昼下がりの魔王様
私が体験した実話を元にしています。
今日は病欠の人が出たので、急遽朝からのバイトであった。
初めて朝のシフトに入ったのだが、夜勤明けの者たちが大変グロッキーであった。これから登校するというのだから、見上げたものである。
我輩の普段のシフトより大分早い為、相方も違えば勝手も異なり、四苦八苦したものの、無事に仕事を終えた。
そんな訳で、昼からは晴れてフリーの身となったので、ビールとツマミを購入し、帰宅しておる途中に事件はおこった。
「おじちゃん。助けて‼︎」
と童が我輩の服を引っ張り、せがんで来るので、
「そこな童よ。どうした?」
訊いてみるも、
「救急車!おじちゃん、救急車かな?」
中々要領を得ん答えしか返らぬので、同行することにした。
童に手を引かれて付いて行くと、そこは公園であり、ブランコに1人の童が座り、その周りを幾人もの童達が囲んでおった。
皆、心配そうに顔を曇らせ、中には泣き出しそうな者もおった。
怪訝に思って見てみると、ブランコに座っておる者の下には赤い滴が点々と零れており、ズボンにも赤黒い染みが出来ておる。
こっちに来てからは殆ど目にする機会が減ったが、紛れもなく血であった。
我輩はハンカチを取り出し、流血しておる童の額の傷に当て、氷替わりにビールで冷やしてやる事にした。
「何故、こやつは怪我をしたのだ?」
「ブランコで遊んでたら、この子がペットボトルを投げて、それが当たって…」
我輩をここまで連れて来た童より2周り程大きな童が答えてくれる。
「ふむ。悪ふざけの結果か…」
子供というものは、何処の世界でも似たような悪さを働くものだと苦笑する。
「して、誰かこの子の家を知らぬか?」
先ほど我輩に説明をしてくれた童が挙手をし、
「こいつ、俺の弟」
ならば、話は早いと思い、童に母親を連れて来るように言う。少しばかり傷を縫わねばならぬと感じたので、一緒に保険証も持ってくる様に言伝る。
暫くその様子を伺っておったが、血が止まり始めたのと、大人が来た安堵からか、童共は一部を除いて、各々遊び始めた。
傷を負った者の近くではあったが、我輩も手持ち無沙汰になり、傷を押さえながら、一服点ける。
そうしておる間に、自転車に乗った男が通りかかり、それを見た童の何人かが
「先生‼︎」
と駆け寄って行く。
年上の者も混じっており…いや、駆け寄ったのは年上の者達ばかりで、上手く説明出来たのか、先生とやらがこちらにやって来る。
「ありがとうございます!」
礼を述べ、次いで携帯とやらで何処ぞに連絡を始める。
そのタイミングで先程、自宅へ駆けて行った童と母親らしき人物が戻ってくる。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。あら、先生」
礼を述べてから、気付いて先生とやらに向かう母親。
「血は止まっておるので、心配は無いと思うが、少しばかり傷口が大きいので、2針位は縫わねばならぬかもしれん」
伝える事を伝え、我輩はその場を去る。このまま留まっても他に出来る事が無さそうであるし。
先生は、担任とやらに連絡をつけ、その人物?人物でよいのだろう?が来るまで待っているとの事であった。
さて、我輩は帰ってキンキンに冷えたビールで喉を潤す事にしよう。
あ…そういえば、冷やすのに使っておったので、ヌルくなってしまったか…
この後、子供達に慕われた魔王様はよく絡まれる様になりました。コンビニも駄菓子やジュースがよく売れるようになったとか。