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人生の楽園

 斉元坂二(さいもとばんじ)は、今野元一(いまのもとかず)に会いに行った。もう何年も会っていないので会いたいと思っていたのだ。

「おお! 坂二か。久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな、元一」

 今野の一張羅姿を見るのは初めてだったので、斉元は少し驚愕した。

「さあ、入れよ」

「お、おう」

 玄関を上がった途端に斉元は不思議になった。

 え?

 ???

 そこには意味不明な光景が広がっていた。足の踏み場もない廊下。段ボール箱が積まれすぎて入れない部屋。

「おい、何だこの家は」

「俺の自宅だって。最近は何かいろいろ多くてな」

 いろいろ?斉元には到底理解できなかった。

「いろいろってなんだよ」

「うるせえな。いろいろはいろいろあるんだ…」

 その後、斉元は少し沈黙した。自分にも分からなかった沈黙。斉元は過ぎ去ることだけを求めるほかなかった。

「元気出せ!」

 今野の言葉も、素直に理解できる言葉ではなかった。

 ゲームを遊び干した者にとって一番大事なのは、願望と野望をかき混ぜてしまうことだ。分ける道筋を立てようが、野望は不要な望みなのだ。

「腹減った!昼食時だから、何か食べよう」

 違う!何か違う!

「腹減っただって?お前最近何かおかしいぞ」

「おかしいって、何がだ」

 斉元は今野の言葉を一瞬では理解することが出来ず、受け流していた。

「ああ…ちょっと待っていろ。確か冷蔵庫にコンビニの弁当があったはずだ…」

 そう言って今野は冷蔵庫から幕の内弁当を取り出した。

「これ食べろよ。俺のはあるし…」

 今野は弁当を斉元に渡してテーブルの前に座って、斉元も座った。斉元は豪勢なのかと思っていると、幕の内弁当だったことを思い出し、普通に食べた。

「坂二、今何やっているんだ?」

「普通に過ごしているよ」

 弁当を食べ終えた今野は缶コーラを取り出した。

「缶コーラ飲むのか?贅沢だな」

 今野は贅沢かどうかは放っておきたかった。関係ないからだ。

「贅沢って、変なときにはいつも缶コーラだろ」

 缶コーラで済ませるほどいいことはない。

「この間の話、折り合いついたか?」

「いや」

 斉元は今野が訊いたことに不明さも覚えなかった。

「まだだ。それはいつでもいいと思っている」

 斉元はお茶を濁した。

「それでいいのか?」

 斉元は問いに対して沈黙するかどうか迷った。今野は真剣な表情を浮かべた。

「…いや、よくない」

 斉元は答え、沈黙するのをやめた。

「最近折節北東に流れすぎだ。そういうのはやめよう」

 今野は斉元の返答が腑に落ちない様子だった。

「じゃあ、今度はもっと真剣に。紹介したくて待たせていた人がいる」

 今野は言って、1枚の紙を見せた。

「お前は最近、精神から落ち着かないようだから、この医院に行ってみろよ」

 今野が見せた紙には、『涼風(りょうふう)精神科医院』と書かれていた。

「何だよこれは」

 斉元は戸惑った。

「俺の友人の異野が紹介してくれた医院だ。行ってみないか?」

「でもな…」

「いいから心配するな。ここは誰もが勧める精神科医院だ。お前には一番合っていると思う」

 今野にそう言われ、斉元の不安感も消えそうだった。

 最近の斉元の様子からしても、と今野は心配していたが、この相談所を見つけ、推奨したことに間違いはないと思っていた。

「分かった。相談してみる」

 そう言われて今野は安心した。

 

 2週間後、斉元はその涼風精神科医院に行った。診察をしてもらって、斉元は精神が安定する薬などをもらって帰った。

「元一…」

 斉元は、アポト・グラックはロンドンに仕事で行っていると聞いていた。

「今、ロンドン塔の前でインタビューに応じている。テレビに映っている」

 発明家に拳銃を返しに行った。すると、ドアを開けるなり怒鳴ってこう言った。

「返すなら、もっと100年ぐらい前にしてくれ!遅い!俺の名銃を!ゲームを遊び干したら返しに来い!あれはお前に渡した試作品だからな!」

 発明家はゲームのことも言ったようだが、もう壊している。

 ガチャッという音で、斉元は研究室に入った。

「開発中の発明品があってな。おっと、それには触れるなよ!壊れてしまうからな!」

 電気切れで、研究室の電気はつかない。

「暗くなる前に帰れよ!懐中電灯沙汰にはしたくないからな」

 発明家はそう言うと、出来立ての発明品を壊した。今までそんなことはなかったらしいが。

「2階に上がれ!冷蔵庫開けて待っていろ」

 2階に冷蔵庫があるらしい。とにかく行ってみよう。

「コーヒーを入れろ。自分流の飲み方に少し付き合え」

 発明家はコーヒーを飲み干した。だが発明家はまだ落ち着かない。そして斉元達はある駅へ行った。

「あ!15時59分発仮ヶ(かりがくる)線快速、もう出ちゃった…」

「15時55分ぐらいに戻ろうか?そうしたら、まだ出ていないし…」

 斉元達は改札を通り、ホームに落ちて、電車を止めた。

「行くな!」

 発明家は逆時計を止めた。逆時計は時間を戻すことが出来るメカだが、使い方を間違えると大変なことになってしまう。

 その逆時計の設定が、4分ではなく1分に設定されていたため、30秒前に見えた快速電車は発車していたというのだ。発明家はそれに気づき、急いで止めたのだ。だが、逆時計は停止している。戻らない。0.1秒でも無駄にせず、電車を止めることが大切だ。

「誰だ!この快速を止めたのは!」

「いや、発車するにも故障していて…」

 どうやら元々この快速車両は故障を起こして止まっていたようだ。運転を見合わせていたらしいが、引っ掛かる点がある。斉元達はあの時発車している快速電車を目撃しているが、15時59分発の快速は一本しかない。ということは…。

「おい!お前!おい!」

「え…?…あ…何です?」

 考え事は禁物…ということなのか…。

「駅員さん!此奴を捕まえて!警察に連絡するんだ!」

「警察…ですか?何かやらかしたというのか?この少年が!いや、この…」

 黙ってしまった駅員は、ホームの客を追い出し、自分たちにも帰れと指示した。

 地下室の隠し通路を使ったことがばれぬよう、水道局の服装に着替え、マンホールから地下室の通路に入った。地下室の通路はこの駅のマンホールにつながっていたのだ。

「時限式爆弾を誰かがここに隠したのか。俺にはわかる」

 発明家はそう言うと、机の引き出しを開け、上に取り付けてあった爆弾の線を躊躇なく切って見せた。

「普通に切っていいの?」

「いや、普通の時限爆弾は、青を切れば爆発威力が収まるもんなんだ。今のはたまたま爆発しなかっただけだ」

 そう言うと、発明家は地下室から古いパソコンを取ってきた。

「これは、以前人気を集めたパソコンの旧型だ。物置に眠っていたんだが、この間、ちゃんと使えたから最近はこれを使ってたんだ。だがな、コネクタが絡まって修理に出していたパソコンが戻ってきたから、あのパソコンも使わないと…」

 それを何に使おうとするのか。

「奴らも同じだったかしらねえが、俺は帰る」

 そう言って、斉元は帰った。本当は発明家の不屈を聞いてから帰るつもりだったが、発明家もさすがにゲームを遊び干し、斉元がやった缶コーラに激怒しかけたのだ。

「研究室も錆びてらぁ。あんなのじゃ発明家にならねえんじゃねえか?」

 結局発明家にやった缶コーラも、飲む前に捨てている頃だろう。

「あ…!あの缶コーラ、自販機で買ったとき、お釣りが…!」

 過払いに注意!と書いてあった自販機は、モノだけ新しく、仕組み自体は古かったため、印象に焼きついていた。過払いしたかと思いきや、焦って自販機にたどり着いた頃には、汗だくで、もはやウィンタータイムではない様子を知らせている。

「ん…?お釣り…100円…!」

 お釣りは百円…にしては高価と思いきや、財布にしまいこんでチャックを閉めた頃には、海賊が海を渡る様子を知らせているのか、どうやら。

「海賊が海を渡る!?」

 斉元はそう思った瞬間、驚愕に陥った。さっき買った缶コーラの列は、全部売り切れていた。

先程は、一番上の列が売り切れだったが、今は一番上の列が復活している。

「ああっ…!!~!!!!!!!!!~!」

 斉元は驚愕の連続に、詰まる。

「…!!!!!!!!!~!!!!!!!!!!!!!」

 もっと詰まる。

「…!!!!!!!~!」

 気づいた頃には、粉雪が吹雪に。足元が動かない。

「…!!」

 あと少し驚愕して止まる。原因不明の驚愕に、近くを歩く人々は足取り速く去っていく。まさに、驚愕間に足取りを奪われるという事態だ。

「君!、速く歩け!さあっ…!~…~~~~~~~!」

 背後から声がした。その男はかなり怯えている。

「あああっ!自販機…俺のォオオオ!缶コーラっ!!」

 その後、「俺のぉっ!」に続く人々が続々と出た。

 その後、斉元達は麺亭という飲食店に行き、ラーメンを注文すると、ラー油をたっぷりかけて食べてみた。すごい。しかし、何故か大間武二(おおまたけじ)だけ蕎麦だった。

「ラーメンを食べた時、俺の口は驚きの感触にラーメンを最もうまい!と絶賛したのは誰だっけ?」

 友人は沈黙した。

「…」

「おい!!」

 バタッ!という音ともに友人は倒れた。

「おいっ!丈夫か?」

「こ、この…ラーメン…お、美味し、か、っ、た…」

「当たり前だ。そんなの」

 倒れた友人を放ったまま少しキレた。

「珍しいな。何かが」

「え?」

 さっきからこのソファのテーブル席の横で、店員がずっと立っている。それも、ずっとこちらをジロジロ見ながら。美味しそうなのを横取りしたいのか分からないが、今程香辛料の七味をかけて蕎麦をすすっていた大間の姿も見ていていた訳だ。

「それがどうかしたのか?」

 店員に質問していた客は、厨房の奥に呼び出されていた。何故厨房の奥なのかは分からないが、「question」は厳禁、ということなのか。

 斉元はラーメンをすすった後発明家の家に行き、また不屈に缶コーラをあげようとしていた。

 キーンコーン…。

 もう百回目だ。インターホンを押し疲れた。何度鳴らしても出ないということは、研究室の明かりは点いていたし、居留守だということは分かってはいたが、一応のため鳴らしたのだ。

「ん?…用があれば裏口へ…」

 斉元は裏口に回り、ドアを開けて中に入った。発明家を呼んだが、来なかった。大体は玄関口で渡すだけだったし、特におりいった用はなかった。

「あれ?電気つけないのか…」

 斉元は少し変だったとは気づかなかった。フローリングの廊下は、ギィィィといって軋む。

「ちょ、ちょっと、この缶コーラ…!早く受け取って!急いでるからっ!」

「待て。急ぐな。俺は居留守使わねえし、特に玄関を閉める意味はない」

 発明家は金属探知機を発明していると言って、試しに斉元に使わせた。

「オラッ。早く!急がねえと探知が遅くなる」

 斉元は厳しい指導下に、14時間も付き合わされた。

「ハアッ、もう止めてよい頃なんだよ!」

「うるせえっ!あと丸2日は付き合え!」

「ソンナアアッ!」

 斉元は呻いて、10メートル程に積み上がった雪をかきながら、発明家に宝を掘り当てるまでやれと言われ、飲食無しで、丸2日はやらなかったが、10時間近くやり続けた。その結果、斉元はヘトヘトの体を抑えながら帰っていった。帰る頃には夕方で陰陽も消えそうだった。沈んでゆく太陽と一緒に、陰陽も沈んでゆく…その中で、今にも倒れそうな体を精一杯抑えて、勝手に帰ってゆく身体に時々怒りながら…。


 ある日、書斎の本棚の奥にあった書類を見つけ、発明家の名前が大士(だいし)だと知った。苗字までは知っていたが、名前までは覚えられていなかった。白紙のノートを捲って、びっしりの見開きに戻すと、急ぐ足取りで発明家の家へ行った。あの金属探知機を使って、処理に慣れさせようとしたのだ。しかし、この間もやったが、なかなか探知できない時があるので、授業で使った金属爆弾の模型を用いて、探知させるというやり方で行った。発明家の本名は『見矢裏大士(みやうらだいし)』で、発明家は名前に慣れない頃は、授業ではあまりこれを使わなかったというが、主に、プリント学習で学ばせただけだという。その頃の生徒は、あまりこれを使い慣れていないのだ。しかし、古いかどうか分からないが使ってみようと試みた。

「ん…?」

 これは金属か?

「この模型、古いの?」

 斉元は発明家に口を塞がれた。

「いいからやってみろ。諦めは禁物」

 発明家は斉元の手を押しのけて金属探知機を止めた。それは異常だ。前にあるのは金属爆弾の山だ。

「え…!?これって…!」

「そうだ。金属爆弾さ」

 危ない指導の下、約1日も付き合わされた。「なにしろ…」

 そう思った瞬間、発明家が「もう帰っていいぞ」と言った。


 金属爆弾が警察に見つかって、没収されている光景を見ると、斉元はかなり笑えた。発明家は、自分をも飲み干してやると怒り狂っていたが、作戦のノートも書斎へ入ってきた悪党な盗賊に奪われていた。椅子の下に仕掛けた爆弾も、その奴らには丸見えだったようだ。本棚からはみ出した本を入れ直していると、中から付箋が見つかった。しかし、すぐにゴミ箱に捨てていた。

「誰ですか?」

 ある日、銃撃に遭った書斎が倒壊した。発明家の書斎だ。発明家は見えにくくなった眼鏡のレンズを拭うと、潤すと効くという消臭剤をかけてみた。なぜか非売品で、抽選で当てたものだという。

「誰ですかって聞いてんだよ!」

 発明家は無視して、携帯電話を手に取った。

「眼鏡のレンズが合わないんだ」

「ああ、電話を貸してくれ」

「ラーメン3つ」

「駅まで5分」

 意味不明な会話が交わされ、苛立ちが増すのは当たり前だった。

「博士!今電話は控えろ!」

 発明家に怒鳴ったのは久しぶりだ。電話が傍受されている危険性がある。

「え…?」

 発明家は驚愕を隠せなかったのだ。汗を流して倒れる割には、そんなに変わりもないようだ。


 ある日、斉元はギリギリ新幹線の整備に向けて、合計3000キロほどの地下トンネルと、5000キロほどの高架橋の建設に莫大な予算を継ぎ足すと言っているが、開通まであと0.2年だという。つまりあとは…。


「そんな話は止めてくれ」と言われた。

細冶分太(さいじわけた)」だ。

 誰だ?って聞いたのに、分太は最近変な匙を投げていた。

「もうややこしいい」

「なるほど」

 分他は分類部に所属していた経験があるため、分類についてはスペシャリストなのだ。

「ペットボトルはこっち、空き缶はあっち。ちゃんと分別しないから、冗談でも通じなくなるんだ…!」

「!?」

 意味不明な会話を経て今に至る。これまでの分類経験からして、頭脳は半端ない。

分類表グラフが埋め込んであるんじゃねえの?だからそれ、すぐ解けるんじゃ…」

「え!?すごいIQの持ち主なのか!?」分太だからと、意味を通じさせない威力も半端ない。

 そんな分太の唯一の昼食が始まった。ライフルで捉えた獲物は、魚ばかりで、キングクラブと、キングサーモン弁当(トラウトサーモン弁当)で今日は我慢すると言った。鯛などの魚類は、食べ尽くすには月日が必要だと言った。

「ヘイ」

 分太の昼食は見てもいられなかった。カロリーが多めだ。

「ひえーっ!!!!!!!!!!!!!」

 分太の昼食は終了。


 発明家の研究品目に加えて入っているものは、ほかならぬものだった。

「眠れましたか?」

 秋本(あきもと)の質問に対して、斉元は特に言うことなどなかった。

「夜更しをして、管理の仕事を怠ったといえば、過大なる責任が課せられます」

「ところで、発明家はどこですか?」

「発明家と知り合いか。あの部屋には侵入禁止ですからね。入ることを禁じます」

「何っ!何でだよ!」

 斉元は止めに入るのを振り切って部屋に入ったが、秋本は部屋に入るなり身体検査を行うと言った。何もしていないし、意味不明な行動に付き合うことになりそうだ。

「向こうからライフルでこっちを狙ってる」

「え!?何だと!博士!それは本当か?」

 窓の向こうのビルの屋上から発明家の隣にいる意味不明な男を狙っている所をみると、また銃撃戦になりそうだ。

「秋本が待っている場所は探り尽くしたのに、相手はまだここに戸惑い尽くす気か?」

「あ、分太。どうかしたのか?」

「発明家に会って、拳銃を返しに行くのさ。この間の拳銃」

 分太はなるほど、と理解した素振りをしたが、すぐに分かった。

 部屋に入ろうとして群がりたがる人々。それに加え、ドアが壊れそうなのに耐えていること。発明家はのんきに本など読んでいられるというが、苛立ちが増していく理由があるのだった。

「何か会話しよう」

 急に分太が言い出した事に、すんなり乗っかったが、成立せず。

「あ、ああ…え?何………?……あ…ああ…え…?!?…!?……」

「もういいい。何も言うな」

 分太は拒否したが、外の声は群がりで消えてしまう。

「おい!何言ってんだ?」

「ああ、ちょっと書斎をみてくるよ」

 斉元は書斎に行くと言った。

「本気か?度胸あるなあっ…」

 分太をも轟かせた。

 扉を開けた途端、報道陣だか何だかが群がっていて、それを押しのけて廊下を行くには無理があった。かといって、断念するのは無理だった。

「避けてえっ!」

 書斎に着いたころには、斉元達はもうヘトヘトでボロボロだった。

「誰もが、無限の可能性を持っているのだ。希望を捨てるな」

「え…?捨ててない…のに…!?」

 斉元は分太に誤解を受けたようだ。もう書斎に用はないと轟いて、その誰かがそこにはいた。

 依頼者に捏造されそうだ。発明家は怯えていたらしく、もう用はないと言っていつも拒否した理由も斉元には分かったわけだ。

「もう、止めてくれ!!」

 依頼者に耐えきれなくなった者は容赦しねえと言われていたのが、斉元の身に残っていたのだ。

「待て。容赦しねえと言った覚えはねえ」

 発明家は依頼者に頼まれたというトロッコだと言っていたが、斉元はまさかこんなものだとは思ってもみなかった。

「終点にたどり着いたとよ!まだあんな場所なのか?」

「この野郎!誰の許可でここに入った?」

「許可は得ていないよ!許可なしでもいいって言ってたんだ!依頼者は」

「嘘つけ。違うだろ。おい!」

 男はそう言った。依頼者向けに整備された線路にトロッコは停車していた。トロッコに乗せられた材木を指差して、「罰として乗っているこの木材を全部運べ!」と言われて、30分ほどかかってやっと運び終えた。

「まだだ。あと、トロッコを押してって車庫に入れろ!」

「何!?そんなにあるの?」

「当たり前だ!罰だからな!」

 誰でも素直にやるわけないが、やるしかないのだ。

「今から公田(こうだ)に合わせてやる」

「公田とは?」

 斉元は公田に会うにはこの廊下スペースを直進すれば着くと聞いていた。

同藻(どうも)

「え?誰ですか?」

 男は柔らかい声を止めて言う。

「それは言えないな」

 やはり声は柔らかい。

「公田に会うにはここに入ればいいんですね?」

 斉元はドアをノックして、柔らかい声を期待したのだが、その逆だった。

「どうせまた看守か。来るな!ここに!」

「いや…看守じゃ」

「いいから来るな!」

「誤解ですよ」

「来るなぁ!!」

 公田は拒否した。

「あの、看守じゃなくて…僕は、えっと…」

 斉元はドアを開けて中に入って、誤解を解こうと必死になった。

「すまない。看守だと勘違いしていただけだから、許せ…」

「本部シュミュレーションもやりすぎなんじゃないの?おい!止めろ!聞いてんのか!壊すぞ!このパソコン!」

 斉元はいつから『本部シュミュレーション』をやっていたのか、記憶も薄かったが、多分、発明家に会う所からだろう。発明家は入院してないし、病室はもぬけの殻だった。本当に病院に行ってしまった。意味不明な行動はシュミュレーションに没頭し、現実と架空を間違えて動揺したからだ。

「時間切れよ。もう止めなさい」

 誰かがそう言ったかと思うと、パソコンの電源を無理矢理切らせた。

「くそーっ!幻覚だったのかよ?」

「違うわ…幻覚なんかじゃないのよ。あなたがはまりすぎるとこうなる、ああなるってことを認識の上、やったほうがいいかもしれないわね…」

 確かに、佐倉淳子(さくらじゅんこ)の言うとおりだ。ぶっ続けにならないうちに止めさせたという所だが、まだシュミュレーションが終わっていなかったが、まあいいか、と思った。

「今は何時だ?」

「2時ジャストよ」

 佐倉は壁に掛けてある時計を見て言った。

「え…!?…違う。あれは湿度計だ。勘違いすんなよ」

「え?嘘…」

 それは本当に湿度計だった。普通なら見間違えたりしないが、やはり、嘘じゃない。

「嘘じゃない…」

 斉元は机のメモを見てそのまま言った。

「おい!例の件、片付いたか?」

「ああ」

「火山のマグマで温めたドリンクです。飲む時はここを必ずお読みください。って何だよこれ」

 斉元は事を無視して注意書きに目を通さず、そのままプルタブを開けた。

「熱いね…」

 斉元からは予想外の答えが返ってきた。1万度はあるだろうというマグマで熱したドリンクを「熱いね…」と、簡単に言う人は少ない。大半の人は絶叫するほどだが、斉元は違った。

「あれ?佐倉はまだ来てないのか?宝物庫に行こうって言ったのに…」

「あの人はこういう所好きじゃないからね」

 そういう問題か…!!

 

 時計塔に集まったメンバーでアポト・グラッグを懲らしめようと待ち構えていたところ、時計のチャイムが鳴ったと同時に時計塔に止まっていた鳥が飛んでいった。すると中から刑事が出てきて、アポト・グラッグは5分前にイギリスに行ったと言った。1時間前から待ち構えていたメンバーは驚愕を疑いに変えて、ありえないと言ったが、どうやら本当らしい。話によると、その探偵は周りに極秘にしている事があるのだという。

「刑事さん、調べさせてもらいますよ」

「あっ、ちょっと…もうダメか…あちゃーっ…」

 刑事は額に手を当てた。

「ONE」

「TWO」

「THREE」

「FOUR」

「FIVE」

「SIX」

「SEVEN」

「EIGHT」

「NINE」

「TEN」

 その人達は10秒数えて扉を開くと、螺旋階段を登ってこう言う。

「転落する馬鹿を眺めるのも辛いな」

「馬鹿はないだろう…」

 言われてみればそうだ。探偵が転落したものだと決め付けるのもおかしい。

「どんなに探しても、奴の姿がない。どこへ行ったんだ?」

 上にあがっていた人達が降りてきた。そんなに時間は経っていないし、あまりにも早すぎた。

「それは…この…奥に多分…!?」

 その奥にも探偵はいなかった。やはり来る前に逃げたらしい。

「何故懲らしめるんだ?探偵だったらって、偉業成し遂げるとか、そういう訳じゃないし」

 確かにそうだが、そもそも、探偵を待ち伏せている事自体意味不明だ。あの探偵を懲らしめたいのだろうが、あの推理力ではすぐに待ち伏せていることも見破られてしまう。それに、探偵がいないと分かったらすぐに諦めたほうが良さそうだし、いくら粘っても来ないことは確定したはずだ。しかし、奴らは留まり、粘り続けた。そうやっている姿がアホらしくなってきたので、斉元は探偵を探していたが、灯台から降りてきた。

 その頃、灯台で探偵が消え失せたのにもかかわらず、「stop!!」と人々に声をかけて呼びとめて、「待て!」と言ってその場に立ち止まらせたままにしようとしていたのは東本啓一(ひがしもとけいいち)だった。しかし皆無視していく。

「待っとけよ。動くなって…もう無視して行きやがった…意味ねえか…」

「そうそう。意味ないない!」

 無視して行かれたならもう意味ないと、諦めて東本も灯台から降りてきた。

「おいおい、まさかあの医者に匙を投げられたんじゃねえだろうな?」

 東本が斉元にそう訊いたが、斉元は沈黙した。

「おい!」

「それが…」

 しばらくして斉元は口を開いた。

「何!?あの医者、匙を投げるために医者になっただと!?本当にそう言っていたのか?」

「ああ。唐田(からた)さんもそう言っていて、どうやらあの医者は嫌われていたらしい」

 

「まあ、ゆっくりあそこに座って話そうか」

 そう言うと、東本はある向こうのホテルの3065号室の視界に入る窓際のソファを指し、ゆっくり会談しよう、と言った。最初はあのホテルの屋上の貯水プールを指したのかと思ったが、『あそこ』というのが見えるほどではない、貯水プールに座れないと、論理的な事を考えている間に、いつの間にかそのホテルのエレベーターに立っていた。ロビーの手続きは済ませたのだという。東本は5階のボタンを押して、扉が閉まるかと思った途端、向こうから男が慌てた様子でエレベーターに飛び乗った。おかげで扉が閉まらず、故障してしまったので、従業員に開けてもらい、何とか階段で5階の3065号室にたどり着いた。慌ててすぐさま秘書に缶コーヒーを自販機で買ってくるよう頼むと、窓際のソファに座り、テーブルに置くフリをしてポケットに入っていた携帯電話を取り出して、履歴から特定の人物の通話履歴を探して、通話ボタンを押して電話をかけた。電話をかけている最中の東本の態度は、貧乏ゆすり、煙草を吸うのは止めたが、灰皿にいくら押し付けても煙が消えないので、苛立ちが増して、さらになかなかつながらないのでソファの椅子から立ち上がり、左側のスペースでうろうろしながらまた貧乏ゆすりを始めた。やっとつながったかと思うと、

「おい!何やってるんだ!遅いぞ!いつまでかかってると思っているんだ?」

 東本はそれだけ言って、怒り満ちて押し潰す勢いで通話ボタンを押し、電話を切った。

「東本様、秘書の方がお呼びです…」

「ああ…うるさい!…今密談中だ!秘書に怒鳴っとけ…!」

「はぁ…」

 戸惑いながらも従業員は秘書にこう言った。

「い、今…客が密談しておりますので、また後ほどな…って言っておられましたよ!分かりましたか!覚えておいてくださいね!」

 従業員は途中で激怒するかのように態度を変えた口調で言った。

「み、密談!?何の事ですか?」

 秘書は惚けたのか分からないが、知っていたようだが、ふりをしている訳だと思った。

「缶コーヒーならちゃんと…」

 すると、秘書を押しのけるように3人の男達が入ってきた。

「それと、チェーンソーを持った男がホテルに入るのをロビーで見かけたよ」

「それなら工事作業員かなんかじゃないのか?丁度今改装中だし…」

「多分それなら、レストランのでカウンターを破壊するつもりだったのかも…そこのレストランも確か改装対象になっていたはずだから」

「いや、それはない。オーナーが作業服を着た男や、チェーンソーを持った男を見ていないと言っている」

「しかしな、他のホテル客もある時間きっかりになると、チェーンソーの音が鳴り響いて…だそうだ」

「しかし謎だな。その男。研田(けんだ)とかいう男だとは分かっているんだが…」

「何?…何故それを言わない…」

 突然斉元は自分の口から出た手がかりを、

「嘘だ」

 とかき消した。

「何?」

「だから嘘だと…」

 東本は斉元が嘘をこねたことに怒って、部屋を後にした。

「待って…」

 話はまだあったが、まあいいかと解散した人たちが完全に去った後に、本題がみえてきた。ドアが閉まると、秘書は慌てた様子でかけていった。それを見て、斉元も帰ろうと思った。


 その夜に、斉元は何かをしようとして、街頭の明かりを見つめた瞬間、脳内が真っ白になった。斉元はタクシーも捕まえられなかったので、ヘトヘトだった。

「あと20Km…」

 20kmは長かった。しかし歩き続けなければ家には帰れない。斉元はトボトボと歩いていたところ、

「タクシーだ!!」

 後ろから空車のタクシーが近づいてきたため、斉元は呼びとめて後部座席に乗り込んだ。

「おい!どういうことだ?」

 乗り込み早々、運転手が訊いて来た。しかし斉元は返答できない。

「意味が分からないんですよ」

 運転手は返答することもなく、「さっさと金を渡してくれんか」と言った。

「さ、先払いなんですか!?はぁ…で、いくらですか?」

「どこまでだ?」

 運転手はそう訊いて来た。それに対し、斉元は「本町まで行ってください」と言った。

「じゃ、二千円ね」

 運転手にそう言われ、斉元が戸惑いながらもたまたま入っていた二千円札を差し出すと、運転手は珍しがっている様子だった。

「また赤だ」

 4回連続の赤信号だ。そのせいで運転手は少し苛立っていたようだ。

「やっと青か」

 青信号に変わると、運転手は苛立ちからか、1秒余りで60キロまでスピードを一気に上げた。

「やっと着いた」

 家の近辺に到着した頃には、腕時計が22時を回っていた。

「そんなことしたっていいことねえんだよ!」

 斉元が家の鍵を開けている最中、夜遅くにもかかわらず、隣人の大間斉仁(おおまさいじん)が怒鳴っているのが聞こえた。斉元は遅い夕飯を済ませると、多くの疑問を解く時間もなく眠ってしまった。


 無駄ではない朝は突然やってくる。大音量のアラームで目覚めたときには、確か7時丁度だったと思う。記憶のウラを辿っていった所、これに行き着いたのだ。

「はぁ…今日はまさか…」

 洗面台に着くと、斉元は顔を洗いながらつぶやいた。斉元は「終わった朝だ」と言ってワイシャツを着て外へ飛び出して、仮ヶ(かりがくる)駅に向かった。

「やっぱり、願望は無駄になんかならない…」

「俺も同感だ」

 異野正也(いのまさや)も同調して言った。

 斉元は異野と歩いていると、何だかいい気がする。しかし、仮ヶ来駅南口に来ると、『昔ながら事件』のことを思い出す。いい気も忘れ去られた記憶のようになっていく。

 『昔ながら事件』は、風来というラーメン店で起こった事件。安東知郎(あんどうともろう)は街の飲食店を全滅させて住宅街を造ろうとしていた不動産会社の社長、大万卓城(だいまんたくじょう)を店のトイレに監禁し、餓死させた。そして安東は、その2年後、沖縄の那覇の仮アパートで逮捕された。その仮アパートには、陰野(いんの)という表札が掲げてあり、本当の住人はまたもやトイレに監禁されていた。安東が有期刑で刑務所に入るまで、そのことを極秘にしていた警察は、安東が刑務所に入る直前にに安東を釈放し、改めて抜き打ちで裁判を行うことを決定したのだった。

 この日は安東の逮捕日だった。安東は『昔ながら事件』で逮捕されて以来、規格外の友人になっている。その安東の逮捕から今日で15年経つが、安東には無期懲役の判決が下されている。斉元はもう安東に会うことはないだろう。

「安東…もう一度くらいは会いたかったぜ…」

 しかし斉元はそう言った。そこに安東が居るかのように。

「あっ!急ぐぞ!電車出る」

 そして、斉元は急いで電車へと向かった。

「願望は、無駄じゃないよ…」

「ああ。願望は無駄じゃないからな」

「良かったな、斉元」

「ああ」

 斉元は微笑して電車に乗り込んだ。無駄ではない時を締めくくる。

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