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魔王のいる日常  作者: 境一
1/4

黒幕の正体が時を経て明かされる

我輩は魔王である。の続きです。

「魔王〜。起きなさい〜」

声と共にゆさゆさと身体を揺すられる感覚がある。

「んんっ。後五分…」

本人は起床を促して居るのだろうが、この揺れは心地よく、そのまま…

「もう!起きろ!って」

ピシャッと(ひたい)に痛みがはしる。

「ぬぁっ」

患部を抑えながら、目を開ける。何故か視界がボヤけているのが不思議であったが。

「貴様!何をする!不敬であるぞ」

身を起こし、抗議してやる。

「はいはい。やっと起きたわね。朝ごはんにするから、ちゃっちゃと起きて布団畳んで頂戴」

我輩から安息の時間を奪った犯人は、ため息をつきながらキッチンへと戻っていく。

ふむ。相変わらず理想のヒップラインをしておる。

家主に逆らうと後が怖い…ではなく、我輩に供物を捧げようという心意気に免じて、言うことをきいてやることにする。

先ずは布団を畳み、押入れにしまい、パジャマから普段着へと着替える。洗顔と歯磨き、はばかり(トイレ)を終わらせれば準備万端である。

ついでに、食器の準備と冷蔵庫から麦茶のピッチャーを出してちゃぶ台(食卓)に並べ、昨日、隣の老婆から徴収(ちょうしゅう)した花をそっと添えてやる。

ふふふ。勇者よ。我輩の学習能力を褒め称えるがよい!

「あら。お手伝いありがと。その花綺麗ね。どうしたの?」

我が贄(朝食)を運びながら、今朝の狼藉者(ろうぜきもの)が話かけてくる。

焼き鮭と海苔の香りが(かぐ)わしい。

「うむ。お隣のおシズさんからの献上品だ」

「ああ、お隣のお婆さんから貰ったのね。今度お礼言っとかなきゃ」

話ながらもテキパキと準備をする勇者は、出来る女という雰囲気がある。実際、こやつの通う会社なるものでは、課長補佐という役職であるそうだ。

「それじゃ頂きましょうか。頂きます」

「頂きます」

両手を合わせて食事を開始する。この世界のルールとのことなので、合わせてやっておる。

勇者はピンと背を伸ばし、綺麗な正座で飯を頬張る。

「うん。我ながら今日の鮭は焼き加減抜群ね!」

「うむ。確かに美味い」

「でっしょ〜」

ニコニコと機嫌が良さそうだ。

「時に勇者よ」

「ん?何?」

「少しばかり早いのではないか?」

我輩は、目覚ましとやらを指差して、質問する。針は5時を指したところだ。

「そんな事ないよ。6時前には家を出ないと間に合わないから、この時間でも割とギリだよ」

「支度に一時間もかからぬであろう?」

我輩の言葉を聞いて、

「あー。男の人ならそうなのかもね。でも、女の子はお化粧とか身だしなみがあるから、もうちょっとかかるの」

「女の「子」…?」

ドスっと鈍い音を立てて、我輩の鼻先をかすめて聖剣が突き刺さる。

「何か言ったかしら?」

笑顔を張り付けておるが、目が笑って居ない。「ぃぇ…何も…」と小声で返すと、

「ま、いいわ」

聖剣を帰還させ、食事を再開する勇者。心の臓がばくばく脈打つのが判る。この緊迫感は、魔王城でこやつと相対したとき以来ではなかろうか?

「そういえば」

あの時の疑問を思い出したので、ついでに解消することとする。朝食に彩りを添える我が話術に感謝し、咽び泣くとよい。

「貴様、我輩と対峙(たいじ)した時、男ではなかったか?」

見た目を取り(つくろ)おうとも、鼻の良い我々魔族は男女の区別を誤ることはそうそうない。

因みに、男は酸っぱかったり、苦い臭いがし、女は甘かったり、ハーブのような清涼な匂いがする。

「ああ、そのこと」

味噌汁で口を潤し、

「私、異世界に召還された時、何でか男になってたのよね」

「ほう。性別が変換されていたと」

「そうそう。まぁ、長旅だったから、このままより、男の方が都合よかったんだけどね」

苦笑しながら遠い目で語る。思い出す事も色々あるのだろう。

「なるほど。それで合点がいった」

「何が?」

「お主の仲間の僧侶がおったであろう?」

「うん。パシフィコちゃんね」

「あやつから、お悩みのおハガキを貰っておってな」

「はぁ⁈何やってんの⁈」

「ん?知らんかったのか?魔王マーダのガンガン行こうぜ!という魔水晶番組のDJをやっておったのだが」

「は?え?それもそれで、何やってんの⁈だけど、そうじゃなくて、パシフィコちゃんが、魔王におハガキとか、どうなってんの⁈」

朝っぱらからうるさい女である。ご近所に迷惑がかかるだろうに。ああ、でも、おシズさんは4時には起きると言っていたから、別に問題もないか。

「別に構わぬではないか?たかだか、僧侶が魔王(我輩)にお便りをくれただけだぞ?後、声を落とせ。また壁ドンされてしまうぞ?」

「あ、うん。それは悪かったけど、普通、聖職者と魔王って、犬猿の仲というか、天敵ってやつじゃないの?」

「まぁ、普通はそうなのだろうが、あやつの信仰する神は、生殖と淫蕩(いんとう)を司る女神アモニゥスだぞ?」

「え?何それ始めて聞いたんだけど⁈」

「まぁ、余り一般的ではないようだからな。公に言いにくかったのではないか?」

「う〜ん。そうかもしんないけど…」

「小骨が歯の隙間に挟まった様な顔だな」

「なんか的確過ぎる表現でやだ」

わがまま娘め。わがままなのは、そのボディだけで充分だろうに。

「話を戻すぞ。お便りの内容が、『どうしたら、勇者様と×××(ニャンニャン)できますか?』というものでな」

「あんた、こんな時間からとんでも無い話題振ってきたわね‼︎」

「何を真っ赤になる必要がある?生娘でもあるまいに?」

「悪かったわね…」

うむうむ。元敵ながら、すぐに反省出来るのは賞賛に値する。それでこそ、我輩が負けてやった甲斐があるというもの。

「それで、我輩はこう返したわけだ」

「あ、続けるんだ。ってか、フォローは?私へのフォローは⁈」

何やら叫んでおるが、また脱線しては、朝の貴重な時間が浪費されてしまうので、構わずに続ける。

「押してダメなら押し倒せ‼︎今なら、青髭(あおひげ)薬局で超強力すっぽんドリンクと睡眠薬のセットセール開催中。皆も近くに来たら寄ってねとな」

「あんたか‼︎あん時の黒幕はあんたか‼︎」

胸ぐらを掴まれて、思い切り揺すられる。ヤメろ。折角摂取した物がリバースしてしまうではないか。リバースしても許されるのはウノだけだと、貴様も言っておっただろうに‼︎

「そういえば、ウノってなんだ?」

「何よ。突然‼︎ウチの上司がどうしたのよ!」

ふむ。なるほど。上司に対してはリバースしても良いのか。また一つ賢くなってしまった。

「そんなことより、あん時は大変だったんだからね!」

「あの時というのがどの時なのかは判らんが、何が大変だったのだ?」

「夜の宿で女の子に迫られるとか、地獄じゃん‼︎」

「貴様は何を言っている?そんなのご褒美以外の何物でもあるまいに?」

「そりゃ、あんたはね!逆に考えてみなさい。男に迫られて嬉しいの⁈」

なるほど。同性に迫られると考えれば、合点が…ん?いや

「我輩、くる物は拒まずであったのでな。四天王とも契りを同じくしておったぞ?無論、不満が出ぬ様に平等にな」

「へ?四天王って、女幹部1人しか居なかったよね…?」

「うむ。紅一点であったな」

「で、四天王を平等に可愛がった…と?」

「当たり前ではないか?」

「うわぁ…なにこのアブノーマル将軍」

「将軍ではなく魔王なのだが?」

全く!失礼な小娘だ。

「まぁいいわ。あんたの性癖とか興味ないし」

「そうか?もし、知りたくなったら、この『月間魔王JOU!』を読めば詳しく判るぞ?」

念の為、定期発売されている、いや、されていた雑誌を渡してやる。

「なにこれ?『魔王の全て』に『四天王の弱点克服合宿、ファン感謝イベントレポート』に『春のオシャレコーデ、一押しはラベンダーアロマペンダント』って、何か最後だけ妙に人間くさいわね」

「それより、勇者よ」

「なに?まだ何かあんの?」

眉間にシワを寄せて嫌そうに聞いてくるので、目覚ましを指して

「そろそろ出社しないと不味いのではないか?」

と尋ねてみる。針は5時50分を指している。普段なら、とうに家を出ている時間だ。ここ2週間程でこの女の生活パターンは大体把握できているので、まず間違いはないだろう。タイムキーパー:マーダと呼んでくれてもいいのよ?

「あ!あんたと馬鹿やってたら、時間無くなったじゃない!ああん!もう!」

それからは(せわ)しなく、動き回り、歯磨きと軽く化粧を終えて準備を整える。

「まお…マーダ!食器の片付けだけやっといて!帰ったら、お駄賃あげるから!」

玄関先で叫んで、勇者は出社していった。

「何だ。短時間でも充分、身支度できるではないか」

憤然としながらも、片付けのためにキッチンへと向かった。納豆の皿はスポンジの前に手洗いである程度ぬめりを落とさねばならんなぁと思いながら。

学習能力の高い魔王様は、炊事洗濯はお手の物になりました。ご近所付き合いも良好で、皿洗いの後はおシズさんと梅さんとの茶飲み話をして、犬の散歩代行とかガーデニングのお手伝いをして、お駄賃を貰っているようです。

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