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世界と鍵  作者: はぐれメタル
5/16

始動

ーー放課後 部室ーー



「…仲間、増やそう!」



張りのある声で、紗理奈はそう言った。




「…別にいいんじゃないか?4人で。」


なるべく生活エネルギーを節約したい俺はそう提案した。



4人というのは俺と、金髪軟派男の光輝、茶髪美女の紗理奈、小学生みたいな神様カグツチだ。



ーーちなみにカグは今、俺の隣の机でよだれをたらし ぐーすか寝ているーー




俺は普通の黒髪、目に掛かる程度の長さの髪型、普通の顔面偏差値なので、このメンツではいかに浮いているかが分かる。





「いやいや数が居た方が楽しーじゃん?」


手を後頭部の位置で組み合わせた光輝はにこやかに言う。





「でも俺、2人以外に友達とか居ないんだけど…。」



そう、俺は基本人見知りだ。


まず俺の【体質】のせいで、近寄ってくる人がいなかったのがコミュ障の原因だ。



そう、これは環境要因なのだ。


断じて俺が悪いわけではない!





「じゃあこれから友達になろうよ!」

と紗理奈。



「んなもん話したらすぐ出来るって」

と光輝。



「んん‥‥」

尚も不安な俺。



「まぁ、今日はもう皆帰っただろうしな、誘うにしても明日になっちまうな。」


光輝のその言葉に少し安堵する。


処刑執行が引き伸ばされた時、人はこんな気持ちになるのだろうか。





「ーーそれじゃ勧誘は、明日決行だよ!」

紗理奈は力強い声でそう言い放った。





「おう!」


「お…おう。」



こうして、新世界欠陥探索隊は始動した。









3日目、朝。



「それじゃあ今から学級委員を2人決めるなー。立候補者はいるかー?」


朝のホームルームの時間、担任は皆に声をかけた。




俺は当然目立つのはニガテなので立候補なんて無謀なことはしない。



こういうものは意識が高い人種が引き受ければいいのだ。


そう思いながら、俺は特技である空気との同化を図り 影を極限まで薄める。




「…いないか?じゃーくじで決めんぞ、右前の奴らから引きにこーい。」




先生は棚から、くじの入った箱を取り出した。

予め用意していたのか。




みんなが祈りを捧げながら引いていく中、遂に俺の番が来た。




恐る恐る引くとーー俺のくじに、なにやら怪しい部分があった。





先が赤黒い、不気味な血の色に塗られてある。




犯行に使用された武器か何かなのだろうか。

物騒な世の中だまったく。






「じゃあ赤い印がついたくじの奴は前に来い。」





ですよねぇ。





「ぶはっ、ドンマイ春樹!」

光輝に笑われながら、肩を叩かれた。



俺は渋々、教卓前まで歩いて行った。

自分のくじ運の悪さを恨みながら。





もう1人は…女子だ。


黒髪のショートで、癖毛。背は俺より少し小さい。



「これから一年間よろしく頼んだぞ、はいみんな拍手ー。」


先生の声とともに拍手が送られる。

こんなに嬉しくない拍手が存在していいのだろうか。





そこで、ホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。



「帰りのホームルームでは他の係りも決めてもらう。必ず1人1つな、考えとけよー。以上。」



先生がそう言い、ホームルームは終わった。



「ーーああそうだ、2人に早速仕事だぞ。」

俺達2人は彼に呼び止められた。




仕事内容は、図書室から指定した本を教室まで持って来いというものだ。



どーせ誰も読まないだろ…。と内心毒づく。





…だが一番まずいのは、コミュ障 気味の俺が、女子と2人きりだという事だ。

めっちゃ気まずい。



会話が0のまま、一階の図書室に着いてしまった。


先生に渡された紙に書かれてある本を探す。


語順で並んであるので、探すのはそんなに苦労しないが…なにしろ空気が重い。



足音と、本と本が擦れる音しか存在しない図書室は、想像以上に居心地がよろしくない。





もしかして、この人も人見知りか…?

静寂の中、本を探す。



「…ね…ねぇ。」



ぬあっ。


声を掛けられた




落ち着け、冷静に対応するんだ。冷静に…。



「ななっ……なに?」



うん…冷静じゃないな。やっぱり。



安定にキョドる俺に対し、彼女は言葉を放った。




「…アンタ…名前は?」


その人は、顔を背けながらそう言った。



同じコミュ障 の香りがし、仲間意識が生まれてしまう。






「あ…蒼。蒼 春樹。」


噛みながらも、なんとか言えた。


「…蒼、春樹……。」

その女子は、小声で繰り返した。





「……ふーん‥。」


彼女は確かに、小さくそう呟いた。




一体俺はどんなリアクションをとればいいんだ。


俺の脳内辞書にこの状況を脱するための 気の利く一言などない。



「えっと‥‥そっちは?」



声が震えそうになるのを堪えながら俺はなんとか尋ねた。



「‥私は‥七瀬(ななせ) 夏実(なつみ)。」



「そっか、‥よろしく。」



「うん」





さぁ会話が尽きた!!



一体どうすればいい!!




まるで出口のない迷路に迷い込んだ気分になった。




テンプレなら、間違いなくここで本が倒れてきて俺がラッキースケベという展開なはず。



おい早く倒れろよ本!このふざけた無言をぶち殺してくれよ!





「な‥なにジロジロ見てんの、変態なの?」



くだらないことを考えている間、彼女のことを見続けてしまっていた。



七瀬は明らかに警戒の意思を露わにする。





このまま本当に変態だと思われるのはまずい。

この先の委員としての活動に影響が出てしまう‥




だがコミュ力皆無な俺にとって、この場をしのぐ言葉を探すことなど不可能‥‥!




なにか、誤魔化す方法はないのか。




考えを張り巡らせた結果。





「いや、えっと‥‥な、七瀬の顔がタイプだったから」



最低最悪な理由に辿り着いてしまう。






明らかにさっきより変態的になってしまった。




「はっ‥‥はぁ!!?

なに言ってんの!?バカじゃないの!!?」




そうです、バカです。

バカなんです。




全く反論の余地がなく、おとなしく黙っておく。




「‥‥変態!バカ!」


彼女は顔を真っ赤にしてそう言った。

羞恥の色が見て取れる。



しかし、女子から変態と呼ばれるのは こんなにも辛いことなのか。悲しい。




「ごめんなさい。」



素直に謝る。もうどうとでもなれ。




「〜〜‥‥!帰る!」



彼女は怒りからか羞恥からか そう言い、早足で部屋を立ち去った。





おい待て、仕事残ってるだろ。








その後数十分で仕事を終わらせ 教室へ帰った俺の視界に一番に映ったのは、紗理奈と話す光輝だった。



「お、おかえり春樹…ん?何で不機嫌そうなんだ?」


光輝が問う。




「…学級委員の奴を怒らせた。あと仕事押し付けられた。

俺は無愛想に言った。





「え、なっちゃんと喧嘩したの?」


ーーなっちゃん?




「なっちゃんって…あの学級委員の人のことか?」



「うん!七瀬 夏海だから、なっちゃん!」



いつの間に親しくなっていたんだ、知らなかった。






「‥‥ねぇ。」


不意に、後ろから声をかけられる。




振り返るとそこには七瀬夏実がいた。


「あ、なっちゃん!」



陽気な紗理奈とは対照的に、俺の心は焦りに包まれていた。



いきなりあんなセクハラ発言をしてしまった後だ、どんな文句を言われるか想像もつかない。



殴られるか?蹴られるか?罵詈雑言か?



「あの‥蒼、さっきは仕事押し付けて帰っちゃってごめん」



まさかの謝罪だった。

混乱して状況についていけない。



「‥‥けど、いきなりあんなこと言われたら、その‥‥困る」




続けてそう言う彼女は、顔面から湯気が出そうな程、真っ赤だ。





「以後、気をつけます」


俺は先生に叱られた生徒のような反省の仕方になってしまった。




「あっ、そうだ!


なっちゃんうちの部活に入らない!?

今 部員募集してるんだ!


新世界の欠陥を見つけるの!」



紗理奈がここぞとばかりに勧誘をかける。

こんな積極的な姿勢を見習いたいものだ。





「えっと、うーん‥‥考えとく」


すこしクセ毛気味の前髪を触り、七瀬はそう答えた。





「よし、決定!

よろしくね、なっちゃん!」



おい、お前の中で何が決定したんだ。

考えておく というのが了承だと理解しているのか、アホなのか。




「ちょ、ちょっと待って紗理奈!

まだ決めてないってば!」


七瀬は慌てて言うも、スイッチが入ってしまった紗理奈は聞く耳を持っていない。




「これで仲間、増えたね!」



なんの躊躇いもなく彼女はそう言った。

なんて末恐ろしい。





「その、ごめんな、無理やり誘う形になって。

嫌だったら断ってもいいからな?」




「‥ううん、興味あるし、入ることにする。」


彼女は少し俯きながらこちらを上目で見上げる。




「これから、よろしくね」




はにかんだ笑顔でそう言った。




女子の笑顔に耐性のない俺は、不覚にも心臓をやかましく鳴らせてしまう。




「青春してんなぁ」



光輝が何か言った気がするが、俺には聞こえなかった。






ーー帰りのホームルームーー


光輝は1人で図書係、紗理奈は大人しそうなメガネ女子と一緒に、保健係になった。



…光輝に図書係は全くもって似合わない…。




全員が係を決めるのに約30分ほどかかり、既に決まっている俺は、かなり暇だったのだがーーそれも無事に終了する。






「部室いこーぜぃ!」

声の主は、光輝。



部室への廊下を歩きながら、俺達は会話を交わしていた。



「俺、佐野 光輝!よろしくな 七瀬!」



「よ…よろしく…えと…。」



「ん、光輝でいいぞ!」



「よ…よろしく…光輝。」

まだ緊張しているようだ。



紗理奈とは普通に話せるところを見ると、男子に慣れていないのだろうか。




「あ、そうだ!なっちゃんが仲間になるなら、カグちゃんの事も話さなきゃ!」



「んあー、そーだな

俺ら、昨日欠陥見つけたんだ!」

光輝が言う。




「え…ええ!?もう見つけたの!?

すごい!」




「春樹が、神がいる空間に繋がる鍵を手にいれたんだ。


まぁ神っていっても見た目はお子様なんだけどな!」




「そのガキに足踏まれて悲鳴あげてたのは誰だよ。」


昨夜の無様な光輝の姿を思い出し、笑いがこみ上げる。




「うっせ!痛かったフリだよフリ!」


「ウソつけ」



「ぷっ……あははは!」


七瀬が、声をあげて笑った。

無邪気に笑う彼女は明るく、初対面とは違った印象を受ける。




そんなことを喋っている間に、部室である教室の前へと到着した。



俺は制服のポケットから、ドクロのヘッドの付いた鍵を取り出す。



「カグー。出て来ていいぞー。」


周囲から、紅い光芒が眼前に集まり始めた。



「む、誰だ貴様?」

現れたカグは、澄まし顏で言った。



「こ…この子が神様……?」

驚愕の表情。


まあ当然だな。



「こいつがカグツチ。俺達はカグって呼んでる。

カグ、こいつは七瀬。新しいメンバーだ。」



「ちょっと、こいつ呼ばわりしないでよ!」



すみません。



「よろしくな、七瀬とやら。」


カグはデカイ態度で、腕を組みながら言った。





「よろしく…。………可愛い…。」

ボソッと呟いた。



「な…可愛いだと……!? くっ……紗理奈といい貴様といい、神を何だと思っておる……。」


カグは、照れ隠しに下を向きそう言った。

顔が赤いのが証拠だ。



「~~……!…寝る!」


そのまま机に寝そべった。

多分顏が赤いのを見せたくない為。



てか、登場してすぐ寝るなよ。




「…で、この部活は具体的には何をするの?」



「ふっ、もちろん他の奴らがやらないようなことだ!」



具体的じゃないだろそれ。バカ。






そんなこんなでーー仲間がまた1人、増えた。



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