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第三十話 螺旋迷宮ギルディア②〜ゴーレム戦〜


暗闇が辺り全体を覆い尽くす。洞窟の先からは威圧や殺気が漂い、前へ進む足が遠のいてしまう。

真っ暗の空間の中で、唯一灯りがあるとすれば所々に生えている灯火の赤花が俺たちを行く末を導いてくれるように、そして先の見えない暗闇からは涼やかな風が吹き、より一層恐怖を覚えさせる。

灯火の赤花と言うのはその名の通り、洞窟の中で咲く赤い花でとても綺麗だ。この花は高く売れるのだが、冒険者の中ではこの花を摘むことは暗黙の了解でダメとされている。冒険者はこの花があるおかげで、松明の火燃やさずにすみ、非常に助かっているのだ。


ダンジョンというものは希望や期待、夢などを冒険者に抱かせるがその反面、恐怖や絶望もまた抱かせてしまう。


ヴァイス、イナ、アリーシアの御一行は螺旋迷宮ギルディアの入り口付近で、足を震わせながら、忍び足で徐々に進んでいた。



「ヴァイス、もしかして怯えている?」



リーナたちが所属するギルド、サザンラースのメンバー、アリーシアは無表情ながら、怯えている様子も一切なく、ヴァイスに指摘をした。

茶髪茶目をし、左目は髪で隠れていて見えない。整った顔は横を通れば誰もが振り返ってしまうほど甲高く美しい。



「そんなわけねーだろ。俺様が恐怖で怯えているとでも思っているのか?それは間違っているぜ。この震えはな、楽しみなんだよ。俺たちC級ギルドが、Bランクモンスターと戦えるのがな」



そう図星を突かれながら、何とか言い訳を絞り出したこの少年はどこか無邪気さを感じられる。赤髪に青目という珍しい遺伝子を持ち、顔立ちも中々の美少年だ。



「そう。それは安心したわ。私も覚悟して行かなければ」



「相変わらずのその無表情さには感服いたしますぜ。それで俺様が前衛で良いんだな?」



ヴァイスは14歳ながらも貴族出で、プライドが高いのか口調が少し荒いところがある。



「うん。ヴァイスが前衛。私とイナが後衛でサポートするわ。安心して戦って」



「もっと感情込めて言ってくれるとなお嬉しいが、お前たちが後ろでは不安しかない。それより、イナ」



「は、はい。イナであります!」



アリーシアの後ろを行くイナは突然の振りに声が裏返るが、すぐさま落ち着く。

明るく元気な返事が洞窟で反射し、少しうるさくも感じる。

イナは身長が低いながらもその明るい表情には誰もが魅力されてしまう。茶髪茶目をしており、お気に入りの尻尾も茶色だ。どこか可愛げのある童顔は常に笑顔満点だ。



「お前は相変わらずの元気の良さだな。その元気の良さをアリーシアに分けてやれよ」



俺がそう言うとイナはアリーシアの方へ向き、両手を広げる。



「アリーシアいるであります?」



「欲しいわ」



アリーシアはイナの胸に飛び込み抱擁する。



「ギューーーー」



「ない」



イナの胸の中で小さく呟く。



「何がでありますか?」



「胸」



「そ、それは言ってはいけないでありますよ!まだ私は成長期だからであります!」



「そう。もういいわ。元気になったような気がする、ありがとイナ」



「力になれたのであれば良かったのであります!」



「全く変わってないわ!嘘つくな!もういい。それでイナ、お前の千里眼は何メートル先まで見えるんだったか?」



「えーと、10メートルであります!」



「意外と短いな。わかった、だったら今、お願い出来るか?」



「わかったであります!」



イナは目をつぶり想像する。そして、唱える。



「我、慈悲深き御身に強い意志を告げる。千里眼!!」



イナは両手を前で握り、必死に想像を持続させる。

イナの目に伝わったのは体全体が石で作られているゴーレムだった。



「何かいたか?」



イナが目を開けるとヴァイスは困惑した様子で聞いた。



「その、キングゴーレムが道を塞いでいるであります」



「Cランク指定ゴーレムか...数は?」



「三体であります」



「なら一人一体ずつ倒せば、余裕で進めるな」



「そうでありますね。私たちはもうCランクモンスターに遅れは取りませんであります!」



「俺たちは強くなった。そして俺たちの目標はBランクモンスターの討伐だ、だからCランク指定ゴーレムなんかにやられてたまるか。これはまだ準備運動だ」



「そう。私たちの目標はBランクモンスター討伐。ギルに私たちがまだ使えるってこと証明する」



「アリーシアも珍しくやる気でありますな。それなら私もアリーシアの何倍ものやる気で挑みますであります!」



「アリーシア、イナその域だ!では行くとするか!」



「うん!」「です!」



威勢良く二人が返事をし、俺たちは剣や杖を構えながら慎重に前へ進む。


そして、10メートルほど進んだ先に暗闇から姿を現したのはイナの言っていた通り、全身石で作られている三体のゴーレムだった。



「アリーシアは右端の、イナは左端の、そして俺は真ん中の奴をやる!お前らなら余裕だろ」



「わかった。私を誰だと思ってるの。レベルだけではヴァイスを越してるわ」



「それを言われたら俺は何も反論できないからやめろ!」



「私も前までの私ではないのであります!ここでそれを証明するのであります!」



「あぁ、俺に見してくれ!まぁ相手はCランクなんだし気軽にやろうぜ」



「そうでありますね」



ゴーレム体長は4メートルほどで洞窟の天井に頭がぶつかりそうなくらいすれすれだ。

俺たちを発見するやいなやゴーレムは赤目を迸りながらこちらを向いてきた。

その途端、ゴーレムは猛スピードでこちらに向かって走ってくるので、俺は横に剣を構え、アリーシアは杖を前に握り呪文を唱える準備をする。そしてイナは一瞬全身を震わせるが、短剣を握り、構える。



「くらえー」



俺は甲高い声をあげながら剣を突き出し、突っ込んでいく。

だが、ゴーレムの石の壁が邪魔をし、弾かれてしまう。



「くそ、この程度では倒せないか」



俺は吐息をこぼし、気持ちを改める。そして、剣を頭まで振り上げると呪文を唱え始める。



「剣にまといし精霊よ、今我の糧となり力を捧げ!!アイス・ブレイクソード!!」



氷で包まれ、蒸気を発するその剣を強く握りなおし、一瞬で距離を詰めると、そのまま剣を振りかざした。

すると、強烈な振動とともにゴーレムは粉砕され、アタかたもなくチリとなり消えていった。


俺はゴーレムを倒すと一安心し、周りを見渡すとアリーシアとゴーレムが戦っている真っ最中だった。



「精霊様にお願いもうす。光の加護今ここで解放せ!シャイニング・リングフラーワー!!」



アリーシアが唱えると、杖の先に光が集まり、徐々に玉となって生成されてゆく。それが一定の大きさまでになると、杖を振りかざし、ゴーレムに向かって放った。

その光の玉はゴーレムにあたるや否やとてつもない爆風を齎し、俺やイナまでがその風圧に流されてしまう。

ゴーレムはそのまま何の抵抗もなく、消えていった。



「楽勝だわ」



額の汗をぬぐい、ゴーレムを倒したことにアリーシアは安堵する。


だが、イナはというと少し手こずっていた。


イナは地面を蹴り、ゴーレムに飛びかかっていくが、ゴーレムの堅い石に弾かれてしまう。それを何度も何度も繰り返すが、ゴーレムにかすり傷は追わせてもダメージというダメージが一向に与えられない。



「我、汝に身を捧げる。精霊の加護の元に力を与え給え。ソニックファイヤー!!」



イナはそう唱えると、短剣に炎がほとばしり、そのままゴーレムに突っ込んでいく。イナはゴーレムの腹を炎の剣で切り裂いたが、あとひと押し足りなかったのか、ゴーレムの堅い右手がイナの右肩を殴り、カウンターを受けてしまった。横壁に打ちのめされたイナは口から血が溢れていた。



「イナーーーーーーーーーーー!」



そう叫んだ俺は必死だった。イナを傷つけたゴーレムを俺は恨んでいた。殺気を包み隠さず、俺はゴーレムを睨め付ける。



「よくもやりやがったなーーーーー!」



「剣にまといし精霊よ、今我の糧となり力を捧げ!!アイス・ブレイクソード!!」



またもや剣に氷をまとわりつけ、蒸気を発するその剣でゴーレムを上から下まで切り裂いた。

真っ二つに割れたゴーレムはチリとなり消えていった。



「だ、大丈夫か?イナ!」



壁に寄りかかるイナの元に俺とアリーシアはすぐさま駆けつけ、安否を確認する。



「全然問題ないであります。でも今回はやらかしてしまいましたであります。魔力の使いすぎて威力が出せませんでしたであります...」



「すまない。俺が千里眼を使わせてしまったばっかりに」



「違うんであります。これは私の力不足が招いた原因であります。気にしないで下さいであります」



「そうか...アリーシア、治癒をお願い出来るか?」



俺の後ろで心配そうに見守るアリーシアに俺は尋ねた。



「うん。イナまだ戦えるわ。挽回して」



「当然であります!私だけ足手纏いは勘弁であります!」



「うん。では精霊様にお願いもうす。光の加護今ここで解放せ!リカバリー・リザレクション!!」



アリーシアが杖をかざすとイナの体の周りに暖かい光が纏い、傷跡が塞がっていく。



「暖かい...」



イナは自分の手を見つめ、傷が治っていくのを感じる。



「アリーシア、ありがとうであります!もうどこも痛くないのであります!」



「良かったわ。イナが元気になって嬉しい」



「だな。アリーシアも元気になったことだし、先に進むか。ここに立ちど待っていても安全ってわけではないし」



まだ、ここはダンジョンの入り口に過ぎないのだ。これから先何があるかわからないが、危険がつきものだということは覚悟しておかなければならない。俺たちは先に進むしかないのだ。



「はいであります。行きますであります!」



「イナ、元気良すぎ。前よりも元気になったみたい」



「まだ暖かさが残っているのであります!アリーシアを感じることが出来て嬉しいからであります!」



「イナ。私は感じてないわ」



「ならこうするであります!」



またもや抱擁する二人、変な道に入らないか心配だが、自然と笑みがこぼれてしまう。



「イナを感じている。暖かいわ。でも」



「でもの後は言わないで下さいであります!もう行くでありますよ!」



何かを察したのかイナはこれ以上アリーシアにその先を言わせないように拒む。二人は抱くのをやめ、俺たちは暗闇の中を真剣な趣で眺めた。



「うん。行こ」



「あぁ、先へ進むか」



俺たちはより一層、気を強く持ち、暗闇の中に消えていった。



…………………………………………………………………

※お読みいただきありがとうございます。今回はバトルシーンがあり、表現するのが大変でした。もし、不思議や点や物足りない点などがあれば教えてくれると嬉しいです。それと、感想が欲しいです!書いてくれれば幸いです。これからもお読みいただけると嬉しい限りです。

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