七夢 異世界:Ⅶ/Ⅰ
はぁ……よくよく考えてみればデッドエンド多くない?ベトベトに濡れている様な感覚とか、虫が背中を這い回る様な感じを毎朝毎朝味わうって、結構地獄。本当に痛いし。
またそんなオチになるのかと思いつつも寝れば夢を見るわけだし、回避のしようがない訳で、今日もまた来ました。異世界(夢だけど)。
いつもの通り周りを見渡す。
鮮やかな緑、そよ風の吹く大草原、暖かな光がこの空間を包んでいる。
薄暗い部屋に毎日いるもんで眩しくて眩しくて仕方がない。本来なら、この景色を綺麗だとか、空気が美味いだとか、そういった感想を言うもんなんだろうけど、生憎、そういった感情は持ち合わせていない。
ただ広いだけの草原で少し眩しい、それ以上の感情は抱かなかった。
「 ……?よくみると遠くに何かあるような?
…………あれは……木……か?」
だだっ広い草原の彼方に一本の木が見える。こんな何もない草原にいても仕方ない、どうせ最後には死んで目覚めておしまいなんだからな。
諦めたようにもとれる言葉だが、俺の感情の中にはあの木が何なのか、知りたいという好奇心があったのかもしれない。
「はぁ……はぁ……はぁ……夢でも疲れたりするのは変わらないって、俺に対して都合が悪すぎるだろ……はぁ……」
走って木のそばまで来てみた。遠くから見ていて、普通のサイズの木だと思っていたけど、相当でかい!そうだな……大体……80メートルぐらいか?神社の御神木とかなら見たことあるけど、この木はもっとでかいな……。
木に近づいて触ってみる、さらさらしていて、でもどこかしっとりとしているような、そんな感想を抱いた。
木の幹に耳をあててみる。木に耳をあてると水の音がするとか、そんな話を聞いたような気がしたのであててみたのだが、正直よく分からない。でもこれだけ青々と葉が茂っているのだからこの木は死んでいたり、病気であるなんて事はないのだろう。
「……ォィ!」
「ん?なんだ今の?」
少女のような少し高い声が聞こえたような気がしたが、そんな少女が周りにいたらすぐ気付くはずだ。この木と俺以外何も無いのだから。それに今日はテンションが低い、夏風邪をひいて見る予定だった未鑑賞アニメを見ることができなかった。楽しみだったのに……くそう……。
「オイ!」
「痛っ」
いきなり背後から頭を叩かれた。そこまで痛くはないけど、やっぱり声って出ちゃうよね。
叩いた本人を確認しようと後ろを見る。
誰もいない、え?どういう事?
「こっちデス!」
頭上からさっき聞こえた少女と同じ声が聞こえ、上を向いた。
「ようやくきづきやがりましたカ!このへんたい!」
「はぁ?」
へん……たい……俺の事か!?
いきなり頭を叩いておきながら人様を変態呼ばわりとか、常識が欠如しすぎだろ!!
ってか……ちっちゃ!羽生えてるし!飛んでるし!うわ……すげ……。
目の前の少女、いや、更に小さいから少少少女とでも言うべきか。
なんておどけながら状況を整理していく。
少女には背中から羽が生えていて、それで飛んでいると思われる。身長は大体……手のひらをピーンと広げた大きさぐらい。髪の毛は金髪、目の色は深い青色、群青色よりはやや明るい。まとめると……妖精だ。
「何ワタシの身体をジロジロ見てるんデスか!?」
「ゲヘヘェ、いい体してんじゃねえかゲヘヘ、じゅるり」(棒読み)
もちろん冗談だ。そんな性犯罪者まがいな言葉をさも常識のようにポンポン口から出るわけじゃない。そもそも部屋から出ないんだし。
「やっぱり変態デシたか!」
なにやらドヤ顔で人の事を変態呼ばわりしてくる。そもそも妖精の定義なんて分からない。でも多少妖精について覚えている事と言えば、バカとか、アホとか、そんな感じの印象しかない。だから
「今のは冗談、俺はすごい誠実だ」
「そうなんですか!?確かにそうは見えなっていやいや、私の身体をベタベタ触ってたじゃないデスか!どの面下げてそんな事言うんデスか!」
「ちっ」
「あっ!今舌打ちしましたよね、絶対しましたよね!何なんデスかその態度は!それに、人の体に頬ずりまでしておいて!」
記憶にございません。
「おい、お前の体なんて触ったおぼえなんてないんだが?妙な言いがかりはよしてくれ」
「此の期に及んで何を!スリスリしましたよね!こ・こ・に!」
そう彼女は憤慨しながらもピッと音が出そうなほど鋭く指を指した。木に向かって。
「……はい?」
「だ〜か〜ら!触ったでしょ!幹に!」
正直どういうことか理解できない。こいつの言っている事が正しいとするなら、こいつは木で、俺はそれに痴漢をした変態となる。ああ、そういうことか。
「あの、なんかごめん」
「いきなりしおらしいデスね⁈まあ謝ったので良いとしましょう」
チョロいな……こいつを相棒にしてたらきっと、チョロインなんて名前がつくのだろう。
コロっと落ちそう。俺じゃ無理だと思うが。
「じゃあ一つ聞いて良いか?」
「え?ええ、どうぞ……」
目をうすめ、怪訝な表情でこちらを見てくる。 いやらしい質問でもしてくるんじゃないか、とでも言いたそうな顔だ。予め言っておくがそんな質問はしない。する訳ない。目の前の奴についての卑猥ではない真っ当な質問だ。 まあ予想はついているのだけど。
「お前は一体なんなんだ?」
すると、彼女は小さな胸をはり、誇らしげにこう言った。
「この大木の妖精、ユグドラシルデス!」