軍師交代
「お化けでも見たような顔だね。僕が生きていたのが、そんなに意外?」
ハルトが先制する。彼はこのまま、一方的にそれを終わらせるつもりだった。
対するマティアスは、一瞬目を泳がせたものの、すぐに不敵な笑みを取り繕う。
「何のことでしょう」
「初めからいこうか」
ゼルギウスに対して看破してみせた陰謀には、続きがあった。今、その全貌が明らかにされようとしている。
「ラナリアの〈お家騒動〉に僕たちは巻き込まれた。──いや、半分はセリムが現れたことに起因するから、その表現は適切じゃないね」
この国の実質的な王、大公爵の地位争奪戦。パルマ家対ボッシュ家が、本来その構図である。
「セリムが皇子だと知られたことで、話はややこしくなった。大公やミュラー閣下はともかく、問題はあの場にゼルギウスがいたことだ」
それは決してセリムのせいではないが、若き皇子は微かに苦笑する。
「それまで何の問題もなく政争に勝利し、悠々としていたパルマ家の面々が、慌てて謀反に走る。それもセリムじゃなく大公の暗殺を企み、その罪をボッシュ家に着せるという複雑なカラクリまで仕組んで。
僕はそれを、彼らが考えたことじゃなく──誰かの入れ知恵によるものなんじゃないかと考えた」
「……どうして?」
話の腰を折らぬよう注意しながら、ジュリアが言葉を挟む。ほぼすべての行動をハルトとともにした彼女だが、その頭の中まで理解できていたわけではない。
ハルトは、この〈お家騒動〉を利用して、マティアスが何か仕掛けてくることを早くから予想していた。
謀略は軍師の得意分野である。さらにそれは、先手を打てるかどうかが極めて重要である。
マティアスの性格からして、三つ巴の争いに発展するまで、彼がおとなしく傍観しているとは考えられなかった。
それにゼルギウスも含め、パルマ家の中にはたいした策謀の士がいない。彼らが単独で策を立てたなら、もっと単純に、ルウを使ってセリムの首こそを狙ってきたはずだ。
そんな彼らが今回の作戦を仕掛けてきたことで、それは確信へと変わった。
尤もそれだけでは理由として弱い。ハルトは別のカードを提示する。
「ボッシュ家の視察さ。あれは〈やり過ぎ〉だった。
狙いはそれをこじれさせて彼らに出兵させ、反意を表したように見せかけることだったと考えられる。大公暗殺の容疑を向けやすくするためにね。
だけど彼らの反意は、内偵によって既に知られていた。しかも肝心の暗殺は、ボッシュ家の鎧を着たゴロツキたちにさせるんだ。かかる手間を考えれば、わざわざ挙兵までさせる必要なんて、実は殆ど無いに等しい。
だから他にも何か意図があるんじゃないかと思ったのさ」
「他の……? それは一体……」
問いかけたのはセリムだが、彼はマティアスに向かって言い放った。
「例えば──ボッシュ家の私兵に僕を殺させるとか」
一同は絶句し、彼に釣られるように視線を動かした。だが注目を浴びたマティアスは、眼鏡の下で眉ひとつ動かさない。
「山賊の一件で僕の後塵を拝したあんたは、その高いプライドを大いに傷つけられた。ましてやそのまま、軍師の座を奪われるなんてことは絶対にあってはならない。
──下らない理由だけど、あんたにとってこれ以上の動機は無いと思う」
「……だから、私がそれを画策したとでも?」
「そうだよ」
ハルトは断言することで揺さぶりをかけるが、マティアスも負けていない。
「視察は初めから決まっていたこと。それへの参加も私が言い出したことではありませんが?」
「確かにそれを提案したのは軍務大臣のミュラー閣下だ。でもあんたは会議で『この国の現状を自分たちの目で確認するべきだ』と発言した。
視察が予定されていることなんて、そのへんの従者に聞いたって得られる情報。つまり、確認する必要があるから視察に行くんじゃなく、視察があるから確認が必要だと言ったのさ。
敢えて直接の提案者にならず、でもちゃんとそうなるように〈誘導〉したんだよ」
「しかし──思い出していただきたい。視察は2つあった。貴方がボッシュ家の方へ行くことを決定したのは私ではないし、その人選まで分かるはずがない」
「それはどうかな?」
ハルトは冷たく笑う。ここで噛み付くこと自体、不自然だということにマティアスは気付いていない。会議の結果を受けて、急いでそれを画策したのかもしれないし、本当に彼が無実なら、そもそもまともに取り合うような話ではない。
彼にそれを躱す自信があるからこそ、この会話が成り立っているのだ。だがハルトは、容易にそれを打ち砕く。
「軍事演習と貴族家の視察──このメンバーだから前者の人選には困らないだろう。でも貴族家の方は、彼らを牽制するという裏の役目があった。この中でその任に一番相応しいのは誰だ?」
「それは──マティアスかハルトだろうね」
セリムが応じる。洞察力や話術を必要とするそれは、軍師たる彼らを置いて他にない。
「では、実際にそうしたように、マティアスがそれを固辞したとしたら?」
「ハルトしか──残らない」
今度はジュリア。彼らには少しずつ、話の展開が見えてきた。
「つまりそうやって、恰も自分が意図していないように見せかけ、ちゃっかり思ったように事を運んでいたのさ。
でも残念ながら、他に用事ができた僕はそれには行かなかった。前日遅くにそれを決めて、当日早くにここを出たから、あんたは知らなかっただろうけど」
そのときには既に、命が狙われている可能性に辿り着いていたハルトである。
そのとおり視察団が襲われれば、戦う理由の無い彼らが採るべき策は〈逃げ〉の一手。軍師は必要ない場面であるから、自分がいれば却って足手まといになることも、視察をパスした理由としてあった。
「何でまた、そんなまどろっこしいことを。ハルトひとりを手にかけるなら、他にいくらでも方法があるじゃねえか。闇討ちとか、毒を盛るとか」
物騒なことを言い出すクレイグ。だが彼の言うことは尤もだ。苦笑いしながらも、ハルトは頷いて同意する。
「勿論、セリムのためだよ」
思わぬところで自分の名が登場し、セリムはぎょっとした顔でハルトを見た。まるで彼がその片棒を担いだかのような、誤解を与えかねない言い草だと気付き、慌ててハルトは訂正する。
「ごめん、それは二次的な理由。セリムにこの国のトップを獲らせることで、その軍師として世に出ることが真の目的だ。そのためには──邪魔だったんだよ。僕が、大公が、パルマ家が、ボッシュ家が。
その地位を脅かす者とセリムの上にいる者、その〈すべて〉を抹殺すること──それがマティアスの作戦だ」
まるで言葉を忘れたように、彼らは沈黙した。遥か遠くから僅かに運ばれて来る、勝利を祝う喧騒が、やけに大きく耳に入る。
マティアスはまだ表情を崩していない。
「作戦が成功すればまず僕が消え、続けて大公が消える。その後、その罪を問われたボッシュ家が消えて、パルマ家だけが残る。
暫くの間、表面上はセリムの軍師として働きながら、裏で彼らを操る。やがて時が来れば、謀反の全容を公開することでそれを消す。当然、自分には一切の疑惑がかからないようにしてね。
ラナリアの実権を握った彼は、そこでいよいよセリムの素性を公にし、〈アースガルド帝国復興〉を宣言する。そして遂に、憧れの天才軍師と同じ参謀長の肩書きを得るってわけさ。
勿論、彼も〈予言の勇者〉を軽んじてはいないだろう。だけど一度でも味方になれば、後は裏切られなきゃ予言の解釈は成り立つ。例え志半ばで死んだとしても、だ」
「……やれやれ」
追求を受ける学者風の軍師は、挑むような目付きで、もうひとりの若き軍師を睨む。
「面白い推察です。確かに否定は出来ませんな。何しろ頭の中だけで描かれた、単なる〈妄想〉ですから。
しかしね──この私がいったいどうやれば、面識さえ無いパルマ家を操れるのです。禁呪とされる、あの忌まわしき意思操作でも使ったと言われるのですか。魔法士ですらないこの私が」
そのあまりにも自信たっぷりの態度に、マティアスを嫌い、ハルト寄りであるはずのジュリアさえも不安を覚えた。それが思わず声に出る。
「ハルト……」
だがハルトは、会心の笑みを浮かべてそれを払拭した。マティアス自身の口から、それを求められる瞬間を待っていたのである。
直接血を流すことこそ無いが、軍師たる彼らにとってそれは戦い──同じ物的証拠でも、反論として放つ方が効果は大きい。
彼は容赦する気は一切無かった。今度こそ完璧に、マティアスを潰すつもりなのである。
「ロイ、〈あれ〉の出番だ」
「うん! オイラ、言われた通りちゃんと盗んできたんだよ!」
最年少の少年は、ハルトに言われたとおりにすれば皆が褒めてくれると信じていた。だからこっそり、マティアスの部屋からそれをくすねてきたのだ。
まだ無邪気さが残るその言い方に責任を感じて、やや気勢を削がれながらも、ハルトはそれを全員に回覧するよう促す。
「何これ──〈マティアス式軍略論〉?」
それは1冊の本──いや、書きかけのノートだった。ジュリアがそのタイトルを読み上げると、マティアスが初めて顔色を変える。
但しそれは追い詰められたことによるものではなく、赤面だった。
「人の物を勝手に──困りますな!」
彼が彼なりに纏めた、軍事に関する論文がびっしりと書かれた分厚いそのノート。
(士官学校の教科書にするならともかく──経験則に欠け、実用書としてはイマイチ)
既にざっと目を通していたハルトは、その評価を口には出さなかった。それを言ってしまえば単なる悪口──本題の論破とは遠く、スマートさに欠ける。
「これが……一体何だって言うんだい?」
最初に渡され、一周してまた最後にそれを手にしたセリムは、裏表紙まで確認しながら、ハルトがそれを持ち出した意味を問う。
「それだけだと半分。もう半分はこれ」
そしてハルトが懐から取り出した封書を、やはり一番に受け取る。そして──中身を見るや、今度は目を見開いて驚きの声を上げた。
「これは──!」
「普通に見ればただの手紙。でも内容を読めば、それは〈指示書〉だ。今回の計画についてこと細かく記されている。差出人は──」
「レオニール・ヴィンフリート……」
「ええっ?」
驚愕の伝播。それは先刻、単身でこの国を訪れ、宣戦布告していった隣国の獅子王。
それがあるだけに、特にその場に居合わせた者たちの動揺は激しかった。
「まさか……あの人が黒幕だって言うの?」
「とんでもない」
ハルトは笑顔でジュリアの言葉を否定した。
「セリムだってこの国じゃマリオスだろ。他人の名前を騙るくらい、誰にだっててきるさ。──そうだよね、マティアス?」
神経質そうな眼鏡の軍師は、今度こそはっきりと顔色を変えた。だが唇を噛み締めただけで無言を貫く。
(『馬鹿な、それは確かに読んだら破棄しろと……はっ!』とでも言ってくれたらこれで決まりだったのに。さすがにしぶとい)
ハルトは自供の線をあっさりと諦めた。
「これは、パルマ家の実権を握る公爵婦人が投獄された後に、家捜しして見つけたんだ。大切そうに、鍵のついた引き出しの中にしまってあったよ。
〈ウェルブルグ戦記〉──だっけ? このあたりで、特に女性を虜にする戯曲。何しろこれは、大ファンであることを公言して止まない、実在する主人公からの手紙だからね──あくまでも彼女にとっては」
そこで漸く、ジュリアが気付く。
「あ……もしかして〈ラブレター〉?」
「そうとも言えるかな。彼女の心を掴むために、ちゃんと語りかける口調で、それっぽいことも書いてある。『ともにラナリアを正しき未来へ導きましょう』とか何とか。『読んだら破棄するように』とも書いてあるけど、だからこそ余計に、彼女にはどうしてもそれが出来なかったんだろう。
そしてさっきも言った通り、内容の殆どは今回の計画についてのものだ。彼女は、つまりパルマ家とゼルギウスは、これに従って事を起こしたのさ」
ハルトはその手紙の意味を説明したが、それでもまだマティアスは諦めていない。その衰えぬ戦意を表すかのように、反論を口にした。
「それはレオニール王自身か、またはそれを騙る何者かが書いたもの──そこまではいいでしょう。しかし、だから何だと言うのです。それがそのまま、私がそれをしたことにはならない」
「レオニール王じゃないだろう」
セリムが口を挟む。彼には少なくとも、それが獅子王の仕業とは思えなかった。
「ボッシュ家の反乱を自ら知らせに来るほどの人物が、それとは別にパルマ家と結んでいたなんて──」
「我々を安心させて、隙を窺うための謀略だったのかもしれません」
「それはあり得ない」
否定したのはハルト。いよいよ大詰めのときを迎えていた。
「この作戦自体、セリムが皇子であることを知らないと成立しない。でもレオニールがそれと知ったのは、朝方の会議で盗み聞きしていたとき。この手紙がこっそり彼女の部屋に差し込まれたのは、遅くとも一昨日の夜──時間が合わない。
まあ易々と城に潜入した彼のことだ。それ以前から知っていた可能性も確かにゼロではないけど、部外者が書いたにしては内情に詳しすぎる。
何より、そんなことを議論する前に、誰が書いたのかを示す証拠ならそこにあるじゃないか」
セリムはまたしても唐突に自分を差され、一瞬身を固くしたが、それが手にしたノートのことであることに気付くと、改めてそれを開く。
「重要なのは内容じゃないんだよ」
「そうか──筆跡が同じ!」
一同はセリムのもとに集まり、それを覗き込んだ。そして主と同じ結論に至る。
ひとり、その輪には入らなかったマティアスは懸命に平静を取り繕うが、その手は微かに震えていた。
「よく似た筆跡だからと言って、私が書いたとは──」
「よく似たどころじゃない。まったく同じだよ、これは」
確信したジュリアがマティアスに詰め寄るも、彼はそれを乱暴に振り払った。その所作にかっとなったハルトが、すべてを終わらせにかかる。
「この世界に指紋や筆跡鑑定なんて無いからね。ここまで証拠を揃えても、あくまでも『知らない』と言い張られれば、確かにそれまでだ」
「お、おいハルト」
言ってはならない〈外〉の事情にまで言及したハルトをダイキが嗜めようとしたが、彼は構わずに続ける。
「だけどね──それは、99%怪しくても残り1%に別の可能性があるなら罪には問われない──〈疑わしきは罰せず〉の司法が通じない世界でもあるってことだよ!」
セリムたちは──マティアスも含めて──一斉に怪訝そうな顔を見せた。彼の言う言葉の意味がよく分からなかったのだ。
だが次の言葉で、いよいよこの謀略に終止符が打たれることを理解した。
「与えられる情報はすべて出した。決めるのは──君だよ、セリム」
セリムが顔を上げた。ラナリアでは〈客将〉に過ぎない立場だが、この一行に限って言えば、最終決定権を持っているのは他でもない彼である。ルーベルク大公やレオニール王がそうしたように。
彼は思い詰めたような険しい表情で、何も落ちてはいない地面を睨む。
マティアスが黒幕に相違ないことは、もはや自明の理であった。しかし彼の脳裏には、この10年、苦楽をともにしてきた仲間としての彼の姿がある。
すぐに決断を下すことが出来ず、口まで出そうになる言葉を何度も飲み込んだ。
「愚問」
しかしルシアがそれを遮る。それまで何も発言しなかった彼女だが、それとともに抜剣していた。
「皇子のお側にいるべき私とて、そこを離れ、御身を危険に晒した。その罰は如何様にも受けよう。
──だがそれは、貴様を成敗したその後だ」
彼女は殺意を隠そうともせず、マティアスに歩み寄った。その迫力に、彼女が一歩詰めれば彼は一歩後ずさる。
「ま──待て!私はセリム様を手にかけようとしたわけではない。セリム様を思えばこそ──」
遂にそれが彼の口から飛び出した。はっきりとそれを耳にしたセリムがようやく決断する。
「そこまでだルシア。君のことは、その立場も忘れて私情に走った僕にすべての非がある。だから罰を与えるなんてもっての他──だけど、マティアス」
敢えてルシアとマティアスの間に入った彼は、右手でルシアの剣を下ろさせた。そして左へ向き直り、何処とも知れぬ方角を指差すと、それを告げる。
「貴方は仲間の命を危険に晒した。そればかりかこの国に混乱を招き、そのせいで無用に人命が奪われた。如何に僕のためとはいえ、それは過分に私欲が絡んでのこと。
貴方に、今すぐこの首都エルムト──いや、ラナリア公国から退去することを命じる。僕からの、最後の命令だ」
「──皇子!」
ルシアは納得がいっていない。ここまでの謀略を働きながら、国外追放で済ませる──それはこの世界の常識からすれば、あまりにも軽い処罰であった。
その身柄をラナリアへ引き渡せば、確実にその首を刎ねられるだろう。
だがそれと決めたセリムの言葉はもう覆らない。彼はマティアスがそこを動くまで、遠くを差したままの姿勢を崩さなかった。
「後悔──することになりますぞ」
マティアスは、もう主では無くなった少年に向かって捨て台詞を吐く。そしてちらりと、彼を追い込んだ張本人であるハルトを一瞥すると、取り乱すことなく静かにその場を去った。
それはまるで、最後までその高過ぎるプライドを誇示するかのようであった。
彼らは暫く言葉を発することもなく、その姿が見えなくなっても尚、彼が向かった先を見つめていた。
だが突然思い出したように、クレイグがもともと大きい声をさらに張り上げ、その静寂を破る。
「おい──まずいんじゃねえか。あいつはセリムやハルトたちの情報を握ってる。それを敵に知られたら──」
「まず間違いなく、そうするだろうね」
ハルトは「それがどうした」とでも言わんばかりに落ち着き払っていた。
「だけど彼のことだ。ウェルブルグにはもう無意味な情報だし、他にそれを売るとしたら、一番高く買ってくれる所にそれを持ち込むだろう。それは──」
「まさか──新生帝国か!」
やはり命に背いてでも処断しておくべきだった──今や向ける相手のいない剣をルシアが握り締める。しかしそれをそっと制すると、唯一の軍師となって初めてとなる作戦を、ハルトは仲間たちに告げた。
「今からちょうど3ヶ月後──僕たちは〈アースガルド帝国の復興〉を宣言する」
それは提案でさえ無かった。まるで未来から来た少年がそれを予言したかのような、自信に満ちた強い断言。
異論を唱えるどころか、彼らには驚きの言葉も無い。
「ウェルブルグとの開戦に際してね。セリムの健在と、予言の勇者の到来を告げることは、味方の士気を大幅に上げ、敵の戦意を挫くことになるだろう。
勿論、それによって多くの敵を引き寄せることにもなるだろうけど、その頃には僕たちにも戦える材料が揃っているはず──いや、必ず揃えてみせる。
逆に、新生帝国へ到達するのに最短でも3ヶ月はかかるマティアスの情報は、もはや使い物にならない」
それはレオニールとの会見の席上で、既に完成していた計画だった。
帝国の復興──それこそが宿願であるはずの彼ら。今はまだそれをイメージすることさえ出来ない。しかし、この少年軍師の頭の中には、はっきりとそこまでの道筋が描かれているのだということを信じることができた。
間もなく陽が落ちる。それに合わせるかのように、ラナリア国内を揺るがせた謀略合戦はこうして幕を降ろした。
そして新たな陽が上ると同時に、彼らの転機となる日々が、また始まるのだった。




