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世界と鍵  作者: はぐれメタル
3/16

新たなる世界

目が覚めた俺に見えたもの、それは 天井だった。



しかし、俺の部屋のものではない。

俺のアパートの薄汚れた天井ではなく、新品ーー汚れ一つないきれいな天井だ。



俺は何故かベッドに横たわっている。

木製の、二段ベッドの上。



さらに俺は、見慣れぬ服を来ていた。

黒めの紺に、赤のラインがはいったブレザーーーおそらく制服。



一体、どういう事なんだ…?



そこは部屋のようだった。



俺の自室よりは広く、勉強机が二つ、少し離れた所に置かれてある。



朝日が入り込んだ水色のカーテン、黄色のカーペット、どれもきれいなままだ。



まるで、ドラマや漫画で出てくる学生寮ーー



そこまで思考したところで、ようやく思い出した。

ゼウスの言葉を。


奴は俺達に 学校へ通えと言った。




つまりここは、学生寮。

新たなる世界の。



ーー夢じゃ‥‥なかったのか




僅かに状況を把握出来た俺は、下に下りる事にした。




それから辺りを見回して見ると、



下のベッドで、人が1人寝ていた。


同室の人‥‥?




年齢は俺より少し上っぽいが、まるで子供のようにすやすやと寝息をたてている。



髪は茶色。結構長め。



整った顔立ち、一言で言えば、美人ーーー




あれ?






「ーーーーっ女ぁぁぁぁ!!?」









俺に、女子耐性は皆無である


昔から女子とは、ほとんど話した事が無い。



早い話ーー苦手なのだ。



それがなんの因果か、俺の眼前ですーすーと寝ている。



いや…ダメだろ、これ。





変な想像を、俺は頭を振り半ば強制的に中断させた。




「……う……うぅん……?」


ムニャムニャ言いながら、その女子は目を覚ました。




覗き込んでいた俺の顔を、逆に見つめ返された。




「…あれ…もしかして…ここ学生寮……?」


寝ぼけながらも、彼女はそう言った。

頭の回転は俺より数段速いらしい。




「…君は…同室の子?」

上体を起こした状態で、彼女は言った。



そして俺は立ったまま、キョドリモードへと突入した。



「いっ…いや…俺も、分かんね……いや、分かり…ません…。」



何故か敬語になる俺。



無理。


こんな美女とまともに会話なんて無理。




絶対不審がられたなぁ…と思った時、



「…ぷっ…あははははっ!」


笑われた。多分、今の俺は顔面 真っ赤だろう。



「も~…キョドリ過ぎだよ!


私は 花宮はなみや 紗理奈さりなよろしくね!君は?」



その時の彼女の笑顔は、裏表なく、とても眩しいものだった。




「えと…蒼 春樹。その…よろしく 花宮…さん」



よろしく、という言葉は、俺にとって超絶 勇気を振り絞った発言だったが、あっさりとかぶりをふられた。



「よそよそしいよ~!紗理奈でいいよ!」


俺は再び、人生で二度目の勇気を振り絞った。


「よろしく、紗理奈…さん。」


「さん はいらない!

よろしく、春樹くん!」



「よろしく…紗理奈…。」



初めて、女子を下の名前で呼んだ。

そして初めて、女子から下の名前で呼ばれた。





二つの机の横には、カバンがかかっていた。


中には、親切な事に教科書や筆記用具なども。


「やっぱり、これで学校に行けってことだよね?」

紗理奈が言った。


「うん…多分。」



未だに俺は緊張している。


それもそうだ


こんな美女と話すはおろか、普通の女子とも俺はほとんど話した事がなかったんだから




俺は俗にいうーー弱コミュ障と称される人種だ。


俺はそれを認めている。





「…あれ?何かなこれ?」



そう言うと、紗理奈は壁に貼ってある紙を指し示した。



見出しには、桜ヶ丘中学校三年生時間割、と書かれてある。



「ねぇ、春樹くんは前の学校では何年生だったの?」



「えと…三年だったけど」



「私も。多分この学校では、前の学校での、同学年の春からやり直す…ってことなんじゃないかな。」



「へぇ……」



確かに、気温的に観ても、今この世界は春だ。この前の世界は秋だったが。



てゆーか、同学年だったんだこの子。


どこか大人びた雰囲気なので分からなかった。




時間割表の上には、ホームルーム、8:00~ と書いてあった。


部屋の時計 ーー何故あるかは知らないがーー を見ると、今は7時前だ。



「そういえば、ご飯ってどうするんだろうな」

俺は紗理奈にそう聞いた。



「きっとこれじゃないかなぁ?」


紗理奈は、紙の下の、校内地図の一部の広い場所を指差した。


食堂と書かれてある。



「へぇ…食堂があるのか…。」




「じゃあ早速 学校、行こっか!」


窓から見える校舎を見ながら、彼女は輝くような笑顔で言った。




机の上に置いてあった鍵をかけ外へ出ると、扉の横に、201号室 蒼 春樹 、花宮 紗理奈 と書かれてあった。


番号を忘れないように暗記し、廊下を歩く。


とりあえず適当に階段を降りて行くと、すぐに出口が見えた。


俺達の部屋は三階だったようだ。


他の学生の姿は見えない。

それもそうだ、みんなはまだ混乱しているだろう。


俺もルームメイトが紗理奈じゃなかったら、今頃あたふたし続けていただろう。


そんな事を考えながら、横目でルームメイトを視認する。


楽しそうだ。



彼女は、これから始まる新しい生活を満喫しようとしている風にも見えた。


楽観的と言うか、能天気と言うか…。



出口を出た所に、1人の女性が座って居た。

若く、きれいな人だ。二十代前半だろう。



彼女は俺たち二人に クラスの内訳が書き記されたプリントを手渡した。





「あっ、同じクラスだよ!2組!」と言った。


2組の欄を見ると、あった。

2人の名前が。


とりあえず、一安心。




校舎に入り、2階の食堂に着くと、生徒は誰もいなかった。


時刻は7:15分。





カウンターで朝食セットを注文し、席につく。



味が少し薄かった気がしないこともないが‥不満を言える状況でもなかったのでおとなしく平らげた。





その後俺達は教室へと向かった。

書類にも地図が載っていたので、2組を目指す。



食堂のほぼ真上、3階に3-2の教室はあった。


壁、手すり、床、全てが綺麗で傷一つない。これらが新しく作られたことを物語っていた。




入ると、部屋には既に数人が座っていた。

恐らく、食堂の存在を知らず、朝食抜きで来た人達だろう。



「よろしくね~!」

相変わらず元気な紗理奈。



しかし、男子2人、女子3人がいたが、皆同様に、この世界に怯えているようだった。



それもそうだ。

ゼウスの言った通りなら、俺達の寿命はあと一年という事になる。



紗理奈は、その事を理解しているのだろうか…。


一年後に、俺達はーー消えて無くなるという事を。



俺の背中に、冷たい汗が流れた。





席順は、黒板に貼られた紙に全てが載っている。


俺は窓際、紗理奈は廊下側ーー真逆だ。




そして、ホームルームが始まった。

生徒の人数は3/4程度だ。




至って普通の男の先生が入ってきた。しかし、彼はゼウスに創り出された人間。


いや、人間でも無いかもしれない。


恐らく昔の記憶などは無いだろう。

いやーーそれすらも作られているのか‥?



「2組の担任の 中村だ。


一年間よろしく。」



至って平凡なホームルームが続き、拍子抜けしてしまう。


本当に、学校だ。





「…では、部活を創立希望の者は、用紙を職員室に取りに来るように。

以上ー」



その言葉で締めくくり、ホームルームは終わった。






「春樹くん!部活どうするの?」


後ろから話しかけて来たのは、紗理奈だった。



「まだ決めてないけど…紗理奈は?」



俺の問いに、彼女は少し間を置いて答えた




「一緒に、部活作らない?」




!?




「…ダメかな?」



「いや…ダメって訳じゃ無いけど…どんな部活だ?」



紗理奈は、少し言葉を選ぶそぶりを見せ、こう言った。




「この世界の秘密を、明かす会。」




紗理奈のその謎の言葉に、俺は驚きを隠さず言った。




「秘密を…明かす!?」




「私は、元の世界に戻りたい。

だから、みんなで欠陥を探し出すんだ。一年かけて、絶対。」



彼女の目には、決意の色が映っていた。


「……そうだな。みんなで、元の世界に戻ろう。」


その時、チャイムが鳴り響いた。


「じゃあ、また後でね!」

彼女は席へ戻って行った。



「…なぁ。」

不意に、後ろから、声をかけられた。


「…?」

振り向くと、そこには金髪の男子がいた。

やんちゃそうな猫目、幼い雰囲気、少し長めの前髪は目にかかる程度だ。



しかし目の奥には、全てを見透かしていそうな落ち着いた光が灯っている気がした。




「さっきの話聞いてたんだけどさぁ、

ーー2人は、付き合ってんの?」




は?




「‥‥俺が紗理奈に釣り合うような男に見えるか?」



「見えねぇな。うん。微塵も見えねぇ。」




じゃあなんで言ったんだコイツ。


少なからず俺の中に殺意が湧いてきた。




「ししっ、冗談だって、ちょっとからかっただけだろー?

俺みたいにモテたいなら寛大な男になるべきだぜっ☆」




「‥‥とりあえず、お前がバカで腹立つっことは分かったよ。」




「悪かったって!!謝るから!


俺、佐野 光輝ってんだ。光輝って呼んでくれ。」




「‥‥俺は 蒼 春樹。春樹でいい」


俺は何故かすんなりそう言えた。




前の世界では 俺の異常な体質が故に友達は1人しか居らず、こんな台詞を言った事もなかったのに。



環境が変われば、こんなにも変化があるものなのか。





彼は真剣な表情になると、続けた。


「それでさっきの話だけど、俺もその部活…入っていいか?」


「…?」


「俺だって元の世界に戻りたい。

こんな訳わかんねぇとこに連れて来られてよく把握出来てねぇんだ。



‥‥俺はまだやらなきゃなんないことが、あの世界にはある。



俺も仲間に入れてくれ。」




そう言った光輝の目には、決意の色が強く表れていた。




俺は勿論 歓迎だが…紗理奈はどうだろうか。


いや、きっと大歓迎だろうな。



「ああ、いいよ。紗理奈も多分いいって言ってくれる。」



「やりぃ!これからよろしくな!!」






こうして仲間が1人、増えた。





その後紗理奈に、光輝が仲間に入った事を話すと、やはり大歓迎していた。





ホームルームが終わった後、


「春樹くん!光輝くん!」

紗理奈の声が聞こえた。


「部活の申請、行こ!」



「おう!」

と光輝。


「でも、内容の説明はどうするんだ?世界の欠陥をさがす部活なんて言えないぞ?」




「だいじょーぶ!ちゃんと考えてるよ!

表向きは 生活部って事で、ボランティア活動とかをする部活にするんだ!」


なるほど…それならいけるかも。


その後俺達は職員室に行き、部活動の許可をとった。


部室は4階の端にある、小さな教室だった。



「ちょっと狭いかな~?」



「まあ、こんな部活に大きな部屋なんて貸してもらえないだろ。」



「こんな部活って言わないでよ!」



「そーだそーだ、俺達は世界の欠陥を見つけるという、巨大な使命を与えられてるんだぜ?」



「巨大な使命ってなんだよバカ。


てか今更だけど、欠陥を見つけるって言っても具体的にどうするんだ?」




「とりあえず、いろんな事をしよう!」


「Yes!! 賛成!!!!」




この能天気コンビが…。



そんな事を思いつつもーー






実は俺も、新しい生活に、少しだけ高揚していたんだ。







「そんじゃ、生活部 改め、新世界欠陥探索隊、始動っ!!」

光輝がそう掛け声をあげた。



いつからそんな派手な名前になったんだよ、と内心ツッコむ。


「おーー!」

紗理奈がのっかる。


「お…おー…。」

俺も一応のっかった。




その後、俺達3人は食堂で夕食を終え、部屋へ戻った。


入浴はユニットバスで、先に紗理奈が入った。





しかし、紗理奈の男への警戒心の無さはどういう事なんだ。


風呂上がりに、



「ここのシャワー、温度調節難しい~」



などと言いながら、

バスタオル一枚で出てきた時は気絶するかと思ったぞ。


恐るべきリア充オーラ。





そして12時ごろ、俺達は眠りについた。




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