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プロローグ

「君の名前は?」


「ついて来ないで!」


 ある日、森の中を歩いていたら、突然小綺麗な金髪碧眼の美少年が現れた。私が彼を見つけたとき、彼は森の中で一人めそめそと泣いていた。そして、心細いのか私に声をかけてきた。ありがちな展開だ。だが、ちょっと待て。普通、逆じゃね?一人ですすり泣く男と正直に言って関わりたくなかった。


 だから、私は名前を聞いてきた男の子を無視して通りすぎようとした。しかし、何故か追いかけてきた。恐ろしくなったので私は走って逃げて、森を脱出し、町まで逃げた。


 その結果、逃げた先の町の路地裏で捕まってしまった。


 何でこいつが森の中にいたのかも、私を追いかけて来たのかも分からない。だが、こいつを見ているとなんか引っかかる。遠い記憶の彼方でこいつと()は知り合っている。


「あ」


 そして、私の中に前世の()の記憶が流れ込んできた。私、いや()はすべてを思い出したのだ。


 私は顔が青ざめるのを感じた。こいつはまさか……


「人に名前を聞くときは自分から名乗ったらどうですか?」


 見た目がキラキラしていて、明らかに良いところの坊っちゃんだとわかる。頼む、人違いであってくれ。


「申し遅れました。私の名前はマークです。それで、あなたの名前は?」


 やっぱこいつは私にとっての死神だ。死亡フラグである。なので、ここは一つ、嫌われるために行動しなければならない。前世の日本に慇懃無礼という言葉があったのを思い出し、私はひたすらにへりくだった。


「これは、マーク王子ではありませんか!大変失礼しました!どうか、命だけは!殺さないでください!ひいいいい!」


 ここで土下座である。完璧だ。しかも、道ゆく人々が注目するように大声で謝罪をした。いかに王子が横暴で狭量であるかを周囲に見せつけるのだ。


 予想通り、王子はみるみるうちに機嫌が悪くなった。


「おい質問に答えろ、雌豚!」


「痛い!」


 苛立った王子が私を足蹴にしてきた。全然痛くなかったが、声に出すことで周囲の同情を誘った。痛くないとはいえ、気分が悪くなった。やっぱりこいつは嫌いだ。


「愚民め」


 彼は私を組み伏せて喜んでいた。マーク王子、こいつは私が最も関わりたくない人間である。性格は傲慢で残虐だが、気弱な一面もあり、加えて情緒不安定で癇癪持ちという良いところが全くない人間だ。


 会ったばかりなのに性格について何故知っているかって?


 知っているのは当然だ。なぜなら、私には前世の記憶があり、()がいる世界はまさに「薔薇色サウザンドプリンス」の世界そのものなのだ。


 ***


 前世の俺が製作予定だった同人乙女ゲーム「薔薇色サウザンドプリンス」では千人の王位継承権を持つ王子の中でも有望な10人の王子たちが学園の中でデスゲームを繰り広げるという内容だ。まず、主人公であるヒロインは自分が選んだ王子の婚約者を排除し、次に他の王子たちを抹殺し、やがては王妃になるというストーリーだ。


 前世で陰キャラのオタクだった俺がネット小説を読み漁りつつ、自分が面白いと思う設定の乙女ゲームのプロットを作成したのが始まりだ。だが、前世の俺は途中で飽きて挫折したはずだ。そもそも、プログラミングの知識もなく、構想段階で頓挫した。


 つまり、そのゲームは俺の妄想の中でしか存在しない。立ち絵を自分のノートに書いたりしたが、それだけである。仮に俺以外の転生者がいても情報アドで俺が大きくリードしているため、前世の知識持ちの悪役令嬢が無双して私を排除するという事態は回避できる。もっとも、このゲームに限っては悪役令嬢は王子と結婚してほしい。理由については後述する。


 まずは、世界観について話させてもらう。この世界は俺のノートに記した登場人物と、俺の妄想した中世っぽい世界が混ざりあった結果、色々とおかしくなっている。


 第一に、この世界では自動車も拳銃も魔法も物理も携帯もすべてが存在している。まあ、日本に住んでいた俺がこの世界を想像したのだから当然か。


 第二に、社会についてだが、この世界には銀行もあるし、病院もあるし、会社もある。資本主義だと思われるが、政治に関しては絶体王政が敷かれていて、かつ奴隷制度もある。世界観は色々とがばがばだ。


 最後に、私の家族についてだが、父親がサラリーマンで母親が専業主婦をしている。兄弟は上に兄が一人いて、下に弟がいる。兄弟とは言っても私の実の父は神様であるという設定なので、半分しか血の繋がりはない。私の実の父が私の母親を見初めて、こっそりと父に化けて妊娠させたという設定だが、裏設定なので、私と神様本人しか知らないことである。


 私は現在8歳で、金髪碧眼のビスクドールのような少女だ。自分で言うのもなんだが成長すれば絶世の美女になるだろう。もっとも、前世が男だったので、あまり色恋沙汰には興味がない。特に趣味のない私だが、家族が放任主義なのでしばしば自由に外出して森の中を散策するのが趣味であろうか。


 この世界の良い点は、自動車や携帯があるのに、デカイ工場もなく、空気がきれいで、自然も残っていることだろうか。さらにはカルチャーショックもないので、比較的暮らしやすい。残念ながら漫画とラノベはないが、その代わりにこの世界では魔法があるので偉人の自伝がラノベのようなものである。


 私の妄想が現実化した世界なので、この世界を私が操れるかのように見えるが、実際のところ、私は既にプレイヤーの一人であり、シナリオ通りに物語は進み始めていて、このままでは私はこの世界に飼い殺しにされてしまう。


 今後についてだが、最初に王子たちのことを何とかしなければならない。そのため、学園パートで私は友達エンドを目指す。誰とも付き合わず、そのまま学園を卒業するのだ。王子と関わったら最後、どんな結末であれ()が妄想で構想した「薔薇色サウザンドプリンス2」の世界では私はクーデターを起こされてプロローグで死ぬことになる。


 前作主人公はあっさりと死ぬことになるのだ。だが、私はその役を王子たちの婚約者に擦り付けることにする。


 死ぬのは私じゃない。


 ***


「調子に乗るなよ!」


 私は設定上、半神半人であり、オークの10倍の膂力を誇る。オークは鍛えた人間の5倍の膂力を誇るので、私のパワーは人間の50倍だ。軽く突き飛ばしてやっただけで、反対側の壁にめり込んだ。


「がは!」


「雑魚め。二度とその面見せるな!」


 これだけやれば結婚せずに済むだろう。ざまあみろ。


 これでマーク王子とのフラグははへし折った。千人も王族はいるわけだし、まだまだ油断はできないが、まずは一人目である。


「どんなフラグも叩きおってやる。」


「き、貴様。俺は王族だぞ。」


 負け犬の戯れ言は無視だ。このゲームは俺の妄想の中ではプレイする度に毎回王子が変わる。学園に登場するのは財力の高い上位10人の王子だ。マーク王子は10人の内の1人であるが、顔と名前だけがデフォルトで、髪の毛の色と身長はプレイ毎に変化する(100通り)し、それに伴って性格も毎回多少は異なる。


 今回、マーク王子を殺しても、彼と同じ顔の王子が99人はいるので、マーク王子の代わりがその中から出てくる。クローン人間かよと突っ込みたい。


 それに兄弟が千人とかおかしいだろ。王様が絶倫で四六時中女を侍らせているとは知っていたが、多すぎるだろ。


 それはそうと、私は残り999人の王子たちのフラグを折らなくてはならない。学園が始まってからではシナリオの補正が働くだろう。その前に手を打つ。敵は王族、強力な私兵と魔力と権力を持つ、だが、そんなの関係ない。


「王族に臆する私ではないわ!」


 王族全員をぶっ倒すだけだ。


***


「気に入った。」


 通りの向こうから見ていた少年は呟いた。だが、そのことに私は気づいていなかった。




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