!フラワー・スラッシュ!!」
ノーラの持つ短剣が一瞬花の形になったような幻覚をもたらす。その幻覚の花が成長していき、長さ2メートルくらいの高さまで跳ね上がり、ノーラは剣を振り下ろす。
三人の攻撃が合わさり、赤、黄、緑の色が融合していく。衝撃波が一つとなり、ケルベロスに向けて、迫りいく。
「いけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「いけーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー!!!」
「いけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
三人揃って、声を発すると少しだけ威力が強まった気がした。増幅する三人の攻撃が徐々に徐々にと近づき、ついにその攻撃がケルベロスにあたった。
強烈な破壊音と共に洞窟全体が煙に包まれる。
「死んだか...」
ギルが発した言葉とは裏腹に数秒後、姿を出したのは無傷のケルベロスだった。
「マジかよ。俺たちの全力の攻撃が無傷だったなんて!」
「ギル、私逃げても良いか?」
自分たちの無力さを感じてかノーラがギルに対し言う。それにギルは声を震わせ返答する。
「逃げたきゃ逃げろ!俺には仲間を殺した奴を見逃すことは出来ない」
焦りはあるもののギルの闘志はまだ健在だ。
「私もよ!ギルドリーダーとしては仲間を置いて帰ることは出来ないわ!」
リーナもギルにつられてか闘志を燃やす。
「ふんっ!今のは軽い冗談よ。やるに決まっているが!」
ノーラが言葉を発するとギル、リーナは口元を綻ばせる。
「俺たちは諦めない!必ず倒してやる!」
「その通りよ!勝つわ!」
ギルの言葉を聞き、リーナも言葉は発する。
「こいつを倒して、勇者にでもなろうか!」
ノーラはケルベロス倒して、その豊富な経験値で勇者に職業変更したいと願望を告げる。
「待てノーラ。俺も勇者になる!」
ノーラに便乗して、ギルも乗っかる。
「そうね私はパラディンにもなろうかしら」
各々の願望を言葉にし、三人はケルベロスを睨みつけた。その刹那、ケルベロスは鼓膜が破れそうなほどの咆哮を上げる。
だが、三人はケルベロスの咆哮に臆することなく、足を踏んばり、立ち続ける。
咆哮が止むと、ケルベロスは三つの頭から青い炎を口の中で増幅させる。
「リーナ、ノーラ!強力な攻撃が来る前に全力で仕留めるぞ!」
ギルの指示を受け、リーナ、ノーラとギルはケルベロスに向けて走り出す。左端にいるリーナと右端にいるノーラは横の壁を重力に反して走り、ギルは真正面から向かう。
だが、三人がケルベロスの三つの頭を切り落とそうと大剣、手、短剣を振り下ろした時、青い炎は口いっぱいまで膨れ上がり、放出した。
巨大な音と共に、青い炎はレーザーのごとく三人を後方まで仰け反りさせ、そして焼き尽くした。
「くっっっ、うぅ」
リーナ、ギル、ノーラは倒れながらもなんとか意識はある状態だ。三人とも肌が黒く、口からは多量の血も吐き出している。指を動かすのがやっとで、それ以外はピクリとも動かない。
「私たち...死んじゃうのかな?」
リーナは問いかける。それが自分に対してか二人に対してかはリーナ自身さえよく分からなかった。
「死ぬ時は...諦めた時だ...俺はまだ諦めてない...」
ギルは必死になって体を動かそうと試みるが、失敗に終わる。
「あぁ...部屋に帰りたかったな...」
ノーラが泣きながら遠くを見る。
「だから...言ってるだろ...俺たちは死なねー...」
「何言ってるの...こんな絶望的な状況で...もう私たちは助からないのよ...」
「最後にみんなに会いたかったな...でも...リーナ姉やギルと一緒に死ねる...のだから幸福であっても...不幸ではない...かな」
ギル、リーナ、ノーラは仰向けになりながら天井を見続けている。絞り出す言葉一つ一つが儚く、今すぐにでもくたばってしまうほど弱々しい。
「最後に言う...私...ギルの...こと...」
ノーラの最後の言葉はケルベロスが三人の顔の目の前に姿を現したことにより遮られた。
鋭い牙からはマグマのように熱いよだれが落ち続けている。
「ぐっっっ!絶対殺す!!!お前なんか!殺して...」
ギルが最後まで言おうとしたその瞬間、ケルベロスの三つの頭のうちの真ん中の頭がギルの顔面目掛けて振り下ろされた。
ーーー先に行くぜ...じゃあなリーナ、そしてノーラ...。
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