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第三十三話 螺旋迷宮ギルディア〜ケルベロスとの一戦〜


「助けて...」



誰かの切実な声が頭に響いた気がする。

その声はどこか儚げで甘く、興味を注がれた。


俺は大きな中央広場を抜け、ひときわ暗い貧民街を走り去ろうとしていた。

ルナのお陰で体の方は元どおりになり、体を自由に動かせる解放感を感じている。

走り抜ける涼しい風が当たり、気持ちよくも感じていた。

顔を上げ螺旋迷宮ギルディアを目指していた俺は向かい側から走ってくる一人の少女に気づかなかった。



「いっっっ...」



幼げな少女は俺の足に体をぶつけ、地面に横たわっている。



「ごめん。怪我はしてないか?」



急いでいて周りを見ていなかった俺はその申し訳なさを胸に膨らませ幼げな少女に歩み寄る。



「大丈夫...です...」



その少女は泥汚れが酷く、服や紙袋から転げ落ちている野菜も汚れていて、食べるには抵抗がいるだろう。赤髪ショート、赤目顔立ちはとっても可愛く見え、整っている。


少女は俺の顔を一瞥すると転げ落ちている野菜を紙袋に入れ、颯爽と立ち上がった。



「ちょっと待ってくれ。道聞きたいんだが、この先が螺旋迷宮ギルディアであってるよな?」



「えーと...その..あってると思います...」



突然道を聞かれ戸惑っている少女の表情はとても暗い。



「そうか!ありがとな」



俺は少女から目を離そうとした時、少女の左手に何やら赤く光る紋章が書いてあることに気付き、走り去る少女に声をかける。



「待ってくれー!」



大声を出し、少女を引き止める。



「な、何ですか...?」



「君の左手の紋章。それはなんだ?」



放っておいてもいいことだが、妙に気になり少女に問う。



「これは...なんでもありません!!!」



そのまま少女は貧民街の暗闇に消えていった。



「行ってしまったか...しょうがない早く助けに行こう」



俺は地面を一層強く蹴り、貧民街の先にあるギルディアを目指して再び走り出した。


猛スピードで走った結果五分程でギルディアの高くそびえ立つダンジョンの前に来ていた。


俺は一つ深呼吸をし、ギルディアへと足を踏み入れる。

洞窟の中は肌寒く、暗い。光っている花らしきものがあるお陰で前へ進めるのが唯一の救いだ。

歩みを止めるわけには行かなく、走り続ける。

だが、一層、二層と上がっているが、たった一体とも敵に出会さない。

これは無事にリーナたちが生きている証拠だ、このまま敵と出会さなければいいが・・・。

このまま進んでいくと、周りが氷の結晶で出来ている空間に来た。中は一層寒く、凍えが治らない。

この空間の中心には氷が削れ、戦闘でもあったかのような跡が刻み付いていた。



「かなり激しい戦闘があったんだな。怪我がなければいいが」



切実な思いを胸に俺はその先の三層への階段を登る。

道中、誰かとすれ違った気がしたが気のせいだろう。


三層は比較的明るく天井まで花が咲いていた。



……………………………………………………………………



「ここが三層だ。まぁー余裕だけどな」



ヴァイス、イナ、アリーシアは三層へと足を入れていた。



「そうね。ここは私たちのレベル。二層からが挑戦」



アリーシアは冷静に現在の状況を告げる。



「ごちゃごちゃ言ってないでいくであります!」



三層に上がり洞窟が明るいせいか、より一層イナの表情が明るく元気に見える。



「なんか、イナのキャラ変わってない!?まぁその通りだが。そうだな進もうぜ」



「イナ足りない?」



アリーシアはイナに両手を広げる。



「十分であります。だからぐずぐずしないでいくでありますよアリーシア」



「キャラ変。悲しい...」



イナは悲しい顔をし、落ち込む。



「ドォーン!!!ドォーン!!!ドォーン!!!」



急に大きな足音が三層の洞窟に響き渡る。



「何か来るな。二人は後方支援。俺は前方で向かい打つ」



「了解!」



「了解であります!」



二人は威勢のいい声を上げ、ヴァイスの指示に従う。アリーシアは杖を掲げ、イナは手を前に出す。

ヴァイスは左腰の鞘から剣を引き抜き構える。


三秒後、大きな足音の主が姿を現した。

頭が三つある大きな犬、これはケルベロスというものだろう。洞窟の天井すれすれのところまで背があり、鋭い牙をむき出して赤い目をこちらに向けている。



「え、、、なんで、、、Aランク級モンスターが三層に...」



アリーシアは手を口に当て、恐怖で足が震えている。



「イナ!アリーシア!意識を強く持て!!!こんなところで俺たちは死ぬわけには行かないだろ!勝つんだ!」



「で、でもこんな事ってありなの?私たちはもう...死...」



最後まで言葉を紡ぐことを許さなく、ヴァイスは横から口を出す。



「そこまで言うな!俺たちは生き抜いて、ギル達に胸を張るんだ!だから立ち向かえ!イナ、アリーシア!」



「うん!」



「...」



「イナ?イナ?イナ!!!イナ!!!」



「ん...っっ」



口を押さえて、驚きを露わにしている。大量の汗、目からは大粒の涙が止まらない。 恐怖が勝り、声が出ないのだろう。



「た、助けて...あります...」



横の壁にうずくまり、息が詰まりそうな声を口にする。



「お前は下がってろ!無理ならしょうがない。ヤるぞアリーシア!」



ヴァイスは一目イナを見ると、無理だと判断し、アリーシアと戦うことを決める。



「うん!」



ヴァイスとイナはケルベロスに立ち向かう。

ケルベロスは赤目を迸りながら突進をしてくる。



「くらえーーーーーーーーーーーー!!!」



ヴァイスは剣を携え、ケルベロスに向かって斬りかかる。

ケルベロスの勢いが止まらず端に弾き飛ばれてしまう。このままではアリーシアやイナに突撃してしまう。



「だから、待てよ!!!!!!」



ヴァイスはすぐさま立て直し、ケルベロスの正面に姿を現わす。ヴァイスはそのまま剣を突き立て、腹目掛けて走り出す。ケルベロスのスピードの衝撃が体中に迸り、刺さった剣を持ちながら後ろ後ろへと押され込まれる。

だが、ケルベロスの三つの頭がヴァイスに降りかかろうとしたその時、アリーシアが杖を振り、唱えた。



「精霊様にお願いもうす。光の加護今ここで解放せ!シャイニング・リングフラーワー!!」



杖の先に光が集まり、徐々に玉となって生成されてゆく。それが一定の大きさまでになると、杖を振りかざし、ケルベロスの頭目掛けて振り下ろされる。



「死ねーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



アリーシアが声を荒げ、ケルベロスの頭に光の玉が直撃する。


ケルベロスはヴァイスへの攻撃をやめ、頭を上げて声を上げる。



「キューーーゥー!」



突進のスピードは徐々に弱まり、止まった。


その隙をヴァイスは見逃さなかった。



「剣にまといし精霊よ、今我の糧となり力を捧げ!!アイス・ブレイク!!」



押し込んだ剣から冷たい蒸気が発し、そこから凍っていく。氷が広がり、ケルベロス全体を包み込んだ。そのまま動きが停止した。



「良し!!!倒したぞ!やったなアリーシア!」



「うん!B級よりもっと凄いA級を倒しちゃった。一安心」



「な?イナ。気持ちを弱く持つと人はそれまでだ。だから気持ちは強く持て!その結果だよ。これは!」



「っっっんんん!!ん!?」



「どうしたんだよイナ。そこは喜ぶところだろ!」



イナは指を指し、必死になって訴えているので俺は振り返る、と...ケルベロスは氷の中で体を動かしていた。そして、だんだんと氷にひびが入っていく。



「なんで、まだくたばってないんだよ!このままじゃ、また振り出しだ。アリーシア今のうち畳み掛けるぞ!」



ヴァイスとアリーシアはケルベロスに向かって走り出す。



「剣にまといし精霊よ、今我の糧となり力を捧げ!!アイス・ブレイクソード!!」



「精霊様にお願いもうす。光の加護今ここで解放せ!シャイニング・リングフラーワー!!」



二人の技が組み合わさり、強烈な一つの衝撃波となってケルベロスに向かう。

その衝撃波がひび割れた氷をぶち破り、ケルベロスに真正面から当たった。



「やったか」



「これでお終い」



だが、煙の中姿を現したのは無傷のケルベロスだった。



「ぐっっ、そんな」



「どうしよう」



二人の全力を食らわしたはずが、その攻撃が無駄だったことにヴァイスとアリーシアは絶望感を隠せない。



「もう...ダメで...あります」



震えが止まらないイナは立ち上がることさえ、逃げることさえ出来そうになさそうだ。



「アリーシア!!イナを連れて逃げろ!!ここは俺に任せて早く下の層に!」



「そんな...ヴァイスを置いてなんて...出来ない」



「うるせぇー!!早くしろ!だったらイナはどうなるんだよ!俺はイナを守りながら戦うなんて、そんな器用じゃねぇーんだ!だからお前はイナを連れて早く逃げろ!こいつを倒したらすぐ行くから安心しろ!」



「わ、わかった!信じる!ヴァイス絶対帰ってきてね!」



「当たり前だーーーーーーーーーーーーー!!」



「待ってる!」



ヴァイスと言葉を交わし、アリーシアはイナを抱えて下の層の階段へと降りていった。



「これで良いんだ。俺が死ねば多少の時間は稼げる。なんとか逃げろよなアリーシア、イナ」



そう独り言を口にして、ヴァイスは殺意をみなぎらせ、ケルベロスに向かっていく。



「ごとん」



この音は誰にも聞かれることもなかった。



その後、ケルベロスはアタかたもなく全てを喰らい尽くした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※お読みいただきありがとうございます。不明な点や不思議な点、率直な感想など頂けたら嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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