4話:朝チュンレベルアップ
チュンチュン……
「ん……」
小鳥の囀りで目を覚ますリオロザ。
「おはようございます……チェーンソー様……」
一人小さな声で呟くリオロザ。
自分でも気づかない内に重荷となっていた着なれた修道服はベッドの横に丁寧に畳まれていた。
リオロザは愛おしそうに横で眠るチェーンソーを見つめると透き通るような白い肌をそっとハンドル部分に押し当てる。
セーフティモード起動します――
「う……ん……」
「あ、すいません。起こしてしまいましたか?」
「ああ、いいんや。丁度そろそろ起きようと思ってたとこや」
「ふふ、お優しいですね」
「あ、アホ抜かせ! ほんまや」
クスクスと笑うリオロザ。
「……リオロザ。昨日は痛くなかったか? その……わしってギザギザしとるやろ?」
「まあ、気にしてらっしゃるんですか?」
「ちゃ、ちゃうわ! チェーンソー界のハードボイルドに向かって何言うとんねん!」
「ふふ、大丈夫ですよ。私、こんなに幸せだったことないです」
「そ、そうか、ならええんや」
その後二人の間に心地よい沈黙が流れる。
「ねぇ、チェーンソー様」
「なんや? リオロザ」
「好きです」
「あ、アホ! 何真顔で言うとんねん」
「私、チェーンソー様と離れたくない……一緒に……ついて行ってもいいよね?」
「アカン! それは駄目や、わしの歩む道はぺんぺん草も生えん修羅の道や。女子供が一緒に歩める道とちゃう!」
「いーえ。もう決めたんです!」
「リオロザ……わしはお前に汚れて欲しくない、綺麗なままのお前でいて欲しいんや」
「……私はもうチェーンソー様のもの……チェーンソー様が歩むのならば例え修羅でも地獄でも……」
そっとチェーンソーのガイドバーを指で撫でるリオロザ。
「っ……!? リオロザ!?」
「どこへでも連れて行ってください……」
――――!!
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おかしい……
結局野宿をする事になった俺は疲れの取れない体をパキパキ鳴らしながらシステム手帳を確認する。
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Lv:17
職業:勇者
HP:182/182
MP:84/84
筋力:62
耐久:60
敏捷:59
魔力:54
攻撃力:62
守備力:66
装備
Eチェーンソー(+0)
E旅人のマント(+4)
E安全ヘルメット(+2)
魔法
火鉛 民間療法 慈愛 閃光戟
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何故だか分からないが一晩でレベルが10も上がっている……
昨日の盗賊との戦闘でレベルが上がったのか? いやでも結局倒してないしなぁ。
それにチェーンソーも昨日の騒ぎでどこかに落としてしまったらしい。
(うーん。困った……)
「バッサイザ―様……」
頭を悩ませながら町を歩く俺の後ろから聞き覚えのある声がする。
振り向くと昨日の修道女リオロザがチェーンソーを携えて立っていた。
「おぉ、チェーンソー! 良かった! 持って来てくれたんですね。ありがとうございます!」
チェーンソーを受け取ろうと俺は手を伸ばす。
バシッ!
「へ?」
修道女リオロザの平手が俺の右手の甲を弾く。
「あ……すいません」
ペコリと謝るリオロザ。
「あ、いえいえ。見つけてくれてありがとうございます」
気にしないでくださいと手を振りつつ再度チェーンソーに手を伸ばす。
バシッ!
「あ……すいません。つい……」
ついって……二度目なんですけど……
まさかこれがチェーンソーさんの言っていた天丼という奴か? なるほど確かに素人が使うには危険な技だ。
「あーやっぱり駄目ですぅ! チェーンソー様と片時も離れたくありません!」
ギュッとチェーンソーを抱きしめるリオロザ。
(おいおい、チェーンソーの刃先が肩口に食い込んで血が出てますけど……)
昨日の子……だよな?
明らかに昨日と様子が違うリオロザに恐怖すら覚える俺。
「……バッサイザ―様」
困惑する俺にリオロザは意を決したかのように話しかける。
「私を仲間に加えてください!」
「えっ……仲間、ですか?」
「そう、仲間です!」
「あの、すいません昨日も言ったんですけど俺、彼女がいるので娶るとかはちょっと……」
「はぁ? 何言ってるんですか? どれだけ自分に自信があるんですか、鏡とかちゃんと毎朝見てますか、自意識過剰も大概にしないと迷惑ですしマジでキモイんでやめて下さい」
……あれ……おかしいな、目から変な汗が……
「さあ、そうと決まれば行きますよ」
何が決まったのかは分からないがどうやら俺に仲間ができたらしい。
「行くって……どこへ?」
俺は頬を伝う何かを拭いながらリオロザに問う。
「どこって、当然リファリー盗賊団の所ですよ?」
「えっと……何しに?」
「もう! 察しが悪いですね。当然仕返しに決まってます! 私を馬で引きずり回したことを後悔させてあげるんです」
「あ……そうなんですか……」
「ふふ、さぁ、とっ捕まえて爪とか剥ぎますよ~♪」
この子、修道女だよね?
こうしてゆっくり休む暇もなく、なし崩し的にリファリー盗賊団の元へ向かう事になるのであった。