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世界と鍵  作者: はぐれメタル
6/16

襲撃

『ね~ね~ゼノン君~~。』


神の間に、緊張感の無い声が流れた。


その声に反応したのは、長い銀髪を後ろで束ねた男性。


白い騎士服に身を包んでいる。


『…何でしょうか。』



『あのさ~ この前 、君が 言ってたじゃん。早速欠陥を見つけ出した人間が居るって。』



『左様でごさいます。』


『ちょっと厄介かもしれないんだよねぇ。

‥バックにアマテラスさんの気配がする。』



その言葉に、騎士姿の男はひどく動揺した。



『バッ……バカな……! 彼女も他の神と同様に、ゼウス様の結界を用いて封印中でございます!


そのような事が…!』




『君だって知ってるだろ? 彼女相手じゃあんな結界は時間の問題さ。


しかも彼、蒼 春樹君は一度、 自らの運命で欠陥を見つけ出した人間だ。


彼女の導きを使わないで、ね。


…彼女はいつもそんな人に助け舟をだすんだ。

……いつも。』


ゼウスはいつもの飄々とした態度とは別に、どこか懐かしむ様な口調でそう言った。




『…彼が《神擬き》である可能性だって低くない。


いずれにせよ最重要警戒人物だ。』





『…では、彼を連行すればよいのですか?』

ゼノンという男は、落ち着いた声でそう言った。



『ご名答!さすがは僕の《神官》だね。


…知っての通り、僕は行けないからさ。


いい報告、待ってるよ~~☆』







ーー新世界、4日目


放課後ーー






現在、午後5:15



俺と紗理奈は部屋のベッドでだらだらしていた。




今日は、部活は無かった。


なにやら職員会議があるとかで、全ての教室の鍵を一度回収するらしい。




ちなみにいくらゼウスが生み出した先生達とはいえ、感情はある。


ーー多少 起伏が少ない気もするが。




あと、この世界に暇つぶし道具は何一つ無い。


ゲームもケータイも無い。





つまりーー今、凄く暇だ。





俺は今 寝ているカグの隣で、ベッドに横たわっている。



ボーッとしているとーー




「…春樹くん、起きてる?」



下のベッドから、紗理奈の声が聞こえた。


てっきり彼女は昼寝中だと思っていた。




「うん、どうかした?」




「今ってさ、教室に入れないだけで、学校には入れるんだよね?」




「多分…

それがどうしたんだ?」




「…ちょっとついて来てくれないかな?

行きたい場所があるの。」



紗理奈はそう言って、ベッドから下りた。





カグをベッドに寝かせたまま、俺達は部屋を出た。




学校に到着すると、紗理奈は迷い無く階段を上り始めた。



…2階



…3階



…一体どこに行く気だ……?




…4階




…屋上



「…ここ!」


屋上のドアの鍵はかかっていなかった。

紗理奈はドアノブを捻り、押し開ける。



ーー屋上に出た。



網状の柵の向こうには 夕陽に照らされた街が、広く、広く広がっていた。



「おお…!凄い景色だな…!」


思わず俺はそう言った。




「ん~…やっぱり屋上はいいね~!」

紗理奈が続く。



春にしては涼しく 心地良い風が、俺の頬を叩いた。


前の世界の学校では、 屋上は立ち入り禁止だったから来たのは初めてだ。



「前の世界では 辛いことがあった時とか、ヤな事があった時とかによく1人で来てたんだ。


…ここに来ると、元気になれる気がして。」




……ん?



「…1人で?」



「うん。前の世界ではね。」



「………俺、邪魔じゃないか?」



すると 今まで景色を見ながら話していた紗理奈がこっちへ振り向き、言った。




「そんな事ないよ!


春樹くんと一緒に居ると、なんとなく安心出来るの。


……邪魔なんかじゃ ないよ。」

言うと、紗理奈は優しく微笑んだ。



微笑を浮かべた紗理奈は、風になびいた長い髪に 夕焼けの日差しが反射し、 ーー 驚くほどに美しかった



あまりの感嘆に声が出なかった



その時ーー

背後から、男の声。






「ーー貴様が、蒼 春樹か。」






振り向いた先に立っていたのは、銀髪を束ねた鋭い眼つきの男性。


純白のロングコートを身に纏い、首からは銀のペンダント。



それはかつて世界の跡地で見た紋章と同じ、十字架に二重丸。



そして右手には漆黒の、鋭く尖った … 槍。



「…誰だ、アンタ。」

俺はその男に聞いた。



「私はゼウス様の神官である。

ゼウス様の御命令でこの地に降り立った。


…私の質問に答えろ。貴様が欠陥を見つけ出した、蒼 春樹か?」




「……だったらどうする?」



「殺す」



短くそう言った神官は、右手をかざした。



掌に、紫の光が収縮していく。


徐々にそれは球体へとなり、帯電し始める。



「…!?なんだ…!?」



そして男はスパークしたその球体を、俺達に向かって放出した。






俺は呆然と立ち尽くす紗理奈の手を握り、走った。


全力で。



途端、俺達のすぐ後ろで爆音が鳴り響いた。




それに伴い爆風が吹き荒れ、身体が揺れる。



なっ‥‥



なんじゃそりゃぁぁ!!!




怖えぇ!!


超能力!?



‥何なんだよコイツは‥‥‥!!!




何で襲われてんだよ‥‥!!?






「……あっぶねぇ…!紗理奈、大丈夫か!?」


「う…うん!」


よかった…




続けて繰り出される攻撃を、俺達は躱し(かわし)続けた。



しかし、逃げ場がない…


男はドアのすぐ前に立っているので、入口から逃げる事が出来ない。


屋上には、入口はこの一つしか無い。



このままでは時間の問題……




そう考えていた時ーー



紫の球体が、俺達のすぐ後ろの床に命中し、



風圧で、握っている紗理奈の手が離れた。




爆発で柵は破壊され、巨大な穴が空いた状態になっている。




爆風で飛ばされた紗理奈の身体が、柵の穴から落ちて行くーー







「ーー紗理奈ぁぁっっ!!!」







わけも分からず、俺は地を蹴った。



そのままーー躊躇なく、空いた穴から飛び降りた。



紗理奈を追いかけて。





急落下しながら、紗理奈に向けて精一杯 手を伸ばす。




…もう少し…



もう少し……!!



あと数cmが、恐ろしく遠く感じられた。


…届け……!!!




伸ばされた俺の右手と 伸ばされた紗理奈の右手がーー触れ合った。



そのまま手を握り こっちへ引き寄せる。





俺が下敷きになり、少しでも衝撃が弱まったらーー


紗理奈だけは助かるかもーー




そんなバカな事を考えていた。




ーーでも紗理奈を巻き込んだのは俺だ。




‥‥俺の、この「体質」のせいだ。





あのまま見殺しになんて 出来ない。






俺と紗理奈は、強く瞼を閉じた。








その直後 俺の身体は、強い衝撃に見舞われた。



ーーが、地面にぶつかった訳ではなかった。



身体がひんやりと冷たく、動きづらい。






俺達が落ちた先は、プールだった。




……助かった…のか



俺は水面から顔を出した。



隣には、同じく びしょ濡れの紗理奈の姿。


風が当たり、より一層 寒く感じる。




「あっ…あれ!」



隣の紗理奈が、上を指差し、叫んだ。



俺も上を見上げるとーー 屋上から、校舎の外壁を 走って駆け下りて来る、神官の姿。




あっ…ありえねぇだろ……!




奴は徐々にスピードを落とし、静かにプールサイドに着地した。



「…まだ生きていたか 。

しぶといな……。」



そう言い、男は再びこちらへ右手をかざした。

紫の光が収縮していく。



ーーまずい。


ここはプールの中だ。

逃げ場は無い…!!




「 死ね 」


雷の球を放った。








刹那





遥か遠くから、何かが飛来した。



その《何か》は、俺達を目掛けて飛んで来た雷を 撃ち落とした。



一体何が……




「どうにも胸騒ぎがすると思えば……神官殿がお出ましだったか。」



赤と白の巫女装束。



燃えるような赤髪。



小さな背中。





「妾の春樹を…傷つけるつもりか………?」



紛れもないーー






「ーーカグ!!!!」






炎神、カグツチだった。







「待たせたな、春樹。」



赤髪の少女は、こちらに背を向けそう言った。


見据える先は、槍を持つ男。




「さて…ゼウスの神官よ。」


カグは、わずかに焦りを見せる男に向かって、言い放つ。



「我が主に手を出した処罰……どのようなものであるか、理解しておるか?」



男は、返答はしなかった。


代わりに、独り言のように呟く。




「…標的が増えただけ…私の使命は変わらん……。」


まるで自分自身を落ち着かせるかのように。




すると突如、男の首に提げられた十字のペンダントが、すみれ色の光を放った。



そして同時に、黒い槍の先端が帯電する。



神官とやらはその槍を腰に構え、重心を下げた。




「 ーー貫け 」



男は紫の閃光と化し、カグに突進した。


余りにも一瞬の出来事。



僅かなタイムラグで、爆音が鳴り響く。

次いで爆風。





「 …カグ!!!」




「……春樹、紗理奈。貴様らはまずプールから上がれ。」



全く普段と変わらぬトーンで聞こえたのは、攻撃されたはずのカグツチの声。





煙が消え去った後、見えた光景。




それは、右手で軽々と槍を受け止めるカグツチの姿だった。




「次に攻撃されても、かばいきれんぞ?」





「クッ……クソッ……!!!」



男はさらに、槍に力を込める。


しかし、巫女姿のカグは一歩も後退しない。


完全な棒立ちだ。



「…貴様、本当にゼウスの神官なのか? 弱過ぎるぞ。」



「 …!! 言わせておけば貴様ァ……!!!」



全体重をかけても、カグはびくともしなかった。





「 …軽いな……」




少女は、槍を受け止めている右手に力を込めた。



途端、鉄製の槍の先端が溶けていく。


液状になった鉄は、地面へと滴り落ちた。




鉄の溶ける温度は、約1500度。



つまり今のカグの掌は、それ以上の温度だという事だ。




ーーそうだ、今の内に……



俺はプールの枠の、プラスチックの部分に両手を掛けた。


力を込め、身体を持ち上げる。


そのまま足を引っ掛け、プールから出た。



「 紗理奈! 」




俺と同じく 彼女らの戦闘を呆然と見ていた紗理奈に、俺は声を掛けた。


「…今の内に、早く!」



俺は紗理奈に手を差し出した。


俺の手を掴んだ紗理奈を、引っ張り上げる。


彼女もプールサイドへと上がった。



これで流れ弾が来ても何とか逃げられるーーはずだ。





その時ふと、カグと神官の方を見た。


神官が持つ槍は、既に半分ほどの長さになっている。



「チッッ……!!!」


男は盛大に舌打ち、遂に槍から手を離した。



今 槍は、カグが先端を持っているだけの状態だ。


カグはその溶けた槍を後ろへ投げ捨てた。





「クソッ……!!

私は栄光ある…ゼウス様の右腕なのだぞ…!!!」




「……春樹に手を出したのが、貴様の運の尽きだ。」




そう言うとカグは一瞬で男に接近し、ふところに潜り込んだ。



そして、男の首のペンダントを引きちぎる。



「これが貴様の力の源だな」



そう言って、ペンダントを握りしめた。


すぐさまペンダントは灰となる。




「きっ…貴様ァ…なんという事を……!!」

男は、激しく動揺した。



「どのみち貴様も灰へと化すのだ。変わらぬ。」





そう言ったカグは、神官の頭蓋を掴んだ。


その手から、淡い焔が舞い上がる。



「帰ってゼウスに伝えろ


‥‥蒼 春樹には、何よりも強力な守護神が憑いている、とな」






断末魔と共に、神官は消滅した。











「怪我はないか?2人とも。」


カグツチが、俺と紗理奈に向かって言った。


先程の鋭いものではなく、普段の柔らかい眼つきで。




「あ…ああ。」




「なら、おぶれ。」



「………は?」




「妾は疲れたのだ。早くおぶれ。」



「おぶれ!?…だったら……。」



本来の空間に戻ればいいだろ と言いかけて、思いとどまった。




こいつは1人で、俺達を助けてくれたんだ。


あの男を倒して。




…少しのわがままぐらい 聞いてもいいか…。



「…わかったよ。」



俺はその場にしゃがみこんだ。

カグは俺の背中に飛び乗り、首に手をまわす。




そのまま立ち上がり、横の紗理奈と共に寮へと戻ろうとした。

…道はあやふやだが。





少し歩いたところで、耳元から寝息が聞こえてきた。


横を見ると、カグの寝顔。




ほんの数十メートル歩いていた間に、カグは寝てしまった。



よほど疲れていたのか…。





その気持ち良さそうな寝顔だけは、年相応の少女のようだった。







「………ありがとな、カグ。」


俺はカグの耳元で、小さく囁いた。





「…カグちゃん、寝ちゃったね。」


紗理奈が微笑みながら口を開いた。



「うん……多分、疲れたんだよ。」



すると紗理奈は、ふふっ、と笑い声をこぼした。



「なんだか…さっきの出来事が、まだ夢だったみたい。」




「 …俺もだよ。」




「……ありがとう。」




「…?何が…?」



「私が屋上から落ちた時…一緒に飛び降りてくれたでしょ?


…私のドジなのに、ゴメンね。

凄く嬉しかったよ。」




「な…い…いや、結局俺は最後まで何も出来なかったし…」




「でもカグちゃんは、春樹くんを追いかけてここまで来たんでしょ?


春樹くんが一緒じゃなかったら、私 殺されちゃってたよ。」




「でも、俺が紗理奈を巻き込んだワケだし‥‥」




「‥‥あーもう! うじうじ言わない!


そこは男らしく、どういたしまして って言っておけばいいの!」




「ど…どういたしまして……」




「……えへへっ 」




「 ? 」








「 かっこよかったよ 」







満面の笑みで、紗理奈はそう告げる。




沈みかけの夕陽に、濡れた髪が照らされ輝いていた。







ーー鼓動が、加速した。













「ふ~…着いたーー! 遠かったーー!」


寮の部屋に着くやいなや、紗理奈は叫んだ。



プールから帰ったのは初めてだったが、なかなか遠かった。


寮とプールは、学校を挟んで正反対だったので当然といえば当然だが





それにしてもコイツ…さっき あんな事を言っておいて、全く態度が変わる気配がない。




あんな事とは、ーー…俺が、かっこよかった と言う言葉の事だ。




思い出し赤面していると、耳元で幼い少女の声が聞こえた。



「…ん……。ようやく着いたか……」


背負っているカグの声。



「そうだ。紗理奈、先に風呂入ってくれていいぞ。」




俺は隣の紗理奈に告げた。



風邪でもひいたら大変だしな。


というか、この世界に風邪薬とかあるのか…?



「うん、ありがと。」


彼女は笑顔で返答した。




紗理奈は着替えを個人タンスから取り出し、洗面所へと向かった。




「…ほら、カグ。 降りていいぞ。」


俺はしゃがみ、背中の少女に声をかけた。



「……うむ。」


多少 名残惜しそうにも見えたが、カグはゆっくりと背から降りた。



カグはトコトコと歩いて行き、ベッドの二階に上がる為のはしごを駆け上がった。



俺も後から続く。




「…なぁカグ。 さっきの奴の事、教えてくれないか?」



「先程の神官の事であるか?」



「 ああ。


あいつは何者なのか。

どうして俺達が狙われたのか。


知りたいんだ。」





「あやつは神官と称される、神に仕える役割の、部下の様な存在だ。



神官に任命された者は、仕えている神の力を受け継ぐ事が出来る。


契約の証の武具を身に付ける事によってな。」




カグは、その幼い見た目にそぐわぬ饒舌でまくし立てた。




「その証っていうのは…あいつの、あのペンダントの事か?」




「左様。


それともう一つ、神官は低俗ではあるがあくまでも神である。


あやつは死んではおらん。

神官としての力は失ったがな。」



「燃やしたからな。」




「うむ。これで奴の神官としての立場は無くなったわけだ。」




「カグの神官はいないのか?」




「ふん、妾にそんな者は必要ない。

足手まといなだけだ。」




「…そういえば、カグと俺との契約って、具体的にどういうものなんだ?


まだ聞いてなかった。」





「貴様に、この世界と 妾の封印されていた空間とを繋いでもらう 門になってもらう契約だ。」



‥‥‥


なんか難しいな‥‥



「‥へ~…。」



「おい!質問しておいて何だその反応の薄さは!」




「‥そんな事ないって。

気のせい気のせい。」




「まったく……。

で、二つ目の質問だな。


ーー何故貴様が狙われたのか。」




彼女は続けた。




「簡単な事だ。原因は貴様が欠陥を発見した事にある。」




「な……欠陥を見つけろって言ったのはゼウスだぞ!?」




「ーー以前にも言った通り、貴様が見つけ出した欠陥は、妾が封印されていた空間と この世界との 境界が無くなる欠陥だ。


それは、ゼウスが予期せぬ欠陥だったのだ。」




「…どういう事だ?」




「…春樹よ。貴様、《神隠し》というものを知っておるか?」




「あ…ああ。人が突然 行方不明になって、手掛かり一つ掴めない事……だよな。」




「あれこそが代表的な世界の欠陥だ。

奴はそのような欠陥の発見を期待していた。


今回の様な神の空間に干渉するという欠陥は、至極まれである。」


へぇ…そうだったのか…




「でもそれと、俺が狙われた事と何の関係があるんだ?」




「……神々が全員、ゼウスの様な過激な思想を持っている訳ではない。


以前の世界を破壊し新たなる世界を創る計画には、多くの神が反対した。

妾も含めて、な。


しかし妾達はゼウスに敗れ、あの様な場所に閉じ込められていたのだ。」




「…?」




「ーーつまりゼウスにとって妾達は、危険な意思と力を持つ者なのだ。

だから封印した。



そして貴様は、その危険因子の1人を逃がしたのだ。

ゼウスに眼をつけられるのも当然であろう。 」




「え…ええと…

話が壮大過ぎてわかんないんだけど…」




「 ゼウスにとって貴様らは ただの欠陥探しの為の道具でしかない。


それらが強大な力を味方に付けてしまったとすれば、ゼウスは喜ぶか?」




「…つまり、ゼウスはカグ達の事を脅威だと考えてるのか?」




「そうだな。

そしてゼウスは何よりも想定外な事柄を嫌う。


危険な種は、早い内に摘まねばならんと思っているのだろうな。」





「だったら、またさっきみたいな奴らが来るのか…?」




「うむ。

だが心配はいらん、

全て妾が蹴散らしてくれる



ーー春樹に手出しはさせんよ。」








「…頼りにしてるよ、カグ」




「うむ、存分に頼るがよい。

借りた恩は返す主義だ。」


カグ こと カグツチは、誇らしげにそう言った。









ーー神の間ーー




『ご報告です。

蒼 春樹 討伐に向かったゼノンがカグツチの手により撃退されました。

さらに《神器》を破壊された模様です。』





神官の1人、白いコートに赤の長髪の青年は丁寧に言葉を連ねた。




それに対し、ぐうたらと寝転んでいる男ーーゼウスは




『ふ~ん…まあ彼にカグツチちゃんは倒せないだろうね~

予想通りさ♪』



何の重みもない声で返答する。





『まぁ彼の事はどうでもいいんだけどサ。

それより、肝心のカグちゃんのデータは取れたのかい?』




『はい。』







『ご苦労様、助かるよ。

ーー次は必ず、その少年を 殺してみせる。』












翌朝



二段ベッドの上、俺は窓から差す陽光で目を覚ました。





まず目に入ったのは、睡眠中の赤髪少女ーー神、カグツチ。





昨日はカグがしつこく隣で寝させろと言って来たので、仕方なく一緒に寝ることにした。





普通ではあり得ないシチュエーションだが、俺は以前と違って落ち着いていた。


ここは《普通》ではない。



その事を把握出来るようになってきたんだ。





この世界は 天空神ゼウスが創り出した新世界。


俺達はこの地での不可解な破損部分ーー《欠陥》と称される事柄を探す為、この場所に閉じ込められたのだから。




俺はそんな事を内心考えながら、カグを寝かせたままベッドからおりた。




自分の支度を終えると 同室の女子生徒、 紗理奈を起こすのが恒例となっていた。




俺は寝ている彼女を覗き込み、名前を呼んだ。






「おーい紗理奈、遅刻す……」




そこまで言ったところで、紗理奈に違和感がある事に気づいた。




いつもなら心地良さそうに寝ているが、今日は違う。





顔は紅潮し、普段なら静かな寝息をたてている筈が、今の彼女の息は少し荒く 乱れている。



見るからに辛そうだ。





「お…おい、紗理奈…?大丈夫か…?」




まさか…



昨日 神官とやらに襲われた時、俺たちはプールに落下した。




そのせいで…風邪……!?




波乱の一日が、幕を開けた。











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