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討伐作戦(3) 決闘

「ずるいぞソーマ。お前はもうたくさんやっただろう。俺に譲れ」

「無駄だよ。それに決闘を挑まれたのソーマだし」


 抗議するダイキに首を振るハルト。ソーマは一度言い出したら聞く男ではない。


(最初の小ボス……仲間とやるなら簡単な相手なんだろうけど、1対1ならちょっと苦戦するかも)


 ハルトは看破(インサイト)のスキルを発動した。彼の脳内にだけ、向き合う2人の隠されたデータが次々と浮かび上がる。


(さすがにボスだけあってHPは高め、スキルによる補正付きか。けど基本スペックはだいたいソーマの方が上みたいだね。スピードなんて倍は違うし、闘気も魔法も使えない──意外に余裕かな。

 ボスのくせに逃走系のスキルがあるのは笑えるけど……いや待てよ。何だこれ)


 ウルバノのスキルに意識を集中させるハルト。数値で確認できる項目以上に、注意しなければならないのがそれだ。


①逃走成功率+30%(C)

②HP+50%(B)

③武器適正【(むち)】攻撃力+50%(B)

④空


鞭による攻撃力強化(・・・・・・・・・)だって? どういうことだ。だってあいつの武器は──)


「早速、いくぜ」

 ゆらりとウルバノが動いた。次の瞬間、その大柄な体型からは予想だにしない俊敏さで〈曲刀〉を抜くと、ソーマめがけて振り下ろす。いきなり渾身の力を込めた一撃だった。


「〈木剣〉でコレは防げねえだろうよ!」

 これがウルバノの狙いだった。ちまちまやり合う気など毛頭ない。木製の剣ごとソーマを叩き斬り、一気に決着をつけるつもりなのだ。


「おっと」

 ソーマは(かわ)さずに剣を合わせた。それがウルバノの思惑どおり真っ二つに──ならない!


「何ぃっ?」

「おりゃっ」


 ソーマはそれを()ね上げ、空いた(ふところ)に強烈な突きを見舞う。


「ぐほおおっ」

 ウルバノは体を曲げ、後ろに飛ばされながら何かを吐いた。そしてそのまま(うずくま)り、苦痛に歪む顔だけを上げてソーマを睨む。


「げほっ、何で……斬れねえ! ただの木だろうがそれ」

「ただの木が光るのかよ」


 ニヤリと笑うソーマの〈剣〉。それはつい先程までには無かった白く淡い光に包まれている。


「さすがに木刀じゃ折られるかもしれねえし……何より戦場でこのままだとカッコ悪いと思って」

「まさか──〈魔法剣〉か」


 ルシアが目を見開いた。〈闘〉タイプのソーマは魔法はおろかまだ闘気さえ使えないはずだが、実際に彼女の目に映るのはそれ以外の何物でもなかった。


「お前か、ラルス」

 クレイグが隣にいる端正な顔立ちの男に尋ねた。ラルスは少し笑って、

「はい。ソーマ君に頼まれて作った魔石の効果です。あれは彼の発想なんですが──面白いでしょう? 普通は身体や防具に使う〈防御力強化魔法〉を、武器にかけるなんて」


 武器に使うのは通常〈攻撃力強化〉魔法だ。しかし殺傷力を抑えた木製の剣しか使えない彼の事情を考えれば、その妙策がもたらす効果は絶大と言えるだろう。

 攻撃力はそのままで、防御に使う時だけそれは効果を発揮するのである。木の軽さを損なわず強度は鉄にも匹敵する──それはまるで新素材の武器だった。


「あいつ──」

 額にじわりと汗さえ浮かべてハルトがソーマを見る。友人は既に、再び敵と剣を交えていた。


「約束は守ってもらうぜ、山賊の旦那」

「こんの……野郎っ」


 激しく火花を散らす両者。しかしもともと心得がある上に、ソーマには得意武器を剣に設定した補正がかかっている。剣同士では勝負にならない。

 しかもルシア戦で見せた攻勢一辺倒ではなく、今回はウルバノの剣を巧みに防ぎながら戦っている。


「防御の型まで……いつの間に」

「軽く教えただけなんだがな」


 ルシアは称賛を通り越してその才能に呆れた。決闘が始まってからソーマはほぼノーダメージ、一方ウルバノはみるみるダメージが蓄積されていく。ソーマの勝利を確信する仲間たち。

 しかしただひとり──ハルトだけは注意深くウルバノの動きを追う。有用なスキルがある以上、追い込まれれば敵は必ずそれを使ってくる。自分が見ている前で不意討ちなど絶対にさせない。


 それを強く心に誓った時──唐突に彼の脳裏に新たな情報が追加された。


『危機の接近──発現まで残り1分』


 彼の読みではない。根拠も何も無いがそれは自然と頭の中に浮かび、(つゆ)ほどにも疑う余地のない確定情報として刻み込まれた。


(何だこれ……僕のスキルか)

 それは当のハルトでさえ予想外だった。いや、予習した中にそれは無かったと言う方が正しい。

 看破(インサイト)によって与えられるのはあくまでも現在の情報であり、先を読むにはそれを元に考察する必要があると彼は考えていた。


(まるで予知能力みたいだ。多分単独でそんなスキルもあるだろうけど……未来すら〈看破〉するのか)

 ハルトは──ソーマ、ダイキもだが──まだスキルをひとつしか持っていない。どうやら、看破(インサイト)で読み取れる情報には、敵味方のステータス以外も含まれるということらしい。

 スキルのストックには限界があるから、適用範囲の広さは嬉しい誤算である。


 そしてその1分が経ち──決闘は大きくその方向性を変えた。


「距離を取れソーマ!」

 ハルトの叫び声にソーマは反射的に跳び退く。鋭く空気を切る音とともに稲妻のような一撃。

 間一髪で直撃は免れたが、それでも僅かに腕を(かす)め、そこから血が滴り落ちる。まともに喰らっていたら危なかったかもしれない。


「ちっ」

 ウルバノは剣を捨てていた。代わりにその手には〈鞭〉が握られている。それも左右に一本ずつだ。


「よく躱したな……褒めてやるよ。でもこれは本当に最後の奥の手──」

 追い詰められ遂に覚悟を決めたのか、ウルバノの目つきが変わった。如何に逃げるかではなく如何に戦うか──その気迫が伝わってくる。

 ソーマも真剣な眼差しになって敵を睨み返した。


「面白え剣だし腕もある。だが鞭の間合いじゃ役には立たねえぜ」


 まず右手が動いた。持ち手部分も含めれば3メートル近くある鞭が、まるで生き物のようにソーマに襲いかかる。

 距離を取っていた彼はそれを躱すが、見切ったわけではない。そのスピードはそれほどに(はや)かった。


 続けて左。さっきとはまるで方向が違うそれも、ソーマは後ろに下がって避けた。

 距離さえ確保すれば、動作の大きさからある程度は軌道の予測が出来る。とはいえスキルによる攻撃力の補正も加わっているから、一撃でも喰らえば大ダメージは免れないだろう。


 鞭による攻撃はその直後に隙ができるもの。しかしそれを得意武器とするウルバノもそのあたりはよく理解していた。

 鞭を操る動作に無駄が無い上に、生じた隙をカバーする為の〈二刀流〉なのだ。ソーマは迂闊(うかつ)に距離を詰めることができない。


「まずいな」

 クレイグが眉間に(しわ)を寄せる。

「ソーマは遠距離攻撃の手段を持って無え。懐に飛び込めないんじゃ自慢の魔法剣も使えん」


 決闘のスタイルを採っている以上、誰も手を出すわけにいかない。ダイキやルシア──他のメンバーも手を握り締め、ギリギリと歯を噛み合わせながら戦況を見守るしかなかった。

 何か策は無いか──ピリピリした空気の中、思考を巡らせるハルトだったが、突然張り上げたセリムの大声にそれは中断される。


「ソーマ! ここは君に任せた。だから……頑張れっ!」


 余りにストレートな皇子の激励。威厳も何も気にしない、まるで友人としての素直な言葉。その分さらに強く、それは彼の想いをソーマの心へと運んだ。

 それだけではない。その瞬間、ソーマのステータスが上昇した(・・・・・・・・・・)ことにハルトは気付く。


(〈鼓舞(インスパイア)〉──セリムのスキルか)


 後に知ったことだが、それは鼓舞した味方すべての戦闘力をアップさせる、リーダーらしいレアスキルである。


「……はいよ」

 ニヤリと笑みを向け、そのセリムに言葉を返すと、ソーマは剣を肩に担ぐ構えを取った。


「〈蒼真流〉──使うのか」

 それは兜を被っていることを前提にした独特の構え。ハルトが唾を呑んだ。


 長い付き合いの彼でさえ名の付く技は見たことがない、遥かな戦国の世より伝わる〈殺し〉専門の必殺剣。

 手にするのは斬れない木刀とはいえ魔法剣であり、しかも今のソーマにはゲーム内補正も付加されている。いったいどんな技が──。


 しかしソーマは意外な行動に出た。半身の体勢から、野球のノックでもするかのように左手で何かをぽんと投げると、それをウルバノめがけて撃ち抜いたのだ。


「いっけえ!〈ファイアーソード〉!」


 それは敵の目の前で発動(・・)し、巨大な炎の塊へと姿を変えた。

 ウルバノは咄嗟に鞭を盾にしようとするが、それをあっさりと焼き尽くし、逃げる間も与えずそのままを体を呑み込む。


「ぐえええっ」


 火だるまになりながらウルバノは咆哮(ほうこう)した。そして踊るようにぐるぐるとその場で回転する。


 ──こんなはずじゃなかった。これまでどんな危険も上手く回避してきた。それが何故だ。予想外の出来事なんてもうたくさんだ──。


 火はすぐに消えたがウルバノのHPゲージもすべて消えた。山賊の首領は遂に、ゆっくりと大地にその身を崩す。

 そして──仲間たちの歓喜の声。


「やったあっ!」

「決闘なんてどうなるかと思ったけど……さすがだな」


 駆け寄る彼らの真ん中で、ソーマは会心の笑みを浮かべる。


「見たか! それっぽい〈必殺技〉が欲しかったんだよ。カンペキに決まっただろ?」


 ソーマはハルトにウィンクしてみせた。リアルさを回避するには〈蒼真流〉はやはり向かない。彼はそれをカバーする為に非現実的な──〈ゲームらしい技〉に方向を転換したのだ。

 それを容易く実行できたのは軍神の寵愛(アレスフェイバー)のおかげか、はたまた彼自身が元来持った発想力故か。


「他にもいろんなバージョンがあるんだぜ?あの鞭──素材が植物っぽかったからコレにしたけど」


 ご機嫌に饒舌(じょうぜつ)を振るうソーマ。最後はまさに彼の一人舞台だった。

 ハルトは呆れたように肩を(すく)めたが、ひとつだけ残った懸念に対しては切実に願わずにいられない。


 ──頼むから〈ファイアーソード〉のネーミングだけは考え直してくれ。


 こうして彼らの山賊討伐は成ったのだった。

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