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Doggy House Hound  作者: ポチ吉
猟犬
38/159

交渉

「初めまして、カリス・アロウンです。末永くよろしくお願いしますね」

「……おい、トウジ、説明」

「でぃす・いず・ゆあ・わいふ」

「いぇーぃ!」


 カリスが、いぇーぃ! とやっていた。ノリが良い人だ。


「おい、馬鹿、詳細」


 僕の扱いが酷くなった。酷い話だ。


「政略結婚です。アロウン社との繋がりを持つためです。諦めろ」

「テメェで良いだろうが?」

「家の最高戦力が敵に回るそうです」

「あと、単純にどちらかと言うとシンゾーさんの方が好みですわ」

「――そいつは、どうも」


 シンゾーが耳まで真っ赤にして照れた。


「……」


 そして僕はとばっちりで傷つけられたので凹んだ。







 カリスがやってきてから二日が経った。

 仕事の三日間に関しては、基本的に僕はウラバにいる。流石に片道一日かけてキャンプ地に帰る気はない。

 今は時期が時期なので、僕とシンゾーが交代で働き、イービィーとハワードさん、そしてカリスには留守番をして貰っている。

 僕の予想だと、そろそろ『来る』頃だ。早めに戻った方が良いかもしれない。最終日である明日、キャンプ地方面の仕事を受けるか、周辺の敵性宇宙人を間引きながら帰ろう。

 そんなことを考えながら、僕はドギー・ハウスで夕食を摂っていた。

 今日のメニューはフライドチキンだった。手が油でべとべとになるのも気にせずむしゃぶりつくようにして肉に噛み付く。油でべたつく手でパンを千切り、食う。安い油だ。それが良い。

 と、鳥の皮入りの特製ドッグフードを一心不乱に食べていたルドの耳が起き上がり、入口に視線を向けた。戸惑う様に三回振られた尻尾は、馴染んだ気配だが、ここに居ないはずの人の気配を拾ったからだろう。

 スイングドアを押して入って来たのはシンゾーだった。


「夕飯は?」

「未だだ」


 では、どうぞ。皿に残っていたフライドチキンを献上し、ポテトマンに追加を頼む。程なくしてチキンと大量のフライドポテトが運ばれてきた。

 僕とシンゾーはそれに獣の様に食らい付き、行儀が悪いのは承知で話し出す。


「……来ましたか?」

「あぁ、来ちまったな」

「規模は?」

「タタラ重工の子会社が窓口で――」

「バックに街ですか? 隠す気はありそうでしたか?」

「端から街の職員付きだ」

「要望」

「盗んだスリーパーの返還だ」

「虐待の方は?」

「認めるわけねぇだろ」

「主張」

「『彼等は我が都市の所有物である。直ちに返還したまえ』だとよ」


 思わず手が止まる。良いな。図々しい。手加減の必要が無さそうで大好きだ。


「準備」/「オーケー」

「覚悟」/「オーライ」

「状況」/「ファック」

「ははっ」


 僕は思わず笑った。準備はオーケー、覚悟はオーライ、状況がファック、か。良いね。最高だ。


「それでは、シンゾー?」

「やるか?」

「えぇ、状況開始(ロックンロール)だ」








 僕の生きた時代でも児童虐待は度々ニュースに成っていた記憶はある。

 子供どころか、彼女が居たかも怪しいと言う無責任な立場から言わせて貰うと、教育、或いはマスコミが悪かったのだろうと思う。

 母性本能に、父性本能。その『本能』と言う言葉が拙い。まるで、子供が生まれれば当然の様に子供のことを愛する描写が描かれ、母性と父性は身に着ける、学ぶ『モノ』だと学校では教えない。

 だから実の子でも殺す親が居た。

 人間なんてそんな物だ。社会性を身に着けた結果、自分の子供も最悪は『社会』が面倒を見てくれることに気が付いたから母性本能も父性本能も要らなくなった。本能では無くなったのだ。

 そんな分けで、立場が弱く、後ろ盾も無いスリーパーの子供を利益の為に『使う』と言う発想はそれ程驚く様な発想ではない。利益だけを追求するならば、だが。

 アマズはこの時代では珍しく鉱山を所有している都市だった。と、言ってもただの鉱山ではない。この世界の最重要資源であるツリークリスタルの『根』の鉱山だ。

 本来なら光を栄養として育つツリークリスタルの亜種と言うか、環境適応種、暗い地中で育ったツリークリスタルは通常のツリークリスタルと比べると殆どの面で劣っているが、エネルギー源としての使用をした場合、瞬間最高出力だけは勝っている。

 僕の小隊だと。寅号と辰号の二機はこのクリスタルを核としている。

 そして、そんな地中にあるクリスタルを採掘するには、子供はとても役に立つ。

 身体が小さい。

 だから掘る穴が小さくて済む。

 その程度の理由だ。

 その程度の理由で子供が薄暗い穴の中で死んでいった。使い捨てにされた。

 それを良しとしたのが……いや、スリーパーの子供に限ってだが、推奨しているのがアマズと言う都市だった。

 この資料を纏めてくれた探査犬のパピー、アリスに僕は聞いてみた。


 ――他の街、或いは企業は、その事実を知っているのですか?

 ――あー……ヤな話っすけど、知ってるっすね。ただ、ソレを止めさせると――

 ――亜種の値段が上がる

 ――そいうことっす。スリーパーの猟犬さんには悪いっすけど、スリーパーの人権って結構微妙ですし


 と、言うことらしい。

 安かろう、悪かろうが叩かれるなら、性能以外の部分でコストを下げる必要がある。皺寄せがいったのが労働力で、それを背負わされたのが子供達だった。

 僕は今、そんなアマズの中心地のビルに居る。交渉の為だ。

 ハウンドモデルの頭部装甲が周囲の景色を拾う。十五階建てのビルの前だ。このアマズにおける中心企業、天津鉱業あまずこうぎょう。その入口だ。

 僕等が保護した子供達と、その子供達を集めたキャンプ地の取り扱いに付いての話し合いの為だ。


「本当に、『それ』で行くんだな、テメェ?」


 スーツ姿のシンゾーが胡散臭そうに横を見る。


『えぇ、用心は大事、そう言うことにしましょう』


 その視線の先にあるハウンドモデルから機械を通した声で僕は応じた。


『まぁ、そんな分けで、話し合いはお願いしますよ?』

「……何で俺が代表なんだよ? ハワードで良いじゃねぇか」


 あいつが一番年上だぜ? と、シンゾー。


『カリスを娶った君が一番代表に相応しいんですよ』


 諦めろ、と僕。


「……俺はテメェ程性格悪くねぇんだよ」

『何をおっしゃるやら、見て下さい。この清んだ目を!』

「見えねぇよ」

『そうでしたね』


 まぁ、それでも今後のことを考えるとシンゾーには『こう言う機会』が多く回ってくるだろうから頑張って欲しい。


「……来たみてぇだな」

「やぁ、シンゾーくん! カリスとはうまくやっているかい?」


 シンゾーの言葉に合わせて映像が動く。視界に入ったのは二人の男だった。

 今日も今日とて眼鏡を引き連れたエドラムさんが声を掛けて来た。


「……お義父さんとでも呼んだほうが良いか?」

「はっはっは、そこら辺は好きにしたまえ。それで?」


 シンゾーが逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。そんな状況だ。

 シンゾーが助けを求める様にハウンドモデルを見る。僕は何も言わない。


「俺には勿体ねぇ良いだ」


 シンゾーのそんな言葉にその場の三人は満足げに頷いた。







 通されたのはビルの最上階にただ一つだけ造られた部屋、全面ガラス張りの会議室だった。

 上座には立会人であるエドラムさんが座った。

 こちら側はシンゾーとハウンドモデルだけが座る。静謐な会議室にその様は酷くシュールに映った。

 向こう側もそう思ったのだろう。

 アロウン社社長、エドラム・アロウンと言うビッグゲストのインパクトを持ってしても、そのインパクトは消し切れない。

 そんなあちら側の代表は天津鉱業の社長と、ここアマズの市長の二人だ。でっぷり太った狸の置物が二つ並んでいると思っていたら動いて喋ったので凄く吃驚した。つまり、向こうもそれなりにインパクトはあると言うことだ。


 ――それでは、始めましょう。


 誰かがそんな言葉を言った。


「ほな、はじめましょかー。と、言うてもな、エドラムはんにお時間とらせるん言うのもアレやから手短にいこか、ほれ」


 タヌキ社長が言って、机の上に写真をばら撒いた。キャンプ地の子供達が映っていた。


「あんさんらのこと、洗わせてもらいましたわ。猟犬に牧羊犬の仔犬、えらい強いわ。ほら、ワテ何かそう言った荒事とは無縁でっしゃろ? えらい怖いわー。……でも、これや」


 写真の一枚をとんとん、叩く。建物の中で眠る子供が映っていた。望遠レンズで撮られた写真ではない。つまり――


「あんさんらが幾ら強ぉてもな、全部は守れん。ほやから、な。分かるやろ?」

「俺達は話し合いにきたんだがよ、何だよ、これは。えぇ、答えろや、何の真似だ(・・・・・)


 ぎしり、と空気が軋んだような錯覚。シンゾーが、牙を剥く獣がそこには居た。


「おぉ、怖ぁ、止めてぇな」


 だがタヌキ社長は動じない。いや、あちら側は、動じていない。全員ニヤニヤ笑っている。出来る分けがない。優しい優しいこの甘ちゃんには何も出来る分けが無い、そう確信しているのだ。


「交渉は決裂で、良いな?」

「いやいや、何を言ってますのや、お兄ちゃん。ほら、盗んだ『物』を返さへんと大変やで?」

「そやそや、大変やぞー」


 タヌキ二匹はとても楽しそうだ。残念だが、僕はあまり楽しくない。

 シンゾーが色々と限界だ。


「俺達は話し合いに来た。それをテメェらは蹴った。それで良いな?」

「あーっ! もう、メンドクサイやっちゃなぁ! ソレで良いゆうたらオドレはどないする気じゃボケェ! 強がるんも良いかげんにせぇやっ!」

「戦争だ」

「ぷははっ! おお、おお、良う吐いたわ! やったるわ!」

「――、」


 その、瞬間、シンゾーが……ニヤリと笑った。


「トウジ」

『いや、もう少し話しましょうよ。脅しの種も頑張って集めたんですよ?』


 ほら、このタヌキ社長とタヌキ市長が実は恋人関係にあるとか言う奴の証拠、グロ画像とか見たくも無いのに、しっかり確認したんですよ? 使いましょうよ。


「後でチェーンメールで回してやれ」

『……』


 鬼だ。


「行くぞ。準備は?」/『……オーケーです』

「覚悟は?」/『オーライ』

「状況」/『糞ファック』


 何時かと同じ問いかけ。それでも問う方と、答える方が代わった問いかけ。それが成されて――


状況開始(ロックンロール)だ、やれ(・・)


 僕は動き出した。


 十五分が経った。


「ぷっ、カッコつけたは良かったけど、何も起こらんやんけ」


 タヌキ市長のその一言で会議室の中に怒号が響く。主に謝るなら今の内だぞ? 粋がるな。土下座だ土下座! そんな内容だった。

 それを勝ち誇った様子で見ていたタヌキ社長の端末が鳴る。心に余裕がある、タヌキ社長は、その電話に出て――


「今すぐ止めさせろやぁ!」


 シンゾーに掴み掛かった。


「離せよ。折るぜ?」


 掴み掛かられたシンゾーは何でもない様にタヌキ社長の指を掴んだ。そして警告と同時に折った。警告の意味は特にない。多分、言ってみただけだ。


「~~~~~~~~~~っ!」


 声に成らない悲鳴を上げる社長。痛みに耐える様に脂汗を流しながら、それでもシンゾーを睨みつける辺りは、流石は社長と言った所だろうか?


「ど、どないしたん、自分? あのお兄ちゃん、何かやったんか?」

「家の倉庫があちこち襲撃されとるんや! やけに腕の立つトゥースの女が率いたモノズの部隊にッ! い、今すぐ止めさせろや! 今っ、今なら、まだ――」

「アホか、テメェ」

「は? はぁぁぁぁ? アホはオドレやろが! こんなことをしてタダで済むと――」

「いや、アホはテメェだ。今は戦争中だぜ?」


 ぽかんとした顔のタヌキ社長とタヌキ市長。その頭の中には先程の会話がリフレインされているのだろう。


 ――戦争だ

 ――ぷははっ! おお、おお、良う吐いたわ! やったるわ!


「「あ、アホはお前やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!」」


 スーパータヌキブラザーズが大絶叫した。


「あ、あんな一言で、あんな……ッ!」

「俺が宣戦布告した。テメェ等は受けた。開戦だろ?」

「ッ、の……! ジャリがッ! 戦争いうんならこの場でぶっ殺したるわ!」


 タヌキが吼えて、幹部に紛れて居た荒事担当が懐から銃を取り出す。


「あぁ、そうだ、トウジ。良いことを教えてやるよ」

『? 何ですか、このタイミングで?』

「実は俺も性格が良くねぇんだわ」

『知ってますが?』


 何を言って居るんだ? そんな言葉が続くよりも早く、シンゾーが動き出す。


「仕事だ、起きろや、牛頭ごず馬頭めず


 引き裂かれるズボンの裾。それは良い。ムカデの脚部装甲をズボンの下に着込んでいたのだろう。そのまま、シンゾーが床を滑り、壁を駆け、天井を走って手頃な兵士に襲い掛かる。――これが問題だ。


『モノズ?』

「そういうこった。俺が契約出来るのは二機じゃなくて、四機だ」

『詐欺師』

「褒めてくれて、ありがとよ」


 言いながらシンゾーが兵士を拘束する。

 顔面にエルボーを叩き込み、武器を奪う。他の銃口からの盾にして使い最終的に会議室を覆うガラスの一面に頭を近づける。


「ほら、さっさとやれ(・・)

『ここまで追い込まなくても良いのですが』

「パピーとは言え、俺も牧羊犬だからな、習性だ。やれ、猟犬」

『がうがう』


 僕はシンゾーの指示に従い、会議室から三百メートル(・・・・・・)離れたビルの屋上に伏せたまま、ゆっくりと引き金を絞った。


「ッ!」


 瞬間。会議室のガラスにクモの巣が張る。狙撃だ。シンゾーが押さえつけた兵士から悲鳴が上がる。だが、それだけだ。


「は? は、はは、あ、アホかっ! 防弾ガラスに決まって――」

『あぁ、知っているよ』


 僕はタヌキ社長の言葉を遮る。

 そう、僕はちゃんと知っている。

 あのガラスが防弾ガラスであることを知っている。間に樹脂板が入っており、衝撃を逃がす構造のソレは弾丸を通さないことを知っている。だから二発目だ。撃った。室内に二発の弾丸が転がり落ちた。


「…………………………アホな」


 タヌキ社長が呟いた。可愛そうに。兵士はもう、何も言えない。訪れる未来に震えている。


『……』


 僕はソレを無視した。引き金を引く。ぱんっ! と音を立て兵士の頭が割れた。


「ほぅ、ワンホールショット、と言う奴かね?」


 静まり返る部屋の中、面白そうな様子のエドラムさんの声が響く。酷く場違いな声音だった。


「なっ、何でっ! 狙撃手は、猟犬は、ここにっ!」

『灰皿』


 その問いに答える義理は無い。三回引き金を引き、机の上の灰皿を撃ち抜いた。悲鳴が上がる。


「う、動け! 動けば、こんなん当たる分けが――っ!」


 そう叫んで走り出した兵士の頭が吹き飛んだ。

 出入口が騒がしくなる。中の異常を察した部隊が突入し――シンゾーが蹴りで叩き出した。盗んだ手榴弾をあるだけ転がし、ドアを閉める。爆発音。きぃ、と扉が開く。そこには死体があった。

 また兵士の頭が吹き飛ぶ。僕が撃った。防弾ガラスは徐々に性能を落として行き、今では二発の弾丸で撃ち抜けるようになった。シンゾーが奔り回り、翻弄し、時に同士討ちをさせたりしながら僕の居る側に兵士を転がす。僕はソレを撃った。

 そうこうしていたら荒事担当者が居なくなった。

 戦争相手の皆様は部屋の隅で固まっていた。タヌキ社長の端末からは襲撃報告が叫ばれ、対応を求められ続けている。

 と、子号から通信が有った。


 報告:襲撃なう


 ネットに上げると炎上しそうなタイトルと共に爆発する工場の写真が送られてきた。


「トウジ、兵士が居なくなったぜ?」

『ん? あぁ、では次はそこの専務のウメミチさんですね』

「なっ! 何故っ!」


 酷く痩せた中年、指名されたウメミチさんが叫び声を上げた。


『貴方が一番代わりが利く。終戦交渉の時のわだかまりが少ないんですよ』

「わたしはっ! 社長の方針には反対だった! 本当だ! スリーパーを差別する気なんてっ! た、頼むっ! 止めて! 止めてくれ!」

『僕では無く社長さんと市長さんへどうぞ。……残り十五秒』


 十五秒後、ウメミチさんがどうなったかは言わないでおこう。

 ただ、僕は引き金を引いた。

 こう言うのでは、わざと狙撃をした方が恐怖が煽れる。

 タヌキ社長たちは震えて声も出せない。

 ……が、それでもまだ僕達が聞きたい言葉を言ってくれそうにない。仕方が無い。


『社長さん』

「――ふへ? は? はぁ? ワテっ? あ、アカン! ワテはアカンで、兄さんっ! ワテだと、ほら、あの、あれっ! そや! 終戦交渉いうんが――」


 そうかもしれない。それでも――


『脅しの効果が薄そうですので』


 僕は淡々と言った。


「っな! え、エドラムはん! この兄さんたちを止めたって下さい! めちゃくちゃや!」

「そうは言ってもね。私が頼まれたのは立会人だ。口出しは出来ないよ」

「やまっ、山ちゃん! 呑もう! この兄さんたちの要望っ、呑もうやっ!」

「……せやかて、メンツいうもんが……」

「メンツもカカシも無いわ! このままだとワテ、ワテがっ! ――に、兄さん! ワテが約束する! ワテがっ! 呑むっ! せやからっ――っ、後生やぁ!」


 僕は引き金を引いた。

 市長さんが爆ぜた。


『社長さん、今の言葉は?』

「ホンマやっ!」


 社長さんの絶叫が響く。シンゾーがにやりと笑う。


「それじゃ、終戦交渉を受け入れてやるよ、敗北者」


 宣言通りにシンゾーも性格が悪かった。

 蜘蛛の巣が張った会議室で行われた終戦交渉は、まぁ、控えめに言わなくても脅迫だ。

 それでも、エドラム・アロウン立会いの下で交わされたので、社長さんは簡単には破れないだろう。







 天津鉱業から出た所で、僕とシンゾーは落ち合うことに成っていた。

 イービィーとモノズ達が無事に撤退したのを確認しながら、待ち合わせの場所に向かうと、シンゾーがエドラムさんに頭を下げていた。


「今日は、ありがとうございました。あー……お義父さん」

「――ふむ。良いね。初々しくて。言いなれない感じが良いよ。私は君が気に入った。だから質問だ。シンゾーく……いや、シンゾー。君が怒ったのは子供の為だろ? その怒りは正しい、それでもその怒りを貫くのは大変だ。君は何時か絶望するかもしれないよ? それでもその生き方を変える気には成らないかい?」

「……絶望は、諦める理由にはならねぇ」

「正義だけでは無理だ。今回の様な、いや、今回以上の汚れ仕事もある」

「問題ねぇ。正義の味方に憧れる年齢でもねぇからな。それにそういうのが得意な相棒が居る」


 シンゾーが背後に立つ僕を親指で刺す。エドラムさんの視線が向く。

 コッチミンナ。


「そうだな、トウにゃんが居た」

「……」


 納得された。酷い話だ。


「おぉ、そう言えば、こっちのムカデに入っているのは誰なんだい? 声がトウジくんの物だったから騙されたが、アレはマイクで喋っていただけなのだろう?」

「ん? あぁ、そうか。おい、もう良いだろ。外せ」


 シンゾーの言葉に従い、彼女・・はゆっくりとハウンドモデルの頭部装甲を外す。

 それを見て誰よりも驚いたのはエドラムさんだった。


「あ、あ、ああ、そんなっ……!」


 言葉を失うエドラムさんに頭部装甲を外した彼女は言う。


「……アイム・ユア・ドーター」

「ノォォォォォォォォッ!」


 打ち合わせ無しでこの小芝居が出来るこの親子のことが僕は大好きです。


 じわじわお気に入りが増えていて嬉しいです。

 ありがとうございます。

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古き良きSTA◯RWARS
ノリも察しもいい奴らだよホントw
[良い点] 最後で呼吸困難になりました
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