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第三十一話 螺旋迷宮ギルディア③〜リーナ視点〜


「はぁーはぁーはぁーはぁー」



そう息を切らして走るのはリーナス、ノーラ、ギルの三人だ。街の大通りを颯爽と走り抜き、中央通りの屋台が並ぶ一歩道を通り、道行く人に今日はどんなモンスターを倒すのかと聞かれたりして、三人は貧民街の更に奥にある洞窟の入り口に来ていた。



「つ、疲れたぜ」



地面に膝をつき息を切らすギルはその場にねっ転がった。



「ギ、ギル!今は一刻を争うの!は、早く立ちなよ!」



リーナスも膝に手をつき、俯いたまま荒い呼吸を整えていた。



「ギルよ。この程度で疲れていたらまだまだひよっこだな。私よ見よ!このピンピンとした立ち住まいよ!っっはっー」



立った姿のまま荒い呼吸をするノーラはギルに向かって挑発する。



「ノーラ。汗が尋常じゃない程かいてるし、それに上を向きながら呼吸しなくてもバレてるぜ!お前もまだひよっこだな」



ギルもねっ転がってはいるものの、ノーラを見上げその挑発に乗る。



「ふん、ギル!」



ギルの言葉にノーラはイラっときたのか足を高く上げ、ギルの腹に向かって振り下ろす。



「イッッテーーーーー!何すんだよノーラ!」



ギルはノーラの一撃を受け、腹を抑えてもがいて踞る。



「いや、少々腹が立ったので、ついやってしまった」



俺を見下ろし、腰に手を当ててキメ顔するノーラが腹立たしい。



「腹が立ったぐらいで、みぞおちに蹴りとは非常識にもほどがあるぜ!ついやってしまったでは済まねぇーぞ!この引きこもりが!」



「き、聞きづてならない。この私が引きこもりだと言うのかー?私はちゃんとモンスターも倒しているし、外に出ているだろ!このトサカ頭が!」



「はっ、それは俺たちとダンジョンに潜る時だけだろ!それ以外は食事も作戦会議もろくに出ず、それに加えてトイレまで部屋から出ないだろうが!後トサカ頭はやめろ!」



「それらは必要のないことだし、私は部屋が好きなんだー」



「そうかよ。全くやばい奴だぜ。呆れてもう何も言い返せねぇーよ!ってかお前、トイレどうやっていんるんだ?」



俺は腹の痛みと息が整ったのを確認するとゆっくりと立ち上がる。



「淑女になんて無礼なことを!!お、教えるわけがないだろうが!この変態!」



「お前のどこに淑女らしさがあるんだよ!俺はただ興味本位で聞いただけで下心とかあるわけねぇーだろ!この自意識過剰っ子が!お前に魅力を感じたことは一切際ねぇーし」



「な、なんだと!この私に魅力を感じないとか、目が腐っている!お前なんかこのダンジョンで野垂れ死ねば良いのだ!トサカ!トサカ!トサカ!」



二人は睨み合い、声を荒げる。このあたりは人通りが少なく滅多には人は来ないので多少の大声は迷惑にはならない。



「ノーラにはこのヘヤースタイルの格好良さが分からないのだな。お前の目が腐っているんだよ」



ギルはお気に入りのトサカ頭をかきあげる。



「ギルは彼女出来たことないだろ」



「な、何故それを...」



ギルはノーラに痛いところを突かれ驚愕の表情に変わる。



「それが物語っているのだー!このトサカ頭やろうが!」



「リーナこいつぶん殴ってもいいか?」



今まで二人の様子を怒りの形相で眺めていたリーナスにギルは尋ねた。



「はぁー。ダメに決まってるでしょ!二人とも変なことで揉めてないで早く行くわよ!私たちだって覚悟して挑まなければ死んでしまうわよ」



「ちっえー、後できっちりとこの落とし前はつけるから覚えていろよノーラ!」



「ギルに出来るならやってみな!」



「二人とも仲良いのはわかったが、その辺でやめてもらえるかな?かな?」



「ひぃーーー。わ、わかったぜ。落ち着けよリーナ。それとこいつとは仲良くない!」



リーナスの形相に二人とも怯え、言葉を飲む。



「わ、わかったノーラ姉。しょうがないから身を引いてやる。それとこいつとは仲良くない!」



「ギル、ノーラ...わかったなら良い。では入るぞ」



仲のいい二人に合図を送るとリーナスは20メートルはあろうかという扉に両手をかけ、強く押す。その中は暗闇に覆われていたが、そこかしこで灯火の赤花があるのが唯一の救いだ。



「鳥肌が立ってきたぜ。ワクワクが治らねぇー」



ギルは暗闇の洞窟を見つめながら興奮した様子で、そう言う。



「私も楽しみ。皆行くぞ!」



ノーラが呼びかけ、俺たちは前へ進むのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さっきから全然敵と遭遇しないな」



洞窟をしばらく歩いているとふとギルが言葉を発した。

今俺たち三人が居るのは周り一面が氷で出来ており、花や草、岩、石まで氷になっていた。

俺たちはバックの中から各々コートを取り出し、それを着て、とてつもない寒さをしのぐ。

鼻水が出るとすぐさま氷になるほどの永久凍土だ。

しかし、この地帯は氷からなる結晶などが辺りを照らし神秘的な美しさも醸し出している。



「あぁ、でも安心している。敵に遭遇しないってことはあいつらが先に倒していったってことではないか」



凍えながらそう言うノーラは鼻水を垂らしているがそれが凍ってしまっていた。



「そうだな。もし倒し残しがあってもこの私が瞬殺するがな」



「毎回、モンスターと遭遇しても一番怯えているくせによく言うぜ。そこまで虚言を吐けるなんて、ある意味尊敬するぞ!」



「違うから!虚言じゃないから!それは警戒してのこと。何事も慎重に行うというのが私はモットーなのだ!」



「はいはい。つまらん言い訳はいいから、それでリーナ、これは囲まれているな」



氷の壁には所々、人一人がギリギリ通れるほど穴が無数にある。その中から嫌な視線が俺たちに注がれている。



「そうね。これは少しやばいかもしれない。数は20...いや30程いるわね」



「30!?そんなに多い敵をたった三人で倒すというのか、死を覚悟してなければいけなそう」



「まぁ、こんなとこで弱腰になってちゃ話にならねぇーぞ!ノーラ。俺たちは勝つんだよ。弱気になるな。気持ちで負けてたら勝てるもんも勝てなくなるんだよ!」



「ふん。私がいつ弱気になった、でもギルの割には良いこと言うではないか。たまにはだけどな」



「たまにはってのが一言余計だな。でも、もうそんな話ししてる場合じゃなくなったな」



「ゴブリンの群れか。Dランク指定モンスターでもこの数は少々危険だが、私たちならヤレる。勝つぞ!」



「おうよ!俺たちはあいつらを引き戻しにやってきたんだ。こんな所で立ち止まるわけにはいけねぇーぜ」



「倒して、早く自分の部屋に帰りたい...」



ノーラが切実な願いを口にすると、周りにはゴブリンが円を囲むようにして佇んでいた。右手にはぼろぼろの剣だが数は32体と数は多い。

ゴブリンはよだれを垂らし、俺たちを睨みつけている。警戒しているのかなかなか攻撃してこない。



「警戒してるな」



「そうだな。ならこちらから行くしかない!皆行くぞ!!」



リーナスの掛け声がかかるや否やギルが大剣を肩に背負い、ゴブリンの群れに向け飛び込む。

すると、その勢いと共にゴブリン一匹は血を吹き上げ倒せたものの、他のゴブリンが俺に剣を突き出しながら走り出してくる。

俺は即座に姿勢を整え、詠唱する。



「我古の竜なり、御身の力たる所以今解放せ!エレキテル・バニッシュソード!!」



ギルが唱えた瞬間、剣の先から眩しいほどの雷がゴブリンの群れに目掛けて、放出された。

逃げ迷うゴブリンは逃げきれず、そのまま強烈な雷を受けた。雷を受けたゴブリンは灰となり消滅した。



「こっちは10体はやったぞ」



「良くやった。次は私が!」



ノーラは迫り来るゴブリンを立ち止まりながら待ち、短剣を横に持ちながら詠唱する。



「我、汝の願い叶えたまえ、永久の眠りの中、力をお貸しください!フラワー・スラッシュ!!」



ノーラの持つ短剣が一瞬花の形になったような幻覚をもたらす。その幻覚の花が成長していき、長さ2メートルくらいの高さまで跳ね上がった。

それを左から右へと振り抜くと、ゴブリンは横腹をえぐり取られながら、左の壁へと飛ばされた。



「この程度は楽勝だ。後はリーナ姉、頼んだ」



「任せなさい。ゴブリン如きが、私に仕掛けてくるなんて一億年は早いわ!」



歯ぎしりしながらこちらを向いているゴブリンにリーナスは胸に手を当て訴える。



「わが身に司る精霊よ。余のため力を与え給え!グリーン・モンスター!!」



リーナスの右手に緑色のエフェクトが現れた。

リーナスはピッチャーのごとく、左足を高く上げ、ためを作り、左足を思い切り踏み出した。

すると、ヒグマの幻影が現れ、そのままゴブリンの群れに牙を立てながら突っ込んでいった。

ヒグマの牙に噛まれたゴブリンは血を吹き上げながら倒れ、そのまま灰となり消滅した。



「私もやったわ!これで全滅ね」



リーナスは汗をぬぐい、ギルやノーラの方を向く。すると二人とも笑顔でガッツポーズをしていた。



「ふん。こんなの余裕だ。私が負けるわけがない」



「相変わらずの大口だな。まぁ、楽勝だったし進むか。休む必要もないだろうし、なぁリーナ」



「そうだな。次は確か三層だったか?」



「ここが二層だから、次は三層だな。三層までにあいつらを引き止めないともう引き返せなくなりそうだな」



ここギルディアは五層からなるダンジョンで上の階層に行くにつれてモンスターの強さが強くなる。三層は主にCランク指定モンスターの住処なのでもし四層のBランク指定モンスターの住処まで足を踏み出してしまうと引き返すには相当の力量が必要だ。

多分あいつらでは敵わないと思う。



「立ち止まっている暇はねぇー。早く行くぞ!」



「最初からそうして欲しかったけどね。行くぞ!」



「ギルに指図されるのはなんかムカつくけど仕方ない。行く!」



一刻を争う事態で、真剣な面差しのギルを先頭にリーナス、ノーラと後に続いた。




…………………………………………………………………

※お読みいただきありがとうございます。不明な点、不思議点あれば教えていただけると幸いです。それと感想欲しいです。厳しくても構いません。また、二十四話に話を少しつけくらえたのでそれも読んでいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします!

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