♯4 初対決
ビュッ!という音と共に、
火薬の塊とおぼしき物体が目の前に迫ってくる。
僕は一瞬何をすべきか迷ったのち、すぐに半透明の壁を作り出して、それを防いだ。
鈍い破裂音と共に、眼前を煙が覆い、視界を奪い去る。
煙を吸い込み、思いきり咳き込みつつも、
ーーさて、どうくる?
と身構える僕。
幾秒もたたず、 煙のなかに対戦相手の女性のシルエットが浮かぶ。
次の瞬間、勢い良く彼女は姿を現した。
激しい動きに合わせて揺らめく、 余りにも美しい銀髪に、僕は目を奪われる。
その姿は、こちらに敵意を向けているにも関わらず、優美であった。
しかし、そんな事を考えている僕をよそに、彼女は攻撃の手を緩めない。
片手地面に手をつき、逆立ちするような姿勢から蹴りを繰り出した攻撃を、僕は上体をそらし、間一髪で回避する。
空を切った脚の衝撃で、僕の体操服がたなびく。
次に彼女は、攻撃反動を使い、数メートル後ろに足から着地した後、僕に息つく暇を与えず、補正のかかった脚力で一気に差を詰めてきた。
ーー右突き蹴り、からの左回し蹴り、右蹴り上げ
凄まじい勢いで繰り出される蹴りを、僕はとっさに頭に叩き込まれた感覚を頼りに、全てかわしきってみせた。
そこで、彼女の行動が少し停止する。
ーーチャンス!!
すぐさま、こちらも補正がかかった右ストレートを繰り出そうとする。反撃だ。
攻撃を全て僕にかわしきられた彼女は、水色がかった瞳を目一杯広げ、驚きの表情を表した。
あくまで、一撃決定の模擬戦という形をとっており、システム上、これで相手が傷つく訳ではないはずなのだが、
ごめん!と心の中で呟く。何分初めての経験なのである。
しかし、
勝利を確信して繰りだした攻撃は盛大に空を切る。
次の瞬間、どうなったか気づく間すら与えられず、僕はうつ伏せに地面を拝んでいた。
口の中に土の味が広がった。
みっともねー!
誰かが叫んでいるのが聞こえる。
……しばらく倒れておこう、恥ずかしい。
そんな僕の姿を見て、心配したのか、
「ご、ごめん、大丈夫?」と、声をかけられる。
見上げた先の声の主は、今回の対戦相手であった。
その名を、水沢・マーリン・皐月。
名前の通り、日本人と何処か外国人とのハーフだ。しかもかなり育ちがいい雰囲気がでている。
とにかく、これで長い白銀の髪や、水色の瞳、線の細い整った顔立ちにも納得がいく。女の子にしては背が高いのもそうだろう。
運動神経がずば抜けているのもそこに由来しているのだろうか。
そんなことを考えながら、
「うん、全然大丈夫」
と答えると、
「そう。ま、じゃあ罰はあなたが受けることね。いい勝負だった」
という言葉を残し、皐月さんは踵を返して、足早に闘技場(これも先生方が一晩で体育館を改装してしまった)の出口へ向かっていった。
ーーあ~あ、プール掃除かぁ。
僕はため息をつきながら起き上がる。
そう、今日僕は遅刻をした。
その罰として、このシーズン辺りから始まるプールを、“一人で”綺麗にしなければならないのだ。
つまるところ、先程の試合は、“どちらが罰を受けるか”なのであり、裏を返せば皐月さんも遅刻したことになる。
負けてからいうのもなんだけど、二人でいいじゃないか、と思ったりする。
先生方も意地悪だなぁ。
まぁ、相手が女生徒と知り、密かに心のなかでガッツポーズをしていたのは置いておくとして。
ってか、火薬を生成出来るほどの相手だとはしらなかった。
積極的に女子に声をかけるタイプでは無いからな。油断した。
ともかく、プールを掃除するべく、僕は闘技場を後にした。




