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世界と鍵  作者: はぐれメタル
7/16

仲間

ど…どうすれば…!?


まずは薬か!?…薬だよな!?




…どこにある!?





俺は部屋中を探し回った。


全ての引き出しを順番にチェックしていく。




すると机の右側の引き出しに、何やら救急箱的な物を発見した。




中には風邪薬と思しき袋が。


裏面を見ると、1人分の錠剤の量等が記載されてあった。





ふぅ…とりあえず あってよかった…






俺はコップに水を汲み、錠剤を2粒と共に紗理奈に手渡した。



ふらつきながらも彼女は薬を受け取り 飲んだ。





「…ありがとう……」


その声も、いつもの元気な声ではなかった。




「…じゃあ俺、学校行って来るよ。」



俺は濡れたタオルを紗理奈の額に乗せ、そう言った。



心配だが、俺にはどうする事も出来ない。


居ても気をつかわせるだけかもしれない…。





俺は立ち上がろうとした。






その時





制服の右手の袖が、引っ張られる感触。










「………待って…」



か細い声で、彼女はそう言った。





「…紗理奈‥…?」






「…行かないで……」


紗理奈は袖を掴む力を少し強めた





「……なんで…?」




「 ……お願い 」


そこには、普段の笑顔で明るい紗理奈の面影は無かった。




とても弱々しく、護ってあげたくなるような…




「……分かった 」


結局俺は、学校を休む事に決めた。




「昨日からずっと、迷惑ばっかりかけてるよね…

…ごめんね 」



紗理奈は横になったまま、震える声で言った。






そんな…



「…そんなわけない。

この風邪も、多分昨日のプールが原因だし…


…迷惑をかけてるのはこっちだよ 」




…そうだ


俺がこの人を巻き込んだんだ


命の危険にまでさらして…



全部俺の……






「…また、全部 自分のせい だとか思ってるでしょ…」



…っ



見事に心を見抜かれてしまった。





「それは違うよ…。


私は昨日の事が 春樹くんのせいだなんて…ちっとも思ってないよ 」





「……でも…

これから先も、あんな奴らが俺を狙って来るんだ


俺の近くに居たら、紗理奈だけじゃない…光輝や七瀬達も…」







もう…どうすればいいか分からない



これ以上みんなを危険に晒すぐらいなら、






縁を切って



ずっと1人で…







「 私…春樹くんの近くに居たい



だから、どんな目にあったって大丈夫だよ



光輝くんと なっちゃんも…きっと同じ気持ち…。」





紗理奈は上体を起こし、笑顔でそう告げた。






「 …大丈夫。

私達は何があっても




…君の仲間でいるから」











「…ありがとう」




ずっと、仲間。



その言葉が、俺の耳の奥にまだ残っていた。




いつまでも傍に居てくれる 仲間 がいる。



それだけでーーどんな事にも立ち向かえる気がした。







紗理奈は一度クスッと笑うと、眼を瞑り すぐに眠ってしまった。



顔色は少しだけ良くなった…ような気がする。





その時




置いてあった俺の右手を、温かい何かが包み込んだ。




…ん……?



視線を向けると、それは紗理奈の手だった。






ーー途端に自分の鼓動が速まり、顔が紅潮する。






「な…は……!?…さ……紗理奈……!?」




動揺が隠せない。


まぁ誰だって そうなる。多分。

仕方ない。



なんたって…手を握られたんだから。





ゆっくりと紗理奈の顔に眼を向けると…







ーー寝たままだった。




…無意識だったのかよ





なんだか焦った自分が恥ずかしくなってきて、手を引き戻そうとした時





「……春…樹……くん……


…あり…がと………」




彼女は寝言で呟いた。


それは実に穏やかな表情で、落ち着いている様子だった。





俺は、手を引き戻すのを止める。






「…その……、どういたしまして」



多少照れながら、俺は独り言のように呟いた。






その後 俺は一時間程 手を握られたままの状態だった。








ーー翌朝、教室ーー



「…おお!春樹!紗理奈!」




朝からでかい声で呼び掛けてきたのは、木椅子に座る金髪イケメンの光輝。



隣には七瀬。




遠目で見た限りでは、何か楽しそうに会話してた。



…いつの間に仲良くなったんだ



後で光輝から聞き出すとしよう。






「お前ら何で昨日休んだんだよ!心配したぞ!」




そう、彼らはまだ知らない。




俺たちが神官に襲われた事


それをカグが撃退した事


紗理奈が風邪をひいて、一日看病していた事を。





ちなみに紗理奈の風邪は完全に治った。






「べ…別に私は心配なんかしてなかったけど」


と七瀬。





「それって…私達ならきっと大丈夫だって 信じてくれてたって事!?


ありがとう!

やっぱりなっちゃんは優しいね! 大好き!」




紗理奈はそう言って、七瀬に抱きついた。





…多分勘違いだと思うけど。





「え…ちょ……そういうのじゃないんだけど…」



照れながら七瀬が言った。






「ホントこいつツンデレだな…


ーーんで?なんで休んだんだ?」



視線を紗理奈と七瀬からこちらへ移した光輝が言った。





「ちょ…ちょっと!誰がツンデレよ!!」




「ああ…一昨日の放課後の屋上での事なんだけどな…」




「 ガン無視!?」





俺は今迄の出来事を事細かに説明した。




…手を握られたりした事は勿論言ってないが。









「…っはあぁ!?


欠陥を見つけたから襲われただあ!?」


怒声をあげたのは光輝。




「あ…ああ。


今回みたいな、神を封印から解くような欠陥はゼウスにとってマズイんだと。」




「マズイっていうのはつまり…

ゼウスは他の神が敵に回る事を恐れてるって事…?」


七瀬は言った。




「ん~…どうなんだろうな…。


カグは、この世界を創る時、ゼウスが他の神を敵に回したって言ってたし…


とりあえず不安要素は取り除いておきたいんだと思う。」




「にしても納得いかねぇ…


探せとか言っといて、見つけたら殺しに来るってどういう事だよ…!」



光輝は唸りながらそう言った。




「まあ今回のは欠陥の中でもかなりイレギュラーな欠陥みたいだし…」


と俺。




「でも神様の力を借りなきゃ、ゼウスには対抗出来ない…」


と紗理奈。





…矛盾している。



放っておけば一年後、世界と共に俺達は消滅する。


欠陥を見つけたとしても、ゼウスの刺客に狙われる。




どう転んでも、命の危機からは逃れられない。





ーーでも

どちらか一方を選択しなければならないなら



俺はーー…





「…俺は、たとえ狙われたとしても


神を味方につけて、ゼウスと戦うべきだと思う。



危険なのは分かってる。



でも…最期の最期まで、怯え続けたまま死ぬなんて…


…俺は、嫌だ。」



俺はみんなに向かって、はっきりとそう言った。







ーー紗理奈は、ずっと俺の味方で居てくれると


七瀬と光輝もきっとそのつもりだろう、と言ってくれた。




でも、実際のところ、そうだとは限らない。




神に抵抗するという事は、寿命を縮める行為なのかもしれない。




何せ、ゼウスからの刺客が俺達を殺しに来るのだから。




…だからゼウスに歯向かう事に、2人が反対するのを俺は覚悟していた。



それは仕方がない。


強制出来る事ではない。




そう思いながら、俺はその言葉を口にした。





すると光輝は



「あたりまえだ!


おとなしく負けを認めるなんてシャクだ!


あのフザケた神に一泡吹かせるまでは、死んでたまるか!」



そう言った。





「……私も、黙ったままやられるなんて嫌


…私も、戦う!」




怒った時以外の七瀬にしては、珍しく声を張り上げた。




「……ね?

言ったでしょ?」


紗理奈が笑みを浮かばせ、俺の耳元で囁く。





「…うん」





しばらくの間、忘れてしまっていた。



かつての世界の、唯一の友達が転校してしまった時から。





ーーこれが、友達なんだ。




自分が心を許せる


味方でいてくれる


互いを支えあえる




この人たちが 仲間なんだ。






前世界では、俺の友達はたった1人だった。




‥‥それ関しては、明確な理由があるのだが。






そんな彼も、中学一年の時に転校した。



それから約2年間、俺には友達がいなかった。



別に友達が欲しいと思った事はない。


1人が嫌だと思った事もない。






けど


心の奥では、やはり寂しかったんだ。



…そうでなかったのなら、今のこの感情は何なんだ。



こんなにも心強く、こんなにも安心でき、こんなにもーー温かい…






その時



俺のその思考を停止させる出来事が起こった。





頭の中に、流れて来る


忘れられる筈がない、おぞましく冷徹に感じる 明るい声。





『こ~んに~ちは~☆

アップデートのお知らせでございま~すぅ♪』






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