新エリア《街》
新たなる世界を創り、俺達 中学生を閉じ込めた張本人
万物を司りし神、ゼウス。
俺達はこの世界で、一年の猶予を与えられた。
生み出されたばかりであるこの世界で、《欠陥》ーーゲームでいうバグ を探せという使命と共に。
監視の元、俺達はゼウスの手駒として欠陥探しを命じられていた。
そして、俺達四人組
前世界でコミュ障であるがために、ほぼ友達が出来なかった俺、
蒼 春樹
美人かつ 人当たりも良く、優しい性格の俺のルームメイト
花宮 紗理奈
破天荒で明るく、こんな俺にも話しかけてくれた 金髪イケメン、
佐野 光輝
俺と同じくコミュ障で、少々口は悪いが根は悪い奴ではない…と思う。
若干癖毛の黒髪
七瀬 夏海
は、既に一つーー恐らく他の誰よりも早く、欠陥を発見していた。
そして、俺達が欠陥探しに躍起になっている理由。
それは 欠陥を通じて、ゼウスが所持している前世界のバックアップを取り返せるかもしれないからだ。
摩訶不思議な多種多様のバグ、《欠陥》。
その実態は、ゼウスでも予測不可能。
具体的な方法は分からないが、それで奴の虚をつき、懐へ潜り込める可能性がある。
そして、元の世界を取り戻し、かつての日常へと帰る。
それが、俺達に残された微かな希望だ。
ーー朝
当然のように寝起きの俺の眼に入ってくるのは、カグツチの寝顔。
いいかげん慣れてきてしまっていた。
ゆっくりと上体を起こし、二段ベッドの上から降りる。
下のベッドの紗理奈は、相変わらず目を覚ましていない。
タンスの中から学校用のカッターシャツとズボンを取り出し、洗面所へと向かう。
‥そういえば
今日行く街には、私服なども売っているのだろうか
今の所は、朝昼晩 常に学校用の服だ
せめて部屋にいる時ぐらいは、ゆったりした服を着たいーー
そんな事を思いながら、洗面所に用意されている歯ブラシで歯を磨く。
目の前の鏡に映る俺は、
目にかかる程度の長さの黒髪。
無気力そうな目。
少し細めの輪郭。
どれをとっても平凡。
なんとなく嫌になる。
着替えを終えると、俺は自分の机の引き出しを開けた。
すると中にはゼウスの言うとおり、金が入っていた。
千円札が五枚。
これが一ヶ月の小遣いというわけか。
現在の時刻は8時31分。
あの2人とは9時に校門前に集合と伝えてある。
「おーい紗理奈
そろそろ起きろよー」
「ん~‥
あと1時間だけ‥‥‥」
「長ぇな!」
愚図つく紗理奈をなんとか起こし、準備をさせる。
「なぁカグ。
今日はちょっと出掛けるから、その間あの空間に戻っておいてくれないか?
心配だし」
俺は言った。
「‥‥仕方がないな‥‥」
カグは渋々承諾してくれた
俺はポケットからドクロのヘッドの鍵を取り出し、カグをもう一つの空間に戻した。
「それじゃ、行くか」
「うん!」
ーー七瀬 夏海ーー
私は今、校門前で蒼と紗理奈を待っている
光輝くんは既に来ていて、私の隣でボーッと突っ立っているだけだ。
特に会話はない
しかし不思議と、気まずいような空気感はなかった。
無言のこの空間は、落ち着ける。
この人の事は、よく分からない。
何を考えているか、分からない。
‥昨日の放課後‥
帰り際、昇降口で私は光輝くんに呼び出された。
蒼と紗理奈がいる時に。
正直、告白されるかと思った。
まぁ、元の世界でもそんな事された経験はなかったけど。
‥‥それで、その内容は
「な‥‥なに?何の用なの‥?」
緊張しながら私は聞いた。
「‥‥あのさ‥‥‥」
「‥‥!」
緊張がMAXに達する
顔が熱くなる
そして彼の口から発された言葉はーー
「七瀬って、春樹のコト好きなんだよな?」
「っ‥はぁぁ!!?
いっ‥意味わかんないんだけど!」
「ウソつけ」
光輝は済ました顔で言った。
「お前のコト見てたらわかるって
好きなんだろ?」
「ちっ‥‥ちがっ‥‥」
ちがう‥!
別にそんなんじゃ‥‥
「‥自分にまで嘘つくなよな」
ーー‥‥
自分に‥‥嘘‥‥?
そんなのついてない‥‥‥
‥いや
本当はーー気づいてた‥のかも
だからあいつを目の前にすると、顔が火照って、緊張して、うまく話せないんだ
「ーーーー
そう‥‥だよ
多分‥
好き‥‥だよ」
自分でも顔が紅潮してしまっているのが分かる。
他人への好意を自覚するのが、
こんなにも恥ずかしく、もどかしいことだとは思ってもいなかった。
「やっぱりな~
で?
どこに惚れたんだ?ん?」
「んなっ‥‥
べっ別に、なんでもいいでしょ!」
「ちぇ‥
まぁいいや。
んじゃ、俺も手伝うぜ
春樹をオトすの☆」
ふざけながら彼は言った
正直、信用ならない。
「いっ‥‥意味わかんない。
‥‥そのために呼び出したの?」
「おう!」
「‥‥
あの2人に、アンタが私の事好きだ、とか誤解されると思わなかったの?」
「べつにいーよ
だって俺の好きな人 紗理奈だし」
「あぁ‥そうなんだ。」
‥‥
‥‥ん?
ーーーー
「えっ‥‥えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」
衝撃発表だった。
「ホッ‥‥ホントに!??」
「おう」
ケロッと答える光輝。
「まぁそんなコトは置いといて‥‥
作戦は、」
ええ‥置いとくの‥?
「明日街で、俺が何とかして紗理奈を連れ出す。
そんでお前は春樹と2人っきりで街を楽しむ!
おれも紗理奈と2人で楽しんどくからさ」
なるほど‥‥分断作戦‥‥
「‥‥お互いにメリットあるしね。
わかった、そうしよ」
「おっけ!
んじゃ、寮戻るか!」
ーーーーーーーー
「お~い!なっちゃ~ん!光輝く~ん!」
寮の方向から手を降り走ってきたのは、笑顔の紗理奈だった
後ろには蒼も。
「ごめ~ん待った?」
「いや、俺もさっき来たとこだ」
「う‥うん、私も。」
「じゃあ‥‥行く?」
蒼が言った。
「おっしゃ!行こーぜ!」
「楽しみだね~!どんな服あるかな~」
場所は引き出しに入っていた地図で分かる。
徒歩五分程度、かなり近い。
楽しく話しながら歩いていると、直ぐに人通りの多く、高い建物が建ち並ぶ大通りに出た。
「ねーねー、最初はどこの店入る!?」
様々な綺麗な店が立ち並び、どこから行くか迷ってしまう。
何より、数が多すぎる。
まるで大都会のようだ。
さらに、人口も半端ではない。
老人から若者まで、どの年代層も揃い、街を行き交っている。
その時 策士である光輝が口を開いた。
「ん~、店すげぇ多いな‥‥
この数じゃ一日で制覇は出来ねぇだろうなぁ‥‥
‥‥あ」
光輝は続けた。
「なぁ、二手に別れねぇか?
あちこち行きまくって、ある程度いい店の目星をつけとくんだよ。
んでまた今度、チェック付けといた店をみんなで回る。
‥‥どうだ?」
ーー
咄嗟に考えついたにしては、凄すぎる。
完璧だ。
これなら、紗理奈も蒼も賛成してくれるだろう。
光輝の策士っぷりに、感嘆を通り越して恐怖すら感じる。
バカそうなのに‥‥
「ん‥‥それもそうだな、
俺はいいぞ。」
「そうだね!私も賛成ー!」
2人は賛成してくれた。
「わ‥‥私も、いいよ。」
私も言った。
「よし、んじゃ決定!
俺、紗理奈
七瀬、春樹でいいな?」
「おっけー!」
「わ‥‥分かった」
各々が返事をした。
「んじゃあ、4時にあの時計台の前で会おうぜ!春樹、七瀬、また後でな!」
彼は近くの時計台を指差し そう言うと、紗理奈と共に人混みの中へ消えていった。
がんばれよ、とでも言いたそうなアイコンタクトと共に。
「じゃあ‥‥私達も行こっか」
「お‥‥おう」
そう言って歩き始める。
「‥‥あっ、あそこの店入ってみない?てか入ろ!強制!」
私は綺麗な外装の服屋を指差した。
ちょっとミステリアスな雰囲気が気に入ったので、蒼にも入るように強引に勧めた。
「わ‥分かった‥‥」
ーーーー
「いらっしゃいませー」
店に入ると同時に、女の店員の声が聞こえた。
「わぁー!広ーい!!」
中は 普通の店よりも遥かに広かった。
更には奥の奥まで服が並んでいるときた。
「すごーい‥あっ!」
不意に、入口付近のベージュのブラウスに目が行った。
凄くかわいい。
私はそれを体に当てて蒼に見せ、尋ねた。
「ねぇねぇ蒼、これどう?」
「‥うん‥‥まぁいいと思うぞ」
「ちょっ、なにそのテキトーな返事!
もう‥‥だからモテないのよ。」
「なっ‥‥関係ないだろモテないのは!
てかモテない事はない!」
「そんな根暗なのにモテてた訳ないじゃん」
「くそっ‥‥」
「ぷっ‥‥冗談よ
そんな事も分からないんじゃ、本当にモテないよ??」
「うっさい、余計なお世話」
蒼をからかっていると、いつの間にか緊張なんてものはなくなっていた。
その後も、店の中を見回り続けた。
「ねーねー、これとこれ、どっちが似合う?」
デートの定番、『どっちの方が似合う?』質問。
‥‥というかこれって‥‥デートなのかな?
蒼はどう思ってるんだろ‥?
「ん‥‥‥どっちも似合うと思うけどな‥」
「あーあ、こういう時はどっちかを言わなきゃいけない場面なのに‥
まったく
気が利かないなぁ‥蒼は」
「なっ‥ひでぇ‥‥
てか、なんか今日お前やけに元気だな?」
「へっ‥‥‥!?
べっ‥別にいいじゃん!
別にいいじゃん!!
ほっといてよ!」
「何故二回言った‥‥」
「だっ‥‥だって、その‥‥、
友達と服買いに行くなんて、‥初めてなんだもん‥‥」
「あぁ‥‥だろうな、
七瀬もコミュ障っぽいもんな。」
「なっ‥‥うっさい!
楽しいのよ!!
悪い!!?」
「まぁ俺も一応 同じコミュ障の類だからな、
その気持ちは、分からんでもない」
はっ‥‥!?
‥‥まったく‥‥
コミュ障のやつが、そんなかっこいい事言ったらだめでしょ‥‥
「じゃ‥‥じゃあ‥‥
あんたも、‥‥楽しいって、思ってるの‥‥?」
「ん‥‥?まぁ‥‥
楽しいよ」
ーー‥‥!
胸の鼓動が、途端に跳ね上がる。
もう‥‥
本当にこいつは、卑怯だーー
たった一言で、一喜一憂してしまう
なんて私は単純なのだろう。
「ん‥‥?
なんか顔赤くないか?
大丈夫か?」
「へっ‥‥べっ、別になんでもないわよ!」
「えぇ‥‥なんで怒ってるんだよ‥‥」
そんなやり取りを続けながらも、私と蒼は服を選び、会計を済ませる。
「ふ~っ、なんか店内歩き疲れた‥‥」
「まだ一箇所目よ!?
どんだけナヨナヨなのよ‥‥」
そして私達は、店を後にした。
「さーて‥‥次はどこ行こっかな~」
「ちょっと休憩しようぜ‥‥足痛い‥‥」
そんなことを言いながら、人混みの道路を歩いていた
その時
ーードッ
鈍い音がした
ーー?
え‥‥?
ーー‥‥!!!!
蒼の右足の太腿が
後方から飛来した紫のレーザーに
ーー撃ち抜かれた。
鮮血が舞い上がり
ゆっくりと、蒼がうつ伏せに倒れていくーー
あっ‥‥ッ
「あっ‥‥蒼ぃぃ!!!!」