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Doggy House Hound  作者: ポチ吉
ラチェット
78/159

ヘルハウンド

 ソレは終わった兵器だった。

 そのカテゴリーの兵装の歴史は第二次世界大戦の半ばで終わりを迎えていた。

 歩兵が携行可能な範囲で強化をしても、その用途を果たせなかったと言うのが一つの理由だ。

 だが、今の時代にソレは再び歩兵の兵装としての価値を持った。

 モノズと言う労働力が、一流の工兵がソレを可能としたのだ。

 威力が足りないのなら、大きくすれば良い。

 大きくて運用が難しいのならば、その場で組めば良い。

 重くて運搬が困難ならば運ばせれば良い。

 アキトの設計思想により、問題の本質を解決しないまま、力業の運用方法でソレは再び戦場に轟音を響かせる。

 対戦車ライフル。

 ソレが歴史に消えた兵器の名。


「……子号、観測用意」


 僕はスコープの中に世界を置く。

 いつもよりも倍率が高い世界は、いつもよりも狭く、遠い世界を見せてくれる。

 カミサワ重工製 大口径ボルトアクション式対戦車ライフル 無間むかん

 ただし、そのカスタム品。

 この世にただ一つのワンオフ品。地獄の一つから名を貰った無間、その猟犬仕様ハウンドモデル――即ち、ヘルハウンド。

 それがこの黒く、大きな銃の名前だ。

 覗き込んだ世界の先に置いたのは敵の迫撃砲。

 味方陣地の後方高台。そこに陣取った僕は下の世界では見えなかった景色を手に入れる。

 迫撃砲の弾道は放物線だ。

 故に、塹壕の中に本体を設置しての運用が可能となる。

 見下ろす世界にはそんな迫撃砲と、ソレを運用する皆様が見て取れた。

 皆様は顔の無い人型だった。のっぺらぼう。マーチェがドールと呼んだ文字通りの動くお人形だ。


「ははっ」


 笑う。

 良いね。良いな。

 有り難い。アレならいくらでも殺せる。罪悪感を感じずに済む。

 引き金を引く。弾道観測。子号から送られてきた修正情報と自分の感覚をすり合わせる。右へ。撃つ。当たった。食い千切った。


「死にたくなければ耳を塞げよ、お人形。そこは聞こえるぞ(・・・・・)


 胸に着弾した弾丸が運動エネルギーを爆発させ、上半身を粉微塵へ代える。再生などさせてやる気は更々ない。その為のヘルハウンドだ。

 重たい銃身は跳ね上がることは無い。

 左目に移した世界をもとに、右目の中の世界に次のドールを映す。撃った。繰り返した。

 迫撃砲の裏にドールが隠れた。

 ヴィジョン。

 想像する。何処にいるか。迫撃砲を破壊した後の弾丸の軌道を。想像する。想像した。撃つ。迫撃砲を貫き、ドールが砕ける。――あぁ、ダメか。当たり所が宜しくない。死んでいない。

 五発ワンクリップ

 弾道観測を含めたソレで仕留められたのは三機。迫撃砲の影に隠れられると少しきついな。それが分かった。

 ガリガリガリガリガリ――。

 金属音を響かせながら次発装弾。

 撃って、殺して、五回やって、弾を込めて、また撃つ。

 僕はこれを繰り返した。

 迫撃砲を使えば殺す。迫撃砲に近づけば殺す。だから迫撃砲を使うな。

 弾丸に込めるのはそんなメッセージ。

 徐々に砲撃が少なくなってくる。戦場の様相が様変わりしてくる。こちらの砲撃だけが行われ敵陣を蹂躙する段階へと移った。だから相手側が次の手に移るのは当然だ。

 こちらの砲撃を黙らせ、攻め込む歩兵を止めるために騎兵隊が出てきた。

 二輪に四輪。荒れた大地をボールホイールが駆け抜ける。リカン達は塹壕などを使いながら対応しているが、少しきつそうだ。ボールホイールの走破性は結構理不尽だ。

 僕はそちらの援護に回ることにした。


「――。――」


 息を吸って、吐いた。

 切り替える。ドールを撃っていた頭から、荒野を走るモノズを撃つ頭へ。

 少しだけ、前。

 狙った獲物の数秒後の未来に向かって引き金を引いた。

 当たった。

 四輪の装甲車がバランスを崩す。リカンがそれをチャンスと捉え、車群に向かって飛び込んだ。四本の腕に、二丁のガドリング。

 どくん、と脈打つリカン愛用の生態型兵装が吐き出すのは、これまたリカン自身が造った骨の弾丸だ。

 装甲車を先頭に、盾として使いながらの突撃チャージ。その戦略が全くの裏目に出た。

 固まっていた騎兵達は、装甲を貫く弾丸の雨に良い様に散らかされて行く。

 トゥース側の理不尽さだ。

 個体により、製造できる武器の性能にばらつきがあるせいで、リカンの様な極端な奴に当たると従来の戦法が飲み込まれる。

 あぁ、実に理不尽だ。

 だからそんなリカンを狙い、攻撃が集中する。

 近い敵はリカンにどうにかして貰おう。

 カウンター・スナイプ。

 僕が狙うのは遠くの同業者だ。

 少し前まで砲撃部隊にちょっかいを出す僕を狙っていた彼らだが、今は直近の脅威、リカンに対応している。寂しいので、もう一度こちらを向いて欲しい。だが――


「――リカン」

『どうした?』

「狙撃手に狙われている。隠れてくれ」

『……撃てないか?』

「少しきついな」

 距離がある。高低差がある。狙撃手の数が多い。銃が未だ僕に馴染んでいない。連続精密狙撃ラピッド・スナイプをやるにしても不確定だ。

「戌号、申号が一時的に戦線を持つ、酉号を追って下さい」

『了解だ』


 リカンの返事を受けて、引き金を引く。

 確実に当てられるという確信はないが、威嚇は大事だ。

 当たった。

 スコープの中に赤が映った。

 ドールだと思っていたら人間だったようだ。ならば――

 もう一度、引き金を引く。

 当たった。命には届いていない。胴を狙ったソレは相手の腕に当たった。いや、正確には腕にも当たっていないだろう。だが、それでも十分だった。ムカデを着た腕であれど、対戦車ライフルの一撃は掠めるだけで腕を持って行く。

 メッセージは、『狙っているぞ』。

 流石は同業者だ。僕の言葉は正確に理解して貰えたようで、すっかりと動きが鈍くなってくれた。ここでの僕の仕事はここまでで良いだろう。D.Dに連絡を入れ、『本命』に行くことにする。


「……よし、行こうか、午号」


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告。ガリガリガリクソンの後、売った、ではなく撃ったね。
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