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2話:喋れ! チェーンソー!

「いや、でも町まで結構遠いなぁ……」


 下山を決め込んでいざ一歩と進んだ矢先、麓に見える町の遠さにゲンナリする。

 山頂付近で目が覚めたせいもあり普通に下山していては日が暮れそうだ。大熊も出て来る危険地帯だしもうちょっとマシな待ち合わせ場所はなかったのだろうか?


 ガササ……!


 二歩目を躊躇っていた矢先、この世界で魔物との二度目のエンカウントを果たす。

 茂みの中から飛び出た魔物は鋭い歯を光らせ、赤い目をギョロリとこちらに向けて牽制している。

 

(野ウサギの魔物?)


 今にも飛びかかろうとしている野ウサギに、俺はチェーンソーを構える。可哀想だが一瞬で蒸発してもらおう。

 俺は再びチェーンソーの安全ロックを外しアクセルスロットルを回す。


 ガタガタガタ……プスン……


「へ?」


 先程とはうってかわって全く動かないチェーンソー。

 野ウサギの魔物は困惑する俺目がけて襲い掛かって来る。


「ちょ? 待っ! 火鉛(ヒエン)!」


 俺は覚えたばかりの魔法を咄嗟に放つ。

 小さな火球が指から放出され野ウサギにヒットする。野ウサギは「ギャギャア」と叫びながら森の奥へと逃げ帰って行った。


「はぁ~びっくりした。なんだなんだ? 故障か?」


 俺は全く動かなくなったチェーンソーを隅々まで調べる。


「ん?」


 俺はチェーンソーの異変に気付く。

 先ほどエルフさんが驚嘆の声を上げるきっかけとなった刃の根元の部分に書いてあるはずの9999という数値。その数値が今0と表示され赤く点滅している。


「なんだこりゃ?」


 あれ? これって攻撃力を表す数値なんだよな? じゃあこのチェーンソーってもう使えない……!?


 サーッと血の気が引く。


(いや、落ち着け俺。仕方ない、うん仕方ないよ。元々このチェーンソーは俺のじゃなくて会社からの貸出物だし、それにチェーンソーがなかったらさっき二度目の人生もTHE・ENDだったわけだし……)


 短い間だったけどありがとうチェーンソー。俺の命を救ってくれた御恩は一生忘れません……


 俺はチェーンソーを地面に突き刺すと手を合わせ黙祷する。そして決意を新たに勢いよく山を駆け下りる。


 ――――俺たちの戦いはこれからだ!


「ちょっと待ちぃな、お兄やん!」

「?」


 背後から声が聞こえる。

 振り返って辺りを見渡すが誰もいない。


(あれ? 気のせいか?)


 センチメンタルに過去を振り返っている暇はない。俺は一刻も早く現実世界に戻る!


 ――――俺たちの戦いはこれからだ!


「だからちょっと待ちぃや! お兄やん!」


 ……やはり幻聴ではないようだ。

 もう一度くるりと振り返る俺。声の発生源は……チェーンソー?


 エンジン部分がブォンブォンと唸り小刻みに震えながら機械音を発する。そしてブレーキガードの部位が前後に動き、まるでこっちへ来いと手招きをしているようだった。


「まあちょっといいからここに来て座りぃや」

「あ、はい……」


 最近のチェーンソーはビームだけじゃなくて言葉も喋るのか、凄いな。

 俺はチェーンソーに言われるがまま腰を下ろす。


「体育座りとちゃう! 正座や!」


 あれ? なんか怒ってる?


「お兄やん……さっきのは危険やで」

「危険? さっきの?」

「さっきの俺たちの戦いはこれからだENDの話や!」

「はぁ……?」

「あれは天丼っちゅうてな。素人は扱ったらあかん高度な技術なんや……分かるなお兄やん。チェーンソーと天丼は危険と紙一重、まさにパンドラの宝石箱やぁ! なんやで」

「はぁ、そうなんですか。今後気をつけます」

「うむ、素直はええ。素直は大事や」

「ところでチェーンソーさんは何か普通に喋ってますけど、生き物だったんですか?」

「アホ抜かせ! わしは崇高なチェーンソーや! お兄やんがいきなり超高火力・形式変化型刃カッティングアタッチメント『流星破壊』(メテオデストロイヤー)を使うからセーフティモードに入っとるだけや!」

形式変化型刃カッティングアタッチメント『流星破壊』(メテオデストロイヤー)?」

「そや、お兄やんの腰に掛けとる布袋の中を見てみぃ。あと六種類ほど別の形式変化型刃カッティングアタッチメントがあるやろ?」


 俺はチェーンソーさんに言われるがまま腰の布袋に手をやる。確かに形式変化型刃カッティングアタッチメントが六種類ほど入っている。


「これは?」

「わしに装着する事で複数の能力を使い分ける事ができる形式変化型刃カッティングアタッチメントの数々や。ちなみにお兄やんが最初に使った『流星破壊』(メテオデストロイヤー)はその中で最も高火力のとっておきって奴やな」

「あぁ、凄い威力でしたもんね」

「そや。ただし『流星破壊』(メテオデストロイヤー)はその威力と引き換えに使用回数にも制限があるから注意するんやで。一回使ったら一週間はチャージせんと使えんからな」


 なるほど、それでチェーンソーが使えなかったのか……


「なんだか色々とご丁寧にありがとうございますチェーンソーさん。良かったら俺の仲間になってくれませんか?」

「あ、阿呆抜かせ! わしは殺戮マシーンのチェーンソー様やで、馴れ合いは御免や! ……ただ困ったことがあったらいつでも頼ってくれてええんやで」

 

 エンジン部分を真っ赤にしながらチェーンソーさんは呟く。

 良い人、いや良いチェーンソーだ。


「おっと、そろそろセーフティモードが解除されるな。わしはあくまでセーフティモード中の暇つぶしお喋り機能でしかないからな」

「そうなんですか?」

「そや、ほんま難儀な話やでぇ。まあセーフティモードが解除されれば『流星破壊』(メテオデストロイヤー)以外は使えるようになるから色々試してみるとええで」

「はい! 分かりました」

「ええ返事や。ほなまたな」


 ピー……セーフティモード解除されました。


 音声ガイダンスと共に物静かになるチェーンソー。


形式変化型刃カッティングアタッチメントか……町についたら試してみるかな……)


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