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5話:聖水結界

「もうすぐリファリー盗賊団のアジトに着きますよ」


 ペルシャの町を出てから一時間くらいだろうか。結局リオロザに言われるがままリファリー盗賊団を懲らしめるべく慣れない異世界を歩いている俺。

 そしてそんな俺と肩を並べて歩くリオロザ。しかしその言葉は俺ではなくチェーンソーに向けて発っせられていると感じるのは気のせいだろうか……


 俺とリオロザを挟むようにチェーンソーがぶらんぶらんとブランコのように揺れている。持ちにくいので腰に装着したいのだが隣の修道女が離さないのだからしょうがない。魔物と遭遇した時の為に預けっぱなしという訳にもいかないし……


 結局妥協案として子供を連れ添う夫婦のようにチェーンソーの端と端を持って歩くことになっていた。リオロザは安全なハンドル部分を、俺は刃先であるガイドバー部分を鷲掴みにしてチェーンソーを共有している。ちなみに俺の右手は今血だらけだ。


民間療法(ナオルン)!」


 俺は自らの右手の傷を魔法で癒す。

 先ほどから何度この作業を繰り返した事か。盗賊団の元に辿り着く前に俺のMPは底をつきそうだ。


「バッサイザ―様。少し魔法を使いすぎですよ? 相手を甘く見てはいけません、ちゃんとMPは節約してくださいね」


(誰のせいだ……)


 道中何度も魔物に襲われその度に嫌がるリオロザから無理矢理チェーンソーを剥ぎ取る。しかし驚異的なまでの執念でチェーンソーを離そうとしないため引っこ抜くのにも一苦労だった。


(さっきは危うく小指が飛びそうだったからな……本当にこの子なんとかして!)


 ズタズタになった右手をチラチラ見ながら溜息をつく。その溜息とほぼ同時に俺の悩みの種である修道女がピタリと歩みを止める。


「着きました……ここです」

「ここ?」


 そこは廃墟となった村であった。町ではなく村……だ。

 拙い作りの藁ぶき屋根の住居は半壊し道もぐちゃぐちゃ。元は畑であったと思われる四角い窪地からは雑草だけが生えていた。


「この村……滅ぼされたのか?」

「ええ……魔物に、十年程前に……」


 俺はまだこの世界に来て二日も経っていない新参者だ。そして長居をする気も毛頭ない……が、やはりこの光景は気分のいい物ではない。

 ゲームや漫画で出てくる「魔物に滅ぼされた村」は目の前で見ると想像以上に不快なものであった。


(やっぱり魔物と楽しくやってる世界ではないみたいだな。勇者なんて職業がある時点でお察しだったが……)


「この村が滅んで先ほどのペルシャの町が無事な理由は分かりますか? バッサイザ―様……」


 真剣な表情でこちらを見つめるリオロザ。


「えっ……と。町の大きさ、とか?」


 はぁ~と深いため息をつくリオロザ。


「本気で言ってます? 何年勇者やってるんですか?」


(二日ですけど、正確には二十八時間程度ですけど!)


「……神の聖水、はご存知ですか?」

「いえ、知りませんすいません」

「……神の聖水は町を魔物から守る『聖水結界』の別称です。『聖水結界』は知ってますよね?」

「うん(知らない)」

「神の聖水を町に散布する事で『聖水結界』が生まれ、魔物を寄せ付けない強力な加護を受け守護領域となります。今となっては町や村を作る時必ずこの『聖水結界』で地ならしをしてから作り始めるのが常識になっています。しかしこの『聖水結界』が浸透したのはせいぜいここ二、三十年程の事……」

「……つまり、ここは『聖水結界』で地ならしされてない村だった、と?」

「いえ『聖水結界』は後からでも散布可能です。しかしご存じの通り『聖水結界』は人間の魔法も掻き消してしまう力を持っているのです。その為、悪魔の力として受け入れられない人たちも多く……」

「結界を張れるのに張らなかった、って事か」

「……そうです。私も世界各地で神の教えを説いて来ました。当然神の聖水と共に生きる事でどれだけ不幸から身を守る事ができるのか、も……しかし人の心というのは人の言葉では動いてくれないものなのだと、自分の未熟さを痛感する毎日でした……」


 シュンと肩を落とすリオロザ。

 そうか、この子も大変だったんだな……


「あ……あのさ、リオロ……」

「でもでも! そんな私は昨日でグッバイなのです! 今は人の話を聞かねーと天罰食らっても知らねぇぞ? 後で泣き見るのはてめぇ等なんだからな? 的な説法をして行きたいと考えています! やはり人間とは損得勘定で動く生き物であるがゆえにリアルな危機感を煽る事で恐怖心を芽生えさせればイチコロだと思う訳ですよ!」


 目をキラキラ輝かせながら話すリオロザ。


(昨日馬に引きずられたとき頭でも打ったのかな……それとも元々こういう性格なのかな……怖い、怖いよこの子)


「……!? リオロザ。チェーンソーから手を離せ」

「え……? 嫌ですけど?」


(この女……!)


「お願いですから離してください。後で好きなように使ってもらって構いませんから」

「もう、仕方ないですね……」


 そう言ってチェーンソーから渋々手を離すリオロザ。


 十……いや二十人はいるか?

 異世界だからなのか、勇者だからなのか、それともレベルが上がっているからなのか。とにかく俺は相手が発する敵意を敏感に感じ取れるようになっていた。


(魔物……の気配じゃない。人だな……こっちの行動は筒抜けだったってわけだ)


 俺はチェーンソーの形式変化型刃カッティングアタッチメントを付け替え戦闘態勢に入る。


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