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秘密学園で青春を送ることにした

作者: みなみ 陽

秘密学園公式ホームページより一部抜粋

校則

1.自ら秘密を他生徒に打ち明けることを禁ずる。

2.外界と関わる行為、または学園が用意するインターネットサービス以外の使用を禁ずる。

3.生命の危機を脅かす事態でない限り、学園の外に出ることを禁ずる。

4.暴力行為、淫らな行為は禁ずる。

ポイントについて

1.欠席、遅刻、早退、欠課などは秘密ポイントから1引く。

2.校則違反などがあった場合、秘密ポイントから1000引く。

3.未成年に飲酒、喫煙等をさせることを禁ずる。させた者は秘密ポイントから100引く。

※させられた側も状況によっては減点。

4.先生への口答え、暴力等は一切認めない。それらの行為が確認した場合、秘密ポイントから100引く。

5.授業態度(私語、睡眠等)で注意された場合、秘密ポイントから10引く。

6.提出物の遅れ、未提出など確認された場合、秘密ポイントから10引く。

7.秘密ポイントはそれぞれの抱える秘密から算出される。名前、生年月日、出身地等も秘密とされる。

8.加算は他生徒の秘密を暴いた場合のみ、救済は与えない。

9.退学処分となった者は、学園での記憶は削除される。

※学園での記憶のみ。それ以外の記憶は削除しない。

10.赤点及び追試は秘密ポイントから1引く。


 我々は、生徒皆様の素晴らしい学園生活をサポート致します。人種、性別、思想、年齢の異なる皆様方が安心して生活出来るよう様々な施設を用意しております。

 また、2年生からはそれぞれの進路に応じた選択授業があります。進級目指して頑張りましょう。


***


 人間、誰しも人に言えない秘密が1つや2つあるだろう。その秘密は、もしかしたら自分にしか影響のないものかもしれないし、他の誰か、国、世界まで影響してしまうものだってあるかもしれない。ただ、どんなに小さくたって、大きくたって、誰にも知られたくないと思えばそれは秘密だ。

 俺にもある。人には言えない、いや言いたくない秘密が。俺の秘密は、秘密にしなければただの過去。だが、誰にも知られたくない過去だ。だから、それは俺の秘密になったのだ。消えることもなく、ただ永遠にそこに存在し続ける。バレたらどうしようとか、もう皆知ってるんじゃないかとか。その心の中のモヤモヤを打ち消すために、俺はこの学園に来た。


 それぞれの国のトップが管理する『世界個人更生機関』の中に存在する学園。それは、通称『秘密学園』と呼ばれる。いつ、誰がそのように言い出したのか、それは不明だ。俺が見つけた時、ネットで既にそう書かれていたのだから。

 その秘密学園が秘密学園と呼ばれるようになった理由は、公式ホームページを見て理解した。でかでかと自慢気に書いてあった売り文句。


『我々は、貴方の抱える秘密を消し去るチャンスを与えます』


 秘密学園は、個人の抱える秘密をポイントに換算するらしい。そして、生徒はそれぞれの秘密を探り合う。秘密を暴いた者が、その秘密ポイントを手に入れることが出来る。全ての秘密ポイントを失った者は退学。卒業までの3年間、無事秘密ポイントを維持することが出来た者だけが秘密を消して貰えるらしい。過去のデータを見ると、入学者100人に対し卒業者は4人、もしくは5人。それぞれ違いはあるが、卒業した人は一桁しかいなかった。結構シビアでサバイバルなのだろう。

 こんな夢みたいな話、ありえないと思われるかもしれない。しかし、現実としてそこにある。ルールや校則も独特で、正直学校の様子は入学し体験しなければ分からないと思った。ホームページに掲載されていたのだが、学園生活は普通の高校生活と変わりないように思えた。テストとか行事とかあるみたいだし。

 秘密を守り切れれば……それでいい。


 俺は、先月学園から配布された端末をポケットから取り出した。手帳型ケースで、黒革が使用されている。スマホと変わらないが、残念ながら外の世界との交流やネットを使うことは出来ない。その代わり学園だけのネットサービスや施設があるらしい。まぁ、そんなには困らないだろう。

 向こうは、郊外にある空き地に飛行機を用意してくれているらしい。その場所を確かめるために地図を開いてみたのだが、この校章がダサ過ぎて恥ずかしい。こんなのより、兄貴が描いてくれた絵の方がいい。モチベも上がる。

 これ待ち受け勝手に変えても怒られないよな?

 俺は端末をいじり、そんなこと考えながら指定された場所へと向かった。


***


 今、俺の目の前にあるのは世界個人更生機関の門。勝手に願書も出して、合格通知を貰った以上入学は絶対だ。だが、いざこれを目の前にすると躊躇してしまう。最長3年間はここに拘束される。その間、最低限の自由。覚悟はしていても、怖い。


「邪魔、なんだけど」

「ぐおっ!?」


 刹那、背中に激しい痛みが襲う。背後からの衝撃に対応しようか、しまいかで少し躊躇した間に俺の体は地面に激突した。

 そして、上半身だけ門を跨いだ。

 ああああああああああああああああああ! もっと爽やかに門をくぐるつもりだったのにいぃぃぃ!桜散る道を儚げな笑みを微かに浮かべながら、春の暖かな陽気を感じつつ爽やかに門を跨ぐ予定だったのに。桜は植えてなかったから、それは無理だったけど。他は出来た! 絶対に出来た!


「どんくさ。男なら避けるもんだと思ってた」


 俺の正面には、金髪の化粧をしたチャラそうな女が腕を組んで立っていた。俺より何個か上だろうか。しかし、心配する素振りはない。一体誰のせいでこうなってると思ってるんでしょうか、この方は。


「蹴りましたよね!? 絶対蹴りましたよね!?」

「邪魔だったし。まぁ、あんたうちより年下っぽいから仕方ないか。それじゃ」


 女は、手をヒラヒラさせて歩いて行こうとする。


「暴力行為だ! こんなの許されない!」

「まだここでは校則は適用されない。残念だったわね」


 俺の声に反応して、女は顔だけこちらに向ける。


「手を差し伸べようとは思わないんですか!?」

「思わない。あの程度のドロップキックでそんな醜態晒す男なんて、自業自得でしょ」

「ドロップキックしたんですかぁ!? 通りで滅茶苦茶痛い訳だ! やり過ぎです!」

「ちょっとイライラしてたのもある。いい所にサンドバックが立ってたし、ここしか発散する場所ないなぁって思って」

「どんな感覚してるんですか! 俺もう一生恨みますから」

「あっそ。どうぞご勝手に」


 女はため息をついて、歩いていく。ため息をつきたいのは、こっちなのに。てか、マジで助ける気ゼロなんだ。あ、そういうね。てか、あの人も新入生ってことだよな? ってことはこれが未来永劫黒歴史となっていじられ続ける!?


 駄目だ。それだけは駄目だ。決めた。俺絶対あの人の秘密暴くわ。最初の脱落者にしたるわ!

 そう決意を固めた。そろそろ地面とお友達になるのは終わりにしようと、俺は手をついて、体を持ち上げていく。グッバイ地面。俺は人間と友達に――


「ふわっ!?」


 顔を再び上げた時、目の前には馬の被り物をつけた何者かが俺に手を差し伸べていた。その衝撃で俺は、また地面と友達になった。結果、顎を強くぶつけた。


「いってぇ……」


 今日はなんかついてない日なんだろうか、俺的に。入学式という素晴らしい日に、最悪だ。

 てか、目の前にさっきいたあの被り物さんは一体なんだ。幻覚を見たのだろうか。恐る恐る顔を上げると、やはりそこには変わらず手を伸べてくれている馬さん(適当なあだ名)がいた。

 馬さんはただ無言で、そして真顔(?)で手を差し伸べている。まさか、ヤバイ宗教の類だろうか。この手を握った瞬間、俺も馬の被り物を被せられて……いやいや、そんなアホな。馬さんは優しい人なのだ。ちょっと変わってるだけで、優しい人に決まってる。


「ありがとうございます……」


 俺は、馬さんの手を握った。その時だった。何故だか、懐かしい感じがした。自分でも意味が分からない、謎の感覚。馬さんと会ったことでもあるのだろうか。その馬さんの下の顔が唐突に気になって仕方がない。

 俺がそんなことを思っている間、馬さんは俺を引っ張り簡単に立つことが出来るよう補助してくれた。良かった、宗教ではなかった。


「いや~たまげましたなぁ……はっはっは」


 馬さんの背丈を確認する。俺と同じくらいだろう。しっかりスーツを着て、綺麗な革靴を履いている。馬の被り物でそれは腹筋崩壊レベルに値する。しかし、笑ってはいけない気がして唇を噛み締め、必死に耐えた。


「ん?」


 なんか、馬さんの視線を全身一杯に感じる。めっちゃ見られてる。顔は見えないけど、視線の圧が強過ぎる。めっちゃ怖い。

 すると、馬さんは急にクルリと方向転換をして施設の中へと入っていく。

 たてがみがそよ風に揺れている。春の日差しが、馬さんを優しく照らす。そして、何も言わずしてただ去っていくその姿に俺は――困惑していた。

 なんだ、なんだこの学校は……まともな奴ゼロなのか? まだ二人にしか会っていないが、これは序の口な気がした。これは中々楽しい、いや苦しい学園生活になりそうだ。秘密の奪い合い、キャラの濃さ、疲れる要素しか見当たらない。


「勘弁してくれよぉ……あ~」


 普通とは違う、秘密だらけの学園生活が始まろうとしていた。最後に笑っているのは誰なのか、泣きを見るのは誰なのか。

 ここの学園生活は仲間とキャッキャウフフルンルンではない。敵同士の睨み合いだ。食うか食われるか、殺すか殺されるかに等しいだろう。他の皆がどんな秘密を抱えていようが知ったこっちゃない。

 

 最後に笑っているのは、この俺だ。俺は最後まで笑っている立場でいる。笑って嗤ってやろう。最後に残るのは俺だけでもいい。俺の秘密さえ消えてなくなればそれで――いい。

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