9話:ツンデレレベルアップ
セーフティモード起動します――
「……」
「おう、すまんな起こしてしもたか?」
「私は……眠ってしまっていたのだな。こんなにしっかりと眠れたのは久しく記憶にない……あっ……」
今にも壊れそうな藁ぶき屋根の家で目を覚ますリファリー。そして現在の自分の姿に赤面しもぞもぞとかぶっていた毛布に包まる。
「どしたんやリファリー?」
「いや……あまりこの姿を見られたくない。私はその……傷だらけだし」
胸にはさらしを巻き、男のような毅然とした口調で話し、復讐の為だけに生きてきたリファリーはチェーンソーの隣で年相応の思春期の少女のように赤くなる。
「見せたらええ、誇ったらええ、その傷はお前の勲章や」
「そんな事を言うのはお前くらいだ。私は人々から恐れられる女盗賊団長だからな……」
「わしも恐れとるで」
「え?」
「お前を失う事をな」
「……いじわる」
リファリーは自分の胸に巻いていたさらしをそっとチェーンソーのガイドバーに巻きつける。
「リ、リファリー!?」
「チェーンソー……お味噌汁は赤味噌と白味噌どっちが好き」
「両方とも好きや……」
「チェーンソー!!」
――――!!
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「……ここは」
どのくらい気を失っていたのだろうか、目が覚めるとすでにとっぷり日が暮れていた。ボーッとする頭をトントンと叩きながら記憶を辿った俺はハッと自分の右わき腹に手をやる。
(あれ? 傷……治ってる)
あれは夢? いやいやそんなはずはない。
夜目を凝らして辺りを見渡すと少し離れた岩陰でリオロザが体育座りのポーズで眠っていた。
「あ、リオロ……」
声を掛けようとしたが躊躇する。リオロザの表情は疲れ切っていたからだ。俺は自分の傷が治っている理由を理解する。
「ありがとうリオロザ」
起こさないように小声でお礼を言う。
しかし僧侶とは聞いていたがあの傷を治すなんて俺の民間療法とはえらい違いだな。実はリオロザって結構凄い僧侶なのか?
完全に塞がっている傷口を見て感心する俺。
(でもどうやってあの女盗賊から逃げ切ったんだ……? あいつマジで半端なかったんですけど)
その時自分の体が薄い光に包まれている事に気づく。
あれ? これって確かレベルアップの時の……
俺はシステム手帳を確認する。
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Lv:21
職業:勇者
HP:204/204
MP:98/98
筋力:82
耐久:79
敏捷:75
魔力:70
攻撃力:82
守備力:85
装備
Eチェーンソー(+0)
E旅人のマント(+4)
E安全ヘルメット(+2)
魔法
火鉛 民間療法 慈愛 閃光戟 雷鼓光
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何故だ……何故このタイミングでレベルが上がるんだ……
瀕死の重傷から回復した時に戦闘力がアップする戦闘民族的な素養があるとでもいうのか?
俺は二夜連続で起こった不思議現象に異世界の深さを感じる。
(まあレベルが上がるのは良い事なんだけど……それに雷鼓光とかちょっと勇者っぽい呪文も覚えてるし)
早速使ってみたいという衝動に駆られるがフッと頭に脅威の女盗賊の姿がよぎる。
(いやいや、あいつは駄目だ……もう二度と会いたくない。女盗賊怖い、怖いよぉ……)
冷静になって周りを確認すると先ほどの村からそう遠くはない場所のようだった。こんな場所にいたらまたいつあの女盗賊と鉢合わせするか分からない。とっとと退散しよう。
俺はスヤスヤと眠るリオロザに悪いと思いつつも起こそうと声を掛ける。
その時……背後から俺を呼ぶ声がした。
「おい、勇者」
凛とした厳しめの口調。つい最近聞いた覚えがある恐怖を掻き立てるこの声は……
俺は恐る恐る後ろを振り向く。
そこには黒装束に身を包んだ赤髪の女盗賊が立っていた。
(げぇぇぇぇ!! 出たぁぁぁぁ!!)
俺は咄嗟に右腰に手をやる。スカッスカッと何もない空中で手だけが動く。
……あれ? そういえばチェーンソーどこやった……?
「探し物はこれか?」
目の前でチェーンソーを突き立てる女盗賊。
(と、盗られてるぅぅ!!)
ヤバイ、ヤバイヤバイ。いくらレベルが上がったといってもチェーンソー無しで勝てる相手じゃない。どうする、どうする……どうしよぉぉぉ――――!!
完全にさっきの事がトラウマでパニックになる俺。
「勇者。さっきはすまなかった」
「へっ?」
「もう少しで取り返しのつかない事をしてしまう所だった。本当にすまない」
(あ、謝ってる? なんで?)
「私は歩む道を見つけたのだ。それで今までの過ちを償えるとは思っていない、だがそれでも勇者、こんな気持ちになれたのは貴様がこの村に来てくれたお蔭だ」
「あ、そうなんですか。それはなによりです……」
なんだか良く分からないが改心してくれた、のか?
「と、いうわけで勇者バッサイザ―よ、私は今日からお前の仲間だ。旅に同行させてもらうぞ」
「いえ結構です」
即答する俺。
「遠慮するな。私の名前はリファリー。これから宜しくな勇者よ」
「いえ本当に結構です」
声を震わせながら即答する俺。
「はは、死にたいのか? 同行すると言っているのだ。男なら黙って私を引き連れろ!」
「本当に結構ですからぁぁ!!」
泣きながら即答する俺。
(異世界怖い。お家帰りたい……)
こうしてまた一人仲間が加わり俺の異世界勇者ライフは地獄の様相を呈してくるのであった。