7話:窮地
「うお!?」
赤髪女盗賊の二度目の斬撃が髪をかすめる。間一髪後方へ飛び回避したがまぶたの上をパックリと裂かれる。
(なんだこいつ! 滅茶苦茶速ぇ!)
その身のこなしはまるで暗殺者。目で追うのがやっとだ。
(これは手加減する余裕なんかないな……)
短剣を逆手に持ち直しこちらを見据える女盗賊。いつ三撃目が来てもおかしくない……俺は覚悟を決めてチェーンソーを起動させる。そして十分な間合いから必中の形式変化型刃を繰り出す。
「形式変化型刃・『星雲』……って!?」
俺がチェーンソーを振り下ろす直前視界から女盗賊が消える。
「後ろです! バッサイザ―様!」
リオロザの声で後ろを振り返ると先ほどまで正面にいたはずの女盗賊が低い姿勢で今まさに俺に斬りかかる所だった。
「っ! 閃光戟!」
俺は咄嗟に覚えたての閃光魔法を放つ。
眩い光と共に魔力の小規模爆発が起こりあたりの地面をふっ飛ばす。俺もその爆発の反動で後方にふき飛ばされる。
……パラパラと石が弾け大きな土煙が舞う。
(……なんとか回避できたか……痛っ!?)
強烈な痛みを感じ自分の右わき腹に手をやる……ドロッとした赤い血がべっとりと右手に付着する。
(え? マジで? これ俺の血? 俺の血なの??)
右わき腹を大きく抉られた自分の状況にパニックに陥り卒倒しそうになる。
だが女盗賊は倒れる時間さえ与えてくれはしなかった。
土煙の中から一瞬ギラリと光る刃、目にも止まらぬ身のこなしから今度は左肩をザックリと抉られる。
肩からも大量の血が噴き出る。血だるまになっていく自分の受け入れ難い状況を前に……完 全 に 切 れ た!!
「こ、この……調子に乗んなぁぁぁぁ!!」
「……!?」
「俺は手加減してやったのに! 手加減してやったのにぃぃ!! ザクザクザクザク斬りつけやがってぇぇ!!」
「バ、バッサイザ―様!?」
「こんな星などもう知らん! 粉々に消えて無くなれぇぇ!!」
俺は怒り心頭のまま超高火力・形式変化型刃、『流星破壊』をチェーンソーに装着する。
「地の果てまで吹き飛べやぁぁ!!」
俺はチェーンソーのアクセルスロットルを全開で回す。
ガタガタガタ……プスン……
鈍い音を鳴らしながら全く動かなくなるチェーンソー。
「あ……」
そういえば一週間はチャージしないと使えないんだった……
急に我に返ると自分の体から脈の音がドクンドクンと大きく聞こえてくる。
(あれ……なんか寒い……)
距離を取ってこちらの様子を伺っている女盗賊が霞む視界に映る。
(ヤバ……駄目だ、このままだと殺される……あ、リオロザ。……リオロザ早く逃げ……)
そしてバタリとその場に倒れて気を失ってしまった。
「バッサイザ―様!」
「……何もないのか……やはり勇者などこの程度……」
短剣を手に距離を詰める女盗賊。
「やめて! バッサイザ―様は貴方達の誰も殺してはいないはずです!」
「修道女……面白い事を言う。確かにこいつには誰も殺されていないようだ」
「じゃあ!?」
「だが勇者には……勇者には……」
唇を噛みながらな何かを言いたげな女盗賊。その時チェーンソーからピーと音が鳴る。
――――セーフティモード起動します。