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Doggy House Hound  作者: ポチ吉
猟犬
1/159

スリーパー

 僕には記憶が無かった。

 僕には過去が無かった。

 スリーパー。つまりは、コールドスリープで『過去』から『今』へやって来た一方通行のタイムトラベラー。それが僕だった。

 スリーパーの八割は記憶喪失で、僕は多数派だった。

 だから記憶が無くて過去が無い。

 そんなわけで起きたばかりの僕は自分の名前すらなく、ここが僕の生きた時代から五百年後だと聞かされても、特に何も思えなかった。

 まぁ、そんなものだ。記憶が無いから、過去が無い。過去が無いのだから、今よりも前に『僕』は存在しない。今が一年後だろうが、五百年後だろうがあまり変わらない。


 トウジ。


 それが今の僕の名前だ。名付けたのは僕の担当官であるユーリ。

 美しい肉食獣。そんな言葉が良く似合う彼女はこの時代の僕の親であり、先生だ。僕の担当官なので、兵科は当然、歩兵。年齢は僕と五百歳差の十九歳。つまり、生きた年数は僕と同じだ。ママは同級生というわけだ。どうしよう。薄い本が厚くなりそうな字面だ。

 ……自分の名前すら忘れた癖に、こういう言い回しを覚えているということから、僕という人間がどういう人物かを察して欲しい。


 兎も角。僕の事は兎も角として、だ。

 そんなユーリ曰く、『トージ』では無く『トウジ』。そこが大事なポイントだとのこと。非常に残念だが、僕には良く分からない。分からないの、だが……うっかり『成程』とか言ってみたところ、ユーリのテンションが凄いことになってしまったので、取り消すに取り消せず、訊こうにも訊けなくなってしまった。何時か分かる様に祈ろうにも、どの神様に祈ったら良いのか分からないので諦めた。

 こういう時、唯一神を信仰している方々は迷わなくて良いな、と思う。典型的な日本人であった僕はその辺りが雑だ。


 日本人。


 そう、僕は日本人だった。少なくとも五百年前は日本に住んでいた。だから漢字も書ける。先週の休みはノートに自分の名前を書いて暇を潰してみたりもした。果たして僕の名前は『藤次』なのだろうか『東司』なのだろうか、いや意表をついて『冬至』かもしれない。そんなことを考えるのは結構楽しかった。

 訓練はそれなり程度には、辛い。息抜きは大切なのだ。

 まぁ、そんな感じで僕は五百年後の今を生きている。

 それなりに楽しいという事を、顔も覚えていない両親には報告しておこう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 記憶が無いのに宗教関係の知識があるのが違和感、後々説明があるのかもしれないがまず最初に説明あって然るべきでは あとコールドスリープくらいの科学力あるなら個人データぐらい一緒に残しておく…
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