七夢 異世界:Ⅶ/Ⅱ
俺は失恋を経験し、引きこもるようになった。だから、この17年間で見てきた人間はそう少なくはないが、同年代と比べたら多くない。しかし、そんな俺でもわかる事が一つある。
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『人間というのは多様性を持ち、それを認め合うもの』、そう思っていた。だが、『俺』はとある失敗を機として挫折し、甘えて、諦めて、放棄し、ただ怠惰に自堕落な生活を送っていた。
『俺』は彼をもう一度社会に戻してやりたい。その為なら『俺』は如何なる手段も問わない。何故かって?それが最良だと考えているからだよ。そう、例え何かを壊しても、殺しても、それしか道がないなら進むしかない。そうやって人間の社会が成り立って来たのだからーーーー。
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「この大木の妖精、ユグドラシルデス!」
「はぁ……」
俺のつれない態度が気に入らなかったのか、頰を膨らませながら、プンスカプンスカという擬音が似合う様な顔で、怒号を飛ばしてくる。頰を膨らませて声を出すって、普通できないと思うんだが……、さすがなんでもアリの異世界。
「はぁ……って違くないデスか!?聞いたの はあなたなんだからもっと驚くべきではないのデスか!?」
「そんなこと言われても……」
そんなこと言われても、こんな展開は軽く予想してたし、妖精ってのも見れば分かる。逆にこれで妖精でなければ、怖い。
ユグドラシル……聞いたことはあるんだけどどうも思い出せない。普段だったら思い出せる様な気がするんだけどな……本当に今日は調子が悪い。
でも、今までの魑魅魍魎達に比べたら、こいつは数十倍マシな方だし、うるさい所を省いたら美少女……うん、許容範囲内。
「オイ!聞けヨ!」
「お、おお、すまん、でなんだっけ?スリーサイズの話だったか?」
「そうデス、そうデス。昨今の貧乳業界は多少膨らみ過ぎてると思……ってんな訳ないでしょう⁉︎軽い口調でセクハラしないでくだサイ!」
「軽いからこそのsexualharassmentなんだと、お兄さん思ったりしてたりしてなかったりしてたりしてなかったりと思いきやしてるよ」
「なんだコイツ!」
うむ、良い。とても良い。美幼女成分が急速チャージされていってる気がする。
「何、恍惚な表情でヨダレたらしてるんデスか⁉︎」
「おやおや、失敬失敬。……では、改めまして……俺、武藤英明!よろしくな!」
俺は現実でもしたことのない様な、満面の笑みとサムズアップを彼女に向けた。
そんな俺に対して、ユグドラシルとやらは一瞬驚いた様な顔をし、また呆れ顔に戻りため息を一つし、疲れたっぽい声で、
「もう……なんなんデスか……いい加減疲れましたヨ……そっちの要求は何デスか……」
「えっ、要求……?」
これまた、驚いた顔で俺を見つめるユグド某。ふむ、やっぱ金髪っていいな……。
「よ、要求を呑む前に、その目を!その視線をどうにかしてくだサイ!」
白く透き通る様な肌をした美幼女が、頰を赤らめ、怒鳴りつける。花も恥じらう以前に、ミスユニバースも裸足で逃げ出すほど、可愛い!
「だから、直せヨ!」
俺は『怒った顔も可愛いねー』と言うのに対して、怒ったら誰でも怖いだろ……と思っていた。しかし!うん……うんうん……うん!可愛い!
「無視すんナ!」
「痛い!痛い、痛い、痛いってちょ、ちょっと待って、顔に往復たいあたりしないで!」
正直、それほど痛くない。逆に肌が触れ合う時点で……ごちそうさまです。合掌……。
「おら」
「ああああ!目が!目がああああああああああああああああ!」
「ふふふ、ざまあみろよデス!目は急所デスし、視界を塞げば調子こいたことも言えないはずデス!」
「あぁ!ら、らめぇぇぇぇぇぇ!」
「へっ、変な声を出すナァァァァァァァァァ‼︎」
あぁっ!お、奥までぇぇぇぇ!
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ひとしきり騒いだ後。
正座をさせられ反省している俺の斜め前から、ユグドラシルとやらは疲れ切った表情で、弱々しくも羽をぱたつかせている……。
「…………なんか、すいませんでした……」
「本当ーに!本当ーに、反省してマスか⁉︎」
「はい……迷惑かけてすいませんでした」
俺はそっと、頭を地面に下ろした。
「本当に反省してる様デスね?……まあ……私も、やりすぎたと…………思いマスし…………ごめんなさい……デス…………」
可愛い‼︎じゃない、これじゃ話が進まないだろ!そうだ……俺の目的を思い出せ。夢の脱出、俺の撃破。そうだよ!どんだけ脱線してんの⁉︎
「話を戻しますが……要求は……なんデスか?」
「要求?なんのこっちゃ?」
「はあ?じゃあ何でここに来たんですか」
「んな事言われてもさ……」
要求とかしらねぇよ。とか言いたいけど、なんかユグピーは顎に指を添え、ブツブツ言いながら何かしら思案している様だし……そもそも、俺の夢のくせに理解できない事が多すぎなんだけど?
鍵とか、要求、ユグドラシル。
全っ然、わかんないんですけど?俺は知らないところで何か情報でも仕入れてんのか?夢遊病とか……?はっ!夢を見てるこの間、俺は妄想を現実に変える力なぞに目覚めたり……うん、ないない。ふひひとか言わないし。
俺が妄想にふけっている間に、ユグたんが問いかけてきた。
「質問デス。あなたはどこから来ましたか?……真剣に答えてくださいヨ?」
これを真剣に答えなければ、フラグがなくなる様な気がするな……でも実際、この世界で日本語が通じてる時点でおかしいと思ってたんだよ。
俺の夢って現実に忠実なんだよ。てことは常識的に考えて、異世界じゃ日本語が通じるわけがないんだよ。
もちろん、俺の夢だし、俺自身の考えている事の無意識の寄せ集めな訳だから、あり得なくはない話なんだけど。
それにしては、不可解な点が多すぎる。
まず一つ目として、俺の存在。これは俺自身から出てきた物ってことはわかった。こいつが俺の悪夢の生みの親って事も。
それでもって二つ目、俺の知らない言葉。鍵。あの時は先走って脱出の鍵だなんて思っていたが、それも怪しいもんだ。
あいつは何を考えているかも分からないし、俺の思考も読めるときたもんだ。
そもそもわからないのが、俺が言っていた『未だ鍵は見つけられず、か……』この言い方だと、まるで俺が鍵を見つけるのを望んでいるかの様だ。
本当に何を考えているか分からない。そもそも、なにが目的でこんな事を……中二病っぽいこと言ったと思ったら、多少大人っぽくなってた気がする。あいつも成長するのか?それは関係ないか……せめて、何か知っている人物さえいればな……。
「本当に話しきけヨ!」
「ああ……ごめん」
「え、なんか……テンション下がってませんか?自分だけ高いと恥ずかしいのデスよ……」
「す、すまん。そこまで落ち込むなよ。……可愛い顔が台無しだぞ☆」
「……キモい」
「表でな」
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「まったく。これじゃあ話が進まないじゃないデスか」
「それはお前が、風魔法?みたいなの使って転ばせまくるからだろ!」
「さあー、何のことだかわかりかねますネ」
「このやろぉぉぉ……っ……」
たて続けにフルボッコされた俺はもう限界。擦りむいたし。せっかく満面の笑みで褒めたってのに……キモいとか……俺のメンタルは強くないんだぞ……!
風の魔法とやらで足を浮かされ、前に後ろに、バランスを崩して。頭を打ったり、腰を打ったり、顔面から勢いよくスライディングしたりで、体も心ももうボロボロ。
こいつは手加減を知らないらしい。というかこっちの常識が通用が通用しないなんて、異世界転生モノなら当たり前じゃないか。魔法しかり、法律しかり、変な妖精しかり。
逆から言ってもそうだ。異世界民からしたら、俺たちはどう見たって変人中の変人。
俺たちの方がおかしいって事になる。
もしかしたら、こうやって暴力をはたらくのも、挨拶だったり……はしないだろ……それはない。
……! よくよく考えたら、こいつ、超都合良くね?
だって、ちょろい、知能が低い、俺に怪我を負わせた、責任問題。
ふ、ふふ、ふはははは!完全に、完全に優勢!こいつは当分、このネタで言うことを聞かせられる。勝った、勝ったぞ!
「それよりも、私の質も 「んん〜?それが人に物を頼む態度なのかい、妖・精・さん。それも怪我をしている人に。あれ〜?怪我を負わせたのは誰だろうな〜?あ〜痛いな〜、すごく痛いよ〜。僕もう死んじゃうかもしれないな〜、うーん、精一杯の謝意が見られれば、少しは痛みも、引くんじゃないかなー?あー見たいなー、精一杯のしゃ・ざ・い」
悔しそうにこちらを睨んでくる。顔がみるみる赤くなっていく様は、それはもう、悦楽の極み、快楽の最上級。俺は怖いね。こんな快楽にはまってしまったら、戻れない気がする。くくく、最高だぁ!
「うぅぅぅ〜〜…………ご、ごめんなさい……」
「ん〜?声が小さくて、聞こえないな〜。なんて言ったか、もう一度」
「うううう〜〜!すいませんでした!」
「うん、態度がおかしいぞ。やり直し」
ふっふっふ、自分の事ながらドン引きだぜ……! ん? プルプル肩を震わせてるぞ。またあの表情でも見せてくれるのかな?
ニヤニヤとユグっちを見つめていると、勢い良く顔を上げ、その可愛い口を開け、
「そもそも、セクハラしたのはあなたでしょ!」
「チッ」
「舌打ちした! 舌打ちしましたヨ! どういうつもりなんですか!セクハラにセクハラを重ねて……! このセクハライバー!」
怒号を飛ばしてきた。気づいてないと思っていたのに気づかれたし、不名誉な称号までもらってしまった。くそう! お返しがしたいが、完全に劣勢! あー、頭が回る学園ラブコメ主人公なら、含みのある言い方とかで、言い返せちゃうんだろうな。
残念、俺は無能、無職(一応学生だけどね)で無知な、ムチムチもイケるやつだぞ。どこに主人公要素があんの? 異世界転生してる事?なにいってんの? 夢ですよ、コレ。夢、DREAM!
いわゆる、異世界への憧れが溜まりすぎて、脳みそ中で処理中ってことなんだろう。
俺も引きこもりによる、マイナス感情から生まれた潜在意識みたいなものじゃないのか?
「ほんと、人の話を聞かない人デスね……もう慣れちゃいましたヨ」
「すまんな、反省はしていない。けどさ、聞きたいことが山の如しなんだよ、俺」
「はぁ、いいデスよ、聞いても。……それに、こんな阿呆が私を狙ってたら、それこそおかしい話デスし」
「なにいってんだ?」
「なんでもないデス。で、聞きたいことはなんデス?」
「ああ、まずは…………そうだな、ここはどこだ?」
「ここはミッドガル、俗に言う人界。そしてここはミッドガルを貫くユグドラシルの幹。要はミッドガルの中心地デス」
「何言ってるかじぇんじぇん分かんない」
「ダメだこいつ」
「仕方ないじゃんか、なんも知らないんだぞ」
「はあ〜、じゃあいいですか?ここがミッドガル、上が神の国アースガル、下が死の国ヘルヘイム。分かりましたカ?」
「ん〜、なんとなく。てかさ、もう少し詳しい説明頼める?」
「はい、ミッドガルはさっき説明した通り、人間たちが住む場所。アースガルは神様たちの住む場所。ヘルヘイムは死後の国デス」
なるほど、仕組み的にはここも、日本も同じってことでいいのか。
ミッドガル→現世、アースガル→天国?、ヘルヘイム→地獄。こんな感じか。天国って表現も少し違うかもな。天国は天使の住む場所だろうし、神と天使を同一視というのも違う気がする。
まあだいたいは分かったし、まだまだ聞きたいことはあるんだよ。
「はいはいはーい! もう一個質問ありまーす」
「なんデスか?」
「これは俺の夢だよね?」
そう、夢。これは俺の夢だ。こんなわけのわからない場所に、寝てるはずの俺が来れるわけない。前提として、夢は、無意識の集合体だったり、性的衝動の表れとかいったりするらしい。しかし、こんな妄想も、小児性愛もも持ち合わせていない。
夢の定義からずれてる気がするのは俺だけか?
「何いってんデスか、ここがあなたの夢なら、私はとっくのとうに舌を噛み切って死んでますヨ」
「お前は……、もういいよ……。てか、舌を噛み切るって物理的には不可能らしいよ」
「なら普通に刃物で死にます」
「まだ聞きたいことがあるんでやめてもらってもいいですか?」
「はいはい、いいデスよー」
どうやら本気で、俺の夢じゃないようだ。どういうことだよ⁉︎……しかたないか。ほとんど原因はあいつだし……。
…………………………ん?
「俺ーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「い、いきなり大声を出さないでくだサイ! どうしたんですか⁉︎」
「なあ! 俺みたいなやつ見たことないか⁉︎ 俺以外で!」
「こんな、両方の意味できとくな奴見たことありませんヨ」
「そうじゃないんだ!外見が俺そっくりで、若干黒っぽい奴なんだよ! 中身は正反対、ウザいし、うるさくて、第一印象がナンダコイツみたいな感じの!」
「黒っぽい以外はまんまあなたじゃないデスか」
「だから違うんだよー!」
どうも伝わらない。こんなのル◯ンでしかしないと思ってたのに、まさか夢の中で実行するとは……。
「……ん? 黒っぽい?」
何かに気づいた様に、お目目をパチクリさせる。どうしたんだ?随分可愛いじゃないか、ユグユグ。……ユグユグ!良いな、しっくり来る感あるぞ!誰かにニックネームつけるって大変だわー。
「あなたは奴を知ってるのデスか!」
「奴?何それ。それより、いいニックネームが決まったんだよ! 聞いて驚くなよ、……ユグユグ! どうだ! センスいいだろ⁉︎」
「そんな事はどうでもいいんです! その黒っぽい奴は飛びますか!」
「ど、どうでもいい……どうでも……いいんだ……あはは……結構長く考えてたのに……」
「ああ! もう後で聞きますから! 今は質問に答えて下さい!」
「……本当か? 本当に聞いてくれるのか?」
「はい! 後で!」
「そいつは……飛びはしないと思うけど、浮いてたしな。多分飛ぶんじゃね?」
「やっぱり! そいつはどこにいますか! 会えますか!」
「いやいや、会って殴りたいのはこっちなんだけど」
「私はそいつを……いえ、アースガルの住民たちはそいつを殺さなければならないのデス」
「物騒だな……ブラックは何をしたんだよ」
血相を抱えて質問漬けにしてくるユグユグに、若干引き気味な俺。俺何したの? 俺以外にもなんかイタズラしてるとか? いやいや、俺だという証拠がない。黒っぽい奴なんてどこにでもいるだろうし、あいつはなんでもできると思うけど、それは俺の夢の中だけだろ……?
でも、知らない世界設定が勝手に組まれてる夢なんて、あんのか?
仮にここが異世界だとして、俺、異世界転生。能力、持ってません。特技、命乞いとセクハラ。性格、自分で言うのもあれだが、クズ。
待てよ……どこのラノベですか? 最近はクズな主人公も多いけどさ、ニートも多いけどさ、せめて能力はくれよ!
みんなチート持ちじゃん! 俺、喘息持ちだよ!どうすんのさ! 走ったら、コヒューコヒュー、て言うんだよ! 辛いんだよ⁉︎
スライムにも負けるし、チンピラにフルボッコにされるし、どうしたの⁉︎
最弱からスタートってのもあるけどさ、もはやモブの領域だよ! いいとこ行っても、一話ぐらいでチンピラに絡まれてる所を主人公に助けられて、そそくさ逃げ出すぐらいの立ち位置だよ⁉︎
俺、実は主人公説。信じるか信じないかは以前に説が成り立たねえ! こんな主人公いてたまるか! こんなラノベあったらレビューでクソ呼ばわりしてやるわ!
話が逸れたが、まずは俺が何をしたか? だよな。
「奴は、この世界を滅亡させる気デス」
「いきなりの終末感!」
世界が滅亡とか……そっか、あいつ中二病っぽい所あるもんな…………ん? 本末転倒過ぎね?
この世界、夢世界とでも仮定しよう。夢世界が消えるのは、俺にとって万々歳じゃね。
もしも、夢世界が消えなくても、それは俺の消滅を意味すると思うんだよ。
俺が手伝わない要素がないね。
「奴はなんらかの異物をこの世界にねじ込んできて、それどころか、奴は生物を操る事ができるそうなんデス」
「ふーん、厄介だな」
「奴が暴れれば、生態系が崩されたりして大変なのデス」
「それは大変だ! よし、殺そう」
「そんな事できてたら、とっくにやってますヨ」
呆れたように俺に目線を向けてくる。何やら疑われているような……。
「あなたも仲間なのでは?」
「そんな事はない! あいつは俺をここに連れてきて、無理やり怖い思いをさせるんだ! 俺は被害者だ!」
「犯行グループの一員みたいな言い草デスけど?」
「信じてくれよ……俺、本当に人と話すの苦手でさ、ユグユグとこんなに軽く話せるなんて思ってなかったんだよ。ユグユグは多分、すごくいい奴だと思うからさ……こんな変なやつ信用しろってのも、無理な話だってわかってるけど、俺はお前信じてるから」
何やら顔をうつ向けている。適当なことぬかすなー!とか怒ってくるとか?いや、信じよう。こいつとは友達になりたい。
「ぅ……分かってます……あなたは最初会った時、黒っぽいオーラが出てたので、疑っていたのデスが……今は全く視認できないデスし、うっ……ぅぅ、あなたが奴を倒す気でいるなら、協力してもらいたい……デ……ス」
「お、おい。大丈夫か?どうした?具合が悪いのか?」
呻きながら苦しそうに返答をするユグユグ。
どうしたんだ?黒っぽいオーラ?出てたの?何やら漏らしてたの?確かに、すっきり感はあるけど。
「ぐうぅぅ……! 何かが……私の中にぃ……!」
「おい! 大丈夫か! おい! どこか痛むのか⁉︎」
瞬間、今まで苦しそうに呻いていたユグユグがだち上がったと思ったら、視界が斜めにずれ……思考が止まる。
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汗ばんだ体と正反対の、冷え切った脳内に大量の疑問符が浮かぶ。
起き上がり、顔と体が切れていないことを確認。
多分、ユグユグの風魔法で切り刻まれたのだろう。様子がおかしかった、何かが体にとも言っていた。
何者かに操られたと考えるのが妥当。とすると……やはり、
「ブラック…… あいつ…………!」
ユグユグは言っていた。ブラックは生物を操る……、妖精も生物と仮定できるなら……黒のもやもやがあいつだとすれば……。
もう許さない。慈悲もなく、できるだけ残酷に、殺す。殺してやる。
今日はどこにも向けられない殺意を抱き、一日中、足を揺らし、歯ぎしりをし、次こそはと、決意を固めた。