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6話:女盗賊リファリー

 今にも崩れそうな多数の住居の残骸。その住居の中から感じる刺すような視線。


 この異世界に来て数度ではあるが魔物と対峙してきたがその感覚とはあまりに違う。

 魔物が襲ってくる時はそれ自体が生きる為の目的と刷り込まれているような本能的なプレッシャーがあった。しかし今向けらている視線のソレは理性的というか、殺意、躊躇、恐怖、様々な思惑が入り混じった複雑な気を放っている。

 元の世界で日常生活を送っていれば間違いなく体験する事はなかったであろう不思議な感覚だ。


(状況的にも盗賊団で間違いないよな……)


 チェーンソーを持つ手が緊張で汗ばむ。

 この緊張は決して相手にビビっているわけではなかった。


(昨日くらいのレベルの盗賊が二十人なら多分勝てるだろうけど……異世界と言っても人は殺したくないよなぁ……)


 何せ加減してチェーンソーを使ったことが無い。それどころかリオロザのせいでほとんどの形式変化型刃カッティングアタッチメントは試せていないままなのだ。

 俺は慎重にチェーンソーのアクセルスロットルを回す。


 その動作が呼び水となったのか半壊の建物から一斉に盗賊団が唸りをあげてこちらに向かってきた。


「ヒャッハー!!」


 人数はやはり二十人程度か。手には長剣、槍、こん棒など近距離戦闘向けの武器をそれぞれが振りまわしながら狂気に満ちた表情で向かってくる。

 こんな光景、核と暴力が支配する世紀末くらいにしか拝むことはできないと思っていたが実際目の前にすると意外と笑えないもんだな。


 俺は左手でリオロザの肩を押し一歩後ろに下げる。


「広域必中・形式変化型刃カッティングアタッチメント『星雲』(ネビュラ)!」


 チェーンソーの刃先であるガイドバーがグーンと伸びその硬度を失う。代わりに鞭のようなしなやかさを得た刃を盗賊団目がけて勢いよく横にはらう。


「ぐぎゃあぁぁ!!」


 触手のような刃が盗賊団を襲う。一閃薙ぎ払っただけだが二十人近い盗賊団員全てに的確に命中していく。うめき声をあげながらその場にうずくまる盗賊団の男たち。


(おぉ……やっぱ便利だなコレ)


 俺が敵と認識した対象を目と刃の届く範囲なら全て攻撃できる命中率100%の形式変化型刃カッティングアタッチメント『星雲』(ネビュラ)。攻撃力は45しかないけど今回に関してはそれもいい感じだ。


「流石です!」


 少し後方からその様子を見ていたリオロザが声を掛けてくる。


「いや、これは俺が凄いんじゃなくて……」

「流石はチェーンソー様です! 向かう所敵なしの凛々しいお姿……まさに無敵! 私、惚れ直してしまいます!」


(あ、言わなくても分かってるんだ)


 両手をギュッと握って憧れの眼差しでこちらを……いやチェーンソーを見るリオロザ。


(まあ確かにチェーンソーの力だからいいんだけどさ……)


 全くこちらを見ようとしないリオロザの素の行動が俺のHPに20ほどのダメージを与える。

 いやいや、寂しいなんて思ったら駄目だ! これは心の浮気だ! いかん、いかんぞ俺!


 そう自分に言い聞かせ掃討した盗賊団をきょろきょろと見渡す。


(おっ、いたいた。あいつだ)


 地べたに這いつくばる盗賊団の中に先日ペルシャの町でリオロザを引きずり回していた鞭の男を発見する。俺は鞭男に近づき腰を落として話しかける。


「盗賊団の団長さん。これに懲りたらもうあんな真似はするなよ。あんた達だって痛い思いはしたくないだろ」

「ぐぎゃぁぁ!」


 隣で叫び声が聞こえる……目をやるとまさにリオロザが盗賊団の一人の生爪を剥ぎ取った瞬間であった。


(あれマジだったのかよ! 怖ぇぇ!!)


「……ほ、ほらな。生爪とか剥されたくないだろ……うん、でもあれはちょっとやり過ぎだよね」


 その後も笑顔で盗賊団に制裁を加えるリオロザ。廃墟となった村に悲痛な叫び声がこだまする。


「ぎゃは……。勘違いしてんじゃねーぞ勇者ぁ……」


 鞭男が仰向けにゴロンと転がって不敵な笑みを浮かべる。


「お前、勇者なんだろ? 勇敢で優しい勇者様なんだろぉ?」


 憎悪に満ちた表情でこちらを見る鞭男。


「俺たちは正義面した奴らが大っ嫌いなんだよぉ……特に勇者なんて人種はなぁ……」


 なんだか知らないが嫌われたものだ、まあこんな事をしたら当然か。

 ……リオロザの気も済んだだろうしこいつ等も当分は町に来ないだろう。取りあえずはここにもう用はないな。


 ガシッ……


 立ち去ろうとする俺にしがみついてくる鞭男。


「ぎゃは……俺たち盗賊よりタチが悪いぜぇお前等勇者はよぉ。俺たちは奪う度に汚名を着せられるがお前達は奪っても奪ってもそれが正義と肯定されるんだからなぁ……」


 何言ってるんだこいつ……


「それに俺は団長じゃねぇ……俺たちの団長はただ一人。リファリー団長だけだからなぁ……」


 そう言って気を失う鞭男。

 ……なんだ……こいつが団長じゃなかったのか。しかし何故か盗賊の戯言と聞き流せない真に迫るものがあったな。

 まあどちらにしても盗賊団団長まで探している暇は―――――


 ビュン!


「!?」


 死角から短剣が俺の首筋目がけて放たれる。すんでの所で前転して身を躱す俺。


「っ……危っ!?」



(な、なんだ!? 切られた!? 全然気配を感じなかったぞ?)


 右の首筋から血が流れる。後少し反応が遅かったら頸動脈を掻っ切られていた。すぐさま振り返るとそこには黒装束に身を包んだ女の子が立っていた。


 女……ではない女の子だ。歳は俺より少し若いくらいの17~18歳くらいだろうか、長く伸びた赤髪に感情のない目つきと佇まい。容姿はかなりの美少女だったが可愛らしいという表現とは対極の禍々しさすら感じるオーラを放っていた。

 俺は恐る恐る少女に問う。


「……まさかあんたが団長様……ですか?」

「それがどうした。仲間の仇は取る。勇者は殺す」


 そう言って赤髪の女盗賊は短剣を構え直す。


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